2015年02月

ジョー・ウォルトン「図書室の魔法」読了(途中から軽バレ有)

評価は A+
 

女子校生活に溶け込めないSF大好き少女モリが、同じSFを愛する仲間たちに出会い、絆を深めていく成長物語。


いやね、こういうお話、本当に好きなんですよ。
周囲に溶け込めない疎外感と、周囲が馬鹿らしく見えて仕方ない(混ざりたくない)感覚。
めぐり合う同好の士。
イケメンの恋人まで作ってしまうのも、「等身大の自分(のような少女)を主人公にした、憧れの青春」という感じでまた良し。
ほんと、こんな青春送ってみたかったですよ……。

(僕の現実では同性のヲタ友が関の山でね、揃ってモテない連中でした……。モリの感覚とか、凄くわかるんだけどなぁ)。


さて、本書はヒューゴー賞/ネビュラ賞/英国幻想文学賞をとった作品。
ヒューゴー、ネビュラといえばSFの二大タイトルですが、この作品が『SF』とは少々言いかねる感じです。
『ファンタジー』とか『幻想文学』ではあるのですが。
ではなぜヒューゴー/ネビュラ賞を取っているかというと、主人公がSF大好きだからという理由ぐらいしかちょっと思いつきません。


作中ではアーシュラ・K・ルグィン、ロバート・A・ハインライン、ロバート・シルヴァーバーグ、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、サミュエル・ディレイニー、ロジャー・ゼラズニイといった名前が乱舞しますので、SF小説が好きな方、これらの作家に触れた事がある方はニヤリとさせられること請け合い。
ただ、この作品が、これらの作家の作風に似ているかといわれるとちっとも似ていないので、そこは注意が必要です。
本書はあくまでもSF大好きな少女の『成長物語』であって、(おそらく多くの方が思い浮かべるであろう)『SFではない』のです。


では、SFなんて知らないよという方は……途中登場人物が何を言っているんだかいまいちわからないページもあるかもしれませんが、多分、大丈夫だと思います。
少なくとも、SFを知らない事で物語の本筋がわからなくなるということはありません。

ただし、『指輪物語』ぐらいは抑えておいた方が良いかもしれません。
映画版の『ロード・オブ・ザ・リング』でも結構ですが、度々出てきますので。




*以下、軽ネタバレ
 





とても楽しめた作品ですが、Sに届かなかったのは、少々物足りなさも残ったからかもしれません。
というのは、『双子の妹』や『魔女である母』との対決は良かったのですが、まだ書くべきことが残っていると
感じたからです。
たとえばダニエルとの関係。

できることなら、ダニエルが三人の叔母から独り立ちするようなシーンをもう少し強く描いてほしかったです。
ジャニーンの、ウィムに対する誤解を解くシーンも欲しかったですね。
ディアドリもなぁ。ディアドリとの関係はもっと深めさせてあげたいなぁと思いました。

多分この娘、学校では付き合うけれど、卒業したら二度と合わないぐらいの関係ですよね。
それはそれでリアルだと思いますし、学校内で作れなかった真の友達を外に見出すというのは悪くないんですが、しかしそれにしてはそこそこ仲良くはしていますし……もう少しフォローしてあげたかったです。


レズビアンのジルは……ジルとの関係性も本当は改善したいですが、これは仕方ないかもしれません。
ダメになってしまった絆、というのも一つぐらいあった方が作品的に良い気もしますし。


そんなわけで、「本当にこれで終わりなの?」と思ってしまいました。
「もっとこの作品世界に留まっていたいのに」という気持ちも込みで、もう少しページ数があっても良かったかもしれません。



もう一つ挙げたいポイントとしては、非常によく『偏屈なヲタク』が描けているなぁと思いました。
この作品に出てくる登場人物は、『本を読むキャラ』と『そうでないキャラ』に大きく分けることができます。
そして、主人公の理解者となるキャラは皆、本を読んでいますし、そうでないキャラは主人公と仲良くなることはできません。
更に「本を読まないキャラ(音楽とバイクが大好き、みたいな感じの男の子とか)」のことを『バカ』と評するシーンなどもあるんですよね。


