点数は79~80点。
本作からは、非常に古めかしいゲームだなという印象を持ちました。
2006年発売ということになっているのですが、プレイ感覚は2001~2003年頃のゲームに近いです。
これは必ずしも悪いというものではなく、善し悪しだと思います。
本作の感想の前半では、この「古めかしさ」について。
後半では「ヒロイン各ルート」について、雑感を書いていきます。
☆古めかしさ
・良い点、良い悪いどちらともとれる点
良い点はとにかくコンパクトであることです。計ってはいませんが、プレイ時間18時間ぐらいかな。
共通ルートが8時間ぐらいで、各ヒロインルートが1時間半×7ぐらい(鳥羽莉だけ2ルートあるので)。
サクサクとゲームが進んでいき、中だるみする場面がほとんどありません。
*昨今のゲームによく見られるような、文章量水増しか?と思えるようなノンビリとした展開はなく、
必要最小限のイベントを(たまに必要な部分までなかったりするんですが) 通じて語られる物語。
それでいてメインである鳥羽莉ルートはなかなか読ませる内容となっています。
本当の意味で中身がギッシリ詰まっていて、先が気になる物語ならむしろ歓迎なんですが、大して中身もないのに話が一向に進まず、30時間も40時間も読まされるのは、僕は正直辛いです。
これぐらいの内容を、これぐらいの長さで語ってくれるというのは、負担がなくてとても助かります。
また、キャラクター造形についてもクラシックな印象を受けます。
昔のゲームには割とよく登場していた、『委員長』+『眼鏡』+『青系統の髪(本作では緑髪)』などはまさに典型で、絶滅したニホンオオカミを見る思いがしました。
今でも細々と生息しているとは思うんですが、メインストリームからは消えましたよね……。
僕はこの手の『典型的メガネキャラ』にいい思い出は全くないのですが、このタイプのキャラが好きな人にとっては生きにくい世の中かもしれません。
*昨今のゲームでは~と書いていますが、もちろん昔のゲームでもダラダラしたゲームはいくつもあります
・悪い点
まずはシステム面が使いづらいこと。
特にセーブ画面が昔風のもので(ダイアログボックスと言うんでしたっけ?)、コメント編集もできなければ、サムネイルも表示されません。
僕は2人目からは同時攻略をしていたんですが、たまに「どのセーブデータが、誰狙いの選択肢だったのか」がわからなくなりました。
クリックすると音声が途切れてしまうのは2006年のゲームだと考えれば仕方ない面もあるものの、ageなどは2001年の「君が望む永遠」で既に音声継続機能を入れていたと思います。
選択肢が表示されるとバックログができないのも辛いですね。
絵に関しても、火乃香の一部CGの乳首の位置がおかしいように見えるし、
せせりの立ち絵はかなりヤバいと感じました。
感動して目をキラキラさせている立ち絵は『おぼっちゃまくん』に見えるし、怒っている顔のつもりなのかもしれませんが、ドヤ顔に見えます。
せせりちゃんはキャラ的には嫌いではないのに、表情がおかしいのでちょっとプレイが辛かったです。
声も…そうですね、メインの白銀姉妹と主人公の胡太郎、それから千紗都あたりは安定しているのですが、
これまた火乃香さんやせせりあたりはちょっと聞いていて不安というか……。
昔のゲームに比べて最近のゲームが面白い、とは僕は全く思いませんが、
『絵』『音声』『システム』の三点は如実に進化が見える項目なので、やはりどうしても評価が辛くなります。
それも、本当に大昔のゲーム(2002年以前とか)なら仕方ないかなと思うんですが、2006年のゲームなのに……という。
今年の夏に2005年発売の「サナララ」を、秋に2007年発売の「カタハネ」をプレイしたんですが、この二作からは特段古さを感じませんでしたし……。
☆シナリオ&キャラについて
評価はS~Eで
上段がシナリオ評価、下段がヒロイン評価
鳥羽莉(表) A 朱音 B 涼月 B- 鳥羽莉(裏) C+ 火乃香 C+ せせり C 千紗都 C-
A B+ B- ― B- B- C-
シナリオの全てが鳥羽莉と胡太郎の二人を中心に組み立てられており、他ヒロインルートは
「鳥羽莉に囚われた胡太郎の開放」が描かれていたと思います。
ヒロインを攻略するというよりは、胡太郎がヒロインに攻略される物語といえばいいのかな。
その中で、せせり、千紗都の二人は「胡太郎に想いを伝える」という正攻法で、
鳥羽莉、涼月、火乃香は「胡太郎につれなくする」という手法で、胡太郎を攻略することになりますが……
胡太郎はつれなくされた方が、恋心を抱くみたいですね。
せせりや千紗都には、あまり恋しているように見えませんし……。
各ルートを低い方から簡単に書いていきますと、千紗都シナリオが最低のC-評価。
凡人である千紗都が、超人鳥羽莉に真っ向勝負、というテーマを描きたかったのはわかりますが、
「演劇部に迷惑をかけて、自己満足の勝負を挑む」千紗都に良い感情は抱けませんでした。
「主演の胡太郎がいなければダメだろ!」と遠方からバイクをかっ飛ばしてくれた火乃香に比べて、
あまりにも人間としての器が小さいというか……。
鳥羽莉に勝負を挑むこと自体は悪くないですけど、演劇部を巻き込むのはどうかと思います。
大体、胡太郎といおりでは体型も全く違うのに、どうやってセレスのドレスを着たのでしょうか?
