87点。
最高の楽曲をメインに、常に雨が降り続ける街での少年少女たちを描く『愛』の物語。
最高の楽曲をメインに、常に雨が降り続ける街での少年少女たちを描く『愛』の物語。
☆前置き
愛には種類があります。
本ゲームにおいて、与える愛(アガペー)を体現するのがアリエッタ(フォーニ)であり、
貪る愛(ナルシシズム)を体現するファルシータとは対象を為しています。
アリエッタの愛は、赦す愛。それは、一種人間の域を超えた神の愛です。
他者を照らす、与える愛です。
一方、ファルシータの愛は徹頭徹尾、自分に向けられた自己愛になります。
他者はただ、自分の欲望を満たすための道具であり、大切なのは己のみということになります。
献身的にクリスに尽くしながらも、自分への愛情を期待してしまう、トルティニタはその中間と言えるでしょう。
なぜこんな事を書くかと言えば、本作ではキリスト教が象徴的に使われているから。
ナターレ(クリスマス)の日、トルタは礼拝のため長い行列に並びます。当然アリエッタも並ぶでしょう。
しかし、ファルシータは演奏会のため、途中で抜け出してしまうのです。
本作はピオーヴァという架空の街を舞台にした物語ではありますが、本作で使われる用語のほとんどはイタリア語です(歌詞内の、日本語と英語については重箱の隅をつつくことになるので、スルーします)。
これはイタリアが事実、音楽の国だからというシンプルな理由でしょう。
ただし、ファルシータの曲「雨のmusique」のmusiqueとリセルシアの曲「リセアンヌ」はフランス語です。二人は同じ孤児院で育ったので、孤児院がフランス語圏にあったのでしょう。
ちなみに、リセの母親エスクのエスクも、ひょっとするとフランス語かもしれません
(エスクとは、フランス語で「質問します」という意味だそうです。なお、グラーヴェはイタリア語)。
長々と書いてきましたが、イタリアにしろ、フランスにしろ、「カトリックの国である」、
という点を抑えて、ゲーム内の感想に移ります。
☆リセルシアルート 評価 B
歌を歌いたいにも拘らず、父親から虐待を受け、無理やりフォルテ―ル奏者にされかけているリセの物語。
リセの、盲目的な父親への愛情と、父親の狂気を感じたルートでした。
「自分はクリスと共に行く」と父親に告げたシーンが、恐らくリセのハイライト。
父親の元を離れ、『鳥のように、空を飛べる』ようになるまでのお話です。
リセは良い子なのですが、アリエッタを振ってまで付き合いたい、とは思えませんでしたが、それはそれ。
曲名の『リセエンヌ』は、フランス語で『女子学生』を差しますが、リセルシアの「リセ」ともかかっていますね。
彼女の境遇を考えると、妙に歌詞が明るいのですが、これが彼女の本来の性格と見るべきか、儚い希望を歌ったものとみるべきか。
プレイ中は後者だと思っていたのですが、クリア後の印象では『彼女本来の強さ』を表しているように感じました。
さりげなく、『今を生きてる、陽射しの中で』、『夜の空にも星が瞬く』といった『晴天』にまつわる歌詞がつけられている点もポイントで、トルタの『秘密』やファルの『雨のmusique』とは大きく印象の異なる部分です。
リセの物語は、喉を潰された状態からほんの少し回復したところで終わっていますが、
ED曲「hello!」で『口ずさむメロディーが 路地を抜け風になる』とあるので、恐らく歌は取り戻したのでしょう。
そして『今 私は自由、どこまでも行けそう Like a bird, I will fly to you』と
言っているので、恐らくはハッピーエンドなのでしょう。
今まで、物語に対してこういうアプローチをとった事はないのですが、本作では、『楽曲から』物語を読み解く必要があるなとこのルートを読んで感じました。
また、妻(エスク)に去られ、娘(リセルシア)を虐待していたグラーヴァは、
ファルシータとくっついた未来のクリス君の姿を表しているように思いました。
☆ファルシータルート 評価 A-
「歌手になる」という野望のために、全てを利用する事を決めた悪女、ファル様のルート。
それはクリスすら例外ではない、というよりも、クリスの事を愛しているようには思えない、というのが個人的な感想です。
間違いなく、更に優秀なフォルテ―ル奏者が見つかれば、クリスは棄てられるでしょう。
大事な彼女アリエッタを棄てて、そんなファルさんに、ひょこひょこついていくクリス君……哀れです。
曲者なのがED曲「メロディー」。この解釈は非常に悩みました。
長くなりますが、引用します。
『やがて覚悟が芽ばえていた
この夢のためならば 他を捨ててかまわない
つめたいと思うでしょう 振り向かない私を
だけど時には どちらかを選ぶこと 避けて通れない
皮肉なもの そして抱えてるカナシミこそが
奏でるメロディー
それは とても力を持つ
さよなら ありがとう
