随分前に、ブログでアガサ・クリスティについて書きました。
それで満足していたんですが、今回新たに書き直しましたのでアップさせていただきます。
ちなみに全体の4分の1ぐらいは流用(前回と一緒)ですが、4分の3は新しく書き直しているので、
新記事としてアップしちゃっていいよね?
クリスティ未体験の方へのお薦め作品
ドラマ版の出来が非常に素晴らしく、印象に残るのが『ホロー荘の殺人』に登場する、
軽い読み口で楽しめるのが「メソポタミヤの殺人」。
それで満足していたんですが、今回新たに書き直しましたのでアップさせていただきます。
ちなみに全体の4分の1ぐらいは流用(前回と一緒)ですが、4分の3は新しく書き直しているので、
新記事としてアップしちゃっていいよね?
「トリック派」と「動機派」。「トリック」も疎かにしないが、「動機派」に特にオススメのクリスティ。
第二回はアガサ・クリスティ。
海外古典ミステリで抑えておくべき作家と言えば、アガサ・クリスティは外せないと思います。
また、クリスティ作品は「読み易い」ものが多く、更にほとんどの作品が文庫化されているため「購入しやすい」のも魅力です。
海外ドラマにもなっており、しかもこのドラマが割と良い出来なため、そちらから入ることもできる。そんな敷居の低さもポイントでしょうか。
さて、ミステリ作品を読む際に、皆さんは何を最重要視しますか?
不可能犯罪を可能にする大胆不敵なトリックを解明すること?
それとも、犯人の心情と、そこに流れる人間ドラマ?
個人的な好みを言えば、僕は後者です。
どんなに凄いトリックを見せられても、肝心の人間が血の通わない、盤上の駒のようなキャラクターであるなら、
真剣に身を入れて読むことができないのです。
お堅い人に怒られてしまいそうですが、僕のミステリの原点は漫画『金田一少年の事件簿』ですので、
やっぱりこう、登場人物は美男美女……とは言わなくても、色々とメロドラマがあったり、
涙ながらの犯人自白シーンがあったりね、してほしいんですよw
そんな僕が、過去のミステリ作家を読みますと……他の作家の話は避けますが、有名どころを何人読んでも
イマイチピンと来ませんでした。
どの作家さんも、『トリック』の方に比重が傾きすぎていて、『人物』が蔑ろにされている気がしたのです。
犯人が解った。この犯行を犯せたのはこいつしかいない。おしまい。みたいなね。
アガサ・クリスティに最初に触れたのは「スタイルズ荘の怪事件」。
そのあと、「七つのダイアル」とか「茶色の服の男」とかを読んだんですが(後者はそもそもミステリではない)、
どうもピンと来ず。
決定的だったのは「アクロイド殺し」。
この作品、確かに名作だと思います。トリックを知らない未読の方には是非読んでいただきたい作品です。
でも、あくまで『人間ドラマ』として読んでみて、面白いですかね?
そんなわけで長らく離れていたクリスティだったんですが、「春にして君を離れ」という作品を読んでから、少し見方が変わりました。
この作品の主人公は、すんごい嫌な奴です。嫌な奴なんですが、その心理描写がものすごくリアルなんです。
あ、こういうのも書ける作家さんなんだ、と。
そして次に読んだ「ナイルに死す」で、ガツンと心を持って行かれました。
あ、これ金田一(漫画)だww と。
なんかこう書くとアレなんですけど、面白いんです。
主人公の男性は、最近結婚したばかり。
ところが、別れたはずの元カノがストーキングをしてきてヤバいと。
元カノは主人公の男性に未練たっぷりでして、もうね、女の戦いが良いんですよ!
思わず(ストーカーなのに)元カノキャラを応援しちゃいましたw
クリスティ未体験の方へのお薦め作品
クリスティ作品の分類の仕方は、色々考えられますが、シリーズで大きく分ければ3種類あります。
『ポワロもの』、『マープルもの』、『その他』です。
僕の好みは断然『ポワロもの』なんですが、『マープルもの』にも好きな作品はありますし、クリスティ作品の中で一番好きな作品は、実は『その他』にあったりします。
このコラムでは、それぞれについて好きな作品を挙げていきたいなと思っています。
それとは別に、『超有名作』と『それ以外』という身も蓋もない分け方をすることもできます。
有名だからどうだ、というわけでもないのですが、
もし幸運にも、あなたが有名作で使われているトリックを知らないならば、やはり知ってしまう前に読んでほしいなと思うわけです。
というわけで一発目、まずは「オリエント急行の殺人」です。
オリエント急行の中で起こった殺人。その乗客たちはどの人物も、一癖も二癖もありそうな魅力的な方々ばかり。
この作品は『トリック』と『人間ドラマ』が最もバランス良く高レベルで融合している作品だと思います。
逆に言えば、「オリエント急行」にピンと来なかったなら、クリスティを楽しむのはひょっとすると難しい?
