2014年10月

君と彼女と彼女の恋 重バレ 感想

86点。


ものすごい意欲作でした。
テーマ自体は、個人的にそれほど好きなものではありませんが、
ここまでブラッシュアップさせてきたなら言うことはありません。


なお、このゲームはネタバレを読んでしまうと楽しみが激減する恐れがあるので、
これからプレイする予定がある方は、間違ってもこの記事を読まないでください。 


★ 前置き

この感想は、前半では僕がプレイした時系列に沿っての感想を書きます。
プレイ中の僕の感情をそのまま書いて、ライブ感を重視しようという試みですので、
まとまりはないかもしれません。
やや自分語りがキモいかもしれませんが、一応作品の評価にかかわりがありますのでご了承ください。


総評では作品全体についての感想を書いていきます。メタ的な視点についてもこちらで。
結局何が言いたいんだよ、結論だけを読みたいよ、という方はずっと下までスクロールして、
総評の部分のみお読みいただいてもかまいません。
よろしくお願いします。



★ プレイ中感想

(1) プレイ開始前&一周目の感想

実はプレイ前から多少のネタバレは聞いていました。「メタ的な話である」ということ云々ですね。
それから、三角関係の物語であるということ。下倉バイオさんの作品であるということです。


下倉バイオさんの作品は以前、『スマガ』という作品をプレイしました。
評価の高い作品なのですが、僕はどうも肌に合いませんで、途中でGive Upしております。
『スマガ』にも三角関係っぽいシーンはあるにはあるのですが、正直、僕の求める三角関係の雰囲気とは大きく違ったので、少々不安を抱えながらのスタートとなりました。


さてゲームが始まりましたが、思いのほか雰囲気が良くて(=自分の肌に合っていて)楽しく読めます。
特に幼馴染の美雪との距離は絶妙で、お互いが好きあっているのに想いを打ち明けられないもどかしさは、
「青春だなぁ」と思いながら読むことしきり。
個人的に、主人公―ヒロイン間の距離が近すぎるお話はあまり好みではなく、これぐらいの距離がとても心地よく感じます。
一方のアオイですが、こちらはちょっと……嫌いではないのですが、デンパ飛ばしすぎで女の子として見るには苦しいです。
三角関係モノということなので、できればどちらのヒロインを選ぶか迷いたかったのですが、この様子だとあっさり美雪が勝ちそうですねぇ。
ただ、友達のいないアオイが美雪に縋りつき、美雪がそれを一刀両断していく姿はちょっとアオイがかわいそうだったかな? でも、仕方ないよなぁとも思います。デンパな子にまとわりつかれても辛いですし。


物語は進み、美雪が演劇でキスをするという発言があり、主人公は思い惑います。
この戸惑いは、僕とは*1縁遠いものですがまぁわからないではないです。
そして、ファーストキスを心一にささげたい、でもそれを言い出せないという美雪の健気さはいい感じです。


*1
ダメ元で好きな女の子に告白し、「私には恋人がいるの」と撃沈したことがあります。
その時も「うん、すぐには無理そうだ。残念だなぁ。でもそのうち別れることもあるだろうし、そうなってから再挑戦しよう」と思いました。
好きな子が恋人とキスしてるのかなとかHしてるのかな、嫌だなぁと思った記憶が全くないんですよね。


その後、初めて(↑とは違う)女の子と付き合い、別れ、その子が別の男子と仲よさそうにいちゃついているのを毎週目にしていた時期もあったんですが、「俺のところにはもう戻ってきてくれないんだろうな」という悲しさは覚えたけれど、「こいつとHしてるのかな。キスしてるのかな」という気持ちはなかったです。
戻ってきてくれればそれでいい、的な。
別に僕の恋愛遍歴なんかどうだっていいんですが、そういうパーソナリティーの持ち主だということをご了承ください。



そして初めての重要な選択肢。
「このままだと美雪と結ばれない。世界を改変する」とアオイが言います。
うーん。個人的には、美雪とのもどかしいこの距離感が好きなので、改変して繋がりたいとは思いませんでした。
案の定のバッドエンド。
アルバイト暮らしの主人公が、テレビ越しに美雪の活躍を眺めるという、なかなか切ないエンドで、こういうのは結構好きですw


と、思ったら世界が巻き戻ってアオイが世界を改変してしまいました。
美雪と結ばれますが……美雪と結ばれてからは意外とつまんなかったですね。
恋愛は片思いの間が一番楽しい、というフレーズを思い出しました。


(2) 二周目の感想


さて、二周目です。
拾ったスマホに自分の電話番号を入力してみたり(当然なにもおこらないw)と遊びながら、
プレイしていましたが、また美雪ルートに行ってしまいました。
やはり僕は、アオイよりも美雪派っぽいですね。
気を取り直してアオイ寄りの選択肢を選んでいきます。
正直、こちらのルートはいまいち、かなぁ。僕自身があまりアオイに興味ないですしねぇ。
と思っていると、アオイが浮気をしているという事実が発覚。相手は雄太郎の弟。うん、その展開は読めてました。


↑で独占欲は薄いと書きましたが、さすがにアオイの浮気はあまりいい気はしませんでした。
自分にも多少は独占欲があったらしく、それを自覚できたのは良かったですw(作品の感想と関係ない)

ただこの辺りで、この作品がどうしてメタ作品と呼ばれるのかは、はっきりわかってきました。
(メタ視点での感想は、総評で書きます)


「他の女とHしないとイベントCG集まらないから、セフレたくさん作るけど、でも俺はお前だけを愛してる」とか
リアルで一度でいいから言ってみたいです。
というか、心一というキャラクターにはHシーン1回分しかCGがなかったんでしょうか。
エロイッカイダケのヒロイン(?)は不遇ですなぁ。
それに、主人公の家で浮気相手とHだけはいただけないw もう少し隠す努力をしろと!
そこまで開き直られると、俺も困りますわ。