言えなかった言葉たちを
奏でましょう
君のその背中に 祈りをこめて』
この『メロディー』歌詞で僕が立てた仮説は、
①アーシノが本命
②クリスが本命だけど、クリスを棄てた未来から書かれた歌詞
③ファルは恋をした事もないのに、勝手に恋を棄てたと言っている
④アーシノと出会う前に既に恋を棄てていた
この中で、まず④は一番魅力がない説ですね。
個人的には『雨のmusique』→『メロディー』へとファルの心境が変化したと捉えたいので、
その意味からも④はあまり取りたくないです。
③でもいいんですが、これだとファルの『覚悟』が軽く感じてしまいます。
やっぱりファル様の覚悟を示すには、具体的に誰かとの恋を棄ててほしいので。
となると①か②か。
アーシノの性格があまり女性受けしそうにない(傲慢)という難点があり、ファルとアーシノを頭の中で並べてみても全然お似合いな感じがしないのが難点ですが、個人的には①を取ると面白いんじゃないかなと思います。
『つめたいと思うでしょう 振り向かない私を』
アーシノに振り向かないファル。
『だけど 時には どちらかを選ぶこと 避けて通れない』
恋(アーシノ)をとるか、夢(優秀なフォルテ―ル奏者のクリス)をとるか
クリスが『夢』だとするならば、『恋』の対象は、アーシノしか該当しない。
『皮肉なもの そして抱えてるカナシミこそが 奏でるメロディー それは とても力を持つ』
抱えてるカナシミ=アーシノを棄てた悲しみ。
アーシノに対して何も思わないならば、ファルは『悲しみを抱えない』。
『さよなら ありがとう 言えなかった言葉たちを』
アーシノを突き放すために、ひどい言葉を言ったファル自身への言及。ということになります。
もちろんこれは、未来でクリス君を棄てて他の男に走った場合でも同様の事が言えるので、②の解釈も取れますし、それはそれで面白いと思います。
孤児院から戻ってきた年始最初の1日だけは、ファルの演奏に『欠けたものがなかった』点も注目したいポイントです。
ファルが孤児院に抱く気持ちは本人が言うような、「嫌い」だけではない、という事もわかります。
『メロディー』では『抱えてるカナシミこそが 奏でるメロディー』と書かれているので、「孤児院に行くことで悲しくなった」のだと思います。
そしてその悲しみは、「自分の過去への哀れみ」ではなく、「孤児たちへの思いやり・孤児たちへの愛」なのではないかな、と思いながら読みました。
メインについてはこんなところですが、
ファルがリセルシアを嫌っていたという描写から、リセルシアの悪評の源がファルにあることが想像されます。
本来、父親が『アレ』だというだけでピオーヴァの学生たちがリセルシアを積極的に悪く言うとは思えないので、ファルが裏から手を回していたと考えるのがしっくりくるかなと。
ファルは、非常に独善的で自己中心的であり、目的のためには手段を選ばない人間ですが、
一方で、『そんな自分を誰かに肯定してほしい』という甘さを持つ人間としても描かれています。
この部分がまた、「身勝手さの極致」とも思いますし、「サイコパスに振りきれない」部分でもあると思いますが、
一方で「良心に苦しめられる、邪悪なだけではない、一人の女性」としてのファルシータの脆さ、儚さを描いていて、奥行きのあるキャラクターになっていますね。
それにしても、ファルのような女性に見初められてしまうと、本当に大変です。
ファルというキャラに関しては、個人的には『嫌いだけど、妙に気になる』という位置づけでしょうか。
あるいは、『離れて観ている分には、魅力的』。
リアルで、少し似ている人に恋をした経験があるのでフクザツではありますw
☆トルタルート&トルタ視点トルタルート 評価 B+
双子を見れば、入れ替えトリックを疑え、の定石や
某ageのちびっこナースルートでこのトリックは経験済みなので、トルタの役回りに関してはそこまで驚きはありませんでしたが、『雨』の方は驚きました。
伏線回収という意味での驚きが大きいルートですが、
ルート単体の感想を書くと、
『切ない』いうよりも、トルタは空回ってるなぁと思いながら読みました。
本人は真剣だけども、傍から見ると喜劇的だなと。
まぁでも、それも含めて、トルタもまだ子供だし、トルタなりに一生懸命だったのでしょうね。
アリエッタの変装をするシーンなどは、途中から本人もわけがわからなくなっていたように思いますが(苦笑)
そして相変わらずの、頼りがいのあるニンナおばあちゃんの安定感。
(そういえば、ニンナにはフォーニが見える謎が最後まで明かされませんでしたが、
ニンナなら何ができても驚きませんw)
それにしても、ファルシータに隠れがちですが、トルタもハイスペックで、努力の人ですね。
トルタ視点が入ってくると、どうしてもトルタを応援しながら読んでしまいます。
ファル様にクリスは渡さねーぞ!
