王道ヒーロー物語+「シャーロック・ホームズ」。
探偵(ヒーロー)の活躍を、最も身近で支えた助手(お姫さま)視点で描いた作品。
ヒーロー視点の物語とは全く違う味わいがあり、なかなか面白かったです。



☆『助手』の視点から『探偵』を描く、物語構造


「マルセイユ洋上学園都市10万の学生諸君。運命に呪われたお前たち、全員。私が、この手で、救ってやる」が決め台詞のヒーロー、テスラ。
そんな彼に救われた『かがやき』たちは、やがて最後の戦いに赴く彼の力となり、ついに悪を打ち倒す。
語り手であるネオンは、その10万学生の中で最初にテスラに救われ、最も近くで彼を支えました。


「黄雷のガクトゥーン」は語り手であるネオンの物語でもありますが、物語の中心にいたのはどちらかと言うとテスラであって、ネオンはあくまでも彼をサポートする役割に徹しています。
ヒーローの活躍を、お姫さま視点で描いた作品というふうに受け取れますが、このお姫さまは単に守られるだけの存在ではありません。
彼女の存在が彼に力を与える、 それは最終章で明示されていますが、OP曲の歌詞で既に示されています。

*「この腕伸ばし、『僕』は叫ぶ、『君』を呼ぼう」。

単なるお姫さまではなく、頼れるパートナー、助手としての彼女。
ヒーローと姫という対応関係が表には出ていますが、それ以上に『探偵』と『助手』の関係。

「漆黒のシャルノス」でホームズやバスカヴィルを登場させている桜井氏のことですから、これは明確に『シャーロック・ホームズ』を意識したスタイルだと断言してもよいように思います。

 
『思弁的探偵部のホームズ』であるテスラの活躍を、最も身近で見守る『助手ワトソン』であるネオン視点で描かれた作品。
この「シャーロック・ホームズ」のオマージュともいえる構成が、
王道ヒーロー物語に巧い具合にマッチしていて、大変面白かったと思います。
さすが桜井氏と思わされました。
 

☆「ホームズ(ヒーロー)ではなく、ワトソン(お姫様)を語り手とした効用
 

男性主人公が多いためか、エロゲではヒーローを語り手とする作品が多く見られます。 
ヒーローを語り手とするということは、要するに彼の内面をプレイヤーは深く知り、理解し、プレイしていくということです。
そしてそんなヒーローに救われたヒロインが、ヒーローに惚れるという展開はなるほど、無理がないと思います。
たくさんのヒロインを助ければ、ヒーローはモテモテということで、ハーレム展開も描きやすいわけです。

 
もちろんこれは悪いことでは全くありません。
しかしヒーローを人間的に好きになれなかったり、感情移入ができないと辛い部分があります。


翻って本作のテスラは、一見何を考えているのか解りづらいヒーローであり、決してとっつきやすい主人公ではありません。
多くのエロゲと同じようにテスラを語り手としたならば、あまり面白くない地の文が延々と垂れ流されるような、凡作になってしまったかもしれません。

 
しかし、本作の語り手に選ばれたのは、「超然としたヒーロー」のテスラではなく、より感情移入のしやすい『普通の女の子』ネオンでした。
彼女の目を借りて、テスラを知っていく。
『語り手』として彼の内面を知るのではなく、あくまでも『外側』から彼を知っていく。
そうした楽しさは、エロゲではあまり経験したことのない味わいで、実に面白く感じました。


物語全体のテーマも、
『皆を助ける孤高のヒーロー』と、『そんな彼を慕い、彼を支える人々』
という、とても綺麗なものとなっており、読後感よく物語を終わらせることができました。


☆登場人物について

ネオンとテスラも好きですが、個人的には彼の周囲を彩るイズミやアルベール、パパJJとアナベス、シャルル先輩とエミリーなどのペアもいい感じだと思います。
特にアナベスが好きなんですが、なぜにHシーンがないのだ……
残念だったのは、大工さんとファンの少女のエピソードで、もう少しきちんと見たかったなぁと思います。
あぁいうカップル、あまり他作品で見る機会がないもので、どういうふうに着地するのか結構気になっていたのに。


☆不満……というほどではないけれど

ここまではかなり褒めて参りましたが、やはり不満点も多少はあります。


最大のネックは、戦闘シーンでしょうか。
学園の日常シーンは面白かったのですが、戦闘シーンが少々退屈に感じられました。
それは悪役に魅力がなかったからだと思います。
洗脳されておかしくなった人VSテスラという形式が反復されていて、
対等な立場で想いと想いをぶつけ合うというよりも、テスラ先生が「教え諭す」という構図に終始したためでしょうか。


前作の「ソナーニル」までに比べて、本作は戦闘シーンにも文章量を割いており、気合の程はうかがえるのですが……あまり面白くないので、逆に気合が入っていない方が(ボリュームが少ない方が)読んでいてストレスがなかったような気がしています。


また、これは僕の読解力不足かもしれませんが、『明確なテーマ』が見えるのが少々遅かったかなと。
「ヒーローを支えるお姫さま」、「探偵と助手」というテーマを僕が読解(?)できたのが、最終章前半とかなり遅い段階でして、
「あぁ、そういうふうに楽しめば良かったのか」と。
 それまでは本当に、おかしくなった学園生を一人ひとり教え諭しているだけに見えており、
悪くはないけど締りのない話だなぁとか思っていました。桜井さん、ごめんなさい! 


「ソナーニル」は物語中盤で既にテーマを読み取れたので、その線に乗りながら安心して楽しめたのですが、
本作は「これは結局どういう話なんだ?」という宙ぶらりんの時間が長く、少し焦れておりました。


ゲストキャラでもよくわからないことがありまして、音楽家の姉弟の問題と、「若草物語」姉妹の問題、
テスラは2つの兄弟物語を解決するのですが、これには何か意味があったのでしょうか。


『スミリヤ家と、その周囲の幼馴染たち』という大家族、『マルセイユ洋上学園都市10万の学生』という大家族と関連させて、
家族というテーマを押し出そうとしたのかな?とも思うのですが、やや中途半端に感じました。
ケースが2つなので、そんな意図はなくたまたま2つ兄弟モノを作っただけかもしれませんが……。


☆最後に

個人的に、前作「紫影のソナーニル」(84点)は超えられませんでしたが、2作続けてしっかりとした骨組みを持つ物語を堪能することができました。
桜井氏の書く物語はテーマが明快で、爽やか・前向きで心地良い余韻が残るところが好きです。
今後も期待したいシリーズです。