2020年11月
イントロ
本作は、鉄を食べる人間(通称、『日本アパッチ族』)が誕生・発展し、ついには日本を滅ぼしてしまうまでの物語です。
作者の小松左京さんには多少苦手意識があります。
SF界の大御所だということはわかっているのですが、今まで何作か手に取って、あまり肌に合わなくて。
しかし、後述する『SF祭り』には欠かせない作家として、しぶしぶ手に取った本作、「日本アパッチ族」が予想外に楽しく、こうして記事を書きました。
自分が読みたい作品を手に取るのが基本ですが、こうして課題図書的に読むのも新しい出会いがありますね
アパッチ族の誕生
「失業」が罪とされ、屑鉄と野犬が跋扈する流刑地に送り出される、本作の「日本」。
失業者たちは流刑地で飢死していき、彼らの運命は多くの庶民(有職者・中産階級)たちに知られることはなかった。
あまりに食料がないため、ある日「屑鉄」を食べ始めた人々は、
やがて体が鋼鉄化し、新人類「日本アパッチ族」へと生まれ変わる。
果たして、日本アパッチ族は日本国からの独立を求め、闘いを開始し、遂には日本そのものを併呑してしまうのであった。
というのが大まかなストーリー。
鉄を食べる、という行動も含め、
居留地に押し込まれた60代のおばあさん(今の感覚だとまだおばあさん扱いは早い気がするけど)が、兵隊を悩殺しようとすっぽんぽんになって、射殺されてしまうシーンなど、
『描かれている事実の悲惨さ』と、相反する『奇妙な滑稽さ・おかしみ』が本作には共存しています。
クスクス笑って楽しく読んで、でも少し立ち止まって考えるとゾッとする、る。そんな珍妙な味わいのある作品でした。
そんな一見コミカルな作品を支えているのは、説得力を持ったガッチリとした骨組み。
鉄鋼業界や政財界の動き、反対だけで対案を持たない野党と、事なかれ先送り主義の与党の政争。
貧富の格差拡大と、国民の分断。そして貿易摩擦の末の全面戦争。
虐げられた貧民が日本アパッチ族と化し、ついには日本を打ち倒す社会革命的な内容。
そして、日本アパッチ族が作った新しい国も、ディストピア的傾向を持つ検閲国家へ育っていく様子も、寒々しい思いを抱かせます。
1960年代に書かれた作品ながら、古さを感じず現代に通じる作品だと感じました。
余談1
ユーモラスでありながら不気味な侵略者を描いた作品として、本作と同じ肌触りを感じた作品に
があります。
また、人間が別の生物へと超進化していく、という意味では
や
のような味わいを感じることもできます。
こうした流れに連なる珠玉の一品として、本作「日本アパッチ族」も忘れられない作品になりそうです。
余談2
現在、SF作品を集中的に読む『SF祭り』が私の中で絶賛開催中です。
多分、期間は3か月~半年(2021年2月~5月ぐらいまで)
なので、SF作品のレビューが多くなるかも。
シミルボンには書きませんでしたが、既に
和製フィリップ・K・ディックを思わせる
や、荒唐無稽で愉快なエンタメ
などに出会うことができました。
あぁ、いろんなジャンルにいろんな宝石が埋もれているんだろうなぁ。
前回はミステリ、今回はSFを集中的に読みましたが、時間の許す限りいろんなジャンルが読みたいです。
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