86点。
ものすごい意欲作でした。
テーマ自体は、個人的にそれほど好きなものではありませんが、
ここまでブラッシュアップさせてきたなら言うことはありません。
なお、このゲームはネタバレを読んでしまうと楽しみが激減する恐れがあるので、
これからプレイする予定がある方は、間違ってもこの記事を読まないでください。
★ 前置き
この感想は、前半では僕がプレイした時系列に沿っての感想を書きます。
プレイ中の僕の感情をそのまま書いて、ライブ感を重視しようという試みですので、
まとまりはないかもしれません。
やや自分語りがキモいかもしれませんが、一応作品の評価にかかわりがありますのでご了承ください。
総評では作品全体についての感想を書いていきます。メタ的な視点についてもこちらで。
結局何が言いたいんだよ、結論だけを読みたいよ、という方はずっと下までスクロールして、
総評の部分のみお読みいただいてもかまいません。
よろしくお願いします。
★ プレイ中感想
(1) プレイ開始前&一周目の感想
実はプレイ前から多少のネタバレは聞いていました。「メタ的な話である」ということ云々ですね。
それから、三角関係の物語であるということ。下倉バイオさんの作品であるということです。
下倉バイオさんの作品は以前、『スマガ』という作品をプレイしました。
評価の高い作品なのですが、僕はどうも肌に合いませんで、途中でGive Upしております。
『スマガ』にも三角関係っぽいシーンはあるにはあるのですが、正直、僕の求める三角関係の雰囲気とは大きく違ったので、少々不安を抱えながらのスタートとなりました。
さてゲームが始まりましたが、思いのほか雰囲気が良くて(=自分の肌に合っていて)楽しく読めます。
特に幼馴染の美雪との距離は絶妙で、お互いが好きあっているのに想いを打ち明けられないもどかしさは、
「青春だなぁ」と思いながら読むことしきり。
個人的に、主人公―ヒロイン間の距離が近すぎるお話はあまり好みではなく、これぐらいの距離がとても心地よく感じます。
一方のアオイですが、こちらはちょっと……嫌いではないのですが、デンパ飛ばしすぎで女の子として見るには苦しいです。
三角関係モノということなので、できればどちらのヒロインを選ぶか迷いたかったのですが、この様子だとあっさり美雪が勝ちそうですねぇ。
ただ、友達のいないアオイが美雪に縋りつき、美雪がそれを一刀両断していく姿はちょっとアオイがかわいそうだったかな? でも、仕方ないよなぁとも思います。デンパな子にまとわりつかれても辛いですし。
物語は進み、美雪が演劇でキスをするという発言があり、主人公は思い惑います。
この戸惑いは、僕とは*1縁遠いものですがまぁわからないではないです。
そして、ファーストキスを心一にささげたい、でもそれを言い出せないという美雪の健気さはいい感じです。
*1
ダメ元で好きな女の子に告白し、「私には恋人がいるの」と撃沈したことがあります。
その時も「うん、すぐには無理そうだ。残念だなぁ。でもそのうち別れることもあるだろうし、そうなってから再挑戦しよう」と思いました。
好きな子が恋人とキスしてるのかなとかHしてるのかな、嫌だなぁと思った記憶が全くないんですよね。
その後、初めて(↑とは違う)女の子と付き合い、別れ、その子が別の男子と仲よさそうにいちゃついているのを毎週目にしていた時期もあったんですが、「俺のところにはもう戻ってきてくれないんだろうな」という悲しさは覚えたけれど、「こいつとHしてるのかな。キスしてるのかな」という気持ちはなかったです。
戻ってきてくれればそれでいい、的な。
別に僕の恋愛遍歴なんかどうだっていいんですが、そういうパーソナリティーの持ち主だということをご了承ください。
そして初めての重要な選択肢。
「このままだと美雪と結ばれない。世界を改変する」とアオイが言います。
うーん。個人的には、美雪とのもどかしいこの距離感が好きなので、改変して繋がりたいとは思いませんでした。
案の定のバッドエンド。
アルバイト暮らしの主人公が、テレビ越しに美雪の活躍を眺めるという、なかなか切ないエンドで、こういうのは結構好きですw
と、思ったら世界が巻き戻ってアオイが世界を改変してしまいました。
美雪と結ばれますが……美雪と結ばれてからは意外とつまんなかったですね。
恋愛は片思いの間が一番楽しい、というフレーズを思い出しました。
(2) 二周目の感想
さて、二周目です。
拾ったスマホに自分の電話番号を入力してみたり(当然なにもおこらないw)と遊びながら、
プレイしていましたが、また美雪ルートに行ってしまいました。
やはり僕は、アオイよりも美雪派っぽいですね。
気を取り直してアオイ寄りの選択肢を選んでいきます。
正直、こちらのルートはいまいち、かなぁ。僕自身があまりアオイに興味ないですしねぇ。
と思っていると、アオイが浮気をしているという事実が発覚。相手は雄太郎の弟。うん、その展開は読めてました。
↑で独占欲は薄いと書きましたが、さすがにアオイの浮気はあまりいい気はしませんでした。
自分にも多少は独占欲があったらしく、それを自覚できたのは良かったですw(作品の感想と関係ない)
ただこの辺りで、この作品がどうしてメタ作品と呼ばれるのかは、はっきりわかってきました。
(メタ視点での感想は、総評で書きます)
「他の女とHしないとイベントCG集まらないから、セフレたくさん作るけど、でも俺はお前だけを愛してる」とか
リアルで一度でいいから言ってみたいです。
というか、心一というキャラクターにはHシーン1回分しかCGがなかったんでしょうか。
エロイッカイダケのヒロイン(?)は不遇ですなぁ。
それに、主人公の家で浮気相手とHだけはいただけないw もう少し隠す努力をしろと!