しかし、個人的にはアオイ以上に主人公が気持ち悪かったですね。

『途中死ぬほど吐き気に襲われて、何度も吐いて。けど俺は我慢した。歯を食いしばって耐え切った』
という文章がありましたが、そこまで気持ち悪いならさっさと別れるべきだと思います。
そこまでして相手の浮気を追及しても、自分が苦しいだけで何もいいことないと思うんですよ。
そうやって相手に復讐しても、そういう歪んだ復讐を遂げた自分をますます嫌いになるだけで、何もいいことなんてありませんから。
自分よりも魅力的な異性が現れてそちらを選ぶことになるのは自然なことですし、あるいは浮気性でたまに違う相手と恋をしたくなるのは、全肯定はしないけれども人間ならばありうることですから。

前者ならば魅力のない自分が悪いとしか言いようがないし、後者はそういうビョーキなので、そんなムキになって罰してもねぇという。自分自身の異性を見る目のなさを恨むべきであって、わざわざ気持ち悪い相手に粘着しても仕方ないでしょう。
あと、いくら相手が浮気したからといって、他人のスマホを壊しちゃいけません。
3周目でも、他人のスマホを勝手にいじってロックまではずしていますが、
恋人に他人のスマホを勝手に見られたら、僕なら即別れますね。
プライベートを尊重できない相手と、長く付き合っていける気がしないので。
(もちろん、3周目のこれに関しては拉致監禁されていたので仕方ないとは思いますが、心一に罪悪感がまるでなさそうなのも事実)。



さて、なぜか3Pがあった後、突然美雪に裏切っただのなんだのと言われ、バットで撲殺されて2周目は終わりです。ゲームが上書きされるここの演出にはほんと、圧倒されました。


↑で書いたように、僕は1周目の美雪とのもどかしい恋愛や、三角関係が読みたかったので、この展開はあまり歓迎していなかったのですが、この度肝を抜かれる演出で考えを変えました。
テーマ自体はあまり好きではないけれど、メッセージ・テーマ性を伝えるためにここまで本気を出してくれたなら……というふうに、本作の評価が定まった瞬間でもあります。


(3) 3周目 無限ループと結末の感想

さて、美雪にアップデートされ、画面が一気に古臭くなった3周目が開始です。
拉致監禁されたとはまさにこのことですね。
脱出するためにいろいろ試していくわけですが……割としんどいw
美雪とイチャつくシーン自体は↑で書いたようにあまり興味がないし……


ドスのきいた拉致監禁魔、美雪の機嫌を損ねないように選択肢を選び、クイズに答えていきます。
結構しんどかったんです。おまけに何度もフリーズするし……。


そうこうしているうちに、美雪とのオートHがスタート。個人的には、テレフォンセックスを思い出しました。

あまり抜く気はなかったんですけど、「画面の向こうの君とHがしたい」という美雪の要望があったので
一応取り出してみましたよ。やっぱりこういうのはノラないと楽しめないよね!
でもぶっちゃけ、あまり性欲溜まってない時だったからね、がんばってしごいたんだけど、俺が抜く前に
(仮想の俺)は美雪に中出ししちゃったらしくてね、すごすごとしまいました。
それはいいんですが、このシーン、女性プレイヤーはどうしたんでしょう。
テレフォンセックスはまぁ面白い試みだったとは思いますが、女性プレイヤーの存在を度外視している気がしますし、うまく(仮想の俺)と中出しのタイミングを合わせないと、「臨場感」が増すどころか下がるだけなので、
結論としては入れるべきじゃなかったような気がします。
「君に恋してる」は、「美雪ちゃんはレズなんや!」で解決できますが、さすがに美雪ちゃんの中で中出しするのは女性プレイヤーには無理ですからね。
僕は男性なので関係ありませんが、女性の感想も聞きたいなぁ。


話がそれました。それで、ですね、
「君(プレイヤー)が、君しか愛せなくなる呪いをかけた」とか、
「アオイをプレイするために、私との永遠の愛の誓いを裏切った」とか散々美雪ちゃんに恨み節を聞かされるわけなんですけど、僕個人としては「なんだかなぁ」といった感じでした。


だって僕、最初の選択では「アオイが世界を改変するのを止めて、結果バッドエンドに行って」いますし。
それどころか二回目でも美雪ルート行ってますからね。
美雪とアオイ、どちらにも目移りして美雪を裏切ったならその怒りもわかりますが、
僕的には端から美雪一択で、アオイは物語の進行上、選ばないと先に進めなかっただけなのでね。
そこでそんなに怒られても困ってしまうんですわ。


というわけでいよいよ最後の選択肢。泣いても笑ってもどちらかしか選べません。
未だかつて、ここまで悩んだ選択肢は多分なかったです。
二周目途中までの僕なら、(いくら片方しか選べなくても)美雪一択だったんですが、
本性を知っちゃったからなぁ……。


・キャラ的にはあまり好みではなく、多数のセフレを作っているけれど、一応自分のことも愛してくれている彼女


・キャラ的には好みで一途だけど、一途過ぎてこちらが浮気すると拉致監禁撲殺しちゃう彼女


……というわけで、feeが選んだのは、アオイちゃんでした!!
外で浮気されるのも嫌だけど、拉致監禁されるよりはマシだよね。
でも、できれば僕に隠れて、見つからないように浮気してきてね!

本音を言うなら、「リスクを最優先に考えて付き合う相手を選ぶ」のではなく「純粋に好きな娘」を選びたかったです。


などと思ってアオイちゃんを選んだんですが、思った以上に読後感の良い結末で、こちらを選んでよかったです!
(美雪を選んだ場合の結末を知らないので、本当に良かったかはわかりませんが)


というのがプレイ感想でした。


★総評

(1) エロゲプレイヤーへの断罪  
アオイ≒普段の僕らエロゲーマー 
心一≒普段の僕らエロゲーマー+処女独占厨
美雪≒処女独占厨(??)


