本編が好きな方になら手放しで薦められるFD。


今回描かれる物語は、大きく分けてこの二つ。

A 幕末にて桂小五郎、高杉晋作ら長州藩士と手を組んで、新撰組と闘う

B-1直刃が跡継ぎを残し 
B-2現代へと帰還する


B-1とB-2は密接な関係があるのでまとめました。


【A 幕末の物語について】

本編同様今作でも、ライターの歴史知識が物語を支えています。
随所に散りばめられた豆知識に触れるたびに、知識が増していくのが楽しかったですね。
たとえば「長州おはぎ」ですとか、あるいは「元禄時代の机は低かった」などなど、へぇ……と思わせるものがたくさんありました。
「嘘でしょ?」と思えるような内容もインターネットで調べると本当だったりと、非常に勉強になりました。
恐らくライターさん自身がなかなかの歴史マニアだとお見受けしますが、そうした「熱」がこちらにも伝わってくる素晴らしい作品だと思います。


また、(主人公たちが助かるとわかってはいても)物語の山場となる「池田屋事件」では新撰組の迫力・恐ろしさを感じましたし、「禁門の変」における長州藩士の散り様、そして「第二次長州征討」の奇跡的勝利など見せ場も盛り沢山で、
一度見せ場に達するとゲームのやめ時が見つからず苦労しました。


一方、不満点もいくつかあります。
B-1に関わるものは後述するとして、Aに限定して書くならば、
主人公たちが「新撰組と戦う」理由がいかにも無理やりすぎる点でしょうか。


一魅曰く「歴史に歪みが生じた」とのことですが、ハッキリ言ってほとんど歪んでいるように見えないんですよね。
坂本竜馬が活躍していないという一点のみですが、何故赤穂浪士が生き残ると竜馬が活躍しないのかの論理的説明が全くありません。
それ自体はカオス理論の一言で片づけてもいいんですが、それならそれで、
「禁門の変の際に火事を起こさないようにする」とか「第二次長州征伐で、新撰組を呼び寄せる」ような軽率な行いは慎むべきでしょう。
何が作用して歴史が歪むかわかったものじゃないのですから。


結局、歴史通りに事が運び「池田屋事件」では小五郎は死にませんし、その後の流れも一緒。
つまり赤穂浪士たちはほとんど何もしていません。
最後の新撰組との激突でも、(新撰組の魅力は描けていると思うのでここを叩くのもあれなんですが)実際には戦う必要がないと感じました。


また、「歴史上の主要な登場人物が女性化している」ことから、
『女体化忠臣蔵世界』は、直刃や僕らが住む『リアル世界』とは関連の薄いパラレルワールドだと思っていました。
しかしこのファンディスクで、直刃の住む『リアル世界』と『女体化忠臣蔵世界』を再び混同させるようなギミックを持ち出してきたため、物語の設定が穴だらけであるという印象が強くなってしまいました。


例として、主税ルートでは赤穂駅を訪れておりますが、背景CGでは明らかに「男性」の47士が壁に描かれています。
からくり時計における寸劇というのも、恐らく47士は「男性」として登場しているのでしょう。
それに対して主税は何の反応もしていないどころか、「私たちの活躍が後世に伝わっている」と喜びます。


結局、『女体化忠臣蔵世界』と『リアル世界』は同じなのでしょうか? 違う世界なのでしょうか?
本編ではギリギリごまかしきった内容を蒸し返してしまったのは、拙いと言わざるを得ません。


まぁ……面白ければそれでいい、と開き直ってしまってもいいですし、実際面白かったんですけどね。


【B-1 あまりにも中途半端な直刃の『純愛()』】


この作品で、一番気になったのが直刃の態度です。
本編で恋人になった4人のうちから1人を選ぶということで優柔不断な態度をとりますが、これが割と苛々させられました。
これがシリアスな純愛モノならば、1人を選ぶのに悶々とするのもわかります。
個人的な好みで一人を選ぶなら主税と安兵衛の二択なのですが、ご城代や右衛門七も好きですし、最初の二拓だけでも相当悩むと思います。


しかし選ばれる本人たちは、「元禄時代なのだから、妻が何人いてもいい」と言っているのに、
何の役にも立たない300年後の常識とやらに縛られて、延々悩み続けるのは話が別です。

で、本当にその1人に操を立てるのなら十歩譲って認めるとしても、結局迫られるままに赤穂浪士のほとんどとHしてしまうというオチ。
そもそも冒頭で徳川綱吉とHしているというのに、「選んだ1人以外とHする気はない」などと発言しだした時には、失笑しか浮かびませんでした。
それなら最初から開き直って、その4人とローテーションで子作りしても良かったんじゃないですか?


興ざめに感じた象徴的なシーンは、小五郎を振るシーンです。
せっかくの良いシーンを台無しにした、直刃の「俺には好きな人が4人いるから、お前を選ぶことはできない」という台詞には、
本当に脱力してしまいました。
好きな人が1人だというならともかく4人もいるなら、小五郎を5人目に加えたっていいでしょうに。




……もちろん、赤穂浪士たちとのHシーンをプレイヤーに見せてくれるためのファンサービスだということはわかります。
わかりますがやり方があまりにも拙いというか、「物語」を取るか「ファンサービス的エロ」を取るかで後者をとった結果、前者にしわ寄せが行った形でしょうか。


【B-2 抒情的なお別れの描写】

ところがそんな直刃の「純愛()」が、選択肢で1人を選んでからは急に良い感じになるのが
このゲームの悩ましいところ。
今までのイケてない優柔不断ぶりが嘘のように、「最後の一日」と「お別れ」のシーンは輝いていました。

ゲーム自体が終盤に差し掛かっていることもあり、プレイヤーである僕の
「このゲームを終わらせ、ヒロインと別れて現実に帰らなければならない」という気持ちと、直刃の
「ヒロインと別れて、現代へ帰らなければならない」という気持ちが重なり、とても切ない気持ちでプレイしました。

「まだ終わらないでくれ。もう少しだけこのヒロインと一緒にいさせてくれ」と思いながらプレイするゲームはそうそうありません。それだけ、「忠臣蔵46+1」という世界に魅せられてしまったということです。
オマケの新八ルートもそうですが、主人公とヒロインの別れの描き方がこれまた良いんです。


本編4ヒロインが「タイムリミットが解っていて、残り時間がどんどん少なくなっていく別れ」を描くなら、
新八ルートでは「突然の別れ」を描いていますが……形は違えど、読後感は切ないです。


忠臣蔵の世界から現代へと帰還した直刃は、これからどう生きていくのでしょうか。
もし僕が彼の立場なら……しばらくは忠臣蔵の小説、映画、そして史跡や資料館を片っ端から訪ねてはしんみりするような形で、盛大に引きずってしまいそうです。
一方で、そこまで引きずるほど幸せで貴重な体験が出来た直刃が羨ましい、という気持ちもありました。

「自分も忠臣蔵の世界にタイムスリップしたい」、「直刃みたいな体験をしたい」と心から思える作品、というのはやはりどうしても評価が高くなりますね。
心に残る作品をありがとうございました。


インレの次回作にも期待しています。