S・A→心底から読んで良かったと思える本。
ブランコの少女/リチャード・アダムス……呪いにとりつかれた美女を、真摯に愛するモテない青年。二人の性愛は物悲しく、二人だけで閉じられた世界は異様な煌きを帯びている。珠玉のヒロイン、カリンの存在が素晴らしい。
ウジェニー・グランデ/オノレ・ド・バルザック……命短し恋せよ乙女。たった2度のキスを、生涯の恋として想い続けるヒロインの可憐さは特筆。全く正反対であるにも関わらず、ラストは「源氏物語」に似て、静謐な美しさあり。
警視庁草紙/山田風太郎……明治6~10年を舞台に、幕末~維新激動期の空気を楽しめる歴史教科書にして、傑作娯楽小説。歴史好きは必見。
死の接吻/アイラ・レヴィン……描写力に見所がある、娯楽サスペンス小説の傑作。1章では犯人視点からのサスペンス、2章では犯人が誰かというミステリが楽しめ、3章では犯人を追い詰めるサスペンス。1粒で3度おいしい作品。
とうに夜半を過ぎて/レイ・ブラッドベリ……22編中、お気に入りは8編。特に「いつ果てるとも知れない春の日」は絶品。
最後の診断/アーサー・ヘイリー……頭の固い、旧時代の老病理学者を主人公に描く、病院ドラマ。医者の診断ミスは、果たして本当に医者だけの責任なのか。膨大な仕事量に忙殺され、気がつけば新技術から取り残されていた、元凄腕医師の描写が秀逸。
B→出したお金、読んだ時間以上の価値があった本。
シンデレラの銃弾/ジョン・D・マクドナルド……極めて優れたサスペンス小説であると同時に、繊細で胸を打つ描写も。唯一気になるのが、その胸を打つ描写がやや唐突に感じたこと(そのためA-からB+かで大いに迷った)だが、それも瑕瑾に過ぎないか。
呪われた者たち/ジョン・D・マクドナルド……タイトルからは想像もつかない、青春群像ストーリー。増水した川に足止めを食らった、様々な境遇の男女の一夜を描く。優しく、心温まる読後感が魅力。
ヴァレンタイン卿の城/ロバート・シルヴァーバーグ……RPGがまだ発売されていなかった時代に書かれた、極めてRPG的なファンタジックストーリー。使い古された設定でありながら、めくるめくイメージの奔流がちっとも退屈を感じさせない。
デッドゾーン/スティーブン・キング……予知能力者の悲哀。元恋人との逢瀬などの名シーンのある一方、ややまとまりに欠ける内容。ラスト、ジョニーは「狂っていたのか、どうか」を考えるのも面白い。
エロ事師たち/野坂昭如……エロにかける滑稽な意気込みを披露して笑いを誘う、プチ変態必読の書。
ありもしない理想のエロをひたすら求め続ける姿に、底はかとない哀しみが漂う。
ルナゲートの彼方/ロバート・ハインライン……前半のサバイバル生活はワクワクさせられるが、後半の権力争いはイマイチ。異文化の軋轢を感じさせるラストは、アリだけど鬱る。
ハムレット/ウィリアム・シェークスピア……単純な図式の復讐劇だけれど、だからこそというか、古びない。舞台を変えて、登場人物を変えればそれだけで新しい作品が作れそうな気がする。
挟み撃ち/後藤明生……昨日の時点では、まさか明日をこのように過ごすとは、とうの本人にもわからなかっただろう。思い出をめぐる素敵な休日を、主人公と共に味わえる一品。
オイディプス王/ソフォクレス……なんとも運の悪い男だが、オイディプスの性格があまり好きになれなかったため、さほど同情できなかった。短いし、様々な本の元ネタになっているので、読んでおいて損はない。
とある魔術の禁書目録/鎌池和馬(暫定1巻のみ読了)……良質のエンタメ。本来言われてみれば当たり前のことも、文章の勢いでミスリードを誘発できるだけの力を感じた。インデックスも割にかわいい。
雲なす証言/ドロシー・L・セイヤーズ……被害者男性の切ないラブレターと、意外な結末が良い。このシリーズは4冊読んだけれど、その中ではこれがベスト。