さて、本作は「『エロゲー』という媒体におけるプレイヤーの行為を断罪してきた作品」、という印象を持ちました。

僕たちエロゲプレイヤーが普段やっていて、このゲームでも当然のごとく行なった、複数のヒロインルートを攻略していくという行為。
それをアオイというヒロインに実際にやらせることで、
「お前たちがやっているのはこんな醜悪な行為なんだぞ」と、プレイヤーに突きつけているわけです。

「他の女も攻略しないとこのゲームをフルコンプできないから、恋人はたくさん作るけど、でも俺はお前が最萌えヒロインでお前だけを愛してる。お前は俺の嫁!」という自身の醜悪さを、アオイというヒロインに逆にやられることによって、体験するわけです。


独占欲の薄いと思われた僕でも、アオイ(=エロゲプレイヤーの行為)に対してやや反感を覚えたぐらいですから、独占厨の方には相当突き刺さる内容だったのではないか、と思います。


ただ、それはアオイという人物・ヒロインとして考えるから「浮気しまくり」に対して反感を覚えるのであって、エロゲプレイヤーとしては真っ当な姿勢ではありますよね。
めちゃくちゃ大好きなヒロインAを先にクリアしてしまい、その後ヒロインAに罪悪感を抱きつつも冷たくして再びヒロインAルートに入らないようにし、違うヒロインBをプレイした経験は多くのエロゲーマーが一度は経験していると思います。美雪が好きな人ならば、このゲームでも経験したばかりですね。
アオイというエロゲプレイヤーにとって、心一は最萌えヒロインだったけれど、それでも龍二郎という別のルートを進めてしまった。
これはもう、普段僕たちプレイヤーがやっている事なので、論理でアオイを咎めるのは無理でした。


さて、このゲームにおいても僕たちはヒロインA『美雪』をクリアした後に、B『アオイ』のルートに進みます。
つまりアオイと全く同じ事を、僕たちはやっているわけです。それを不誠実だと断罪するのが美雪です。
個人的に、こちらは僕としてはあまり刺さりませんでした。


というのも既に一度、プレイヤーは「アオイ」の姿を見てダメージを受けているので、再び同じ内容を美雪に指摘されても、「それはさっきアオイの姿を見て気づいたよ」と思うだけだからです。


「エロゲプレイヤー(浮気性)」であるアオイに対し、美雪は一途であるという意味で、
キャラクターの違いは対比されていると思いますが、論は変わらず
「セーブ&ロードや、ゲームを再び最初からやり直して複数ヒロインに浮気することの不誠実さ」を、

『実際に自分がやってみせて、「お前らはこれをやっているんだぞ!」と見せつける』(アオイ)か、
『より直接的に、「よくもやってくれたな!」と恫喝する』か(美雪)の違いでしかないかなと思います。


個人的に、エロゲプレイヤーの欺瞞を暴くというのは、面白い試みではあると思いますが、
「それがどうした」という部分でもあるとは思います。

ただし、「それがどうした」と簡単に切って捨てるのを躊躇うぐらいの熱量がこの作品に篭められていることが、
演出・システムなども含めてしっかりと伝わってきたことはやはり評価したいです。
たとえば、『セーブデータを完全に消された上で、あの面倒くさい脱出ゲームを延々やらせる』という手法は、
プレイヤーを断罪するという効果だけではなく、最後の選択肢。
美雪とアオイどちらを選ぶかという選択の重みを増す結果になっていると思います。
初めから終わりまでずっとスキップすれば行けてしまうゲームならば、最初からやり直すのも容易ですが、
これだけ面倒なミニゲームがありますとそういうわけにもいきません。
キーコードや、攻略サイトを使わせない工夫など、豊富なアイディアも作品完成度をぐっと上げるものになっていると思います。


まぁ、買ったゲームですから自分の好きなように楽しめばいいとは思いますが、せっかくですから僕は製作者の意向を尊重して、アオイエピローグしか読んでおりません。

この感想を書きながらも、「美雪ちゃんを選んだらどうなったのかな?」とか「youtubeで見られるみたいだな」とか、色々雑念が頭をよぎりますが、そのこと自体がこのゲームで得られる稀有な経験だと思いますので、
それを犠牲にしてまで美雪エピローグを見るかどうかですよね。


なお、僕が選んだアオイエピローグでは、「またエロゲをプレイし、再び僕らは出会う」という読後感の良い結末に仕上がっておりました。


「不誠実なエロゲなんかやめて、リアルで純粋で一途な恋をしろや!」というようなメッセージだったら
「余計なお世話だ!」と言いたいところでしたが、そういうお説教ではなく、
物語としての拡がりを残した終わり方、これからのエロゲライフがより充実しそうな終わり方をしてくれた点も
良かったと思います。


(2) キャラ性の弱さ―アオイ

そんな本作ですが、やはり『メタ視点を除いたときの、物語性の弱さ』は気になるところです。
まず一つ目の欠点と言えば、アオイのキャラの弱さでしょうか。
メタ的な視点でアオイを選ぶ。
あるいは、美雪に苦手意識を抱いてアオイを選ぶというのはともかく、
純粋にキャラの活躍度合いを考えると、良い意味でも悪い意味でも美雪と比べると弱いように思いました。


美雪の魅力は一周目の通常恋愛ストーリーの中できちんと語られていると思います。
また、歪んだ形ではありますが三周目でも彼女を知るイベントがたくさん用意されています。
元々才能はあれど、クラスでは孤立しがちだった少女。
心一のアドバイスで演劇の楽しさに目覚め、その後クラスの人気者として存在を確立。
心一の都合で疎遠になるも、同じ高校に通うクラスメイト。
運動神経も良く、バッティングセンターによく通う。
「永遠の愛」という潔癖な恋愛観を持ち、割と気性が荒い。
猫アレルギーだけれど猫がかわいくて仕方ない。料理も出来る。


さて、アオイに関してはどうでしょうか?
二周目ではメタ的な方向に話が引っ張られ、最後の周に至ってはろくに登場もしません。

デンパ的な言動が目立つ。クラスでははずれもの。実は男遊びが多い(メタ的な話になりますが)。
ヤバリーストマトが好きで料理が下手。空気が読めない。穏やか(美雪と違い、声を荒らげるシーンがない)。
友達想い。
……もう少しあるかもしれませんが、美雪に比べて確実にバックボーンが少ないように感じます。
心一とともに積み上げてきた時間、彼女の人となりを知るためのエピソードが絶対的に欠けているため、
『普通』の意味での三角関係で考えると、正直厳しいものがあります。


ではアオイの魅力は何かというと、ひとえに『(今までプレイしてきた)美少女ゲームのヒロイン』ということに尽きるわけで、それは作中で伝わる魅力ではなく、個々のエロゲプレイヤーが今まで積み重ねてきた経験に依存するものだと思うんです。
そういうやり方もアリだとは思うんですが、まぁちょっとズルいというか(美雪に対して。あるいは、作中でキャラの魅力を伝えてきた他ゲームに対して)フェアではないな、と。