そこまで開き直られると、俺も困りますわ。
しかし、個人的にはアオイ以上に主人公が気持ち悪かったですね。
『途中死ぬほど吐き気に襲われて、何度も吐いて。けど俺は我慢した。歯を食いしばって耐え切った』
という文章がありましたが、そこまで気持ち悪いならさっさと別れるべきだと思います。
そこまでして相手の浮気を追及しても、自分が苦しいだけで何もいいことないと思うんですよ。
そうやって相手に復讐しても、そういう歪んだ復讐を遂げた自分をますます嫌いになるだけで、何もいいことなんてありませんから。
自分よりも魅力的な異性が現れてそちらを選ぶことになるのは自然なことですし、あるいは浮気性でたまに違う相手と恋をしたくなるのは、全肯定はしないけれども人間ならばありうることですから。
前者ならば魅力のない自分が悪いとしか言いようがないし、後者はそういうビョーキなので、そんなムキになって罰してもねぇという。自分自身の異性を見る目のなさを恨むべきであって、わざわざ気持ち悪い相手に粘着しても仕方ないでしょう。
あと、いくら相手が浮気したからといって、他人のスマホを壊しちゃいけません。
3周目でも、他人のスマホを勝手にいじってロックまではずしていますが、
恋人に他人のスマホを勝手に見られたら、僕なら即別れますね。
プライベートを尊重できない相手と、長く付き合っていける気がしないので。
(もちろん、3周目のこれに関しては拉致監禁されていたので仕方ないとは思いますが、心一に罪悪感がまるでなさそうなのも事実)。
さて、なぜか3Pがあった後、突然美雪に裏切っただのなんだのと言われ、バットで撲殺されて2周目は終わりです。ゲームが上書きされるここの演出にはほんと、圧倒されました。
↑で書いたように、僕は1周目の美雪とのもどかしい恋愛や、三角関係が読みたかったので、この展開はあまり歓迎していなかったのですが、この度肝を抜かれる演出で考えを変えました。
テーマ自体はあまり好きではないけれど、メッセージ・テーマ性を伝えるためにここまで本気を出してくれたなら……というふうに、本作の評価が定まった瞬間でもあります。
(3) 3周目 無限ループと結末の感想
さて、美雪にアップデートされ、画面が一気に古臭くなった3周目が開始です。
拉致監禁されたとはまさにこのことですね。
脱出するためにいろいろ試していくわけですが……割としんどいw
美雪とイチャつくシーン自体は↑で書いたようにあまり興味がないし……
ドスのきいた拉致監禁魔、美雪の機嫌を損ねないように選択肢を選び、クイズに答えていきます。
結構しんどかったんです。おまけに何度もフリーズするし……。
そうこうしているうちに、美雪とのオートHがスタート。個人的には、テレフォンセックスを思い出しました。
あまり抜く気はなかったんですけど、「画面の向こうの君とHがしたい」という美雪の要望があったので
一応取り出してみましたよ。やっぱりこういうのはノラないと楽しめないよね!
でもぶっちゃけ、あまり性欲溜まってない時だったからね、がんばってしごいたんだけど、俺が抜く前に
(仮想の俺)は美雪に中出ししちゃったらしくてね、すごすごとしまいました。
それはいいんですが、このシーン、女性プレイヤーはどうしたんでしょう。
テレフォンセックスはまぁ面白い試みだったとは思いますが、女性プレイヤーの存在を度外視している気がしますし、うまく(仮想の俺)と中出しのタイミングを合わせないと、「臨場感」が増すどころか下がるだけなので、
結論としては入れるべきじゃなかったような気がします。
「君に恋してる」は、「美雪ちゃんはレズなんや!」で解決できますが、さすがに美雪ちゃんの中で中出しするのは女性プレイヤーには無理ですからね。
僕は男性なので関係ありませんが、女性の感想も聞きたいなぁ。
話がそれました。それで、ですね、
「君(プレイヤー)が、君しか愛せなくなる呪いをかけた」とか、
「アオイをプレイするために、私との永遠の愛の誓いを裏切った」とか散々美雪ちゃんに恨み節を聞かされるわけなんですけど、僕個人としては「なんだかなぁ」といった感じでした。
だって僕、最初の選択では「アオイが世界を改変するのを止めて、結果バッドエンドに行って」いますし。
それどころか二回目でも美雪ルート行ってますからね。
美雪とアオイ、どちらにも目移りして美雪を裏切ったならその怒りもわかりますが、
僕的には端から美雪一択で、アオイは物語の進行上、選ばないと先に進めなかっただけなのでね。
そこでそんなに怒られても困ってしまうんですわ。
というわけでいよいよ最後の選択肢。泣いても笑ってもどちらかしか選べません。
未だかつて、ここまで悩んだ選択肢は多分なかったです。
二周目途中までの僕なら、(いくら片方しか選べなくても)美雪一択だったんですが、
本性を知っちゃったからなぁ……。
・キャラ的にはあまり好みではなく、多数のセフレを作っているけれど、一応自分のことも愛してくれている彼女
と
・キャラ的には好みで一途だけど、一途過ぎてこちらが浮気すると拉致監禁撲殺しちゃう彼女
……というわけで、feeが選んだのは、アオイちゃんでした!!
外で浮気されるのも嫌だけど、拉致監禁されるよりはマシだよね。
でも、できれば僕に隠れて、見つからないように浮気してきてね!
本音を言うなら、「リスクを最優先に考えて付き合う相手を選ぶ」のではなく「純粋に好きな娘」を選びたかったです。
などと思ってアオイちゃんを選んだんですが、思った以上に読後感の良い結末で、こちらを選んでよかったです!
