なぜ、私は記事を書くのか

自分の事を知ってほしい。相手の事が知りたい。
自分の気持ちや知識、情報を相手に伝えるため、人類は会話を生み出しました。
しかし会話だけでは、目の前にいる人間としかコミュニケーションが取れません。
そこで、生まれたのが文字でした。

文字の誕生によって、遠くにいる人同士でもコミュニケーションが取れるようになり、自らの知識を後世に伝える事もできるようになりました。

そうした動きの中で、人の想像力は多数の物語を生み出していきます。
作家と読者は場所を超えて、時代を超えて、一つの世界を分かち合えるようになりました。

本というツールを通じて、作者と読者が素敵なひと時を共有する。
作者は物語を書くことで、読者を勇気づけ、笑顔を作り、
そんな読者の笑顔を見て、作者の心にも暖かな火が灯る。
お金をもらうために書くだとか、お金を払ったんだからその分だけ楽しませろというような、そういったつまらない商業主義ではなく、もっと原初的で素朴なWin-winの関係。
作者と読者の幸せな関係を、私は尊く感じます。
そうした想いは、本書の題材となった宮沢賢治や、
あるいは本書を描いた野村美月さんもまた、心に秘めていたのではないでしょうか。
私の思い違いかもしれませんが、だからこそ、私はこの本に心を動かされ、こうして記事を書いています。
この文章を読んでくれたあなたに、素敵な本を知ってほしくて。

変質していく目的(「文学少女と慟哭の巡礼者」の感想)

なぜ人は、物語を書くのか。
そうすることで、読む人を幸せにしたかったと、
本書の『悪役』であるミウは言います。
繰り返しになりますが、それは物語を綴る目的の中で、一番素朴で、一番素敵な『志』だと私は思います。

しかし、ミウは物語を描けなくなりました。
当然、彼女は、作家になれませんでした。
他者への憎しみに押しつぶされるようになりました。
ミウは他者から評価されるための手段として物語を綴るようになり、いつしか物語を綴り続ける事でしか、評価を得られない。
好きな人を繋ぎとめられないと、考えるようになってしまいます。

雨にも負けず、風にも負けず、
誰かの幸いのために、命を燃やすことがミウにはできませんでした。
デクノボーと呼ばれ、褒められぬ事に耐えられませんでした。

『誰かの幸いのために、命を燃やす』のではなく、
愛されるために、読者を自分に繋ぎとめるために、物語を綴るようになった彼女は、物語が生み出せなくなると、盗作に手を染めるようになりました。
純粋な『志』は無惨に変容し、ミウは何も生み出せない、本物のデクノボーになってしまいました。

物語の語り手であり、かつてのミウの半身でもあった井上心葉(このは)は、
ただ、大好きな人に気持ちを伝えようと、その想いのままに物語を綴り成功を収めます。
ジョバンニ(ミウ)は自分を置いていったカムパネルラ(心葉)に、妄執とも呼べる愛憎を抱くのでした。

そんな銀河鉄道の旅を影で操る『ブルカニロ博士』の正体はなかなかに意外で、完全にジョバンニ(ミウ)を食っている点もまた、エンタメとしてとても驚かされました。

文学少女シリーズの紹介(全8巻のシリーズですが、私が読んだ、5巻までの紹介です)

順番が逆になりましたが、ここでシリーズの紹介を簡単にします。
(いきなりミウとか心葉とか言われても困りますよね:汗)

本シリーズは、元新人賞作家(絶筆中)の少年、井上心葉(このは)と、『文学少女』である天野遠子の2人を中心に、2人にかかわる人々のドラマを描いた、作品シリーズです。

主に心葉視点で物語が進み、どうにもならなくなったところで、物語を解きほぐすため、満を辞して遠子が登場する。心葉をワトソンに、遠子をホームズに例えるなら、ミステリ的な骨格を持ったシリーズともいえると思います。
また、洋の東西を問わず、過去の文学作品を下敷きに物語を綴っていくという意味で、二次創作的なシリーズという事もできるでしょう。

どんな作品が下敷きにされているかと言いますと、
1巻が「人間失格」、2巻が「嵐が丘」、3巻が「友情(武者小路実篤)」、
4巻が「オペラ座の怪人」(原作未読です!読んでおけばよかった!)、
5巻が「銀河鉄道の夜」というラインナップになっております。

人間失格

人間失格著者: 太宰 治

出版社:三栄書房

発行年:2018

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嵐が丘 上

嵐が丘 上著者: 小野寺 健/E. ブロンテ

出版社:光文社

発行年:2010

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友情 新装版

友情 新装版著者: 小田切 進/峰岸 とおる/武者小路 実篤

出版社:ぎょうせい

発行年:2010

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銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜著者: 宮沢 賢治

出版社:三栄書房

発行年:2018

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特に2巻の「文学少女と飢え渇くゴースト」

“文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)

“文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)著者: 野村 美月

出版社:KADOKAWA(エンターブレイン)

発行年:2006

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における『狂気の愛・妄執』は、本家『嵐が丘』のインパクトを超え、魂の震える思いがしました。

1巻の「文学少女と死にたがりの道化」

“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)

“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)著者: 野村 美月

出版社:KADOKAWA(エンターブレイン)

発行年:2006

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にしても、虚ろな内面を愛想笑いで隠す、大庭葉蔵のキャラクターを見事に活写されていたように思います。

そして何より、宮沢賢治の生き方を通して、素朴な物語信仰を綴った本書。
全く売れず、社会から見向きもされなくとも、雨にも負けず、風にも負けずに物語を綴った宮沢賢治の生き様を改めて振り返る事で、
ワナビ(死語)としての私も、とても勇気づけられる想いがしました。
たとえ、ほとんどの人に読まれなくても、プロになれなくても、
伝えたい想いを文章で、物語を通して、綴っていきたいと、
改めてエネルギーが湧いてきた次第です。

まぁ、要らない茶々を入れるなら、病みキャラが多すぎだろ、
女性登場人物の半分がメンヘラやんか!と言いたくもなりますが、
『人間失格』で『嵐が丘』なので仕方ないかな、とそこは目をつぶってくださいw

あ、最後に、琴吹ななせちゃんがツンデレかわいいので、そこもプッシュしておきます!
最終的に心葉とくっつくのは、多分ななせじゃなくて遠子なんだろうなぁ。