86点:
細かい部分が所々気になるが、大正浪漫を感じられるSFミステリー。
細かい部分が所々気になるが、大正浪漫を感じられるSFミステリー。
【前置き】
前作「アメグレ」よりも好きです。
ループものということで、前作「アメイジング・グレイス」と一見似通っているのですが、
「アメグレ」が『記憶全部を持ち越してループできた』のに対し、
「さくレット」は『記憶を持ちこせず、文字数制限のある電報』という形でループするのが違うところです。
完全一本道シナリオなので、あまり各ルートに分けて評価しても仕方がないのですが、
いつもどおり各ヒロインルートの感想を最初に書き、総評を最後に書きます。
【共通ルート(1回目)~不知出遠子ルート】 評価は B+
2020年からやってきた主人公の司が、チェリィ探偵事務所の探偵に拾われ、依頼をこなしながら
大正時代の人々と触れ合っていくのが共通ルート。
蓮からの依頼である猫の蘭丸探し、
遠子からの依頼であるまりも探し、
博物館を狙う怪盗ヘイストとの対決、
不知出家での幽霊騒ぎなどが、毎回のルートで起こる出来事。
これらのやりとりが非常に心暖かく、歴史情緒豊かで、大正という居心地の良い『異世界』にどっぷりと浸る事ができました。
ミステリ小説も、シャーロック・ホームズとアルセーヌ・ルパンぐらいしか著名なものはないのですね。
(ざっと思いついたところ、1908年のルルーの「黄色い部屋の謎」と1911年の「ブラウン神父」ぐらいしかないや)
その中で異質なのが魔人加藤という怪しい憲兵と、
関東大震災復興の立役者となるはずだった後藤新平氏の暗殺事件。
個人的に加藤が未来人だというのは遠子ルートで大体わかってしまったので、
隠す気はなかったのかなと思います。
1920年に起こるはずのない関東大震災が帝都を襲うところで、初周終了。
関東大震災で明らかにパニックを焚きつけていた雪葉とマイは、初周から既に怪しさマックス。
2周目となる遠子ルートで起こる大きな出来事は
怪盗ヘイストの正体を突き止めたことと、後藤新平を守った事でしょうか。
また、関東大震災の時期が1921年にズレているのも興味深く、加藤が『人為的に』起こしている事がわかります。
本作のHシーンは、蓮と所長がSなので、M女子の遠子さんはかわいかったです。
(僕がSなので、ヒロインにガンガン責められるシーンでは抜けないw)
【水上蓮ルート】 評価 B
加藤大尉が大金をかき集めていることと、未来人である事が確定するルート。
蓮のラブレターは良かったですね。成金太郎が助かるとても珍しいルートw
あと、蓮は痴女。
【メリッサルート】 評価 A
蓮ルートまでとガラリと趣向を変えて、突然始まる寝台列車殺人ミステリー。
そしてまたも殺されてしまう成金太郎。
このルートでは、リーメイと影虎やリーメイと加藤の関係など、
サブキャラクター同士の隠された関係が炙り出されていくのが面白かったです。
遠子ルートで絡みが既にあったリーメイと遠子の関係も含め、リーメイはいろんな人と繋がっていますね。
大正の『歪み』を消していく歴史改変・歴史修正ミステリーが読みたいのであって、
こういうコテコテの寝台列車殺人ミステリが読みたいわけじゃないんだけどなあ、
と思いつつも、まぁこれはこれで。
最後にメリッサさんに完全に騙され、度肝を抜かれてルート終了。
あと、メリッサさんもかわいくて大好きです。
主人(?)の遠子さんよりも物語の本筋に絡んでくるとは、1周目ではまったく思ってなかったけどw
【所長ルート】 評価 A₋
いよいよ魔人加藤と対決するグランド・ルート。
司がやってきたのは2020年(桜雲2年)だった!というのは、
とても驚いたのですが、反面ちょっと引っかかる部分があるので後述します。
加藤大尉の壮絶な自爆は、
長編作品で『親殺しのパラドックス』をここまで直截的にやっちまった例が記憶にないので、爆笑しましたw
所長の名前を敢えて隠していた意味がよくわかりませんが(メリッサと加藤はわかる)、
「アメグレ」以来続く伝統芸なのでしょうかw
【ちょっと気になったところ】
「こまけぇこたぁいいんだよ!」でギリギリ処理可能(だから高評価をつけた)だけれども、
あまり設定が緻密じゃないなぁと感じた部分がいくつかあるので、書きます。
グランドルートなので当たり前かもですが、これは全て所長ルートの部分です。
疑問:1 『桜雲以外』
1・雪葉さんは生きてていいんだ?
……確かに雪葉さんを殺すのは酷な事かもしれません。
しかし、歴史の歪みが云々というのなら、雪葉さんが生存していてはダメでしょう。
仮に雪葉さんがまたも大太刀周りを演じ、日本に来たマッカーサーや吉田茂あたりをブスっと刺したらえらい事になりますよ!
2・加藤さん、結局何がしたかったわけ?