(美雪を選んだ場合の結末を知らないので、本当に良かったかはわかりませんが)
というのがプレイ感想でした。
★総評
(1) エロゲプレイヤーへの断罪
アオイ≒普段の僕らエロゲーマー
心一≒普段の僕らエロゲーマー+処女独占厨
美雪≒処女独占厨(??)
さて、本作は「『エロゲー』という媒体におけるプレイヤーの行為を断罪してきた作品」、という印象を持ちました。
僕たちエロゲプレイヤーが普段やっていて、このゲームでも当然のごとく行なった、複数のヒロインルートを攻略していくという行為。
それをアオイというヒロインに実際にやらせることで、
「お前たちがやっているのはこんな醜悪な行為なんだぞ」と、プレイヤーに突きつけているわけです。
「他の女も攻略しないとこのゲームをフルコンプできないから、恋人はたくさん作るけど、でも俺はお前が最萌えヒロインでお前だけを愛してる。お前は俺の嫁!」という自身の醜悪さを、アオイというヒロインに逆にやられることによって、体験するわけです。
独占欲の薄いと思われた僕でも、アオイ(=エロゲプレイヤーの行為)に対してやや反感を覚えたぐらいですから、独占厨の方には相当突き刺さる内容だったのではないか、と思います。
ただ、それはアオイという人物・ヒロインとして考えるから「浮気しまくり」に対して反感を覚えるのであって、エロゲプレイヤーとしては真っ当な姿勢ではありますよね。
めちゃくちゃ大好きなヒロインAを先にクリアしてしまい、その後ヒロインAに罪悪感を抱きつつも冷たくして再びヒロインAルートに入らないようにし、違うヒロインBをプレイした経験は多くのエロゲーマーが一度は経験していると思います。美雪が好きな人ならば、このゲームでも経験したばかりですね。
アオイというエロゲプレイヤーにとって、心一は最萌えヒロインだったけれど、それでも龍二郎という別のルートを進めてしまった。
これはもう、普段僕たちプレイヤーがやっている事なので、論理でアオイを咎めるのは無理でした。
さて、このゲームにおいても僕たちはヒロインA『美雪』をクリアした後に、B『アオイ』のルートに進みます。
つまりアオイと全く同じ事を、僕たちはやっているわけです。それを不誠実だと断罪するのが美雪です。
個人的に、こちらは僕としてはあまり刺さりませんでした。
というのも既に一度、プレイヤーは「アオイ」の姿を見てダメージを受けているので、再び同じ内容を美雪に指摘されても、「それはさっきアオイの姿を見て気づいたよ」と思うだけだからです。
「エロゲプレイヤー(浮気性)」であるアオイに対し、美雪は一途であるという意味で、
キャラクターの違いは対比されていると思いますが、論は変わらず
「セーブ&ロードや、ゲームを再び最初からやり直して複数ヒロインに浮気することの不誠実さ」を、
『実際に自分がやってみせて、「お前らはこれをやっているんだぞ!」と見せつける』(アオイ)か、
『より直接的に、「よくもやってくれたな!」と恫喝する』か(美雪)の違いでしかないかなと思います。
個人的に、エロゲプレイヤーの欺瞞を暴くというのは、面白い試みではあると思いますが、
「それがどうした」という部分でもあるとは思います。
ただし、「それがどうした」と簡単に切って捨てるのを躊躇うぐらいの熱量がこの作品に篭められていることが、
演出・システムなども含めてしっかりと伝わってきたことはやはり評価したいです。
たとえば、『セーブデータを完全に消された上で、あの面倒くさい脱出ゲームを延々やらせる』という手法は、
プレイヤーを断罪するという効果だけではなく、最後の選択肢。
美雪とアオイどちらを選ぶかという選択の重みを増す結果になっていると思います。
初めから終わりまでずっとスキップすれば行けてしまうゲームならば、最初からやり直すのも容易ですが、
これだけ面倒なミニゲームがありますとそういうわけにもいきません。
キーコードや、攻略サイトを使わせない工夫など、豊富なアイディアも作品完成度をぐっと上げるものになっていると思います。
まぁ、買ったゲームですから自分の好きなように楽しめばいいとは思いますが、せっかくですから僕は製作者の意向を尊重して、アオイエピローグしか読んでおりません。
この感想を書きながらも、「美雪ちゃんを選んだらどうなったのかな?」とか「youtubeで見られるみたいだな」とか、色々雑念が頭をよぎりますが、そのこと自体がこのゲームで得られる稀有な経験だと思いますので、
それを犠牲にしてまで美雪エピローグを見るかどうかですよね。
なお、僕が選んだアオイエピローグでは、「またエロゲをプレイし、再び僕らは出会う」という読後感の良い結末に仕上がっておりました。
「不誠実なエロゲなんかやめて、リアルで純粋で一途な恋をしろや!」というようなメッセージだったら
「余計なお世話だ!」と言いたいところでしたが、そういうお説教ではなく、
物語としての拡がりを残した終わり方、これからのエロゲライフがより充実しそうな終わり方をしてくれた点も
良かったと思います。
(2) キャラ性の弱さ―アオイ
そんな本作ですが、やはり『メタ視点を除いたときの、物語性の弱さ』は気になるところです。
まず一つ目の欠点と言えば、アオイのキャラの弱さでしょうか。
メタ的な視点でアオイを選ぶ。
あるいは、美雪に苦手意識を抱いてアオイを選ぶというのはともかく、
純粋にキャラの活躍度合いを考えると、良い意味でも悪い意味でも美雪と比べると弱いように思いました。
美雪の魅力は一周目の通常恋愛ストーリーの中できちんと語られていると思います。
また、歪んだ形ではありますが三周目でも彼女を知るイベントがたくさん用意されています。
元々才能はあれど、クラスでは孤立しがちだった少女。
心一のアドバイスで演劇の楽しさに目覚め、その後クラスの人気者として存在を確立。
心一の都合で疎遠になるも、同じ高校に通うクラスメイト。
運動神経も良く、バッティングセンターによく通う。
「永遠の愛」という潔癖な恋愛観を持ち、割と気性が荒い。
猫アレルギーだけれど猫がかわいくて仕方ない。料理も出来る。
さて、アオイに関してはどうでしょうか?
