評価は A。
職を転々とする青年が、曰くありげな土地「ジプシーが丘」で出会い、恋に落ちた相手は大富豪の娘エリー。
その土地に家を建て、幸せな結婚生活を送る二人だったが、彼女を取り巻く親族、怪しげな管財人ロイド、エリーに重大な影響を及ぼすお目付け役のグレタ、不気味な予言を繰り返すジプシーのお婆さんなどに脅かされる。
これから起こる悲劇を暗示するような主人公の語りもあって、常に不穏な空気が流れる本作は、ミステリというよりはサイコホラー、もしくはサイコサスペンスの様相。
いつものポアロものやマープルものとはずいぶん趣の違う作りですが、キャラクター心理を描くことに長けたクリスティなら、こういう作品も巧いだろうなぁとは思いました。
ここからネタバレです。
これ、トリックが完全に「アクロイド殺し」だ!!
しかも言ってはなんだけど、こっちの方が遥かに面白いです。「アクロイド殺し」のセルフリメイク、セルフオマージュといった感じ。
初出の「アクロイド」が有名なのはわかるけど、これから読む方には是非こちらを読んでほしいなぁと。
で、またまた「信頼できない語り手」ということでフェアなのかアンフェアなのかという話になりますが……。
読み返してみると明らかに嘘を書いているシーンとかあるものなぁ……と思いつつ、『物語』としてとても楽しめたので、個人的にはOKです。OKじゃなきゃA評価はつけない。
タイトルにもなっている、ブレイクの詩
『甘やかな喜びに生れつく人もいれば
終りなき夜に生れつく人もいる』
がとりわけ印象的な物語。
あるいは、無垢な天使と心に闇を抱えた悪魔との対比とでも言いましょうか。
ヒロインのエリーが甘やかな喜びに、主人公のマイクが終りなき夜に生れついているわけですね。
終りなき夜に生れついたマイクは、エリーという天使に巡り合いながら、ついに己の業、闇に身を委ね、
人生を誤ってしまった。
エリーがギターを奏でながらブレイクの詩を歌った夜。
「なぜそんなふうに私を見つめているの? まるで愛しているみたいな目で…」という台詞。
あの瞬間にもし、マイクがエリーを選んでいれば、二人は幸せに暮らしていたのではないか。
そんな実現しなかった未来の仮定が、儚い余韻を残す作品でした。
……まぁ、主人公はクズすぎ、邪悪すぎで片づけてしまってもいいのですが、
人間の、持って生まれた業というものはなかなか変えられないものなんですよねぇ。
僕はそこまで邪悪な人間ではないはずですが、生来の「面倒くさがり」という業や、「神経質」な部分など、なかなか治せません。
多少面倒くさくても、それをやっておけばもっと幸せになれるのにと自分で解っていても、なかなかできない。
そんなつまらないこと気にしなければもっと幸せになれるのにと解っていても、気にしてしまう。
『たぶん、誰にだってチャンスはあるのだろう。だが、僕は――背を向けてしまった』
終りなき夜に生れついてしまった主人公が、甘やかな喜びに生れついたエリーと出会いながら、結局自らの闇に呑まれていく。
そんなストーリーラインが悲しい、作品でした。
職を転々とする青年が、曰くありげな土地「ジプシーが丘」で出会い、恋に落ちた相手は大富豪の娘エリー。
その土地に家を建て、幸せな結婚生活を送る二人だったが、彼女を取り巻く親族、怪しげな管財人ロイド、エリーに重大な影響を及ぼすお目付け役のグレタ、不気味な予言を繰り返すジプシーのお婆さんなどに脅かされる。
これから起こる悲劇を暗示するような主人公の語りもあって、常に不穏な空気が流れる本作は、ミステリというよりはサイコホラー、もしくはサイコサスペンスの様相。
いつものポアロものやマープルものとはずいぶん趣の違う作りですが、キャラクター心理を描くことに長けたクリスティなら、こういう作品も巧いだろうなぁとは思いました。
ここからネタバレです。
これ、トリックが完全に「アクロイド殺し」だ!!
しかも言ってはなんだけど、こっちの方が遥かに面白いです。「アクロイド殺し」のセルフリメイク、セルフオマージュといった感じ。
初出の「アクロイド」が有名なのはわかるけど、これから読む方には是非こちらを読んでほしいなぁと。
で、またまた「信頼できない語り手」ということでフェアなのかアンフェアなのかという話になりますが……。
読み返してみると明らかに嘘を書いているシーンとかあるものなぁ……と思いつつ、『物語』としてとても楽しめたので、個人的にはOKです。OKじゃなきゃA評価はつけない。
タイトルにもなっている、ブレイクの詩
『甘やかな喜びに生れつく人もいれば
終りなき夜に生れつく人もいる』
がとりわけ印象的な物語。
あるいは、無垢な天使と心に闇を抱えた悪魔との対比とでも言いましょうか。
ヒロインのエリーが甘やかな喜びに、主人公のマイクが終りなき夜に生れついているわけですね。
終りなき夜に生れついたマイクは、エリーという天使に巡り合いながら、ついに己の業、闇に身を委ね、
人生を誤ってしまった。
エリーがギターを奏でながらブレイクの詩を歌った夜。
「なぜそんなふうに私を見つめているの? まるで愛しているみたいな目で…」という台詞。
あの瞬間にもし、マイクがエリーを選んでいれば、二人は幸せに暮らしていたのではないか。
そんな実現しなかった未来の仮定が、儚い余韻を残す作品でした。
……まぁ、主人公はクズすぎ、邪悪すぎで片づけてしまってもいいのですが、
人間の、持って生まれた業というものはなかなか変えられないものなんですよねぇ。
僕はそこまで邪悪な人間ではないはずですが、生来の「面倒くさがり」という業や、「神経質」な部分など、なかなか治せません。
多少面倒くさくても、それをやっておけばもっと幸せになれるのにと自分で解っていても、なかなかできない。
そんなつまらないこと気にしなければもっと幸せになれるのにと解っていても、気にしてしまう。
『たぶん、誰にだってチャンスはあるのだろう。だが、僕は――背を向けてしまった』
終りなき夜に生れついてしまった主人公が、甘やかな喜びに生れついたエリーと出会いながら、結局自らの闇に呑まれていく。
そんなストーリーラインが悲しい、作品でした。