設定的に難しい・厳しいものがあるのは否定できませんが、メタ要素抜きにして、アオイが美雪、肩を並べられるようなエピソードの積み重ねを、1章か2章のうちに描いてほしかったです。


(3) 不可解な恋愛感情―美雪

更に言うならば、美雪の設定にも欠陥があるように感じます。
美雪は幼馴染の『心一』が好きだったはずが、いつの間にか『心一』はどうでもよく、
画面の向こうの『君(=feeを含むととのプレイヤー達:これ以降便宜上feeと書きます)』が好きなことになっています。
これは、『心一』を「操っている」のが「fee」だということを見抜いたが故の恋心であるように思います。が。

美雪は元々、幼い頃から『心一』が好きだったはずです。
疎遠になったのを残念に思い、そして再び関係を取り戻せたことを喜んでいたはずです。
ではなぜ幼い頃から『心一』が好きだったかといえば、語られているエピソードとしては
心一のおかげで演劇で活躍したことなどがあげられます。


しかしそこに、『fee』の出る幕はありませんでした。なぜなら、「美雪に演劇を勧める」という選択肢が出ていないからです。つまり美雪は『fee』ではなく『心一』に”も”(?)恋をしていたはずなのです。
ところがいつの間にか、美雪は『心一』をおざなりにし、『fee』に恋をしています。
「心一が絡むと気持ちよくない。feeとじかにHがしたい」みたいな台詞もありますし、
feeが気に食わないからといってとばっちりで『心一』が撲殺されたりもします。

つまり、美雪は初めは『心一』に恋をしていたはずが、いつの間にか『fee』に恋をしている。
別に、恋の相手が変わること自体はよくあることで、全然かまわないのですが、
彼女自身が語る「永遠の愛」からはズレているように感じるのです。
もし、美雪に『fee』だけを愛させるならば、純粋に『feeが選んだ選択肢のみ』を問題にして、
美雪に恋をさせることが必要だったように思います。
一番簡単なやり方としては、過去編にも選択肢を用意するとかですね。


これを言ってしまってはおしまいなのですが、そもそも『美雪』が『心一』ではなく、『fee』に恋をするという設定を、ドラマチックに描くのは難しいと思います。
当然のことですが、『心一』とは違い、『fee』の意思は選択肢を除いては作中の文章に登場しないわけですから。
その時点でおよそ不可能に近い、極めて難しい挑戦になるわけなので、せめてそういったところは潰しておいてほしかったなと感じます。


(4) それでも本作を評価する理由

それでも本作を評価する理由は、大きく分けて3つあります。

まず第一。
本作には、「作者がどうしても書きたい、伝えたいというテーマ」が確かに宿っているから。
しかもどちらかと言うと、賛否両論というか、下手を打てば否定派が多くなりそうなテーマに僕からは見えます。
それでも、出した。

「ヒロインは幼馴染とツンデレと委員長と、先輩も一人に後輩も一人。
当然ヒロインは全員処女。こういうの作っておけば売れるでしょ」という、安全圏からの作品作りとは違います。

そのことに敬意を表したいと思います。


第二。
とはいえ、作者の伝えたいテーマだけが空回りし、物語として果てしなくツマラナイものが出てしまえば、
それは単なる作者のオナニーでしかありません。
本作は、かなり瀬戸際ギリギリのラインではないかと思っておりますが、
第一章は良質な恋物語として『普通の』楽しみ方ができました。
そこに目を引く演出・システムも重なって、最後までプレイを投げさせることなく、無事主張を伝えきることができました。
「お説教」ではなく、「エンタメ」になっていた。
当たり前ですが、大事なことだと思います。


第三。
これは一や二と被るんですが、僕はこの作品のことをずっと、五年後・十年後も内容を覚えていると思うんです。
「クリアして、はい終わり」ではなく、折に触れて思い出すであろう作品。
そういう『力』を持った作品というのは、やはり評価したいなと思っています。


以上です。

 

エンダーのゲーム読了(重バレあり)

著者はオーソン・スコット・カード。評価はA。


虫型宇宙人バガーの侵略に備え、素質ある子供を戦士として鍛えるためのバトルスクール。
主人公のエンダーは、天才戦士として周囲から将来を嘱望され、同僚からは疎まれ、迫害され、
教官からは、しごかれ続ける。


猟奇的な性向を持つ兄のピーターと同じ血が、自分にも流れていることを自覚し、
「戦いたくない、殺したくない」という葛藤を抱えるエンダー。
訓練を重ね、実力を伸ばせば伸ばすほど、理不尽な難題を与えていく教官たち。
そしてエンダーはついに、卒業試験の日を迎えたが……。


訓練シーンが非常に多く、息抜きのできるシーンがほとんどないので、途中ややダレる部分もあるけれど、
卒業試験の真相が明かされてからのラスト100ページは、それを一気に吹き飛ばすだけのインパクトがありました。
中でもバガーの女王との邂逅は、本当に悲しかったですね。
相手のことがわからない、故に恐れる。恐れるがあまり、徹底的に叩き潰す。
そんな人間の悲しい性をまざまざと感じました。


バガーの巣に残った繭を潰さず、新女王を守るために宇宙に飛び立つエンディングも感動でした。
きっとピーターなら、潰してしまったんでしょうね。
あのシーンこそが、本書における最も重要な分岐点だったのかもしれません。 

乙女理論とその周辺(バレあり)

まずは点数から。

シナリオ110/150 キャラ 105/150 絵 70/100 音80/100 その他システム 80/100 印象 30/50
合計 475/650(総合93位/170ゲームぐらい中) ESにつける点 78


★前作との比較と、テーマについて

前作「月に寄りそう乙女の作法」が 500/650(65位)なので、それに比べると落ちます。
前作と比べて確実に劣るのが『恋愛描写』と『エロ』の部分ですね。


シナリオ面で比較しますと前作では『才能』と『努力』がテーマだったのに対し、
本作では『血(生まれ)』が大きなテーマになっていると思います。
具体的に言いますと、『大蔵一族としての血』の話と、
『日本人・フランス人』といった人種を語る上での『血』です。


