登場人物の生死に関わる、重度のネタバレあります↓




著者は田中芳樹。評価はA。


多感な中学生、高校生の頃に出会っていれば、激賞(Sランク)していたかも。
というのが、読み終わっての感想です。それにしても長かった、というのも。
ライトノベルのつもりで読んだのですが、認識が間違っていました。
これ、全然ライトノベルじゃないですね。むしろ歴史大河小説だと思って読むべきでした。


作者によって作り込まれた世界観は秀逸で、壮大でありながら細かいところまで手が届くといった感じ。
その世界を舞台に、いろいろと考えさせられる政治論・社会論が展開されていきます。
主に、ヤン・ウェンリーという主人公の口からそれが発せられるわけですが、これがいちいち頷けるものばかり。
うんうん、そうだよなぁそうだよなぁと思いながら読んでいました。
ただ、若輩者とはいえ一応成人している身、ヤン・ウェンリーの発言はいずれも『思春期の頃に私が何度も自分で考え、自分のものとしてきた考え』だったので、目からウロコが落ちるような驚きはなかったんですよね。的確に、コンパクトに上手く表現するなぁとは思いましたが。


そんな感じだったので、ヤン・ウェンリーが亡くなってからは、物語としても失速してしまったかなぁと。
後継者のユリアンはイマイチ魅力不足でしたから。
また、そういう方向を目指していないので叩くわけではないのですが、これだけ人死にが出ている割に、
アッサリと描いてしまうので、泣いたり感動したり、というのはちょっと弱かったです。
ヤンとラインハルトの死は少しきましたが、描写によってというよりは、事実によってずっしり来た感じですね(うまく説明できない。伝わらなかったらごめんなさい)。
ヤンはいいのですが、同盟側は他にイマイチ好きなキャラがいなかったです。
二番目に好きなのは、たぶんムライさんです。
ムライさん、もし僕の側にいたら絶対苦手なタイプなんですけど、物語として読む分にはなかなか魅力的だったなぁと。
リアルだと、よほど洞察力がないと表面しか読み取れないので単なるうるさい親父としか思えないでしょうけど、小説だと心の中の描写もありますからね。


帝国側に関して。
作者本人も言っていましたが、キルヒアイスが死ぬのは仕方ないと思います。
キルヒアイスではなく、オーベルシュタインを採ったことが、ラインハルトとヤンの大きな違いだったと思うので。
ただ、ラインハルトの苦悩や孤独も、少しずつ薄れてきたのか後半になるとあまり悩むシーンが無かったような気がしました。最後まで、ヒルダがいたからなのかもしれません。
ネット界隈では、「最後まで、ラインハルトにはキルヒアイスとアンネローゼしかいなかった」ということが書かれていますが、
僕が読んだ限りでは「ヒルダが大きな支えになっていたな」と感じました。


帝国側はそうですね。ミッターマイヤーとロイエンタールのコンビがよかったなと感じます。
ただ、一番味があったのはオーベルシュタインかな、とも。
オーベルシュタインというキャラは正直嫌いですが、一番考察の余地がある気がします。
名軍師でしたね。


偶然かもしれませんが、僕の大好きなRPG「FFタクティクス」は、この銀英伝に類似した部分が幾つかありました。
特にディリータの生き方(低い身分から成り上がり、皇帝になるも、本当に大事な友達を失い孤独に死す)なんかはラインハルトに似ているな、と思いました。

ついでに、これまた僕の大好きなRPG「幻想水滸伝2」の敵側の軍師、レオン・シルバーバーグというキャラがオーベルシュタインのイメージとピッタリだなとか思いながら読みました。


にしても、長かったなぁと。
正直なところ、リーダビリティ(読みやすさ)は中くらいで、悪文・読みにくい文ではないにせよ、お世辞にもスラスラ読める文章とは言いがたかったです。
二段組で10巻。結構しんどかったなと。
お色気とかユーモアのような、肩の力を抜ける部分もなかったしね。