……まぁこれは、あくまでも『全ては語らない。想像に任せる』部分で良いとは思いますが、
やっぱりよくわかりません。
関東大震災を早めて、速攻で復旧を遂げるというところから「第二次世界大戦」への準備を早急に進め、
戦勝国にでもなろうとしているのかなと思いましたが、
その割にサンフランシスコ条約で活躍する所長を国外に出そうとしたりしているし、
ただの『未来の右翼』ではないような気もします。わけがわからないです。
3・冬茜トムさん、『賢明』という単語を知らない?
……「賢明」を「懸命」と10か所以上も書いていたのは気になりました。
他には誤字がほぼなかったので、冬茜トムさんは『賢明』という単語を知らないのでは?
疑問・2 『歴史改変関係(桜雲関連多め)』
1・司の行動が理解不能
……『令和』から来たというのなら、歴史の歪みを正して2020年に帰りたいという気持ちもわかります。
まぁ、色々このご時世大変ではありますが、
これから「関東大震災」→「暗黒の昭和初期」→「第二次世界大戦」を控えている日本で暮らすよりは平和ですからね。
しかし、第三次世界大戦真っただ中の「桜雲」からやってきたのなら、歴史を改変して「第三次世界大戦」を起こさせないように動くのは、決しておかしなことではないはず。
現に作中でも最初はそう動いていました。
それが、所長との初Hあたりから突然心を入れ替えて(?)、『桜雲』に繋がる方向へと歪みを潰してまわり、
自分はこの『大正』にいてはいけない、と悟りを開いたのが意味不明でした。
歴史改変を行なって少しでも平和な日本を目指してもいいですし、
別ルートでそうしていたように『大正』で暮らしても良かったと思うんですが。
なので、『桜雲』から来たと明かされた瞬間はビックリしましたが、
その後はむしろ不可解な気持ちで読み進めてしまったので、あのサプライズは正直不要だった気がします。
主人公の行動動機が理解不能(共感不能)というのは、一人称小説を読み進めていく上で一番キツいので、
この「桜雲」サプライズは盛り上がるどころか、逆に僕のプレイ速度が下がった感がありました。
2・そもそも『桜雲』と『令和』の分岐はどこ??
……『桜雲』世界線では「4・13事件」、「西原事件」という2つのテロ事件が起こっています。
(令和世界線では起こっていない……はずです)
この2つは司自身が食い止めました。
しかし、その後第二次世界大戦が起こり(1939~1945で年も一緒)、高度経済成長が行なわれるというのは一緒のようです。
昭和は律義に63年続き、その後『平永』という元号がこれまたきちんと31年続き、そのあと『桜雲』が来るようです。
天皇制も存続しているのですね。
司が挙げていた違いは『サンフランシスコ条約』で連合48か国と結んだのが『令和』世界線ですが、
『単独講和』したのが『桜雲』世界線のようです。
その後、西側陣営と(1990年以降も続いていた!?)東側陣営が第三次世界大戦を起こしたようなんですが
違いはここなんでしょうか?
あまりこの条約について詳しくないため僕の手には余るのですが、
もしそうならば、
大正時代に起きた事件がその後の世界線にそう大きく影響するものでしょうか?
(所長はサンフランシスコ条約時に、イギリスの大使として活躍したようですが)
そうだとして、日本・朝鮮・台湾の扱いで2020年に第三次世界大戦が起こるとは、
ちょっと信じがたいところがあります。
まぁ、2023年現在、ロシアがヤクザの鉄砲玉みたいにウクライナに侵攻し、中国もきな臭い動きはしておりますが……。
……あれ、『令和』世界線も安全ではないんじゃ(混乱)
3・加藤や司が行なう歴史の歪みはNGだけど、『桜雲』から『令和』への【歪み】はアララギさんは黙認するの?
……まぁね、アララギさんの行動原理まで考えても仕方ないよね。
で、これら気になった部分のほとんどが「桜雲」関連の問題点(?)なんですよね。
確かに、「えっ! 桜雲!?」という驚きはありました。
未来人が手を下すのではなく、現代(大正)を生きる人たちがより良い選択を行う事で、
より良い未来(桜雲→令和へ)を掴むんだというメッセージも何となく伝わりました。
しかしそれ以上に、桜雲関連の疑問点や、司の行動原理がさっぱりわからなくなったため、
結果的にあの『どんでん返し』は逆効果だったんじゃないかなぁと思いました。
【総評】
気になる事を書いていたら、なんだかむしろマイナス点ばかりを書いちゃいましたが、
大正を舞台に、のどかな(憲兵とかいるけど)日々を送る探偵事務所やヒロインたちとの触れ合い。
歴史を歪めようとする悪人(?)との対決、読みやすい文章と、先が気になる展開で
どっぷり大正を楽しむことができました。
ただそれだけに大正時代を所長と生きていく、そんな選択枝があっても良かったと思いました。
令和ならまだしも、桜雲の世界に戻りたいなんて普通思わないでしょ。
令和だって、迎えてくれたの立ち絵もない母親と、所長の子孫だけだし……。