『大蔵一族としての血』に関しては、家族大好きな総裁や、大蔵の血を引いていない衣遠。
そして「大蔵一族の跡取り騒動」のエピソードで表され、
『人種としての血』に関しては、度重なる人種差別の描写や、黒幕リリアーヌの存在に集約されていると思います。


★大蔵一族の跡取り問題について


本作では、『服飾グランプリでの入賞』というクライマックスに、『大蔵一族の跡取り問題』というイベントを掛け合わせておりますが、このかみ合わせがどうにも悪く、後者がやや茶番めいて見え、率直に言えば少々しらけてしまいました。

たとえば、りそなルートでは「兄弟三人力を合わせて服飾コンクールでグランプリを取ったりそな」が当主となりますが、スルガ&アンソニーの兄弟も傍から見れば十分家族愛に溢れているように見えます(総裁には伝わっていないかもしれませんが)。
メリルルートでは、従兄弟同盟が結成されたところで物語が終わってしまい、親世代の説得シーンが描かれておりませんし、ブリュエットルートは最もひどく、突然出てきた遊星から「僕を当主にしてよ」とせがまれて、
あっさり次期当主の座を遊星へ決めてしまう始末。


どのルートでもりそなか遊星、いずれかが次期当主になるわけですが、
大蔵一族の当主という大事にも関わらず、えらくテキトーなノリで決まってしまうため、印象がよくありませんでした。


★人種問題について

一方で、「人種(差別)の問題」に関しては、黒幕にリリアーヌを持ってきたことである程度描けていると感じました。
モブキャラの糸・生地屋の店主や、犬を散歩しているマダム、ロシア・ドイツ・中国・日本・フランスのメンバーが
同じ班員として交流を深めていくシーンなど、ゲーム全体でこのテーマを描こうという意図は伝わってきました。

度重なる人種差別の嫌がらせにめげず、グランプリで優勝してリリアーヌを見返すという展開自体は、
王道ではあれど、良かったと思います。

(もっとも、リリアーヌへの罰がほとんどない事については、少々納得がいきませんが。
あれだけのことをしたんだから、こちらの溜飲を下げるような罰を下してほしかった)



★恋愛描写とエロについて

プレイしていて違和感を覚えたポイントとして、遊星のHに対する姿勢が挙げられます。
前作「釣り乙」での遊星は、肉食系とまでは言わないものの、フツーにヒロイン達に性欲を覚えていたように記憶しています。
ところが本作では、草食系を通り越して絶食系と言えるほどのやる気のなさで、
「Hは半年に1回でいい」などとメリルに対してもブリュエットに対しても口走っています。
また、痛がるメリルに対して愛撫もせずに突っ込んで終わりにしようとするなど、エロ描写の退化を強く感じました。
普段そこまでエロを重視しない僕ですが、何でこんなにやる気がないんだろうというのはとても気になったポイントです。


また、エロの軽視と関連性があるのか、単にヒロインの性格の問題かはわかりませんが、
恋愛描写の質も前作と比べて大幅に落ちた感があります。
ブリュエットはまだいい方で、メリルとりそなは、最後まで『仲の良い妹(的存在)』の域を脱することはありませんでした。
何せ遊星自身、ちっとも「ドキドキしている・恋している」様子がないのです。
少なくとも僕には彼の恋心が全然、伝わってこない。



キャラクターとしては前作ヒロインと遜色のない魅力を持っているはずの本作ヒロイン陣ですが、
女の子として、恋愛相手としての魅力では完敗だったと思います。


また、桜屋敷の面々と、パリの下宿の面々を比べてもやはり前者の方により居心地の良さを感じました。


★衣遠について

ファンの方には申し訳ないのですが、僕はどうしても衣遠というキャラが好きになれませんでした。
一方で、スルガさんはすごく格好良くて好みのタイプでした。
そのため、衣遠に義理立てする遊星にどうしても感情移入しづらかったです。

義理立てと書きましたが、何というか、調教・洗脳されているなぁと感じました。
今まで散々恐怖によって相手を支配し、遊星やりそなの才能を潰すような接し方をしてきた兄と、
(悪い噂は立っているものの)実際には非の打ち所がまるでなく、紳士的なスルガを比べた場合、
どうしても当主の座にふさわしいのは後者だと感じます。
にも関わらず、兄だというだけの理由で衣遠を立てようとする遊星の事がどうしてもわかりませんでした。


りそなルートの終盤で仲間になってからは、頼もしい活躍ぶりを見せてくれた衣遠ですが、
今まで遊星たちにしてきたことを考えると、素直にいい男だとは言えない気がします。


★まとめ

批判気味の感想を書きましたが、決してつまらなかったわけではありません。
特に人種差別に関しては、あまりエロゲで取り上げられてこなかったテーマでもありますし、
割と面白かったと思います。



ちなみに前作の4シナリオと本作の3シナリオの好みを並べてみると、

前作ルナ>前作ユーシェ>本作りそな>本作メリル>前作瑞穂>本作ブリュエット>前作湊となります。



 

好きなエロゲ&ギャルゲOPムービー 20選(2014年暫定版)

以前、「エロゲ&ギャルゲ20選」と「好きなエロゲヒロイン20人」を選んだことがありました。


そこで今回は、好きなエロゲ&ギャルゲOP20選と称してやってみたいと思います
(本当は好きなエロゲソングにしても良かったのですが、youtubeにない曲も出てきそうなので)。 


基準はこちら。

・コンプリートしたゲームから選びます。
未プレイのゲームでも気に入っているOPは幾つかあるのですが、除きます。 

・ゲームの好き嫌いではなく、あくまでもOPムービーの好き嫌いで選ぶつもりです。
が、 どうしてもある程度は好きなゲームに偏りそうな気はします。そもそもつまらなければコンプリートできないし…。
もっとも、大好きなゲームだけどOPはイマイチ……というゲームは入りません。


・なんだかんだでムービー自体は普通なのに、曲が好きなので入っているというゲームは出てきそうです。

・順位づけはしません。順不同でお考えください。



では。



1 穢翼のユースティア

2010年以降に発売されたゲームでは、2作品しか出していない90点以上の作品。
初めてムービーを見たときは、あの明るい学園モノばかりを作ってきたオーガストが!?と度肝を抜かれましたが、プレイしてみてその完成度に改めて驚かされました。
不条理な世界で生きる主人公の成長物語として、非常によく練られた作品です。


