前作『永遠のアセリア』だって、そこまで褒められたシナリオではなかった。
だが、前作には「スピリットの人権解放」のように、世界観に根ざしたテーマ性があり、
世界観もファンタジーRPGとして、それなりに作りこまれていた。



だが、今作はどうか。
行き当たりばったりに、ふわふわと異世界への転移を繰り返す物部学園そのものの惨状だった。


まず始めに、『分枝世界』というテーマを描くだけの力量をライターは持っていなかった。
この設定が、まずもって間違いだったように思う。


望たちは、剣の世界、森の世界、機械の世界のように様々な世界をふわふわと漂っていくのだが、
統一されたテーマ・メッセージ性は皆無である。
はっきり言って、1つ・2つ世界がなくても一向に問題がないだろう。


1つの世界を丁寧に描く代わりに、5つや6つの世界を、5分の1、6分の1の薄さで描く羽目になってしまった余波は至るところに出ている。
まず単純に登場人物不足・駒不足の問題。
1つの世界に登場する人物は、せいぜい5~6人程度。その5~6人の中で、仲間になるキャラが1人、仲間をサポートするキャラが2~3人、敵に回るキャラが2人。
と、こう割り振ると、敵キャラが少なすぎるのだ。
これのせいで、同じボスを使いまわす羽目になる。
序盤では、いつどこに行ってもボスがベルバルザードだったり、機械の世界に行けば「ショウ&スバル」に4戦もさせられたり。
「彼は姿を消した」とか「逃げ出した」という文章を読むたびに、「またか」と思ってしまうのは仕方ないところだが、これで能力も技までもほとんど一緒なのだから
その工夫のなさには呆れるばかりである。

序盤、主人公たちの前に立ちふさがる『光をもたらす者』の構成員は、ベルバルザードとエヴォリアしかいないのだろうか?
『旅団』と熾烈な戦いをしていたという話だが、2人だけ(+部下のミニオン)でよく頑張っていたものである。

中盤、主人公たちの前に立ちふさがる『南天神』の構成員は、イスベル(エヴォリアに憑いてる人)しかいないのだろうか。
もう1人くらいイベントキャラでいたような気もしたが、北天神と争うにはいかにも少なすぎる。


問題は駒不足だけではない。
そもそも全く異なる世界を、1つのストーリーに結び合わせるというのは土台難しい話なのだが、案の定今作は見事に失敗している。
結局、神がどうしたこうしたという風に話を飛躍せざるを得ず、その神も管理神だの南天神だの創造神だのと、
設定だけは大きいものの中身と魅力にまるで乏しいキャラを大量生産した挙句、ドラマ性のかけらもない『モノガタリ』が展開されていくのである。


このように、設定だけを大きくした結果、製作者自身も混乱しているのでは?と思われるシーンも散見される。
たとえば、4章。
『望や学生たちは、とうとう元の世界に帰るための座標』を手に入れる。いつでも帰れる状況になったわけである。
にも関わらず、主人公は帰ろうとしない。それどころか、学生たちに演説までぶちあげるのである。

「とうとう、帰れることになった。でも俺はこの世界で戦いたい。この件について、みなの意見が聞きたい。俺は戦いたいけれど、みなが帰りたいというなら、帰ろうと思っている」

このシーン、僕は開いた口が塞がらなかった。そんなに戦いたいのなら、戦いたい人だけ残ればいいのである。
何も学生たちまで巻き添えにすることはないし、別に一緒に帰る必要もないのではないか?
何のことはない、一度ものべーを現実世界へと発進させ、戦う意思のない人間を帰す。
そして、再び戦いたい奴だけが再度戻って戦いに参加すれば良いだけの話ではないか。


望・希美・沙月・絶の4人を除き、絆の描き方が弱すぎるのも問題である。
様々な世界からの、いわゆる「寄せ集め」のため致し方ない部分もあるのだが、たとえば(主人公以外で)異世界出身同士のカップル、
あるいは親友が生まれても良かったのではないか?
つるむのは、ソルラスカ&タリア&サレス程度で、これは全員旅団メンバーである。沙月とルプトナは3章で友情が芽生えたような気がしたが、
その後(望を介さずに)友情を温めるシーンはないといっていい。
人間ですらこうなのだ。神だのなんだのと、話が飛躍的に大きくなる後半になればなるほど、ますますドラマ性は薄れ、無味乾燥な話が続くことになる。


シナリオだけでなく、シナリオを支えるテキストの力も、非常に心もとない。
主人公(望)の描き方など最たるものである。
まず、『望が知っているはずのこと』と『プレイヤーが知っていること(他キャラ視点で呈示された情報)』の間がごちゃまぜになっている。
「プレイヤーである僕たちは知っているけど、望は知らないはずの内容」を、なぜか望が知っていたりだとか、(レーメが告げ口して回っているのだろうか)
普通の人間なら疑問に思うことを何も質問しなかったりする(たとえば序盤、沙月先輩の知識量:行動はいかにも怪しいが、望はまるで質問をはさまない)。