女坂/円地文子……壮絶に、苛々させられる本。自己中旦那よりも何よりも、本気で腹立たしいのは、暗黙の裡に蔓延している、「世間の常識」。明治の世も平成の世も、日本は息苦しいな。
ジャイアンツ/エドナ・ファーバー……これまた壮絶に、苛々させられる本。この本に描かれている1930年代のテキサス人たちは、田舎者丸出しで視野が狭く、極めて不愉快な連中であった。
セクサス/ヘンリー・ミラー……どうしょうもない主人公が、なぜかみんなにモテモテエロエロ三昧!いくらなんでもエロすぎです。570ページの二段組の本が、まさか官能小説だとは電車で乗り合わせた皆さんも思うまい。
多情多恨/尾崎紅葉……愛妻を亡くした夫がひたすらウジウジめそめそする話だが、第三者視点でユーモアを絡めて描写しているため、陰鬱な雰囲気は少ない。主人公、頑張れと応援したくなる本だが、人によってはウザく感じてしまうかも。
解放されたフランケンシュタイン/ブライアン・オールディス……メアリー・シェリー作「フランケンシュタイン」をモチーフに、近現代の視点を盛り込んだ作品。シェリーの「フランケンシュタイン」を読まないと、楽しめない作品だと思う。
最後の障壁/ポール・アンダースン……Cに近いB。「衝撃を完全カットする代わりに、その間、身動きがとれない」という、いわゆるRPGの「ぼうぎょ」コマンドをパワーアップさせたような装置を「面白い!」と思えれば。
テレパシスト/ジョン・ブラナー……身体的なハンディを抱える愛に餓えた青年が、テレパシストとして開花。社会的に、そして個人的に受け入れられていくまでの話。丁寧に作られた良品だが、派手さに欠ける
きらいも。
大地への下降/ロバート・シルヴァーバーグ……異星描写が秀逸。主人公と一緒に、架空の星を探検する気分が味わえて楽しい。ストーリーは悪くはないが、先は読める。
虚空の眼/フィリップ・K・ディック……当たり外れの激しいディックだが、今回は当たり。人間誰しもが、偏見を持ち、独自の眼で物事を見ている。他者の内的世界は、常に歪なものであることを再認識した。テーマ上仕方がないが、好きになれるキャラがいないのが欠点か。
殺しの接吻/ウィリアム・ゴールドマン……単純に面白い娯楽サスペンス小説。感動だの、考えさせられるだのといった要素はないが、単純に楽しい。タイトルだけ類似の「死の接吻」と同様、サスペンス好きにはお薦め。
杳子・妻隠/古井由吉……何が面白いのか巧く言えないけど、まぁ面白かった。もっとも、杳子の「狂い」描写は、大成功しているとは思わないのだけど。
C→最低限、暇つぶしにはなった本。
拳銃/エド・マクベイン……「銃」と「非行少年(ギャング)」というアメリカの社会問題を扱った作品。問題提起としては良いが、日本に住んでいる身としてはイマイチ乗り切れなかった。
多元宇宙SOS/キース・ローマー……全体的には微妙だったが、ラストのオチはなかなか気に入った。
忙しい蜜月旅行/ドロシー・L・セイヤーズ……豊富な元ネタを引用した知的な会話に見ごたえあるも、ミステリとしては微妙。恋愛モノとしてはまぁまぁ。シリーズ最終作なのに、こんなにしんみりとした終わり方でいいんだろうか。
不自然な死/ドロシー・L・セイヤーズ……犯人はバレバレなので、どうやって殺したかが最大の謎。そんな殺し方があったのか、と驚いた。中だるみが激しいのが難点だが、種明かしは面白い。
ベローナクラブの不愉快な事件/ドロシー・L・セイヤーズ……途中までは面白かったけど……うーん。
裏切りの氷河/デズモンド・バグリィ……三つ巴、虚虚実実のやりとりは楽しめる。
ドリームマスター/ロジャー・ゼラズニイ……道具立ては魅力的だが、物語としてはかなり尻すぼみではないか??
