「黄昏時の境界線」よりは上。だいぶ持ち直した感はあります。
エピソード5以降の展開はなかなか見事。
夜の生徒たちの正体や、おまるの正体など、「おぉっ」と思ったシーンが何度もありました。
エピソード5までの章だと、ぴぃちゃんの話は良かったかな。
アーデルハイトと葵ちゃんがぴぃちゃんを想う気持ちと、ホムンクルスの危険性を描いた良エピソードでした。
あと、コメディタッチな身体入れ替わり事件もまずまず面白いです。
一方で、「黄昏時」から含めると、黄昏時全5章+今回の4/6章……9章読んでようやくメインストーリーが盛り上がる、というのは、ちょっと本格的に面白くなるまでに時間がかかりすぎかなぁと。
まぁ9章より前のところでも、「黄昏時」のヒメちゃん人形事件、前述の身体入れ替わり事件、ぴぃちゃんの話と、
計3章は面白かったし、「黄昏時」最初の1章は作品紹介も兼ねてるからOKとしても、
後の5章ぶんは割と眠くて。
作品全体に流れる居心地の良さは健在でストレス成分はほぼないんですが、反面、起こる事件はいずれも『のほほん』としており、
平和そのもの。大した被害もなく、眠気を催します。
個別ルートも相変わらずのやっつけ仕事。
かわいいアーデルハイトも、こんなシナリオでは魅力を引き出せません。
本編ではルイとアーデルハイトのやりとりはとても好きだったのに、このルートだとなんだか嫌。
ルイのためにハイジを孕ませるとか、ちょっとな。
ハイジが妊娠してから、ルイが養子に取るというのならまだしも、妊娠する前からせっつかれたら萎えますわ。
学園長ルートはもっと酷くて、なんで学園長が久我君を好きになったかすら不明。
あんたホムンクルスなんでしょ? 人を好きになったりするの?
「主に命令されたから」という、明らかに続編のネタバレなコメントもいただいたんですが、
仮にそうだとしても「主がなんでそんな命令をしたのかもわからん」し、
そこに納得できる理由があったとしても、「学園長ルート」が面白くなるわけでもないからなぁ。
後は、これは「黄昏時」の時に書いたので繰り返しになりますが、やっぱりこのボリュームでこの価格、
そんでもって未完というのはないかなってのも……。
「朝霧に散る花」は多分やらないかなぁ。
ここまで付き合ってきたわけだし、彼らの今後が気にならないわけじゃない。
けれども、この作品は良くて10段階で7どまりの作品だろうなぁっていうのが見えてきちゃったんですよね。
*悪役のやっている事は結構非道なんだけど、非道な中にもどうにも非道になりきれないところが見えるというか。
やってもいいけど、やらなくてもいいよなぁって。
推理パートも正直出来が良くないと思うんですが、長くなりそうなので後述します。
この作品、ストーリーの凝り具合に反して、僕の反応がやや鈍いのは
「キャラクターの掘り下げ」がイマイチ物足りないからでもあります。
みんないい奴で、それはいいんです。居心地が良いし。
ただ、なんていうのかな。
反面、「こいつが凄く好きだ!」っていうキャラもいないんです。
類型的といいますか、「そこに生きている人間」ではなく「創られたキャラクター」だなぁって思ってしまうことがあって。
彼らの「生の感情」というものが、イマイチ伝わってこないというか。
この感覚がうまく文章に出来ないんですけど……キャラクターの内面があまり掘り下げられていない、
そんな印象を受けるんです。
*昼の生徒の身体に20年前に死んだ夜の生徒の身体を憑依させるという設定は、
いかにも非道で、今までの「ヌルかった」雰囲気を一変させる面白い展開だと思いました。
それまで良い気分でまどろんでいた意識が、はっと覚醒しましたもん。
でも、本編最後の文章を見る限り、
結局夜の生徒は生きているらしいし、なんだ、結局完結編も「ヌルい路線で行くのか」と思ってしまって。