実は剣道勝負までは、千紗都への印象は悪くありませんでした。
シナリオが千紗都への好意をぶち壊した上に、そのシナリオ自体も全然大したことがなかったという、目も当てられない内容。うーん、C-でも甘いかな?
次に低いのはせせりルートのC評価。
こちらは、せせり主演の文化祭のシーンがカットされているのが致命的。
彼女が一番頑張った晴れ舞台じゃないですか。なぜそこをカットしたんですか……。
胡太郎に告白して一度振られているという、せせりちゃんの立ち位置は実に僕好みなのですが、
その立ち位置を最大限に活かせるようなシナリオではなかった事もマイナス点でしょうか。
演劇部でのやりとりで新しくお互いを知るようになった~といってもまだ二週間かそこらですしね。
その中で、そこまでお互いが接近するようなイベントがあったようにも思えませんでした。
後、せせりちゃんはやっぱり立ち絵が悪いです。それで損している気がします。
火乃香に関してはC+評価。
ルートロックがかかっている割には雑というか、火乃香の正体とか吸血鬼の裏事情のような設定が明かされるルートですが、それ以上の面白みはなかったような。
説明のためのルート、という感じであっさり。
それにしても火乃香さんが10代という設定は要らなかったのではないでしょうか?
現在でも25歳ぐらいと言われた方がしっくりくる風貌なのに、「5年前」の回想シーンでも立ち絵はそのままでしたし……。この立ち絵で14歳以下とかどう考えてもおかしいでしょ……。
あと、鳥羽莉TRUEでは胡太郎まで吸血鬼になってしまいますが、火乃香さんは3人から血を吸われるんですかね? 負担が大きすぎる気がするんですけど、大丈夫なんでしょうか。
鳥羽莉TRUEもC+評価。
ナイトの正体とか、いおりの正体(明言されてないけど、火乃香の部下ですよね?)とか、
伏線もなしにポンと出されてもなぁという。
作中に『(ナイトは)世界に遍在するご都合主義そのもの』という台詞がありましたが、このルートこそまさに『ご都合主義そのもの』だと思います。
鳥羽莉の心内描写が追加されたことで、彼女のキャラクター像がより鮮明になった、という一点を評価してのC+ですが、ルートとしてはハズレルートでした。
ここまでが、評価の低いハズレ4ルートです。
涼月はB-評価。
彼女のキャラクター造形はなかなか印象深くて良かったのですが、僕自身が涼月を好きじゃないんですよね……。ちょっとSすぎて、なんでこんな奴を胡太郎は好きになったの?と思ってしまいました。
まぁ、一種独特の魅力がある事は否定しませんが……どうせツンツンされるなら鳥羽莉にツンされた方がいいなぁ。
あ、ノリコちゃんはかわいかったです。
(好き嫌いと、印象的なキャラ造形というのは違うんですよね。僕は涼月という女の子が好きになれませんでしたが、作品内での涼月のキャラ造形は丁寧に作られていて良かったと思いました)
朱音ルートはB評価。
あの演劇のシーンですが、本当に朱音役の声優さんが演じていたのでしょうか?
鳥羽莉だと思ってずっと読んで/聴いていたので驚きました。
できればもう少し朱音と胡太郎の昔のエピソードを入れてくれると良かったんですが、
安心して読めるシナリオでした。
一つ抜け出ているのはやはり鳥羽莉ルートですね。
特に、鳥羽莉の留学を知って詰問する胡太郎に対し、感情を剥き出しにするシーン以降は本当に良かったです。
本当は好きなのに、恋心を胸に秘めて彼を遠ざける一方で、
女王様のようにふるまい胡太郎を犯す。その二面性がとても良かった。
これは全年齢の媒体だと描きづらい内容だと思います。
鳥羽莉に恋をする胡太郎と、胡太郎に恋をする鳥羽莉。
相思相愛の二人にも関わらず、
「吸血鬼である事」と「吸血鬼である自分への嫌悪」が障害となり、アプローチできない彼女の気持ちを思うと、切なくなりました。
他ルートにおいても、このシーンの鳥羽莉は何を思っているのかな、などと考えると、趣深いものがあります。
こうしてみるとやはり、鳥羽莉一強という印象。
にもかかわらず全体の印象が悪くないのは、作品全体が短いからでしょうか。
つまらないルートを延々読まされたら苛々しますが、1時間半×6ならそんなに負担はありませんでした。