フェルディドゥルケ/ヴィトルド・ゴンゴローヴィチ……ところどころ笑える部分はあるものの……昔だからかもしれないけど、高校生にしちゃ随分精神年齢が低いな……。
ナジャ/アンドレ・ブルトン……書かれている内容はちんぷんかんぷんでほぼ理解不能だったような気がするが、写真の力か、妙に余韻が残る読後感だった。
冥途・旅順入城式/内田百間……怪奇短編集。面白い短編もあればつまらない短編もあり。さすがに40も短編が入っていると、統一した感想は書きにくい。
バベル17/サミュエル・ディレイニー……「冒険SF」+「言語・社会学」。「言語・社会学」部分はなかなか面白いんだけど、冒険モノとしては面白くなかった。
脱走と追跡のサンバ/筒井康隆……不条理世界における自分と自分の「脱走・追跡劇」。まさに「輪廻の蛇」的構造で、こういうのは好きなんだけど、必要以上に読みにくい部分が多かったと思う。
恐怖の関門/アリステア・マクリーン……中盤は非常に退屈だったが、後半の迫力はさすがで、評価が持ち直した。
地球の緑の丘/ロバート・ハインライン……「失われた遺産」「輪廻の蛇」など、ハインラインの短編集は当たりが多い印象を持っていたが、今回は外れ。特にダメダメとは思わないが、ありきたりで、「だからなに?」と思ってしまうような話が多かった。
シンガポール脱出/アリステア・マクリーン……主人公の動機が、「任務」とか「生存本能」だけだと、読むのに熱が入らないと思うんだ。マクリーン作品は大半がそうみたいなんだけど。
冬が来れば/エヴァン・ハンター……DQN3人衆が、スーパーDQNを殺す話。被害者のスーパーDQNは死んで当然な奴なんだけど、「あいつ死んで当然だよな」的な反応しか示さない3人組もどうかと思う。
パーマー・エルドリッチの三つの聖痕/フィリップ・K・ディック……世界観・テーマが興味深かったので、読んで良かったと思うが、一つの小説・物語として面白かったかと聞かれると、中盤は良いけど、前半と後半が微妙。
21世紀潜水艦/フランク・ハーバート……潜水艦という閉ざされた環境下で生まれる疑心暗鬼と、相反するかのようなお互いへの信頼・結束感などなど。テーマは良いのだが、ラスト4分の1までが退屈すぎた。
前世再生機/キース・ローマー……はっきり言って微妙だが、ローマー作品の中では読める方か。原題は「A Trace of memory」。「トレースされた記憶」というタイトルの方がよほど内容に合っている。
大いなる惑星/ジャック・ヴァンス……つまらなくはないのだが、面白いというほどのものでもない、オーソドックスな冒険物語。スパイの正体も、気づかぬは本人ばかりなり。
終末期の赤い地球/ジャック・ヴァンス……幻想ファンタジーの連作短編集。面白い短編とつまらない短編の差が割に激しい。幻想的な風景描写が魅力。ツサイスが気に入ったので、彼女が登場する短編は良かった。
D→自分には全く合わず、読んでも無駄だった本。
多元宇宙の帝国/キース・ローマー……多元宇宙という道具立ては実に魅力的ながら、そこで行われる冒険活劇に魅力なし。
スター・ゲイト/アンドレ・ノートン……無限のif世界が拡がっている、というワクワクするような設定なのに、冒険するのは1つのif世界だけ。これじゃ、そもそもif世界にした意味すらない。
嫉妬/ロブ・グリエ……話者の存在を徹底的に廃しておきながら、その実、登場人物として重要な立場に着かせるという狙いはわかる。しかし、それはそんなに凄いことなのか? 僕にはわからなかった。
飛翔せよ、遥かなる空へ/フィリップ・ホセ・ファーマー……なんという水増し。ストーリーを進める気があるのだろうか?