二周目ではメタ的な方向に話が引っ張られ、最後の周に至ってはろくに登場もしません。
デンパ的な言動が目立つ。クラスでははずれもの。実は男遊びが多い(メタ的な話になりますが)。
ヤバリーストマトが好きで料理が下手。空気が読めない。穏やか(美雪と違い、声を荒らげるシーンがない)。
友達想い。
……もう少しあるかもしれませんが、美雪に比べて確実にバックボーンが少ないように感じます。
心一とともに積み上げてきた時間、彼女の人となりを知るためのエピソードが絶対的に欠けているため、
『普通』の意味での三角関係で考えると、正直厳しいものがあります。
ではアオイの魅力は何かというと、ひとえに『(今までプレイしてきた)美少女ゲームのヒロイン』ということに尽きるわけで、それは作中で伝わる魅力ではなく、個々のエロゲプレイヤーが今まで積み重ねてきた経験に依存するものだと思うんです。
そういうやり方もアリだとは思うんですが、まぁちょっとズルいというか(美雪に対して。あるいは、作中でキャラの魅力を伝えてきた他ゲームに対して)フェアではないな、と。
設定的に難しい・厳しいものがあるのは否定できませんが、メタ要素抜きにして、アオイが美雪、肩を並べられるようなエピソードの積み重ねを、1章か2章のうちに描いてほしかったです。
(3) 不可解な恋愛感情―美雪
更に言うならば、美雪の設定にも欠陥があるように感じます。
美雪は幼馴染の『心一』が好きだったはずが、いつの間にか『心一』はどうでもよく、
画面の向こうの『君(=feeを含むととのプレイヤー達:これ以降便宜上feeと書きます)』が好きなことになっています。
これは、『心一』を「操っている」のが「fee」だということを見抜いたが故の恋心であるように思います。が。
美雪は元々、幼い頃から『心一』が好きだったはずです。
疎遠になったのを残念に思い、そして再び関係を取り戻せたことを喜んでいたはずです。
ではなぜ幼い頃から『心一』が好きだったかといえば、語られているエピソードとしては
心一のおかげで演劇で活躍したことなどがあげられます。
しかしそこに、『fee』の出る幕はありませんでした。なぜなら、「美雪に演劇を勧める」という選択肢が出ていないからです。つまり美雪は『fee』ではなく『心一』に”も”(?)恋をしていたはずなのです。
ところがいつの間にか、美雪は『心一』をおざなりにし、『fee』に恋をしています。
「心一が絡むと気持ちよくない。feeとじかにHがしたい」みたいな台詞もありますし、
feeが気に食わないからといってとばっちりで『心一』が撲殺されたりもします。
つまり、美雪は初めは『心一』に恋をしていたはずが、いつの間にか『fee』に恋をしている。
別に、恋の相手が変わること自体はよくあることで、全然かまわないのですが、
彼女自身が語る「永遠の愛」からはズレているように感じるのです。
もし、美雪に『fee』だけを愛させるならば、純粋に『feeが選んだ選択肢のみ』を問題にして、
美雪に恋をさせることが必要だったように思います。
一番簡単なやり方としては、過去編にも選択肢を用意するとかですね。
これを言ってしまってはおしまいなのですが、そもそも『美雪』が『心一』ではなく、『fee』に恋をするという設定を、ドラマチックに描くのは難しいと思います。
当然のことですが、『心一』とは違い、『fee』の意思は選択肢を除いては作中の文章に登場しないわけですから。
その時点でおよそ不可能に近い、極めて難しい挑戦になるわけなので、せめてそういったところは潰しておいてほしかったなと感じます。
(4) それでも本作を評価する理由
それでも本作を評価する理由は、大きく分けて3つあります。
まず第一。
本作には、「作者がどうしても書きたい、伝えたいというテーマ」が確かに宿っているから。
しかもどちらかと言うと、賛否両論というか、下手を打てば否定派が多くなりそうなテーマに僕からは見えます。
それでも、出した。
「ヒロインは幼馴染とツンデレと委員長と、先輩も一人に後輩も一人。
当然ヒロインは全員処女。こういうの作っておけば売れるでしょ」という、安全圏からの作品作りとは違います。
そのことに敬意を表したいと思います。
第二。
とはいえ、作者の伝えたいテーマだけが空回りし、物語として果てしなくツマラナイものが出てしまえば、
それは単なる作者のオナニーでしかありません。
本作は、かなり瀬戸際ギリギリのラインではないかと思っておりますが、
第一章は良質な恋物語として『普通の』楽しみ方ができました。
そこに目を引く演出・システムも重なって、最後までプレイを投げさせることなく、無事主張を伝えきることができました。
「お説教」ではなく、「エンタメ」になっていた。
当たり前ですが、大事なことだと思います。
第三。
これは一や二と被るんですが、僕はこの作品のことをずっと、五年後・十年後も内容を覚えていると思うんです。
「クリアして、はい終わり」ではなく、折に触れて思い出すであろう作品。
そういう『力』を持った作品というのは、やはり評価したいなと思っています。
以上です。
ものすごい意欲作でした。
テーマ自体は、個人的にそれほど好きなものではありませんが、
ここまでブラッシュアップさせてきたなら言うことはありません。
なお、このゲームはネタバレを読んでしまうと楽しみが激減する恐れがあるので、
これからプレイする予定がある方は、間違ってもこの記事を読まないでください。