極論ですが、そう言い切ってしまっていいくらい、この作品には彼女の良さがぎっしり詰まった名著だと思うのです。
あるいは私自身がクリスティにハマる切っ掛けになった「ナイルに死す」から入るのも良いかもしれません。
こちらについては↑でも書きましたが、エジプトの旅情をバックにした船旅、三角関係、トリックと
三拍子そろった一大エンターテイメントでとても面白い作品です。
時系列順に読みたい方は「スタイルズ荘の怪事件」から入るのが良いのかな、とも思うんですが、
個人的にはあまりお薦めしません。
1920~1973と53年間もの長大なキャリアを誇る彼女ですが、最盛期と言えるのは『オリエント急行の殺人』を発表した1934年から、1953年くらいまででしょうか。
1953年の後も、素晴らしい作品をちょこちょこと発表しているのですが、少し打率は落ちたかなと思います。
1934年より前の作品で言いますと、お薦めしたい作品はありません。
「アクロイド殺し」が世間的には有名ですが、僕個人としては面白いと思いませんでした。
『シリーズ全作読んでやるんだ!』という方がいれば、当然『スタイルズ荘』から読んでいただきたく思いますが、面白そうな作品をつまみ読みしたい方には、1934年以降の作品から選ぶのが無難ではないかと思います。
その際に、私のコラムが参考になれば、とても嬉しく思います。
大好きな作品 ポワロシリーズ編
先に『オリエント急行』と『ナイルに死す』については書きましたので、他の作品について書かせていただきます。
知名度はあまり高くないものの、ポワロシリーズの最高傑作として挙げたいのが「五匹の子豚」。
16年前に起きた殺人事件。その当時、事件現場にいた5人の容疑者たち。
彼ら、彼女らから「事件当日」の様子を聞かされるたびに、その姿は二転三転し、新たな事実が次々と判明していく……。
被害者となったアミアスとその妻カーラ。アミアスの不倫相手エルサ。
カーラの妹で目が不自由なアンジェラとその家庭教師セシリア。アミアスの親友のフィリップ、メレディス。
事件関係者を少人数に絞り、関係者同士の関係性を密接なものにする。
登場人物一人ひとりに感情移入をさせ、『わが事』のように事件に引き込むクリスティの得意技が存分に発揮された作品です。
次に紹介するのは「葬儀を終えて」。
空気が読めないコーラの一言「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」から始まるこの作品も、『トリック』と『人間ドラマ』のレベルがとても高く、正統派で質実剛健な作品に仕上がっています。
ドラマ版の出来が非常に素晴らしく、印象に残るのが『ホロー荘の殺人』に登場する、
被害者の妻、ガーダ。
敏腕な美人ヘンリエッタに人気が集まりそうですが、ぼんやりとした美しさを持つ彼女のエピソードは忘れられません。
デイビッド・スーシェ主演のドラマ版ポワロ・シリーズも、全力でお薦めしたい内容になっていますので、
本が苦手な人(はこのサイトにはいないかw)にもお薦めできる。
そういう意味で、敷居が低いのもアガサ・クリスティを人に勧めやすい理由の一つですね。
ドラマ版の宣伝になっちゃいましたが、原作もとても面白いです。
軽い読み口で楽しめるのが「メソポタミヤの殺人」。
旅情、トリック、人間ドラマとどれも10段階で7くらいで強い印象を残す作品ではありませんが、
高いレベルでまとまっていると感じます。
シリーズ最終作だからといって最後に読む必要はありませんが、ポワロ最後の事件「カーテン」は
ある程度ポワロシリーズのファンになった人に読んでほしい作品。
これでポワロと会えなくなるんだなぁと思うと、しんみりしてしまいます。
単なるお別れ会ではなく、内容も面白いのでぜひ。
読了したポワロシリーズ作品(備忘録) 独断と偏見による個人的評価 S~E
「オリエント急行の殺人」 S
「葬儀を終えて」 S
「五匹の子豚」 S
「ナイルに死す」 A+
「カーテン」 A
「ホロー荘の殺人」 A
「メソポタミアの殺人」 A-
「死との約束」 B ←ドラマ版はお薦めできません……。
「杉の柩」 B
「マギンティ夫人は死んだ」 B-
「ABC殺人事件」 B-
「三幕の殺人」 B- ←ドラマ版の方が好き。
「満潮に乗って」 B-
「白昼の悪魔」 B- ←訳が…。この作品だけガラが悪いポワロw
「ヘラクレスの冒険」 C(短編集)
「愛国殺人」 C
「もの言えぬ証人」 C
「アクロイド殺し」 D
「スタイルズ荘の殺人」 D
僕が最も好きなクリスティ作品は、実はポワロシリーズでもマープルシリーズでもない、
「終りなき夜に生れつく」という作品です。
ポワロものとマープルものの違い
アガサ・クリスティの二大シリーズといえば、ポワロシリーズとミス・マープルシリーズ
(全4作のトミー&タペンスシリーズというのもあるのですが、それはおいといて)。
シリーズが違うのですから、当然特色も違……います?