2 Steins Gate

2010年以降に発売されたゲームで90点以上を出した2作のうちの1作で、パラレルワールド、歴史改変ものの名作。
秋葉原の空気感が伝わってくるムービーと、作品テーマに合っているような合っていないような
なんとも言えない曲がいいですね。
XBOXやPSPなど様々な媒体で登場し、ムービーも多数ありますが、個人的にはこのPC版のムービーが好みです。


3 想いのかけら ―Close To―

交通事故によって瀕死の重傷を負った主人公が、幽体離脱をし、後に残されたヒロインたちを見守る直球の泣きゲー。
天使の羽、教会の鐘、そして歌詞と作品のエッセンスが詰め込まれた良いムービーです。
DC版のOP曲も好きなんですが、さすがにムービーが今見るとモッサリしすぎているかなとも。

ちなみに、本作と同じ街を舞台にした「セパレイトハーツ」も、(Close Toに比べればだいぶ落ちますが)
面白い作品でした。



4I/O 

このムービーを見たとき、僕はこのゲームに大いなる期待を抱いたものでした。
その期待は不幸にも大きく裏切られることになりましたが、やはり今見てもこのムービーにはワクワクさせられます。

5 ef the first tale

毎回素晴らしいOPムービーを用意してくるminoriですが、中でもこのefのムービーは圧巻でした。
羽で作られた階段をしずしずと降りる優子の姿が印象的なLatter taleのOPも甲乙つけがたいのですが、ここは1~5章まで全てのキャラクターが出演するfirst taleの方を。
「二つの手重なる」の部分は何度見ても鳥肌です。

ゲームの方も、非常に綺麗な青春群像激が楽しめます。
ムービーだけ見たい方は、最初の1分は飛ばしてください。


6 群青の空を越えて

美少女が一切登場しない異色のOPですが、何より曲がいいです。
戦争に踊らされる若者たちの熱気と、理想のもとに人を殺す戦争の悲惨さを描いた、まさにこのゲームのために作られた曲だといっていいでしょう。
OPでは一番しか聴けないのですが、二番以降の歌詞が特に素晴らしいです。
歌のfullはこちらで。


7  最果てのイマ

廃工場という『聖域』と、外界。難解なパズルゲームとしての側面よりも、青春物語として個人的に大好きな作品。
OPムービーも一見地味ですが、テキスト(モノローグ)とグラフィック、曲がマッチした完成度の高いものとなっています。

8 ナルキッソス2 

こちらも、どちらかと言うと曲の歌詞枠。 OPで聴けない部分の歌詞に秀逸な部分があるんですよね。
ホスピスの患者を主人公にしたゲームの方も、非常に心に残る作品でした。
歌のfullはこちらで。


9 君が望む永遠 DVD Specification

三角関係を描いた名作、「君が望む永遠」はPC版だけでも3つ。
PS2版やDC版を含めれば5つもOPムービーがありますが、水月をフューチャーしたこのDVD版のOPが一番好きです。
ムービーとしてより見栄えがするのはLatest Editionでしょうか。
昔は遙が大好きで水月が嫌いだったのに、歳を経るとともに水月の良さもわかっていった。そんな経験も含めて、自分にとってかけがえのない作品の一つです。


10 メモリーズオフセカンド

今の彼女から、新しい彼女へ。
「メモリーズオフセカンド」は、最近のギャルゲ・エロゲではほとんど見かけなくなってしまったテーマで描かれた作品です。
現在7作出ているメモリーズオフシリーズの中でも(7は未プレイですが)、群を抜いて出来の良い作品でした。
ムービーにはソオチンニャン人形、ピアノ、そして失恋と、作中のテーマも盛り込まれています。

なお、このセカンドを意識して作られた「それから」(4)も、セカンドと比べると落ちるもののなかなか思い入れのある作品です。……今のメモオフはどうなんでしょうか。「ゆびきりの記憶」(7)、やるべきかなぁ。


11 Ever17

閉ざされた海洋テーマパークを舞台にした、古典的名作。
日常シーンはやや退屈ではあるのですが、最終シナリオは大いに楽しみました。
OPムービーは数種類あるのですが、このPSP版が一番好きですね。

気がつけばKIDの作品が4つもランキングに入っています。
これは元々僕がKIDの大ファンということもあるのですが、CGやアニメだけではなく、
作中の『フレーズ』をちりばめたOPが凄く好きだからでもあります。


12 Remember 11

Infinityシリーズから更にもう1作。
雪山を舞台にした本作は、前作の眠たくなる日常シーンとは正反対で、サスペンス描写に優れており、
描こうとした謎もシリーズ中最高にして最大のもの。
きちんと描ききれていればEver17と並ぶだけの評価は得られたと思われる、それぐらい衝撃的なギミックが用いられていました。
それだけに……それだけに、謎の解き明かし方の雑さ加減が非常に悔やまれるところです……。

また、さすがに同一シリーズで3作を挙げるのは忍びないのですが、
Infinityシリーズの第一作Never 7は、シリーズ中最も日常シーンが「楽しい」作品で、
ループものとしてもよくできており、最終シナリオはEver17へと繋がる片鱗を見せているだけにこちらもお薦めです。


13 Eden* 

「ef」で紹介したminoriからもう一作。
ゲームとしては微妙でしたが、ムービーは相変わらずの鳥肌モノ。

14  続・殺戮のジャンゴ―地獄の賞金首―

色んな意味で度肝を抜かれたOPムービー。
マカロニウェスタンをエロゲでやる、そのチャレンジ精神は応援したいところです。
虚淵×Nitroの5作品は「Phantom Of Inferno」と「鬼哭街」が個人的には双璧なんですが(「ヴェドゴニアのみ未プレイ」)、OPはやはりこれですかね。


15 それは舞い散る桜のように

作品としてはイマイチ好きではないんですが、OPを見るとなんだかものすごく面白かったような気がしてくる、
そんなナイスなOPですね。
旧版のモノローグ入りOPもいいんですが、少し見づらいので、完全版(?)のOPをリンクしました。

ちなみに、Basil/Navelラインでは「俺たちに翼はない」が群を抜いて好きな作品です。


16 忠臣蔵46+1(第2OP)

