はじめに
「作家について」語るコラムもおかげさまで、第6回。
今回は、歴史小説の大家である司馬遼太郎を取り上げます。
この作家を語る上で、難しい点は2つ。
1つめは、氏の最も有名な『竜馬がゆく』(途中挫折)、『坂の上の雲』(積んでる)の二大長編を読まずに語って良いものか、という私的理由。
2つめは『歴史小説』作家というジャンルそのものにあります。
楽しく物語を追いながら、歴史についての造詣を深められ、知的好奇心をも満足させてくれる歴史小説。
ですが、小説はあくまでも小説であり、全て鵜呑みにしてはいけません。
この区分けが実に曖昧で難しく、ともすれば歴史小説で刷り込まれたイメージを、ついリアル歴史上の人物に投影しそうになってしまいます。
頭ではわかっているものの、ついついそれに引きずられがちなので、本当に歴史を学びたかったら歴史書を読むなり、
せめて多数の作家の歴史小説(大河ドラマ等でも良い)を読み、総合的に判断するべきなのですが、それができていないのが現状です。
それを踏まえた上で、この記事で書く歴史上の人物については、リアル歴史上人物ではなく、あくまでも『司馬遼太郎作品におけるキャラクター』だと割り切っていただけるとありがたいです。
司馬遼太郎作品は、キャラクター小説である
司馬遼太郎作品に顕著なのは、キャラクターの魅力が、ダイレクトに作品の面白さに直結している事。
これは多かれ少なかれ、他ジャンルの作品にも言える事ですが、司馬遼太郎作品では特にそれが強いです。
恒例の作品評価は最後にとっておきますが、たとえば安土桃山時代の作品では、『斎藤道三』を描いた
が最高に面白かったのに対し、同じ『国盗り物語』でも
はそこまででもありませんでした。
これは、飄々としていて、しょうもないながらもどこか憎めないお万阿とのやり取りが魅力的な斎藤道三に対し、
成り上がりITブラック企業社長のような織田信長にさほど魅力を感じなかったからでもあります。
その信長の後継者で超有能でありながら、能ある鷹は爪を隠し続ける、
ロリコン・スケベ・若禿・猿顔と4拍子揃った、
『稀代の人たらし』豊臣秀吉を描いた
も最高に面白かったのですが、小牧・長久手の戦いまでしか描かれていないのが残念です。
一方で、徳川家康というのはどうにもつまらない男で、そのせいか
もつまらなかったです。
この辺は、もちろん僕自身の好みも大きいとは思いますが、
作者の司馬氏自身の好み・熱量も大きいような気がします。
そんな家康が名悪役を務める『関ヶ原』(本引用が見つかりません)は、主人公の石田三成に感情移入してしまい、つらいながらもとても楽しく読めたんですけども。
幕末の物語ですと、どうも僕は佐幕派に肩入れしてしまうようで、
は本当に面白かったです。
(ただ、他の作家などで描かれている慶喜像と比べ、本作の慶喜はめちゃくちゃ素敵なので、リアル慶喜がここまで魅力ある人物だったかは怪しいですが)
一方で長州藩はどうにも好きになれず、特に大村益次郎という朴念仁には全く魅力を感じなかったので
はつまらなかったですね。
どうも僕は、性欲皆無の堅物男よりも、スケベでしょうもない男の方が好きみたいですw
司馬遼太郎作品はとかく長い作品が多いのですが、一部を除き主人公は単一の場合が多いです。
なので、最初の100ページほどを読んで、「この主人公が好きになれそうかどうか」で判断すると、当たりを引ける確率が高いのではないかと思います。
以下、余談ですが(余談ではないです)
また、司馬遼太郎作品は突然作者が顔を出してきて、
「余談だが~」と断って、話の本筋から外れることがとても多いです。
まるで歴史の先生が、歴史の授業をするかの如く、当時の豆知識を教えてくれますが、そこもまた善し悪しでしょう。
この余談がとても面白く、勉強になった!と思う事も多い一方で、
「今いいところなのにそこで余談かよっ!」と突っ込みたくなったり、
同じ余談を何度も書いてしまったりすることが多いのが玉に瑕。
特に、同じ時代の話を描いた作品には重複する余談も多いので、
連続して氏の作品を読む場合は、気を付けた方が良いと思います。
少なくとも、本能寺の変の10年前に、
安国寺恵瓊が『信長はすげぇけど、どこかで失脚する。あとを継ぐのは秀吉で、奴はそうはならない』と語ったエピソードを、僕は5回は読まされました。
まぁ、好きな話題はついつい繰り返してしまいますよね。
わかります、わかりますけど……司馬先生、さすがにその話はもういいですw
これは本当に余談
司馬遼太郎作品に限った話ではないですが、歴史小説はとにかくページ数が長い作品が多い。
2000ページ級もざらにあります。
なので、どうしても『ある程度信頼のおける作家』ばかりを選びがちだったり。
もともと歴史は好きなので、いろんな国の、いろんな時代の歴史を知りたいですし、ゲームの話で恐縮ですが『信長の野望・創造PK』というゲームをプレイしているので、この時代のいろいろな大名についても知りたいのですが……。
(織田家でクリアし、現在武田家プレイ中です! 武田信玄の作品読みたいです)
『伊達政宗』(全8巻)とか『私本太平記』(全13巻)とか言われると、なかなか手が出ないんですよ……。
それでも2022年は、もっといろんな作家の歴史小説を読みたいなぁと思っています。
ちなみに『竜馬がゆく』も『坂の上の雲』も全8巻ぐらいありますよね。
僕が読んだ司馬遼太郎作品では『国盗り物語』が2000ページ級、『関ヶ原』と『花神』が1500ページ級ですが、なんとか読めました……。以下余談
(余談は続く。他作家だと北方謙三「三国志」は3900ページ、吉川英治「三国志」もそれぐらいあったかな。それが僕が読んだ歴史小説では最長です)
初読者の方は短めの『最後の将軍』、もしくは『燃えよ剣』
あたりから入ってはいかがでしょうか!
いきなり2000ページ作品を読むのは、なかなか敷居が高いと思いますので。
独断と偏見 司馬遼太郎作品 評価(S~E)
関ヶ原 A+ 主人公:石田三成
最後の将軍 A+ :徳川慶喜
国盗り物語 A(斎藤道三編 A+ 織田信長編 A₋)
燃えよ剣 A :土方歳三
新史太閤記 A :豊臣秀吉
項羽と劉邦 B :劉邦、項羽
世に棲む日日 B :吉田松陰、高杉晋作
夏草の賦 B₋ :長宗我部元親
花神 C :大村益次郎
覇王の家 C :徳川家康
というわけで、今回は司馬遼太郎作品についての雑感をお届けしました。
それでは、また!