☆フォーニ(アリエッタ)ルート 評価 B
いや、良い話だとは思ったけど……僕の中では前のルートを読んで、もう『クリスの嫁=トルタ』になっちゃったんでw
中身がアリエッタとはいえ、フォーニに恋をするのもちょっと難しかったですし。
アリエッタが『無償の愛』を表しているのは、「fay」の歌詞を読んでもわかりますが、天使すぎてw
アリエッタが一種、人を超越した神の愛を体現していたのは、自分の状態(瀕死)を認識した上での事だと思うので、生還した後も同じ心境を保てるかは少しわからない部分もありますが……。
☆楽曲について
一番好きな曲は、ダントツで『Im always close to you』です。
これは、ゲーム本作とは直接関係ない部分で、故・岡崎律子先生の遺言にしか思えない歌詞にあります。
個人的に、ゲーム音楽(という括りで良いのかすらわかりませんが)でここまで感動したのは、本当に久しぶりの事になります。恐らく、ゲーム音楽ではベスト5。
ゲーム音楽という括りを取り払っても、人生で聴いた曲でベスト20には入る曲になりました。
噛み締めるように、何度も何度も。多分、この10日間で70回は聴いています。
これからも聴き続けることでしょう。
闘病中の岡崎さんの想い、そして生きている僕らに贈るメッセージ。
本当に優しくて、絶望の中で希望を探し求めるとき、灯台のように心を照らしてくれる曲だと思います。
ただ、これは『岡崎律子さんが、闘病中に作った』という外部情報も影響していると思いますし、
「シンフォニック=レイン」というゲームの評価にどこまで加えていいものかは迷いました。
他には、ファルの2曲と、トルタの2曲も好きです。
というか、全曲好きですけど。
好きなヒロインはトルタ。
アリエッタは家族枠な感じになっちゃってるけど、アリエッタルート以外だと亡くなっちゃうんですよね……。
トルタとくっつくクリスを、アリエッタには家族として祝福してほしかった(都合良すぎですねw)
別枠でファルシータ。
愛憎入り混じるというか、大嫌いだけど大好きですね、こういうキャラは。
そこを持ってくると、悪い子じゃないんだけど、リセはちょっとインパクトが薄かったかなと思います。
追記:
工画堂文庫から出ている、ショートストーリー集(1つ300円)を読みました。
これによって、だいぶ印象も変わり、↑で書いた考察(?)感想も若干変更があります。
まず、ファル様の本命はアーシノだった説は多分この様子だとありませんw
なので、自動的に
追記:
工画堂文庫から出ている、ショートストーリー集(1つ300円)を読みました。
これによって、だいぶ印象も変わり、↑で書いた考察(?)感想も若干変更があります。
まず、ファル様の本命はアーシノだった説は多分この様子だとありませんw
なので、自動的に
②クリスが本命だけど、クリスを棄てた未来から書かれた歌詞説にスライドしました。
また、ファル×リセカップリングによって、愛を知ったファル様も随分まともな淑女に成長し、
リセも幸せにしていることから、どうもお互いにとってのベストパートナーはこの2人だった模様。
リセもファルも、クリス君とくっつかない方が幸せになれるんやね……。
他、フォーニの原型となった妖精の絵本の話が面白かったです。
また、ファル×リセカップリングによって、愛を知ったファル様も随分まともな淑女に成長し、
リセも幸せにしていることから、どうもお互いにとってのベストパートナーはこの2人だった模様。
リセもファルも、クリス君とくっつかない方が幸せになれるんやね……。
他、フォーニの原型となった妖精の絵本の話が面白かったです。