いや、違うはずなんです。
クリスティ自身が「ポワロシリーズで書いてしまったが、これはむしろマープル向きの事件だった」
という発言を残していたりもします。
ただ……感性の鈍い私には、明確な違いはわかりません。
これが、『百鬼夜行シリーズ』と『どすこいシリーズ』(京極夏彦)とか、
『悪党パーカーシリーズ』と『ドートマンダーシリーズ』(ウェストレイク)くらい違えば、特徴を書けるのですが……。
一応、個人的な印象を書かせていただくと
・旅先での事件が多いポワロと、自分の住んでいる村(セントメアリミード)近郊での事件が多いマープル
ただし、マープルにも旅先での事件は存在する(「カリブ海の秘密」など)し、
ポワロにも村での事件は存在する(「アクロイド殺し」など)
・なんとなく、ポワロものの方がシリアス色が強く、マープルものの方がのほほんとしている気がする
もちろんマープルものでもシリアス作品はあるし(「鏡は横にひび割れて」など)、
逆もまた然り(「ポワロのクリスマス」など。
・ポワロシリーズの恋愛描写の方がドロドロしている気がする
(「白昼の悪魔」、「ホロー荘の殺人」、「五匹の子豚」などなど)
・マープルシリーズにはたまに、少女漫画っぽい作品がある。
また、マープルシリーズの方が、女性の活躍頻度が高い気がする。
多分そうだと思うけど、気のせいかもしれない……。「動く指」、「ポケットにライ麦を」など
・ポワロは年をとる、マープルは多分年をとらない
ポワロシリーズにおいて、ヘイスティングスは結婚し、ポワロは老衰する(「ゴルフ場殺人事件」、「カーテン」など)。
マープルはもともとお婆さんであり、年は『多分』取らない。
多分、と書いたのは、全作品を読んではいないので僕の間違いかもしれない(ご指摘があれば訂正します!)
・初期ポワロ作品にはワトソン役(ヘイスティングス)が存在した。マープルものには存在しない
ただし、ヘイスティングスが登場するのは初期だけ
というわけで、『シリアス路線が多く旅先での事件が多いポワロと、たまに少女漫画っぽかったり、牧歌的な村での事件が多かったりするマープル』という印象はあるのですが、
自分で書いておきながら、自信はありません!
大好きな作品(マープルシリーズ編)
マープルシリーズのお気に入りは、まずこの2つ。
『ポケットにライ麦を』
『ポケットにライ麦を』
卑劣な男に命を奪われた少女と、その復讐に立ち上がるミス・マープル。
少女の庇護者として、善き祖母のような存在感を発揮するマープルが印象的。
ミステリとしてもドラマとしても一級で、「見立て殺人」の要素もある名作。
『鏡は横にひび割れて』
犯行動機が秀逸で、さすが心理描写の巧いクリスティ、と唸らされる作品。
犯人はバレバレだけど、ドラマとしては非常に面白かったです。
この作品は、かなりシリアス色の濃い作品なので、ポワロシリーズに紛れ込んでいても、違和感がない気も。
続いては、村を震撼させた悪質な誹謗中傷手紙事件を描いた「動く指」。
キャラクターが実に活き活きしていて、特に女性キャラの描き方が素晴らしい。
中でも、「地味で変な子扱いされているダサダサファッションのヒロイン」が
「オシャレにキメた瞬間、モテモテ美少女に!」という、ニンマリシチュが楽しめる
おすすめ作品。
名門クラッケンソープ家の男たちの視線を独り占めする、超有能メイド、ルーシーの活躍が光る「パディントン発4時50分」
も少女漫画路線でお薦め。
いろんな男から迫られても、色恋にうつつを抜かさず仕事はテキパキ、とはいえ全くの堅物ではないルーシーの
恋の行方はいかに!
