【前置き】


エンタメ作品では、ラスト直前に最大の山場(クライマックス)を持ってくるのが一般的です。
RPGで言うなら、序盤では雑魚モンスターを、最終盤に最も強いラスボスを出す。
サバイバルものでも、恋愛ものでも、ハリウッド的なアクションものでも、徐々に超えるべきハードルが上がっていく。
そうすることで、物語にメリハリをつけ、緊張感を保っていくわけです。


今作最大の失敗は、この配分があべこべだったところにあると感じます。
緊迫感が味わえる局面は√Aでほぼ終わっており、√Bで早くも予定調和に入ってしまっている。
なまじ√Aの出来が素晴らしかっただけに、なおさら√B以降(特に√D)の平坦さが際立ってしまっています。


もちろん、舞台裏をきちんと説明し、物語の説得力を上げること自体は大事なことだとは思います。
しかし、『説明が行き届いている』からといって、イコール『面白い』とは限りません。
今作は、しっかりとした背景を持ち、大きな矛盾もなく、丁寧に作られた作品ではありますが、
√A以外のシナリオに関しては、あまり面白くなかったと感じました。


それは、『SSSシステム』という面白いシステムを、活かしきれなかったところにも表れています。


【√Aで存分に描かれたサスペンス】


原子力施設で発生した事故により、9人の人物が閉じ込められる。
そんな状況でスタートしたこの作品、√Aに関しては本当に出色の出来でした。


特に感心したのは、徹底して主人公を苦境に立たせる、容赦のない展開でしょうか。
一つの危機を乗り越えてもすぐ次の危機、救われたと見せかけて突き落とす、このマゾっぷりはなかなかに過酷で、息つく暇を与えません。
ここまで畳み掛けてくる作品は、ノベルゲーでは本当に類を見ないと思います。
それを可能にしたのは、一つには『時間の凝縮』でしょうか。
√Aはゲーム内時間においてわずか8時間程度の物語であり、その時間内において常に危機と隣り合わせであるからこそ、この緊迫感を出せたのだと思います。


このゲームの魅力の一端を担うのは、『SSSシステム』というとても興味深いシステムです。
このシステムでは、『誰を信頼し、誰を信頼しないか』、『誰の意見を取り入れ、誰の意見を取り入れないか』を、旧来のデジタルな選択肢(「Aを信じる」、「Bを信じる」といった)ではなく、アナログ感を取り入れている(誰をどのくらい信用するか、キャラごとに9段階から選べる)点が面白いと感じます。
√Aにおいては、信用できる人物、信用できない人物が全く不透明な状況ということもあり、じっくりと各キャラの言動を考えながら信頼度を上げ下げする作業が本当に面白かったです。


一方で、*1わかりにくい部分もあったり、*2物語展開上仕方なく選ばされる『信頼』もあったりと、
欠点もないわけではありません。それを差し引いても、SSSシステムと√Aのかみ合わせは良かったと思います。



*1 例:風見「渡瀬が心配です。渡瀬を優先しましょう」。渡瀬「風見が心配だ。風見を優先しよう」。
風見と渡瀬、どちらの好感度を高めるかが問われるわけですが、『風見の安全を優先したい』場合、
風見への好感度を上げるべき(安全を優先するくらい大事)なのか、渡瀬への好感度を上げるべき(渡瀬の意見を重視して、風見を助けよう)なのかがわかりづらい。
ちなみに後者だったようだが、僕は間違えた。


*2 これはパニックものである以上仕方ないのだが、どう考えても信用できない人物への信頼度を高くしておかないと、DEAD ENDへ直行することが多い。
結果、プレイヤーである僕自身は信頼していないのに、主人公は相手を信頼するという、『センシズ・シンパシー・システム』の名前とは裏腹な状況が頻発する。




【√B以降の失速】


ところが、この『SSSシステム』が√B以降では面白さに直結できていません。
それはそうでしょう。
√Bの夏彦には頼りになる仲間がおり、テロリストというわかりやすい敵までいるのです。
ここまで敵味方がハッキリ分かれてしまっては、誰を信じる・信じないもありません。
敵味方がハッキリしているなら、味方の好感度を最大に、敵の好感度を最小にしておけばそれでいい話だからです。


√Cは極めて短いですし、√Dでは『外部要因でおかしくなった仲間を、一人ひとり改心させていく』という
予定調和のヌルい展開と、各キャラクターの膨大なバックボーン説明が待ち受けており、もはや敵とか味方といった話にすらなりません。
犯人当てクイズを楽しめるのは、√Aのみということです。



【全てを超能力で解決してしまう、物語の杜撰さ】


このゲームで伝えたかったテーマとは、
①『皆が心を繋ぎ合わせれば、歩み寄ることができ、奇跡も起こせる』。
②『自己犠牲を良しとせず、自分も含めた全ての人が幸福になる道を探す』。
このあたりでしょうか。


