評価は A+。

1200ページという長さが苦にならない、素晴らしい作品でした。


あらすじはこちら(引用)

二百五十年のうち三十五年間だけ光を放つ奇妙な恒星。この星系には知性を有する蜘蛛型生命のすむ惑星があり、そこからもたらされる莫大な利益を求めて二つの人類商船団が進出した。だが軌道上で睨みあいを続けるうち戦闘の火蓋が切られ、双方とも航行不能に。彼らは地上の種族が冬眠から目覚め、高度な文明を築くのを待つしかなくなるが

物語は人間パートと蜘蛛族パートに別れています。


人間パートでは若くして『チェンホー(商人)』のリーダーに着いたエズル。
エズルと彼の婚約者のトリクシア、そしてエズルに片思いしているキウィ、
道化者の老人に見せかけて、実は……なファムの四人が善玉系の主要登場人物。 

悪玉は、『集中化』(人間的な感情や機微などが失われる代わりに、頭脳の働きが極限まで上がる。コンピューター化、みたいなニュアンスで読めばいいかと)
という技術を使いこなし、『チェンホー』を奇襲。蜘蛛族の支配をも目論む『エマージェント』ということになります。


まぁこちらのパートもいいんですが……個人的には「蜘蛛族パート」の方が実に、実に素晴らしかったです。
あらすじでも触れていますが、蜘蛛族の住む星「オン・オフ星」は250年のうち35年だけが『昼』であり、215年間が『冬』なんですね。
その冬の間、蜘蛛族たちは冬眠をします。
冬眠の影響で子供を産む時期も決まっており、その時期以外に生まれた子供は『時期遅れ』として差別されてしまいます。
215年の冬が様々なところで蜘蛛族の文化に影響を与えているのですね。


ところが、蜘蛛族の天才科学者シャキナーがついに『原子力』を発見します。
地下の巣穴を暖め、冬眠しないで済むようになります。
この大発明が引き起こす、様々な変化・軋轢の様子が実に見事で、非常に面白かったです。
「やったー冬眠せずに済むよ! 万歳!」と簡単にはいかないのですね。


まず、冬眠しないで済むようになるなら、当然出産の時期を制限する必要もなくなります。
なので、いつでも子供を産めるね、ということでシャキナーと妻のビクトリアは『時期外れ』の子供を産むわけですが、案の定、昔からの慣習ということで心無い差別にあってしまいます。
シャキナー、ビクトリアの古くからの友人で善良なハランクナーですら、時期外れの子供に対して内心『苦手』意識というか、差別意識を持ってしまい、それがもとでビクトリアとの関係が決裂してしまいます。


更に、蜘蛛族にも幾つかの対立する国家がありまして、『原子力』が普及すると共に「戦争」の道具として
核ミサイルなども作られてしまいます。まさに蜘蛛族の世界・文化が、良くも悪くも大きく変わっていってしまうのです。


世界設定は非常に緻密で、「キロ秒」「メガ秒」といった単位がそれっぽさを出しているあたりは
アーシュラ・K・ル・グィンなどを彷彿とさせます。
登場人物も非常に感情移入しやすく、特に蜘蛛族のシャキナーやハランクナーには本当に愛着をもって読むことができました。
個人的に一番熱かったシーンが、シャキナーVS差別主義者(やや乱暴なレッテル貼りですが)の論戦のシーン。

1200ページという長さを感じさせないもう一つの理由は、大体300ページ単位で大きな山場が用意されているんですよね。
読者を飽きさせない、ヴィンジの技巧が光ります。


同シリーズ(物語自体は独立しています)の「遠き神々の炎」にも興味が湧いてきました。
こちらも長いけど「最果ての銀河船団」ぐらい面白いなら、是非読みたいですね。