先に言っておきますと、これは、少しこじらせてしまった年頃のヲタクにはままあることだと思いますし、
本を読まないキャラはキャラで、本に夢中になっている人の事を悪く言っていたりすることもあるので、
それはそれでいいとは思うんです。
それに、本作に出てくるキャラクターの大部分は、確かに『バカ』ですしね……。
ただ、こういう態度をとっていると、そりゃ友達は作れねぇわなぁと思うのも事実ではありまして、
『趣味が合う友人だけが、真の友人ではないんだけどなぁ』とも思ったりもするのです。






 

テッド・チャン「あなたの人生の物語」読了(バレあり)

全体評価は A。

幅広く万人に薦められそうな、面白い短編集でした。

☆バビロンの塔  評価 A

中世ヨーロッパで信じられていた、「世界の果て」。
海をずっと進んでいくと、そこには世界の果てがあり、水は奈落へと落ちていく。
そんな概念は、世界一周によって崩れ去りました。
世界の果てをめざし進んでいった彼らは、いつの間にか元の場所へと戻っていたのです。

この「バビロンの塔」はそんな物語。
横方向の「世界の果て」を、縦方向に変換し、「バベルの塔」の伝説とくっつけたあたりが素晴らしいと感じます。
月や太陽を通り越して塔が伸び続けるその描写もグッド。
「バベルの塔」を知っているだけに、いつ神の怒りが下るのだろうとハラハラしましたが、そこは変えてきましたね。


☆理解 評価 A-

脳が活性化した新人類の物語。
このテの話を読むと「アルジャーノンに花束を」を思い出してしまうのですが、本作はそれとはだいぶ趣の違う物語でした。
新人類同士の頭脳バトルが、某マトリックスのような感じで燃えますね。
馬鹿バトルを真面目にやるのが面白いです。


☆ゼロで割る 評価 B+

数学の矛盾にとりつかれた女性が、狂気に蝕まれていくお話。
僕は数学が苦手なので、ちょっと読むのに難渋しました。
僕なんかからすると、「そんなことはいいから、楽しく生きようぜ」と言いたくなるのですが……大変ですねぇ。


☆あなたの人生の物語 評価 B+

未来を全て知ってしまった母が、亡くなってしまう子供について語る物語。
運命論的なお話ですが、途中「宇宙人」とのやりとりが挟まってきて、これがかなり読みづらいのがなんとも。
雰囲気づくりとしてはアリだと思うのですが、ちょっと冗長かなぁと。
「お父さん」の名前が注意深く隠してあるのが面白かったですね。

過度に美化されておらず、生意気だけどもかわいいという子どもの造形が
リアルでなかなか良かったです。



☆七十二文字 評価 B+

錬金術のような不思議な魔法科学が跋扈する世界での物語。
物語は二転三転するのですが、ちょっと急展開だったかなと思わなくもないです。
それでいてアクションシーンも含め、結構楽しめたのですが。


☆人類科学の進化 評価 C

この短編集で唯一、ちょっとよくわからないお話でした。


☆地獄とは神の不在なり 評価 A+

天変地異のような天使たちの降臨や、天国・地獄の概念がとても面白いですね。
レイプ犯が天国へ行ってしまったり、改心した主人公が地獄に落ちてしまったり……
シュールな不条理さがツボでした。
テッド・チャンは無宗教者だそうで、なるほど、キリスト教徒の作家にはないフットワークの軽さみたいなものが、この作品からは感じられました(キリスト教徒の作家だと、もっと説教臭く、重い話になると思う)。


☆顔の美醜について 評価 A

口語体で、この短編集で最も読みやすいお話。
ルックス差別から始まる物語ですが、ルックスに限らず「無から需要を作り出す」広告化社会への批判としても
面白く読めますし、恋物語としてもなかなか面白かったです。






 
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