学園長を操ってた奴を倒して、どこかで眠ってる風呂屋町やおまるを起こしてハッピーエンドかな、という予測までついてしまったし、
そこまで予測できちゃえるなら、もう続編を読む必要もないじゃんっていう。
別に必ずしも人を殺す必要はありませんが、事件が多数起こるのに、どの事件も大した被害者の出ない、「のほほん」とした事件ばかりだし、後述しますがミステリ自体の出来にも疑問が残るから、どうにもなぁ。
しかも「残影」の終盤がピークだった、という感想をいくつも読んでいることもあって、これがピークならもういっかなっていう。
【推理パートの話】
僕が「これだけはいかんだろう」と思ったのは、
1章の選択肢。
Q「香水を送ってきた人と、同一人物の仕業だってことですか?」という問いに対して
A1「(犯行を行ったのは)同じ奴だろう」
A2「同じ奴とは限らないんじゃないか?」という選択肢があります。
この「同じ奴とは限らないんじゃないか?」を選んだ後の会話を引用します。
――引用
三厳「これは俺の嗅いだ香水とは別の匂いだし」
憂緒「それだけで違うとは断言できないでしょう? 現場の状況を聞けば、被害にあった生徒が香水のせいで意識を失った可能性は高そうですし。そんな特殊な力を使う人間が、複数人、学園に侵入してるとは考えにくいです」
―引用ここまで
この「同一犯とは限らないんじゃないか?」の選択肢は間違い扱いなのですが、
これはちょっと酷いなと感じました。
まず、選択肢は「同一犯とは限らないんじゃないか?」であるのに対し、
なぜか憂緒は「それだけで違う(同一犯ではない)とは断言できないでしょう?」と返しています。
三厳は「同一犯『とは限らない』」と言っている。
つまり可能性を提示しているだけで、「同一犯『ではないと断言』」などしていません。
憂緒の反応は明らかにおかしくて、これじゃ単なる話の通じない人じゃないですか。
ダメ出しをする前に、人の話をもう少しちゃんと聞いてください!
僕が明らかに問題だと思ったのは↑だけですが、その後の推理パートも正直あまり感心しなくて。
ツッコミどころとしては、
1、「原因不明で倒れた生徒、微かに香水の香りが漂っている」だけの状況ではそもそも「事件」とも言い切れない(香水のせいで意識を失った可能性が高そう、であって、香水のせいとは断言できない)。
2、「香水」は手に入れてしまいさえすれば、後は誰が使ってもいいのだから、「特殊な力を使う人間が複数人、学園に侵入しているとは考えにくい」はおかしい。現に終章では洗脳されたおまるも使っていました。
「老舗の香水メーカーのヴァインベルガーが、学園生の何人かを香水サンプルモニターのバイトにでも誘えば、それだけで実行犯は無数に作れる」はずです。
その場合もアーデルハイトやルイが「犯行指示」という意味での犯人(つまり同一犯)ということになりますが、実行犯自体は多数いてもおかしくないと思います。
『複数人、学園に侵入しているとは考えにくい』から『同一犯である』という推理は成り立たないのでは?
と思いました。
で、まぁハッキリ言って事件かどうかすらわからない、同一犯かどうかもわからない。
推理できるだけの情報がない段階で
Q「なぜ犯人は、トクサとは関係ない一般生徒を狙ったんだ?」
という推理選択肢が再び出てしまうんですよね。
もう知るかよって感じです。
そんな「推論」に「推論」を重ねていないで、もっと情報を集めないとダメでしょっていう。
「推理パート」を楽しむゲームではないとは思っていたので、大して減点するつもりもないんですが
一応推理が当たるかどうかで「ランクを発表する」といった演出もなされているので、
それならもう少し憂緒の推理を研ぎ澄ませてほしいと思いました。
別にミステリとして楽しめなくても良いんだけど、ミステリとして楽しめればもう少し評価は上がったかな。