アーロン・バアの英雄的生涯/ゴア・ヴィダル……歴史小説だと思って読んだが、歴史は歴史でもアメリカの政党・議会の歴史だった。そちらには興味がなかったのでつまらなかった。
1876/ゴア・ヴィダル……政治家同士の持って回った言い回しの多発が眠気を催す作品。ラストはなかなか刺激が効いてはいるが……。
メリー・ディア号の遭難/ハモンド・イネス……同著者の『銀塊の海』という作品と、ストーリーが全く一緒なんですけど(怒)。しかも、しょうもないエンディングまで一緒!『銀塊』を読んでいなければC評価。
ゴドーを待ちながら/サミュエル・ベケット……自分の力量を超える難解な本を読んで、「わからん!D評価!」ってのも乱暴な話だけどね。ギャグの基本である、繰り返しの掛け合いは面白かったけど。
愛の完成/ロベルト・ムージル……読みにくくはないけれど、退屈。
判定不能
ケーベル先生/夏目漱石……エッセイは、どう評価していいのかわからないため判定せず。
長谷川君と余/夏目漱石……上に同じ。
ブランコの少女/リチャード・アダムス……呪いにとりつかれた美女を、真摯に愛するモテない青年。二人の性愛は物悲しく、二人だけで閉じられた世界は異様な煌きを帯びている。珠玉のヒロイン、カリンの存在が素晴らしい。
ウジェニー・グランデ/オノレ・ド・バルザック……命短し恋せよ乙女。たった2度のキスを、生涯の恋として想い続けるヒロインの可憐さは特筆。全く正反対であるにも関わらず、ラストは「源氏物語」に似て、静謐な美しさあり。
警視庁草紙/山田風太郎……明治6~10年を舞台に、幕末~維新激動期の空気を楽しめる歴史教科書にして、傑作娯楽小説。歴史好きは必見。
死の接吻/アイラ・レヴィン……描写力に見所がある、娯楽サスペンス小説の傑作。1章では犯人視点からのサスペンス、2章では犯人が誰かというミステリが楽しめ、3章では犯人を追い詰めるサスペンス。1粒で3度おいしい作品。
とうに夜半を過ぎて/レイ・ブラッドベリ……22編中、お気に入りは8編。特に「いつ果てるとも知れない春の日」は絶品。
最後の診断/アーサー・ヘイリー……頭の固い、旧時代の老病理学者を主人公に描く、病院ドラマ。医者の診断ミスは、果たして本当に医者だけの責任なのか。膨大な仕事量に忙殺され、気がつけば新技術から取り残されていた、元凄腕医師の描写が秀逸。
B→出したお金、読んだ時間以上の価値があった本。
シンデレラの銃弾/ジョン・D・マクドナルド……極めて優れたサスペンス小説であると同時に、繊細で胸を打つ描写も。唯一気になるのが、その胸を打つ描写がやや唐突に感じたこと(そのためA-からB+かで大いに迷った)だが、それも瑕瑾に過ぎないか。
呪われた者たち/ジョン・D・マクドナルド……タイトルからは想像もつかない、青春群像ストーリー。増水した川に足止めを食らった、様々な境遇の男女の一夜を描く。優しく、心温まる読後感が魅力。
ヴァレンタイン卿の城/ロバート・シルヴァーバーグ……RPGがまだ発売されていなかった時代に書かれた、極めてRPG的なファンタジックストーリー。使い古された設定でありながら、めくるめくイメージの奔流がちっとも退屈を感じさせない。
デッドゾーン/スティーブン・キング……予知能力者の悲哀。元恋人との逢瀬などの名シーンのある一方、ややまとまりに欠ける内容。ラスト、ジョニーは「狂っていたのか、どうか」を考えるのも面白い。
エロ事師たち/野坂昭如……エロにかける滑稽な意気込みを披露して笑いを誘う、プチ変態必読の書。
ありもしない理想のエロをひたすら求め続ける姿に、底はかとない哀しみが漂う。
ルナゲートの彼方/ロバート・ハインライン……前半のサバイバル生活はワクワクさせられるが、後半の権力争いはイマイチ。異文化の軋轢を感じさせるラストは、アリだけど鬱る。
ハムレット/ウィリアム・シェークスピア……単純な図式の復讐劇だけれど、だからこそというか、古びない。舞台を変えて、登場人物を変えればそれだけで新しい作品が作れそうな気がする。
挟み撃ち/後藤明生……昨日の時点では、まさか明日をこのように過ごすとは、とうの本人にもわからなかっただろう。思い出をめぐる素敵な休日を、主人公と共に味わえる一品。