★ 前置き
この感想は、前半では僕がプレイした時系列に沿っての感想を書きます。
プレイ中の僕の感情をそのまま書いて、ライブ感を重視しようという試みですので、
まとまりはないかもしれません。
やや自分語りがキモいかもしれませんが、一応作品の評価にかかわりがありますのでご了承ください。
総評では作品全体についての感想を書いていきます。メタ的な視点についてもこちらで。
結局何が言いたいんだよ、結論だけを読みたいよ、という方はずっと下までスクロールして、
総評の部分のみお読みいただいてもかまいません。
よろしくお願いします。
★ プレイ中感想
(1) プレイ開始前&一周目の感想
実はプレイ前から多少のネタバレは聞いていました。「メタ的な話である」ということ云々ですね。
それから、三角関係の物語であるということ。下倉バイオさんの作品であるということです。
下倉バイオさんの作品は以前、『スマガ』という作品をプレイしました。
評価の高い作品なのですが、僕はどうも肌に合いませんで、途中でGive Upしております。
『スマガ』にも三角関係っぽいシーンはあるにはあるのですが、正直、僕の求める三角関係の雰囲気とは大きく違ったので、少々不安を抱えながらのスタートとなりました。
さてゲームが始まりましたが、思いのほか雰囲気が良くて(=自分の肌に合っていて)楽しく読めます。
特に幼馴染の美雪との距離は絶妙で、お互いが好きあっているのに想いを打ち明けられないもどかしさは、
「青春だなぁ」と思いながら読むことしきり。
個人的に、主人公―ヒロイン間の距離が近すぎるお話はあまり好みではなく、これぐらいの距離がとても心地よく感じます。
一方のアオイですが、こちらはちょっと……嫌いではないのですが、デンパ飛ばしすぎで女の子として見るには苦しいです。
三角関係モノということなので、できればどちらのヒロインを選ぶか迷いたかったのですが、この様子だとあっさり美雪が勝ちそうですねぇ。
ただ、友達のいないアオイが美雪に縋りつき、美雪がそれを一刀両断していく姿はちょっとアオイがかわいそうだったかな? でも、仕方ないよなぁとも思います。デンパな子にまとわりつかれても辛いですし。
物語は進み、美雪が演劇でキスをするという発言があり、主人公は思い惑います。
この戸惑いは、僕とは*1縁遠いものですがまぁわからないではないです。
そして、ファーストキスを心一にささげたい、でもそれを言い出せないという美雪の健気さはいい感じです。
*1
ダメ元で好きな女の子に告白し、「私には恋人がいるの」と撃沈したことがあります。
その時も「うん、すぐには無理そうだ。残念だなぁ。でもそのうち別れることもあるだろうし、そうなってから再挑戦しよう」と思いました。
好きな子が恋人とキスしてるのかなとかHしてるのかな、嫌だなぁと思った記憶が全くないんですよね。
その後、初めて(↑とは違う)女の子と付き合い、別れ、その子が別の男子と仲よさそうにいちゃついているのを毎週目にしていた時期もあったんですが、「俺のところにはもう戻ってきてくれないんだろうな」という悲しさは覚えたけれど、「こいつとHしてるのかな。キスしてるのかな」という気持ちはなかったです。
戻ってきてくれればそれでいい、的な。
別に僕の恋愛遍歴なんかどうだっていいんですが、そういうパーソナリティーの持ち主だということをご了承ください。
そして初めての重要な選択肢。
「このままだと美雪と結ばれない。世界を改変する」とアオイが言います。
うーん。個人的には、美雪とのもどかしいこの距離感が好きなので、改変して繋がりたいとは思いませんでした。
案の定のバッドエンド。
アルバイト暮らしの主人公が、テレビ越しに美雪の活躍を眺めるという、なかなか切ないエンドで、こういうのは結構好きですw
と、思ったら世界が巻き戻ってアオイが世界を改変してしまいました。
美雪と結ばれますが……美雪と結ばれてからは意外とつまんなかったですね。
恋愛は片思いの間が一番楽しい、というフレーズを思い出しました。
(2) 二周目の感想
さて、二周目です。
拾ったスマホに自分の電話番号を入力してみたり(当然なにもおこらないw)と遊びながら、
プレイしていましたが、また美雪ルートに行ってしまいました。
やはり僕は、アオイよりも美雪派っぽいですね。
気を取り直してアオイ寄りの選択肢を選んでいきます。
正直、こちらのルートはいまいち、かなぁ。僕自身があまりアオイに興味ないですしねぇ。
と思っていると、アオイが浮気をしているという事実が発覚。相手は雄太郎の弟。うん、その展開は読めてました。
↑で独占欲は薄いと書きましたが、さすがにアオイの浮気はあまりいい気はしませんでした。
自分にも多少は独占欲があったらしく、それを自覚できたのは良かったですw(作品の感想と関係ない)
ただこの辺りで、この作品がどうしてメタ作品と呼ばれるのかは、はっきりわかってきました。
(メタ視点での感想は、総評で書きます)
「他の女とHしないとイベントCG集まらないから、セフレたくさん作るけど、でも俺はお前だけを愛してる」とか
リアルで一度でいいから言ってみたいです。
というか、心一というキャラクターにはHシーン1回分しかCGがなかったんでしょうか。
エロイッカイダケのヒロイン(?)は不遇ですなぁ。
それに、主人公の家で浮気相手とHだけはいただけないw もう少し隠す努力をしろと!
