著者はコーネル・ウールリッチ。評価はA。
彼の作品を集中的に読みたいと思っているので、ひょっとすると短期間に何度もブログに登場するかもしれない。
ウールリッチといえば、別ペンネームがウィリアム・アイリッシュ。
ミステリ好きにはおなじみの名作「幻の女」の作者として有名で、ウールリッチ作品の後書きを読むと必ずといっていいほど「幻の女」の話が出てくる。
確かに「幻の女」は個人的にも名作だと思うのでそれはそれで良いのだが、本作「黒い天使」を読んで、
ウールリッチ(アイリッシュ)は「幻の女」1作の作家では全くないと確信した。
主人公は22歳の若妻アルバータ。夫のカークはアルバータに隠れて浮気をしていたが、浮気相手のミアが何者かに殺害され、カークは死刑宣告を受けてしまう。
無実の夫カークを救うため、アルバータの真犯人探しが始まる……。
カークを救うため、容疑者候補の男たちを訪ねるアルバータの冒険が何よりも読みどころだ。
ミステリでは、名探偵が容疑者候補の男女を1人ずつ尋問していくシーンが頻出するが、
本作の『冒険』はそういった情報を淡々と集める事情聴取シーンとはまるで別物だ。
例えて言うなら、RPG的というか、ダンジョンを1つずつ踏破していく女勇者のようで、
容疑者候補に会うたびに、アルバータは危機に遭遇する。
そしてその危機を乗り切るたびに、彼女は少しずつ成長していくのだ。
最初の冒険では、ミアに棄てられ、自暴自棄になり人生を捨ててしまった男、マーティーの存在感が素晴らしい。
2人目の冒険、モーダントに関しては少しダレたが、3人目の冒険であるラッドもまた素晴らしい。
イケメンで、魅力あふれる彼に、アルバータは惹かれてしまう。
しかし、死刑囚とはいえアルバータは夫のある身。
別れのシーン
の文章など、これがウールリッチの味かと思わせる名文だ。
ラスト、アルバータの元に戻ってきたカーク。
しかし、本当にアルバータはカークとの平穏な暮らしで満足できるのだろうか。
今までの世間知らずの「天使」だったアルバータには、カークは理想に近い夫だったかもしれないが、
数々の冒険を潜り抜け、たくましく成長したアルバータには、物足りないのではなかろうか。
何はともあれ、余韻の残る良い物語でした。
この話、容疑者候補の男たち視点で読むと、アルバータもまた、他人の人生を狂わせているのよね……。
彼の作品を集中的に読みたいと思っているので、ひょっとすると短期間に何度もブログに登場するかもしれない。
ウールリッチといえば、別ペンネームがウィリアム・アイリッシュ。
ミステリ好きにはおなじみの名作「幻の女」の作者として有名で、ウールリッチ作品の後書きを読むと必ずといっていいほど「幻の女」の話が出てくる。
確かに「幻の女」は個人的にも名作だと思うのでそれはそれで良いのだが、本作「黒い天使」を読んで、
ウールリッチ(アイリッシュ)は「幻の女」1作の作家では全くないと確信した。
主人公は22歳の若妻アルバータ。夫のカークはアルバータに隠れて浮気をしていたが、浮気相手のミアが何者かに殺害され、カークは死刑宣告を受けてしまう。
無実の夫カークを救うため、アルバータの真犯人探しが始まる……。
カークを救うため、容疑者候補の男たちを訪ねるアルバータの冒険が何よりも読みどころだ。
ミステリでは、名探偵が容疑者候補の男女を1人ずつ尋問していくシーンが頻出するが、
本作の『冒険』はそういった情報を淡々と集める事情聴取シーンとはまるで別物だ。
例えて言うなら、RPG的というか、ダンジョンを1つずつ踏破していく女勇者のようで、
容疑者候補に会うたびに、アルバータは危機に遭遇する。
そしてその危機を乗り切るたびに、彼女は少しずつ成長していくのだ。
最初の冒険では、ミアに棄てられ、自暴自棄になり人生を捨ててしまった男、マーティーの存在感が素晴らしい。
昔は人間だった人たちの姿がそこにあった。身なりなどの外見が問題なのではない、それは内側からにじみだすなにかだった。言うなれば、芯の燃え尽きたランプ、フィラメントの切れた電灯だ。
かたちは残っていても、光を放つ事はもはやない。
と表現されるマーティーに、アルバータは死に場所を与える。
ミアと初めて出会ったダンスフロアで流れていた曲、「Always」を置き土産に、穏やかに自殺する彼のエピソードはしんみりと泣かせる。と表現されるマーティーに、アルバータは死に場所を与える。
2人目の冒険、モーダントに関しては少しダレたが、3人目の冒険であるラッドもまた素晴らしい。
イケメンで、魅力あふれる彼に、アルバータは惹かれてしまう。
しかし、死刑囚とはいえアルバータは夫のある身。
別れのシーン
『さようなら、あなた。あなたはわたしと出逢わなかった。わたしもあなたと出逢わなかった』
彼が目を醒ました時、寂しくないように、灯りはつけておいた。寂しい思いはするだろうけれど、少なくともこれで暗がりのなかにいなくてすむ。
軽いスーツケースを提げて夜の街に出た。どこへ行けばいいのかはわからなかった。ただひたすら――そこから遠ざかりたかった。ずっとずっと遠くまで。それ以上居つづけていたなら愛が育っていたかもしれない場所から、うんと遠くまで。
の文章など、これがウールリッチの味かと思わせる名文だ。
ラスト、アルバータの元に戻ってきたカーク。
しかし、本当にアルバータはカークとの平穏な暮らしで満足できるのだろうか。
今までの世間知らずの「天使」だったアルバータには、カークは理想に近い夫だったかもしれないが、
数々の冒険を潜り抜け、たくましく成長したアルバータには、物足りないのではなかろうか。
この話、容疑者候補の男たち視点で読むと、アルバータもまた、他人の人生を狂わせているのよね……。