オイディプス王/ソフォクレス……なんとも運の悪い男だが、オイディプスの性格があまり好きになれなかったため、さほど同情できなかった。短いし、様々な本の元ネタになっているので、読んでおいて損はない。
とある魔術の禁書目録/鎌池和馬(暫定1巻のみ読了)……良質のエンタメ。本来言われてみれば当たり前のことも、文章の勢いでミスリードを誘発できるだけの力を感じた。インデックスも割にかわいい。
雲なす証言/ドロシー・L・セイヤーズ……被害者男性の切ないラブレターと、意外な結末が良い。このシリーズは4冊読んだけれど、その中ではこれがベスト。
女坂/円地文子……壮絶に、苛々させられる本。自己中旦那よりも何よりも、本気で腹立たしいのは、暗黙の裡に蔓延している、「世間の常識」。明治の世も平成の世も、日本は息苦しいな。
ジャイアンツ/エドナ・ファーバー……これまた壮絶に、苛々させられる本。この本に描かれている1930年代のテキサス人たちは、田舎者丸出しで視野が狭く、極めて不愉快な連中であった。
セクサス/ヘンリー・ミラー……どうしょうもない主人公が、なぜかみんなにモテモテエロエロ三昧!いくらなんでもエロすぎです。570ページの二段組の本が、まさか官能小説だとは電車で乗り合わせた皆さんも思うまい。
多情多恨/尾崎紅葉……愛妻を亡くした夫がひたすらウジウジめそめそする話だが、第三者視点でユーモアを絡めて描写しているため、陰鬱な雰囲気は少ない。主人公、頑張れと応援したくなる本だが、人によってはウザく感じてしまうかも。
解放されたフランケンシュタイン/ブライアン・オールディス……メアリー・シェリー作「フランケンシュタイン」をモチーフに、近現代の視点を盛り込んだ作品。シェリーの「フランケンシュタイン」を読まないと、楽しめない作品だと思う。
最後の障壁/ポール・アンダースン……Cに近いB。「衝撃を完全カットする代わりに、その間、身動きがとれない」という、いわゆるRPGの「ぼうぎょ」コマンドをパワーアップさせたような装置を「面白い!」と思えれば。
テレパシスト/ジョン・ブラナー……身体的なハンディを抱える愛に餓えた青年が、テレパシストとして開花。社会的に、そして個人的に受け入れられていくまでの話。丁寧に作られた良品だが、派手さに欠ける
きらいも。
大地への下降/ロバート・シルヴァーバーグ……異星描写が秀逸。主人公と一緒に、架空の星を探検する気分が味わえて楽しい。ストーリーは悪くはないが、先は読める。
虚空の眼/フィリップ・K・ディック……当たり外れの激しいディックだが、今回は当たり。人間誰しもが、偏見を持ち、独自の眼で物事を見ている。他者の内的世界は、常に歪なものであることを再認識した。テーマ上仕方がないが、好きになれるキャラがいないのが欠点か。
殺しの接吻/ウィリアム・ゴールドマン……単純に面白い娯楽サスペンス小説。感動だの、考えさせられるだのといった要素はないが、単純に楽しい。タイトルだけ類似の「死の接吻」と同様、サスペンス好きにはお薦め。
杳子・妻隠/古井由吉……何が面白いのか巧く言えないけど、まぁ面白かった。もっとも、杳子の「狂い」描写は、大成功しているとは思わないのだけど。
C→最低限、暇つぶしにはなった本。
拳銃/エド・マクベイン……「銃」と「非行少年(ギャング)」というアメリカの社会問題を扱った作品。問題提起としては良いが、日本に住んでいる身としてはイマイチ乗り切れなかった。
多元宇宙SOS/キース・ローマー……全体的には微妙だったが、ラストのオチはなかなか気に入った。
忙しい蜜月旅行/ドロシー・L・セイヤーズ……豊富な元ネタを引用した知的な会話に見ごたえあるも、ミステリとしては微妙。恋愛モノとしてはまぁまぁ。シリーズ最終作なのに、こんなにしんみりとした終わり方でいいんだろうか。
不自然な死/ドロシー・L・セイヤーズ……犯人はバレバレなので、どうやって殺したかが最大の謎。そんな殺し方があったのか、と驚いた。中だるみが激しいのが難点だが、種明かしは面白い。
ベローナクラブの不愉快な事件/ドロシー・L・セイヤーズ……途中までは面白かったけど……うーん。
裏切りの氷河/デズモンド・バグリィ……三つ巴、虚虚実実のやりとりは楽しめる。
ドリームマスター/ロジャー・ゼラズニイ……道具立ては魅力的だが、物語としてはかなり尻すぼみではないか??