そこまで開き直られると、俺も困りますわ。
しかし、個人的にはアオイ以上に主人公が気持ち悪かったですね。
『途中死ぬほど吐き気に襲われて、何度も吐いて。けど俺は我慢した。歯を食いしばって耐え切った』
という文章がありましたが、そこまで気持ち悪いならさっさと別れるべきだと思います。
そこまでして相手の浮気を追及しても、自分が苦しいだけで何もいいことないと思うんですよ。
そうやって相手に復讐しても、そういう歪んだ復讐を遂げた自分をますます嫌いになるだけで、何もいいことなんてありませんから。
自分よりも魅力的な異性が現れてそちらを選ぶことになるのは自然なことですし、あるいは浮気性でたまに違う相手と恋をしたくなるのは、全肯定はしないけれども人間ならばありうることですから。
前者ならば魅力のない自分が悪いとしか言いようがないし、後者はそういうビョーキなので、そんなムキになって罰してもねぇという。自分自身の異性を見る目のなさを恨むべきであって、わざわざ気持ち悪い相手に粘着しても仕方ないでしょう。
あと、いくら相手が浮気したからといって、他人のスマホを壊しちゃいけません。
3周目でも、他人のスマホを勝手にいじってロックまではずしていますが、
恋人に他人のスマホを勝手に見られたら、僕なら即別れますね。
プライベートを尊重できない相手と、長く付き合っていける気がしないので。
(もちろん、3周目のこれに関しては拉致監禁されていたので仕方ないとは思いますが、心一に罪悪感がまるでなさそうなのも事実)。
さて、なぜか3Pがあった後、突然美雪に裏切っただのなんだのと言われ、バットで撲殺されて2周目は終わりです。ゲームが上書きされるここの演出にはほんと、圧倒されました。
↑で書いたように、僕は1周目の美雪とのもどかしい恋愛や、三角関係が読みたかったので、この展開はあまり歓迎していなかったのですが、この度肝を抜かれる演出で考えを変えました。
テーマ自体はあまり好きではないけれど、メッセージ・テーマ性を伝えるためにここまで本気を出してくれたなら……というふうに、本作の評価が定まった瞬間でもあります。
(3) 3周目 無限ループと結末の感想
さて、美雪にアップデートされ、画面が一気に古臭くなった3周目が開始です。
拉致監禁されたとはまさにこのことですね。
脱出するためにいろいろ試していくわけですが……割としんどいw
美雪とイチャつくシーン自体は↑で書いたようにあまり興味がないし……
ドスのきいた拉致監禁魔、美雪の機嫌を損ねないように選択肢を選び、クイズに答えていきます。
結構しんどかったんです。おまけに何度もフリーズするし……。
そうこうしているうちに、美雪とのオートHがスタート。個人的には、テレフォンセックスを思い出しました。
あまり抜く気はなかったんですけど、「画面の向こうの君とHがしたい」という美雪の要望があったので
一応取り出してみましたよ。やっぱりこういうのはノラないと楽しめないよね!
でもぶっちゃけ、あまり性欲溜まってない時だったからね、がんばってしごいたんだけど、俺が抜く前に
(仮想の俺)は美雪に中出ししちゃったらしくてね、すごすごとしまいました。
それはいいんですが、このシーン、女性プレイヤーはどうしたんでしょう。
テレフォンセックスはまぁ面白い試みだったとは思いますが、女性プレイヤーの存在を度外視している気がしますし、うまく(仮想の俺)と中出しのタイミングを合わせないと、「臨場感」が増すどころか下がるだけなので、
結論としては入れるべきじゃなかったような気がします。
「君に恋してる」は、「美雪ちゃんはレズなんや!」で解決できますが、さすがに美雪ちゃんの中で中出しするのは女性プレイヤーには無理ですからね。
僕は男性なので関係ありませんが、女性の感想も聞きたいなぁ。
話がそれました。それで、ですね、
「君(プレイヤー)が、君しか愛せなくなる呪いをかけた」とか、
「アオイをプレイするために、私との永遠の愛の誓いを裏切った」とか散々美雪ちゃんに恨み節を聞かされるわけなんですけど、僕個人としては「なんだかなぁ」といった感じでした。
だって僕、最初の選択では「アオイが世界を改変するのを止めて、結果バッドエンドに行って」いますし。
それどころか二回目でも美雪ルート行ってますからね。
美雪とアオイ、どちらにも目移りして美雪を裏切ったならその怒りもわかりますが、
僕的には端から美雪一択で、アオイは物語の進行上、選ばないと先に進めなかっただけなのでね。
そこでそんなに怒られても困ってしまうんですわ。
というわけでいよいよ最後の選択肢。泣いても笑ってもどちらかしか選べません。
未だかつて、ここまで悩んだ選択肢は多分なかったです。
二周目途中までの僕なら、(いくら片方しか選べなくても)美雪一択だったんですが、
本性を知っちゃったからなぁ……。
・キャラ的にはあまり好みではなく、多数のセフレを作っているけれど、一応自分のことも愛してくれている彼女
と
・キャラ的には好みで一途だけど、一途過ぎてこちらが浮気すると拉致監禁撲殺しちゃう彼女
……というわけで、feeが選んだのは、アオイちゃんでした!!
外で浮気されるのも嫌だけど、拉致監禁されるよりはマシだよね。
でも、できれば僕に隠れて、見つからないように浮気してきてね!
本音を言うなら、「リスクを最優先に考えて付き合う相手を選ぶ」のではなく「純粋に好きな娘」を選びたかったです。
などと思ってアオイちゃんを選んだんですが、思った以上に読後感の良い結末で、こちらを選んでよかったです!