また、ようやく、やっとのことで元の世界に帰ってきたのに、あっさり流してしまったり
(あれだけ苦労をして帰ってきたのだ。感涙にむせんでもおかしくないのではないか?)と、とにかく不自然な点が多すぎるのだ。


ヒロインの魅力も非常に乏しい……というか、性格が悪いキャラが何故かとてつもなく多い。
ナルカナ様などは(僕の好みではないが)、性格の悪さをウリにしているのでまぁ1人くらいこういう人がいてもいいとしよう。
だが、性格が悪いのは1人ではない。
タリアの性格も相当悪く、機会あるごとに憎まれ口を叩かなければ気がすまないのは問題である。
では、それ以外は?というと、自分のことを「美人で有能」などと言ってしまう沙月先輩もたいがいだったりするし、
その沙月と事あるごとに張り合う希美も希美である。


望を取り合って争う沙月・希美・ルプトナ・カティマの争いは、羨ましいどころか、読めば読むほど「いい加減にしろよ」と思いたくなる代物で、
張り合えば張り合うほど、僕の好感度が下がっていく仕様となっていた。
ここで、望がもらす「なんで俺がこんな目に遭うのか」的な地の文も、これまた「いい加減にしろよ」である。
鈍感主人公はハーレムもののお約束だが、いくらなんでも鈍すぎる。そこは目をつむるとしても、
「お前ら、争わないで静かにしろよ」くらい言えないでどうするのか。



では、SLG部はどうか。


まぁ、まずまず及第点といっていいだろう。というか、シナリオがつまらない以上、SLG部もつまらないならとうに投げている。
ただ、シナリオ面の不備はSLG部にも波及しているのは紛れもない事実だ。
連続で闘わされる、代わり映えしない中ボスについてだけではない。
致命的なのは、ヒロインの魅力不足である。


『永遠のアセリア』で僕が最も感心したのは、周回プレイ前提のシステムを築き上げたところにあった。

コンシューマーRPGでも、ヒロインを選ぶ形式のRPGは存在したが、(全てをプレイしたわけではないにせよ)それらのゲームについては、
『ニューゲーム=LV1からやり直し』であった。
だが、アセリアはそうではない。『データ引継ぎ』の上、真に優れているのは、『ノーマル:ハード:スーパーハード』というレベル制限だ。
より具体的に言えば、1周目はノーマル(LV30が上限)、2周目はハード(LV60が上限)、そして3周目のスーパーハード(LV99が上限:もちろん3周目に選べるというだけで、
3周目にスーパーハードを選ばなければいけないわけではない)。
更に、レベルアップの方法も、『敵を倒して経験値をもらう』のではなく、『マナを使って、任意のキャラのレベルを上げることができる』のだから、無駄も生じない。
もう上限のLV30になったのに、敵が出てくる。無駄バトルじゃん……という事態にはならないのである。マナは溜めておけば引き継げるし、もちろん他のキャラのLVを上げればいいのだから。



これは「好きな女の子キャラをLV99まで上げたい」と思ってしまう、僕のようなプレイヤーの心を知り尽くしたシステム設計で、
これをやられたらもう最低でも3周はやらないわけにはいかない。
敵もきちんと強くなっているので遊び応えもある。


だが……「聖なるかな」には「好きな女の子キャラ」がいない……少なくともレベル99に上げたいと思えるほどの子はいなかったのである。
周回システムはよくできていても、シナリオのせいで周回する気になりにくいでは意味が無いのである。



また、前作とは違い、『1部隊やられたら即ゲームオーバー』というのも、厳しい。
このゲーム、敵が増援を呼ぶシーンが頻繁にある。増援部隊はどこから来るかわからない。

いきなり弱い部隊の真上に出現し、成すすべなく全滅→ゲームオーバーというのを、僕は4回も経験した。
もう少し、考えていただきたいものである。


バトルシステム自体は、前作同様練りに練られており、不満どころか積極的に褒めてもいいと思っている。
この部分に魅せられて購入したのだし、ここの部分だけは期待を裏切られずに済んだ。
ただ、難易度調整に関して、1周目の序盤がとにかく難しすぎ、ナルカナ加入以降は逆に簡単になりすぎかなとは思う。



最後に、ここは論ではなく単なる好き嫌いの話になるが、希美・カティマ・ルプトナは一応クリアする気にはなった。
ただ、前作でエスペリアやレスティーナ姫に萌えたことを考えると、温度にはだいぶ差があると言える。



シナリオ(テキスト、キャラ、世界観などひっくるめて)は40点、SLGは70点。
総合で60点。