フェルディドゥルケ/ヴィトルド・ゴンゴローヴィチ……ところどころ笑える部分はあるものの……昔だからかもしれないけど、高校生にしちゃ随分精神年齢が低いな……。
ナジャ/アンドレ・ブルトン……書かれている内容はちんぷんかんぷんでほぼ理解不能だったような気がするが、写真の力か、妙に余韻が残る読後感だった。
冥途・旅順入城式/内田百間……怪奇短編集。面白い短編もあればつまらない短編もあり。さすがに40も短編が入っていると、統一した感想は書きにくい。
バベル17/サミュエル・ディレイニー……「冒険SF」+「言語・社会学」。「言語・社会学」部分はなかなか面白いんだけど、冒険モノとしては面白くなかった。
脱走と追跡のサンバ/筒井康隆……不条理世界における自分と自分の「脱走・追跡劇」。まさに「輪廻の蛇」的構造で、こういうのは好きなんだけど、必要以上に読みにくい部分が多かったと思う。
恐怖の関門/アリステア・マクリーン……中盤は非常に退屈だったが、後半の迫力はさすがで、評価が持ち直した。
地球の緑の丘/ロバート・ハインライン……「失われた遺産」「輪廻の蛇」など、ハインラインの短編集は当たりが多い印象を持っていたが、今回は外れ。特にダメダメとは思わないが、ありきたりで、「だからなに?」と思ってしまうような話が多かった。
シンガポール脱出/アリステア・マクリーン……主人公の動機が、「任務」とか「生存本能」だけだと、読むのに熱が入らないと思うんだ。マクリーン作品は大半がそうみたいなんだけど。
冬が来れば/エヴァン・ハンター……DQN3人衆が、スーパーDQNを殺す話。被害者のスーパーDQNは死んで当然な奴なんだけど、「あいつ死んで当然だよな」的な反応しか示さない3人組もどうかと思う。
パーマー・エルドリッチの三つの聖痕/フィリップ・K・ディック……世界観・テーマが興味深かったので、読んで良かったと思うが、一つの小説・物語として面白かったかと聞かれると、中盤は良いけど、前半と後半が微妙。
21世紀潜水艦/フランク・ハーバート……潜水艦という閉ざされた環境下で生まれる疑心暗鬼と、相反するかのようなお互いへの信頼・結束感などなど。テーマは良いのだが、ラスト4分の1までが退屈すぎた。
前世再生機/キース・ローマー……はっきり言って微妙だが、ローマー作品の中では読める方か。原題は「A Trace of memory」。「トレースされた記憶」というタイトルの方がよほど内容に合っている。
大いなる惑星/ジャック・ヴァンス……つまらなくはないのだが、面白いというほどのものでもない、オーソドックスな冒険物語。スパイの正体も、気づかぬは本人ばかりなり。
終末期の赤い地球/ジャック・ヴァンス……幻想ファンタジーの連作短編集。面白い短編とつまらない短編の差が割に激しい。幻想的な風景描写が魅力。ツサイスが気に入ったので、彼女が登場する短編は良かった。
D→自分には全く合わず、読んでも無駄だった本。
多元宇宙の帝国/キース・ローマー……多元宇宙という道具立ては実に魅力的ながら、そこで行われる冒険活劇に魅力なし。
スター・ゲイト/アンドレ・ノートン……無限のif世界が拡がっている、というワクワクするような設定なのに、冒険するのは1つのif世界だけ。これじゃ、そもそもif世界にした意味すらない。
嫉妬/ロブ・グリエ……話者の存在を徹底的に廃しておきながら、その実、登場人物として重要な立場に着かせるという狙いはわかる。しかし、それはそんなに凄いことなのか? 僕にはわからなかった。
飛翔せよ、遥かなる空へ/フィリップ・ホセ・ファーマー……なんという水増し。ストーリーを進める気があるのだろうか?
アーロン・バアの英雄的生涯/ゴア・ヴィダル……歴史小説だと思って読んだが、歴史は歴史でもアメリカの政党・議会の歴史だった。そちらには興味がなかったのでつまらなかった。
1876/ゴア・ヴィダル……政治家同士の持って回った言い回しの多発が眠気を催す作品。ラストはなかなか刺激が効いてはいるが……。
メリー・ディア号の遭難/ハモンド・イネス……同著者の『銀塊の海』という作品と、ストーリーが全く一緒なんですけど(怒)。しかも、しょうもないエンディングまで一緒!『銀塊』を読んでいなければC評価。
ゴドーを待ちながら/サミュエル・ベケット……自分の力量を超える難解な本を読んで、「わからん!D評価!」ってのも乱暴な話だけどね。ギャグの基本である、繰り返しの掛け合いは面白かったけど。
愛の完成/ロベルト・ムージル……読みにくくはないけれど、退屈。
判定不能
ケーベル先生/夏目漱石……エッセイは、どう評価していいのかわからないため判定せず。
長谷川君と余/夏目漱石……上に同じ。