(美雪を選んだ場合の結末を知らないので、本当に良かったかはわかりませんが)
というのがプレイ感想でした。
★総評
(1) エロゲプレイヤーへの断罪
アオイ≒普段の僕らエロゲーマー
心一≒普段の僕らエロゲーマー+処女独占厨
美雪≒処女独占厨(??)
さて、本作は「『エロゲー』という媒体におけるプレイヤーの行為を断罪してきた作品」、という印象を持ちました。
僕たちエロゲプレイヤーが普段やっていて、このゲームでも当然のごとく行なった、複数のヒロインルートを攻略していくという行為。
それをアオイというヒロインに実際にやらせることで、
「お前たちがやっているのはこんな醜悪な行為なんだぞ」と、プレイヤーに突きつけているわけです。
「他の女も攻略しないとこのゲームをフルコンプできないから、恋人はたくさん作るけど、でも俺はお前が最萌えヒロインでお前だけを愛してる。お前は俺の嫁!」という自身の醜悪さを、アオイというヒロインに逆にやられることによって、体験するわけです。
独占欲の薄いと思われた僕でも、アオイ(=エロゲプレイヤーの行為)に対してやや反感を覚えたぐらいですから、独占厨の方には相当突き刺さる内容だったのではないか、と思います。
ただ、それはアオイという人物・ヒロインとして考えるから「浮気しまくり」に対して反感を覚えるのであって、エロゲプレイヤーとしては真っ当な姿勢ではありますよね。
めちゃくちゃ大好きなヒロインAを先にクリアしてしまい、その後ヒロインAに罪悪感を抱きつつも冷たくして再びヒロインAルートに入らないようにし、違うヒロインBをプレイした経験は多くのエロゲーマーが一度は経験していると思います。美雪が好きな人ならば、このゲームでも経験したばかりですね。
アオイというエロゲプレイヤーにとって、心一は最萌えヒロインだったけれど、それでも龍二郎という別のルートを進めてしまった。
これはもう、普段僕たちプレイヤーがやっている事なので、論理でアオイを咎めるのは無理でした。
さて、このゲームにおいても僕たちはヒロインA『美雪』をクリアした後に、B『アオイ』のルートに進みます。
つまりアオイと全く同じ事を、僕たちはやっているわけです。それを不誠実だと断罪するのが美雪です。
個人的に、こちらは僕としてはあまり刺さりませんでした。
というのも既に一度、プレイヤーは「アオイ」の姿を見てダメージを受けているので、再び同じ内容を美雪に指摘されても、「それはさっきアオイの姿を見て気づいたよ」と思うだけだからです。
「エロゲプレイヤー(浮気性)」であるアオイに対し、美雪は一途であるという意味で、
キャラクターの違いは対比されていると思いますが、論は変わらず
「セーブ&ロードや、ゲームを再び最初からやり直して複数ヒロインに浮気することの不誠実さ」を、
『実際に自分がやってみせて、「お前らはこれをやっているんだぞ!」と見せつける』(アオイ)か、
『より直接的に、「よくもやってくれたな!」と恫喝する』か(美雪)の違いでしかないかなと思います。
個人的に、エロゲプレイヤーの欺瞞を暴くというのは、面白い試みではあると思いますが、
「それがどうした」という部分でもあるとは思います。
ただし、「それがどうした」と簡単に切って捨てるのを躊躇うぐらいの熱量がこの作品に篭められていることが、
演出・システムなども含めてしっかりと伝わってきたことはやはり評価したいです。
たとえば、『セーブデータを完全に消された上で、あの面倒くさい脱出ゲームを延々やらせる』という手法は、
プレイヤーを断罪するという効果だけではなく、最後の選択肢。
美雪とアオイどちらを選ぶかという選択の重みを増す結果になっていると思います。
初めから終わりまでずっとスキップすれば行けてしまうゲームならば、最初からやり直すのも容易ですが、
これだけ面倒なミニゲームがありますとそういうわけにもいきません。
キーコードや、攻略サイトを使わせない工夫など、豊富なアイディアも作品完成度をぐっと上げるものになっていると思います。
まぁ、買ったゲームですから自分の好きなように楽しめばいいとは思いますが、せっかくですから僕は製作者の意向を尊重して、アオイエピローグしか読んでおりません。
この感想を書きながらも、「美雪ちゃんを選んだらどうなったのかな?」とか「youtubeで見られるみたいだな」とか、色々雑念が頭をよぎりますが、そのこと自体がこのゲームで得られる稀有な経験だと思いますので、
それを犠牲にしてまで美雪エピローグを見るかどうかですよね。
なお、僕が選んだアオイエピローグでは、「またエロゲをプレイし、再び僕らは出会う」という読後感の良い結末に仕上がっておりました。
「不誠実なエロゲなんかやめて、リアルで純粋で一途な恋をしろや!」というようなメッセージだったら
「余計なお世話だ!」と言いたいところでしたが、そういうお説教ではなく、
物語としての拡がりを残した終わり方、これからのエロゲライフがより充実しそうな終わり方をしてくれた点も
良かったと思います。
(2) キャラ性の弱さ―アオイ
そんな本作ですが、やはり『メタ視点を除いたときの、物語性の弱さ』は気になるところです。
まず一つ目の欠点と言えば、アオイのキャラの弱さでしょうか。
メタ的な視点でアオイを選ぶ。
あるいは、美雪に苦手意識を抱いてアオイを選ぶというのはともかく、
純粋にキャラの活躍度合いを考えると、良い意味でも悪い意味でも美雪と比べると弱いように思いました。
美雪の魅力は一周目の通常恋愛ストーリーの中できちんと語られていると思います。
また、歪んだ形ではありますが三周目でも彼女を知るイベントがたくさん用意されています。
元々才能はあれど、クラスでは孤立しがちだった少女。
心一のアドバイスで演劇の楽しさに目覚め、その後クラスの人気者として存在を確立。
心一の都合で疎遠になるも、同じ高校に通うクラスメイト。
運動神経も良く、バッティングセンターによく通う。
「永遠の愛」という潔癖な恋愛観を持ち、割と気性が荒い。
猫アレルギーだけれど猫がかわいくて仕方ない。料理も出来る。
さて、アオイに関してはどうでしょうか?