最近流行りの「歴史上の人物を女体化」した作品ですが、本作はその考察からライターの原作への愛を感じることができ、名作と呼んで差し支えないものに仕上がっていると思います。
3章の相合傘は、屈指の名シーンですね。
第1OPでも全然いいのですが、より激しい第2OPをチョイスしています。


17 プリンセスうぃっちぃず(第2OP)

明るくドタバタな日常が楽しい第一部が終わり、第二部が始まる際に流れるOP。
その落差と、これからの物語への期待を大きく膨らませたムービーですが、その期待が裏切られることはありませんでした。
ネタバレなムービーですが、プレイ前の方はこれだけを見てもわからないと思いますのでご心配なく。
(プレイ中で、まだ未クリアの方のみ見ないようにお願いします)


18 加奈おかえり

古いゲームですが、その品質の高さと、茶化しのない素朴さは今でも十分楽しめる名作。
曲もどことなく旧き良き~ですが、加奈の成長を写した3枚の写真など、なかなか魅せてくれます。


19 黄雷のガクトゥーン

テンポの良い曲調と、作品に深く関わる歌詞、そして洗練されたムービーと三拍子揃った優等生的なOPムービー。
作品自体も、個人的に「紫影のソナーニル」にはやや劣りますが、作者のホームズ愛が伝わってくる、質の高い作品でした。
独特な雰囲気を持つForestのOPも一見の価値アリ。


20 夢見師

寒々しい冬の情景とDucaの深い歌声、そして時間モノでは最近おなじみになりつつある蝶々
(バタフライエフェクトから来ているのでしょうね)がマッチした良質のムービー。
作品の方も、時間改変モノとして大変面白かったです。
それだけに、一発屋で終わってしまったのがただただ残念ではあります。







 

月に寄りそう乙女の作法 クリア(重バレあり)

まずは点数から。

シナリオ 115/150 キャラ115/150 絵80/100 音80/100 システムその他 80/100 
合計 500/650 (65位/約170ゲーム中) ESにつける点数 82



☆前置き

本作で印象に残ったテーマは「努力」と「才能」。
服飾という華やかな舞台と百合女装という演出こそあるものの、内容は熱血スポ根系統の作品に近い感じに仕上がっていると思います。


他の方の評価を拝見しても「ルナとユーシェだけをやればいい」という意見が多いようですが、ご他聞に漏れず僕も2強2弱だと感じました。
なのでこの2ルートだけをやればいいと言いたいところですが、湊ルート(の前半)には見るべきものがあると感じているので、お時間に余裕があれば(あまり面白いとは言えないけれど)湊ルートもやると良いんじゃないかなと思います。


☆ ルナ√ 評価 A-

デザイナーとしての「才能」に溢れるルナと、パタンナーとしての「才能」に溢れる遊星。
そして遊星の決死の「怒力」が、衣遠のさもしい妨害を打倒するというルートです。

本シナリオの前半は、努力と才能よりも「女装モノ・百合モノ」としての色合いが強く、
百合好きなプレイヤーならニヤニヤしながらプレイする事ができるでしょう。
朝日を同性だと信じているルナの戸惑いや、女性同士の恋愛に生ずるゾクゾクするような背徳感は、朝日の女の子らしさもあって、とても楽しく読むことができました。


また、ルナというキャラクターはとても魅力があり、その包容力と強さが存分に発揮される
衣遠との対決シーンは大きな見せ場だったと思います。
初めはネタだと思っていた「ありがとうございます、お優しいルナ様」が、
プレイ後には本音で言えてしまうぐらい、ルナの優しさや器の大きさは印象的でした。
(瑞穂の反応と比べることで、ルナの包容力は際立ちますね)


一方で残念だったのは衣遠でしょうか。
「才能至上主義」という鋼鉄の芯を持っていたと評される彼ですが、遊星への憎悪と偏愛という個人的感情に流されて「盗作」を行い、しかもそれを悪びれもしないというのはクリエイターとして、人間として非常に凡俗と言わざるを得ませんし、結局「才能」よりも「私情」を優先する人間にしか見えず、およそ芯と呼べるものが見当たりません。
自分の作品を見せて客を大いに満足させるというクリエイターとしての「誇り・プライド」を全く感じることができず、包容力のあるルナの遊星への「愛」と比べると、いかにも卑小な人物だなと。


作中でも書かれていましたが、彼は彼なりに遊星のことを気にかけているように感じます。
気にかけているというよりは、自分に隷属する人間として「愛している」のでしょう。
現実でも、奥さんを家から外には出さず、DVなどをして自分に服従させるというやり方で
妻を「愛する」人がいますが、まさにあんな感じではないかなと思いました。


まぁ人間くさいと言えばあまりに人間くさいですし、悪役としてはあれでいいかなとは思うのですが、そんな彼への制裁が一切なく、今後も学院長を続けると思われるあの結末には正直肩すかしを覚えました。
個人的確執(瑞穂ルートでの遊星への嫌がらせなど)は水に流すのもありですが、いくらなんでも「犯罪」の事実は水に流せないでしょう。
また、よく考えてみると桜小路本家に関しても何の解決もしていないような気がしており、ルナと遊星の二人ならそれらを乗り越えていけるという確信は抱けたとはいえ、もうちょっとスカっとさせてくれてもいいのにと感じました。


後述するユルシュールルートと同じ評価A-ですが、

○「やや背徳的でニヤニヤできる百合描写」

○「ヒロインの包容力」の二点においてはルナシナリオの方に軍配が上がり、


●「読後の爽快感」

●「ヒロインへの共感」

の二点においてはユルシュールシナリオの方が好みでした。


☆ ユルシュール√ 評価 A-

努力の積み重ねで天才を倒す。
そんな王道展開を見せたユルシュールルートの見所は、ルナに敗れた後のユーシェの独白にあるのではないでしょうか。
何度やってもルナに勝てないという、彼女の無力感、悲しみ、悔しさがダイレクトに伝わり、読んでいるこちらの胸まで苦しくなりました。
物語自体は、土壇場ラストで大逆転という展開まで王道中の王道を突っ走るため、先が読めてしまうことは確かです。内容自体も、親の会社が倒産するような悲劇には見舞われず、「せいぜいがルナに勝てない」というくらいのものですが、きちんとした描写と筆力があれば、大仰な仕掛けを作らなくても読み応えのある物語が出来ることを、このユーシェルートは表しているように思います。

