85点。
複雑かつ壮大な設定を、緻密に描き切った怪作。えげつない下ネタ(範野作品の中ではマシな方だけど)と、説明パートに若干の難点を感じるが、丁寧に作られた作品だと感じた。(感想では、他作品との比較を多少しているので、嫌な気持ちになる方はいるかもです。ごめんなさい)
複雑かつ壮大な設定を、緻密に描き切った怪作。えげつない下ネタ(範野作品の中ではマシな方だけど)と、説明パートに若干の難点を感じるが、丁寧に作られた作品だと感じた。(感想では、他作品との比較を多少しているので、嫌な気持ちになる方はいるかもです。ごめんなさい)
☆はじめに:ミステリ的SFゲーにおける、四つの要素
ノベルゲーのSF作品の多くは、ミステリ要素を強く備えています。
犯人当てミステリには、「A:複雑な難事件(トリック)」を「B:名探偵が解く」という様式があります。
SF作品では、「A:複雑な世界観(ギミック)」を「B:読者に理解させる」という事になります。
当たり前ですが、「A」の部分が大きく複雑であれば、「B」の部分が難しくなります。
更に大前提として
α 整合性がきちんと取れているか
も重要ですし、
a 世界に没入し、愛着を持つための人間ドラマ、キャラクターの魅力
がないと個人的には苦しいです。
つまり、ミステリ要素を持つSF作品は「A:魅力的な謎」、「B:見事な種明かし」、「α:矛盾のない設定。整合性」、「a:SFミステリを楽しむための、SF以外の部分」の4つが備わって初めて、楽しむことができる、と個人的には思っています。
もちろん、人によってaは必要ないと思う方もいるかもしれませんし、
ある程度αがイケてなくても楽しめる方はいると思います。
更に、読者の理解力によっては、同じ作品を読んでも「見事な種明かし」だと感じるか、「わけがわからん」と感じるかには違いがありますし、当然「a」の部分も好みがあり、人によって評価は千差万別だとは思います。
☆四つの要素を作品に当てはめる
個人的にA、B両面ともすぐれていると思う作品、つまり
「複雑な設定を、誰にでも理解できるように描かれている」作品として挙げたいのが
(ever17・ひぐらしのなく頃に・シュタインズゲート)の3作品です。
Aは優れているが、Bに難点がある作品、つまり
「複雑な設定を、理解しづらいながらもなんとか描いた」作品には、「remember11」を挙げたいです。
本作「景の海のアぺイリア」も、僕にとってはここに分類される作品です。
テレビ版「新世紀エヴァンゲリオン」もここに入ります。
壮大な設定を持つ作品ばかりを、好きなわけではありません。
「こじんまりした設定ながら、理解しやすく破綻なくまとめた」作品も大好きです。
思いつくのは(never7・12riven・夢見師・パンドラの夢・セパレイトハーツ)あたりの作品になります。
「魔法少女まどか☆マギカ」もここに入るのかな。
批判になってしまいますが、
1か月前にクリアした「island」は「設定に整合性が取れていない」と感じたので評価は低いですし、
「人間ドラマに欠け、そもそも世界に没入できない」「i/o」は、プレイ自体が苦痛でした。
(SFではありませんが、「うみねこのなく頃に」も人間ドラマに欠け、そもそも世界に没入できませんでした)
私見ですが、本作「景の海のアぺイリア」はまず間違いなく「A」の部分は優れています。
複雑で、壮大なSF作品です。
しかし「B」の部分はギリギリ及第点だと感じました。
理解できなくはないけども、理解が難しい作品です。ただしそれは、僕がガチガチの文系で、機械音痴だからかもしれません。
「α」の部分も、僕にわかる範囲では特に矛盾を感じられません。複雑で壮大な作品でありながら、設定に矛盾を生じていないのは評価ポイントになります。
「a」の部分は、主人公のえげつない下ネタと三羽いじり(三羽の、捻りのない「嫌いです」も含めて)にドン引きし、序盤で投げそうになりましたが、そこを乗り切った中盤以降は楽しめるようになりました。