ですが、このメッセージ(特に①)は極めて脆弱なものとなっております。
なぜなら、この世界ではテレパシー/エンパシー/センシズシンパシーなる超能力が飛び交っており、
超常的な現象で強引に心をつないでいるにすぎないからです。


超能力が万能すぎる、今作ではこれが致命的でした。
心を自由に操作できる能力など、物語を語る上でマイナスにしかなりません。
「今回は時間がなかったからセンシズシンパシーを使ったけど、実はよく語り合えば解決できた問題ばかり」という、
(うろおぼえですが、確か悠里の)セリフがありましたが、これはもう真っ赤な嘘でしょう。


超能力なしでは、サリュの説得すら出来ていないではないですか。
敵キャラ(N)の放った悪意を受けておかしくなるのはまだしも、その悪意を払拭するために超能力を使うとか、
もうむちゃくちゃです。


他作品と比較するのもあれなのですが、今作と似たテーマを持ちながら、遥かにうまくやってのけたのが「ひぐらしのなく頃に」という作品でした。


共通点は

①最初のシナリオで、「誰を信じていいのか・誰を疑えばいいのかわからない」という極限状況を呈示している。

②特定の犯人ではなく、外部要因でキャラクターが狂気に染まる。

③キャラ同士がお互いを信頼することで、狂気を破る。誰も犠牲にならない、ハッピーエンドを目指す。


あの作品は、「古手梨花のループ能力」という超能力こそあれど、③の部分においては各キャラの一見地味な行動が奇跡を起こしていきました。
それは、児童相談所への陳情であったり、友達へ自分の苦境を相談することであったり。
間違っても、児童相談所の職員をセンシズ・シンパシーで操ったり、無差別テレパシーで自分の苦境を訴えたりはしませんでした。
そう、「ルートダブル」では、肝心なシーンにこれでもかと言わんばかり、超能力が出しゃばってくるのです。
コミュニケーターという設定は必要だったのでしょう。
ですが、肝心な部分ではもっとお互い、言葉と行動で信頼を育んでほしかったです。



【謎解きの代わりに、背景説明に終始した√D】


今作における、謎(ミステリ要素)とはなんでしょうか?
それはやはり、「閉鎖空間に凶悪犯が紛れ込んでいる」という設定を考えれば、当然犯人探しではないでしょうか?


ですが、今作は「悪い人なんていない。みんなで力を合わせて~」という性善説的展開を見せるため、この醍醐味は味わえません。
一応テロリストの正体は√Bにおいて明かされますが、この2人は√Aで最も怪しかった人物(渡瀬)と二番目に怪しかった人物(宇喜多)の共犯ということで、
意外性の欠片もありません。
(むしろ、順当すぎて意外でした。隠す気がないのか)


今作で最も驚かされた価値の転換といえば、「原子力発電所と見せかけて、実はBC研究所だった!」というものだと思いますが、
これも割と早い段階で明かされてしまいます。


「2人の悠里」もかなり大きな謎ですが、これもまた√Dの序盤(√Cだったかも)で明かされますよね。
√Dの終盤には、もう謎らしき謎はほとんど残っていないのです。
(施設からの脱出方法くらいでしょうか?)


結局、√Dは謎解きではなく、「皆の過去を超能力で知って、より絆を深め合おう!」という内容にしかなっておらず、緊迫感は完全に薄れきっています。


エンディング直前で渡瀬が口走る、この台詞
「つまり、同時多発火災も、市営団地爆破事件も、どちらもQが原因だったってのか!」には心底驚きました。


……そんなの、プレイヤーは何時間も前に知ってたことですよ?? と。この期に及んで何言ってんだよwwと。


そもそも、僕からすれば渡瀬がQにこだわる理由が全くわからないため、全然感情移入ができなかったのですが、
なんと渡瀬君、Qが元凶だったことにエンディング直前まで気づいていなかったのですか……。



【その他】


システムが重すぎるのはどうかなと思いました。
炎の演出や、ムービー再生時には非常に重くなります。
特にムービー再生時には、応答しなくなってしまうことも多々ありました。
僕のPCが安物というのは確かですが、これでも去年10月(つまり、ルートダブルが発売されて以降)に買い換えたPCなんですよね。
基本テキストベースのゲームに、そこまでのマシンスペックを要求する意味もよくわかりませんし、
炎に関しては、オプションで演出カットができるようにしてほしかったです。


【不満点のまとめ】

 1、√Aのような、緊迫感あふれるガチのバトルロワイアル、あるいはミステリの方向性で進めるわけにはいかなかったのか?

2、使用制限を設ける、肝心なシーンでは使わないなど、超能力の威力をもう少し下げられなかったのか?

3、謎を出し惜しむなど、もう少し√Dのために大きな謎を持ち越せなかったのか?


【良かった点のまとめ】

1、 大きな矛盾はなかったように思う。作り込みも丁寧。

2、√Aに1つ、√Bに1つ、胸を打つシーンがあった。

3、√Aの緊迫感はかなり良かった。