二周目ではメタ的な方向に話が引っ張られ、最後の周に至ってはろくに登場もしません。
デンパ的な言動が目立つ。クラスでははずれもの。実は男遊びが多い(メタ的な話になりますが)。
ヤバリーストマトが好きで料理が下手。空気が読めない。穏やか(美雪と違い、声を荒らげるシーンがない)。
友達想い。
……もう少しあるかもしれませんが、美雪に比べて確実にバックボーンが少ないように感じます。
心一とともに積み上げてきた時間、彼女の人となりを知るためのエピソードが絶対的に欠けているため、
『普通』の意味での三角関係で考えると、正直厳しいものがあります。
ではアオイの魅力は何かというと、ひとえに『(今までプレイしてきた)美少女ゲームのヒロイン』ということに尽きるわけで、それは作中で伝わる魅力ではなく、個々のエロゲプレイヤーが今まで積み重ねてきた経験に依存するものだと思うんです。
そういうやり方もアリだとは思うんですが、まぁちょっとズルいというか(美雪に対して。あるいは、作中でキャラの魅力を伝えてきた他ゲームに対して)フェアではないな、と。
設定的に難しい・厳しいものがあるのは否定できませんが、メタ要素抜きにして、アオイが美雪、肩を並べられるようなエピソードの積み重ねを、1章か2章のうちに描いてほしかったです。
(3) 不可解な恋愛感情―美雪
更に言うならば、美雪の設定にも欠陥があるように感じます。
美雪は幼馴染の『心一』が好きだったはずが、いつの間にか『心一』はどうでもよく、
画面の向こうの『君(=feeを含むととのプレイヤー達:これ以降便宜上feeと書きます)』が好きなことになっています。
これは、『心一』を「操っている」のが「fee」だということを見抜いたが故の恋心であるように思います。が。
美雪は元々、幼い頃から『心一』が好きだったはずです。
疎遠になったのを残念に思い、そして再び関係を取り戻せたことを喜んでいたはずです。
ではなぜ幼い頃から『心一』が好きだったかといえば、語られているエピソードとしては
心一のおかげで演劇で活躍したことなどがあげられます。
しかしそこに、『fee』の出る幕はありませんでした。なぜなら、「美雪に演劇を勧める」という選択肢が出ていないからです。つまり美雪は『fee』ではなく『心一』に”も”(?)恋をしていたはずなのです。
ところがいつの間にか、美雪は『心一』をおざなりにし、『fee』に恋をしています。
「心一が絡むと気持ちよくない。feeとじかにHがしたい」みたいな台詞もありますし、
feeが気に食わないからといってとばっちりで『心一』が撲殺されたりもします。
つまり、美雪は初めは『心一』に恋をしていたはずが、いつの間にか『fee』に恋をしている。
別に、恋の相手が変わること自体はよくあることで、全然かまわないのですが、
彼女自身が語る「永遠の愛」からはズレているように感じるのです。
もし、美雪に『fee』だけを愛させるならば、純粋に『feeが選んだ選択肢のみ』を問題にして、
美雪に恋をさせることが必要だったように思います。
一番簡単なやり方としては、過去編にも選択肢を用意するとかですね。
これを言ってしまってはおしまいなのですが、そもそも『美雪』が『心一』ではなく、『fee』に恋をするという設定を、ドラマチックに描くのは難しいと思います。
当然のことですが、『心一』とは違い、『fee』の意思は選択肢を除いては作中の文章に登場しないわけですから。
その時点でおよそ不可能に近い、極めて難しい挑戦になるわけなので、せめてそういったところは潰しておいてほしかったなと感じます。
(4) それでも本作を評価する理由
それでも本作を評価する理由は、大きく分けて3つあります。
まず第一。
本作には、「作者がどうしても書きたい、伝えたいというテーマ」が確かに宿っているから。
しかもどちらかと言うと、賛否両論というか、下手を打てば否定派が多くなりそうなテーマに僕からは見えます。
それでも、出した。
「ヒロインは幼馴染とツンデレと委員長と、先輩も一人に後輩も一人。
当然ヒロインは全員処女。こういうの作っておけば売れるでしょ」という、安全圏からの作品作りとは違います。
そのことに敬意を表したいと思います。
第二。
とはいえ、作者の伝えたいテーマだけが空回りし、物語として果てしなくツマラナイものが出てしまえば、
それは単なる作者のオナニーでしかありません。
本作は、かなり瀬戸際ギリギリのラインではないかと思っておりますが、
第一章は良質な恋物語として『普通の』楽しみ方ができました。
そこに目を引く演出・システムも重なって、最後までプレイを投げさせることなく、無事主張を伝えきることができました。
「お説教」ではなく、「エンタメ」になっていた。
当たり前ですが、大事なことだと思います。
第三。
これは一や二と被るんですが、僕はこの作品のことをずっと、五年後・十年後も内容を覚えていると思うんです。
「クリアして、はい終わり」ではなく、折に触れて思い出すであろう作品。
そういう『力』を持った作品というのは、やはり評価したいなと思っています。
以上です。