ヒロインとしてはましろが一番好きです。次点でアぺイリアが好きです。
既にプレイした範野エロゲ3作(「あの晴れ渡る空より高く」、「私が好きなら好きって言って」、本作)の中では、本作「景の海のアぺイリア」が最も面白かったです。
☆本作における「ループ」の面白さ
初めは悲劇に終わる物語を、ループを繰り返すことでハッピーエンドを目指す。
ループものにおいて、このタイプの王道作品は多く見受けられます(個人的にはそれも大好きです)。
しかし本作では、主人公たちがハッピーエンドに至りそうになるたびに、「ループ」を繰り返される。
という、王道とは全く逆の展開になっています。
そこに新鮮味を感じ、とても楽しく読むことができました。
また、その「ループ:タイムリープ」の謎に対する回答が、仮想空間の『システム復元』というのも実に面白く、あぁ~確かにこれなら作品内の謎も解決するなぁと感じた次第です。
もう一点、追記として「ループ」回数が多くなればなるほど、
『つまらない周・ダレる世界線』が生まれてきたりするのですが、
本作では毎回ループ後の「セカンド」内での展開に違いがあり、毎回楽しく読めたというのも評価ポイントです。
毎回パートナーとパートナーの「デザイア」が違うのも、「周ごとの違い」に幅を持たせていますね。
シンカーとのダウト対決などは痺れました。
☆どうでもいい話(下ネタ)
範野エロゲはどうでもいい下ネタが多く、その時点で苦手な人は苦手だと思います。
実際、僕も苦手な方です。
しかし、正直下ネタの必要ない(作者の表現の癖でしかない)「晴れたか」「私が好きなら」と違い、
本作において、下ネタは非常に大切な要素です。
なので、無条件に批判するのは躊躇われます。
ただし、やはり序盤のいきなり公園でオナニーを始めるシーンや、
オナニー後に洗わない手で三羽と握手するシーンなどは、
(主人公の気持ち悪いぐらいの変態性)を表して、のちの展開につなげるという効果はあっても、
やっぱりもう少しオブラートに包んでも……とは思いました。
「セカンド」内での下ネタバトルに関しては、
下ネタ忍術で闘う山田風太郎の名作「魔界転生」や「忍びの卍」などを潜り抜けている私としては、
別段問題は感じませんでした。
下ネタとは関係ありませんが、個人的なちょっとした減点としては、
読者の思考誘導が少し作為的に感じられた部分があったことです。
それは、「ブックマン」の正体です。
ブックマン=空観のスワンプマンは別に構わないのですが、主人公たちが「シンカー」の正体ばかりを考えていて、
シンカーと同じくらい怪しいブックマンについて、ずっとスルーしていたのは謎でした。
後は、各ルート序盤のヒロインとのイチャイチャが、あんまり面白くなかったです💦
ヒロイン的に一番好きだったましろとのイチャイチャですら、ちょっと退屈でした。
序盤の「平和だった頃のセカンド」でのシーンもあまり面白くなかった💦
(装備をかわいさで選ぶシーンとかは、ちょっとイライラしました。
ソロプレイならいいけど、協力プレイでそんなプレイヤーとは組みたくないw)
緊迫感のあるシーンは面白かったのですが……。
☆一番最後だけよくわからなかった
一番最後、ファーストではなく、現実世界から主人公たちはログインしてますよね?
七海とかも生きていますよね?
そこだけよくわかりませんでした。
三羽を除いた主人公たちは、ファースト内のAIではなかったんですか?
☆総評
僕の理解力不足はあるにせよ、本作「アぺイリア」は「複雑な設定を、理解しづらいながらもなんとか描いた」作品ということになりました。
多分、ちゃんと考えれば理解できるように書かれているようんじゃないかな。
SF以外の点でも、ましろちゃんがかわいかったし、
楽しい仲間と「セカンド」でいつまでも遊びたいなと感じる読後感で、良いゲームを遊んだなぁとスッキリした気分で終える事ができました。
僕自身がソフトSなのでHシーンも地味にエロくて良かったです。
総じて、良作でした!