評価はA。

一行であらすじを言えば、

殺人者アーサー・リンガードが、精神科医に語る、彼の人生の物語。です。


このリンガードは、「自分はいつか凄い人間になる!」と思いながら少年時代を過ごしていきます。
白昼夢のようにフィクションの世界にとりつかれます。
多感な少年ならよくあることではありますが、彼の場合は辛い境遇(後述)を忘れる逃避行動でした。
彼の最初の憧れは、火星探検隊の隊長ですとか、まともだったんです。でも、いつからかホームズものにハマり、なんとモリアーティ教授(ラスボスです)に憧れちゃうんですね。いやー、参った。



彼の家庭環境は、お世辞にもいいものではありません。両親は亡くなっていて、叔父叔母夫婦に引き取られますが、まぁぶっちゃけどうしょうもない叔父叔母です。家も貧乏。
叔父は、姪(アーサーの姉)のポーリーンに手を出してますからね。どうしょうもないです。
この、叔父のポーリーンへの行為は、アーサーの心を歪ませる大きな要因になったと思います。


アーサーは、唯一の肉親ポーリーンを、母代わりとしても慕っていました。
ですが、その姿を見てからは、ポーリーンを“性の対象”として見てしまうんですね。
「お姉ちゃんとエッチしたい!」と。
しかも、いとこたちも兄妹でエロエロという、かなり性の乱れた一家なんですね。
その中でアーサーは、下着に興奮する下着フェチになってしまいます。
なんと、弱冠9歳で、彼は初の下着泥棒を……。
(うーむ、私がエッチなことに興味を持ったのって13歳でしたよ。私が遅れてるのかしら)。


その後は、アーサー君はやりたい放題。
催眠術をマスターした彼は、従妹の愚鈍なアビーを散々弄んだり、体育の先生の奥さんを散々弄んだりと、楽しい変態ライフを送ります。
余談ですが、この変態ライフの文章は結構多いです。僕はエロ小説を読んでいるのかと、何度も思いました。
ファーストフード店で催眠術でイかせたとか、体育の先生の奥さんの下着をいじりながら、体育の先生を見ることが楽しかったとか、どこのエロゲー主人公かと。
僕は楽しみましたけど、この辺、ドン引きしちゃう読者もいそうですね。
僕は、下着フェチではないのに、下着フェチのエロティシズムが語られるくだりも楽しく読めて、
「あれ、下着ってひょっとしてエロい?」と妙なところで開眼しそうになりました。


その後いろいろありまして。
ラスト20ページが素晴らしい。
精神科医が、大人になった「従妹の愚鈍なアビー」を訪ねるシーンなんですが。
まず、アビーが凄く美しく、上品な女性になっていたという描写。
貧乏だった少年時代、性の乱れに直面し、おかしくなってしまい、獄中死を遂げるアーサー君。
同じ時代を過ごし、アーサー君に弄ばれ蔑まれながらも、アーサー君を一途に愛し、その後別の幸せを手に入れた、アビー。
この対照は、泣けます。アビーの子供が読んでいる本が、アーサー君が昔好きだった小説だったというくだりも、本当ににくい演出です。


それだけでなく、「リンガードのレンズを通した世界」と、「精神科医が見た世界」の相違。
そして、リンガードが白昼夢のような世界を漂っていたこと。
本当のアビーの姿が見えるラスト。とこう考えていくと、実に巧くできた小説だなぁと感じました。


余談ですが、「精神科医が見たポーリーン」は、「エネルギーに溢れ、がっしりした体格の女性。魅力的だが、ちょっと肌が汚れている」というのも面白かった。
お姉ちゃん大好きっ子のリンガードの話では、「性に奔放で誰とでも寝ちゃうエッチなお姉ちゃんだけど、容姿は完璧!」だったはずなので(笑)。



性犯罪者の話ということもあって、底はかとなく18禁めいていますが、そこで引かずに是非読んでほしいなと感じる小説でした。
もちろん、生粋の変態紳士の皆さんにもお勧めします。
エロいだけじゃなくて、しんみりと悲しいお話でしたけどね。