なお、殺人事件の方は割とどうでも良かったです(苦笑)
真面目な人には不謹慎だ! と怒られてしまいそうだけど、
死体にまつわるドタバタ劇がユーモアたっぷりに描かれる「書斎の死体」
も、ユーモアミステリ好きにはお薦めですね。
独断と偏見による マープル作品お気に入り評価 S~E
ポケットにライ麦を A+
鏡は横にひび割れて A+
動く指 A
パディントン発4時50分 B
書斎の死体 B
予告殺人 B
カリブ海の秘密 B-
復讐の女神 B-
大好きな作品(非ポワロ・非マープル編)
僕が最も好きなクリスティ作品は、実はポワロシリーズでもマープルシリーズでもない、
「終りなき夜に生れつく」という作品です。
詳しくはこちらに書いたので……と言いたいところなのですが、
こちらではモロにネタバレをしているので、注意。
ネタバレなしで書くならば、クリスティ作品では珍しく、ホラーに近いテイストで描かれる
情感たっぷりの恋愛ストーリーになっています。
心理描写が書ける作家はホラーも書ける、と僕は常々思っているんですが、
心理描写があれだけ巧いクリスティなのに、ホラー作品はほとんど残していません。
そんな彼女が書いたホラーが読めるのが短編集「死の猟犬」。
SFファンタジーの表題作や、ホラーに分類される「ジプシー」から、
純正ミステリの名作「検察側の証人」まで収録されており、クリスティの様々な作風が楽しめる
超お薦め短編集となっております。
ポワロシリーズの名作「五匹の子豚」に似た設定を持つ、「忘られぬ死」も
ミステリ要素・サスペンス要素・ドラマ要素と、三拍子揃った良作。
ただ、クリスティ作品の中でも個人的ベスト3に入る「五匹の子豚」と比べると、
(似ているだけに)少し弱いかもしれませんが……単体で考えれば十分以上に面白い作品です。
クリスティはスパイ・冒険小説も書いているんですが、個人的にこのジャンルはそこまで好きではなくて。
ジャック・ヒギンズとかロバート・ラドラム、ケン・フォレット「針の眼」など、大好きな作品もあるんですが、
クリスティのスパイ・冒険モノは……あんまり面白くはなかったですね。
ただ、「親指のうずき」に出てくる悪役はかなりインパクトがあったんで、一応お薦めしておきます。
と、ここまで書いて何か忘れてると思ったら、超有名作を忘れていました。
「そして誰もいなくなった」
「見立て作品」&「クローズド・サークル」の定番作品で、オールタイムベストの常連、
恐らくクリスティの作品の中で一番売れた作品でもあります。
個人的にも結構面白いと思います……が、あんまり読みやすい作品ではなかったような……。
クリスティの入門書としてはあまりお薦めではないかなぁ。
前回も書きましたが、「オリエント急行」とか「ナイル」あたりのとっつきやすい作品から入った方がいいと思います。
あ、ちなみにクリスティ最大の地雷作品として一部で囁かれている「フランクフルトへの乗客」
ですが、ちゃんと読める作品でした。
お薦めか?と聞かれると別にお薦めはしませんが、想像していたよりは遥かにマシでした。
独断と偏見による クリスティ作品お気に入り評価 S~E(今まで書いたものを全部合体させただけです)
ポ→ポワロ マ→マープル 他→その他
「オリエント急行の殺人」 S ポ
「葬儀を終えて」 S ポ
「五匹の子豚」 S ポ
「終りなき夜に生れつく」 S 他
「死の猟犬(短編集)」 S 他
「ナイルに死す」 A+ ポ
「ポケットにライ麦を」 A+ マ
「鏡は横にひび割れて」 A+ マ
「忘られぬ死」 A 他
「そして誰もいなくなった」 A 他
「カーテン」 A ポ
「ホロー荘の殺人」 A ポ
「動く指」 A マ
「メソポタミアの殺人」 A- ポ
「パディントン発4時50分」 B マ
「書斎の死体」 B マ
「予告殺人」 B マ
「死との約束」 B ポ
「杉の柩」 B ポ
「春にして君を離れ」 B 他
「マギンティ夫人は死んだ」 B- ポ
「ABC殺人事件」 B- ポ
「三幕の殺人」 B- ポ
「満潮に乗って」 B- ポ
「白昼の悪魔」 B- ポ
「親指のうずき」 B- 他
「カリブ海の秘密」 B- マ
「復讐の女神」 B- マ
「フランクフルトへの乗客」 C+ 他
「ヘラクレスの冒険」(短編集)C ポ
「愛国殺人」 C ポ
「もの言えぬ証人」 C ポ
「NかMか」 C 他
「アクロイド殺し」 D ポ
「スタイルズ荘の殺人」 D ポ
「茶色の服の男」 D 他
「七つの時計」 D 他
最後に、ネタバレになりますので、白文字で書きますが(反転させてください)
恋愛関係での悪女&チャラ男は超高確率で死にますね
うまくいかなかった最初の結婚生活の影響でしょうか……