また、ファッションにもイラストにも造詣の深くない僕ですが、金髪のユーシェには青いドレスがよく映えていました。最優秀賞をとったと聞かされても納得のデザイン、CGだったと思います。


なお、一応テーマをわかりやすくするため、「努力の積み重ねで天才を倒す」と書きましたが、
努力を積み重ねることができるというのは一つの才能だと僕は思っています。
また、ユーシェは本国では優秀な生徒だったようですし、フィリア女学院でもルナには及ばないものの
それに次ぐ(瑞穂との力関係はわかりませんが)実力ということなので、
彼女自身もまた、「天才」なのではないかと感じました。



☆ 瑞穂√ 評価 B-

……これは本当に、やらなくてもいいです(汗)
出来はそこまで悪くはありませんし、百合好きの方ならば、ある程度ニヤニヤできるのではないかと思います。
なのでやって損はないと思うのですが、本作のテーマである「努力と才能」には全く踏み込まないため、
このルートをプレイしてもルナルートやユーシェルートの面白みが増すわけではない、完全に独立した内容になっていると思います。

肝心の瑞穂ルートの内容ですが、男嫌いの瑞穂に女装がバレてしまったら?というもの。
恋愛モノとして、百合モノとして見ると中の中~中の下ぐらいの内容で、やっていて投げ出すほど糞な内容ではありません。
ただ、瑞穂の男嫌い自体は割とどうでもいい内容ですし、突然アイドル押しが始まる展開は少々急ですし、
(これは湊シナリオでもそうですが)*共通ルートとの矛盾もありますし、何よりルナルートである程度の百合分は補給できるので、それら全てを考慮に入れると、あまりお薦めしたいとも思いません。
お時間に余裕があれば~ぐらいでいいと思います。


*共通ルートで「一度辞退したらもうチャンスはない」と言われながらも辞退したクワルツ賞を、何故かルート終盤で受賞している。


☆ 湊√ 評価 C

本作は複数ライターによる作品ですが、湊ルートの前半を担当したライターと後半を担当したライターは、十中八九別人だと思われます。
勝手な妄想で申し訳ありませんが、前半は恐らくルナ&ユーシェルートを書いた方でしょう。
後半は……誰かは知りませんが、ちょっと酷いですね……。


本作のテーマは繰り返しになりますが、『努力と才能』だと思います。
ルナは10の才能と9の努力を。ユーシェは7の才能と10の努力を、
遊星は(パタンナーとしての)8の才能と8の努力を(ルナ√では10の努力を)行ってきた人間です。
ルナルートでは、ルナのデザイナーとしての溢れる才能と遊星のパタンナーとしての才能、そして努力が報われて衣遠の姑息な妨害を打ち倒し、ユーシェルートでは、彼女の10の努力が報われて天才ルナを打ち破るという展開で、カタルシスを得ることができました。

翻って、湊は5の才能と4の努力を行ってきました。
湊の態度は、普通の高校生としてはこんなものだと思うのですが(授業は一応受ける、それ以外は適当)、
ルナやユーシェと比べるとその熱意はいかにも足りず、まるで怠け者代表のようにすら見えてしまいます。
そんな湊が勉強から取り残されていくのはある意味当たり前と言えます。
周囲にいたのがルナやユーシェ、瑞穂と才能豊かな人間ばかりだったのも痛かったのでしょう。
彼女は周囲の人間と比較し、卑屈になっていきます。
そこに追い討ちをかけたのがイジメ問題で、まるで怠け者である湊に天罰を下すかのように、彼女は悲惨な境遇に落ち込んでいきます。

アイドルのように扱われ多くの人々に囲まれる地元での描写と、場違いなところにやってきてしまい、周囲から迫害を受け、自信をなくしていく都会での描写のコントラストもよく、
過酷な状況へとヒロインを追い込む筆致はなかなか迫力があり、胸糞は悪いもののよく描けていると感じました。

ところが、です。
湊がメイドになったあたり、あるいは滋賀へと帰ったあたりから、物語の展開が怪しくなっていきます。
バイトをすれば初日からチヤホヤ。まぁこれは、地元アイドルとしてアリっちゃアリなんですが、
突然メイド喫茶のメイドとして大活躍、東京に出てそこでも大活躍~って一体何事でしょうか。
努力によって勝利を掴む、硬派で熱血なユーシェルートやルナルートに比べ、
努力でも才能でも二人に及ばない湊は、だからこそ上述のように落ちこぼれ、
(怠けていたからではありませんが)いじめにもあい、とうとう専門学校をやめて実家に帰ったわけです。

なのにここに来て、大した努力もせずの大出世。意味がわかりません。
湊が別の道で成功を収めるのは構いませんが、天才のはずのルナだって努力をして成功を掴んでいるのです。
そんなルナ、ユーシェ達の反面教師として湊ルート前半の悲惨な流れは位置づけられるように思いますし、
そこにこそ、このルートの意義があったように思います。


しかし後半の意味不明なメルヘン展開により、その軸はブレにブレてしまいました。
非常に残念です。


湊ルートを徹底したバッドエンドルートとして描ききる、もしくは後半湊が(別の道で。メイド喫茶でもいいですが)努力奮起する、あるいはアクセサリ作成の技術だけはトップレベルということなのでそちらで大活躍する。
そういった展開が見られれば湊ルートだけでなく、「月に寄りそう乙女の作法」というゲーム全体の評価も更に上がったと思っているだけに……。


余談ですが、僕自身も才能はないのに努力も大してせず、ダラダラとやっている夢のようなものがありまして、
湊の態度には色々とツッコミたい一方で、モヤモヤとするところはあります。


☆まとめ

ルナシナリオとユーシェシナリオは楽しめただけに、これと肩を並べるだけのシナリオが湊にも用意されていれば、85点以上も狙えたのにと思うと残念でなりません。
もっとも物足りなさはあれど、楽しめたのは確かです。
次にプレイする「乙女理論とその周辺」に期待しつつ、ここで筆を置かせていただきます。
長文乱文をお読みいただき、ありがとうございました。




 
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