武者小路実篤と志賀直哉について
武者小路実篤は、僕の好きな作家です。
彼の作品は、毎回、しょうもないけど気のいい主人公が出てくるのです。
武者小路実篤、という作家名を見ると、なんだか難しそうと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは誤解です。これは仰々しいペンネームではなく、彼の本名なのです。
彼の従妹には勘解由小路康子(かでのこうじ・やすこ)という、これまた仰々しい名前の女性がおり、「暗夜行路」、「小僧の神様」などで知られる志賀直哉の妻になっております。
(志賀直哉の小説も大好きです)
むしゃ先生と志賀直哉は大の親友でもあり、恋愛小説「友情」に登場するイケてない主人公のモデルが実篤自身、イケメン親友のモデルが志賀直哉だとも言われています。
(とすると、ヒロインは勘解由小路康子さんなんだろうか……)
また、志賀直哉の小説「和解」に出てくる、友人想いの小説家は、武者小路実篤がモデルになっています。
二人の固い友情は、読んでいて本当に羨ましく感じます。
むしゃ作品を読む限りだと、実篤先生は志賀先生をめちゃくちゃ尊敬していて、自分より格上の作家だと思っている節もありますね。
(実篤の方が、志賀直哉より2歳年下というのもあるかもしれませんが)
また、これは思い込みかもしれませんが、志賀直哉はうじうじと思い悩むタイプに見えますし、武者小路実篤は天真爛漫な性格にも思えます。
話が脱線しましたが、むしゃ先生の作品は純文学の中ではめちゃくちゃ読みやすい部類なので、純文学アレルギーの方にはぜひお薦めしたいです。
(志賀直哉も読みやすいです)
本書について
本書は、気のいい主人公と、おてんば娘の悲恋モノ。
主人公の造形は、むしゃワールドではすっかりお馴染みで、
僕には女に好かれない自信があったし
と、謎の自信に満ち溢れた男です。
ヒロインの夏子にお辞儀をしたのに、相手に無視されたため、すっかり腹を立ててしまい「もう二度とあいさつなんてしてやるものか!」と思ったり、
その後、主人公のお辞儀に気づいていなかった夏子に謝られると、有頂天になってしまう、かわいくもおめでたい主人公。
「友情」に登場した野島に引き続き、何ともチャーミングな主人公ではありませんか!
一発芸を無理やりやらされそうになり、困っているところを、
ヒロインの夏子が助けたことから、主人公はすっかり夏子に惚れてしまいます。
夏子はでんぐり返しと逆立ちが得意なおてんばな女性。
やがて二人は相思相愛になりますが、主人公は4か月間の欧州旅行へ出かける事となります。
愛と死
本書の舞台は、今から100年前。
そのため、ケータイ電話がありません。
飛行機もないので、えっちらおっちら船旅をします。
ヨーロッパが遠い時代です。
離れ離れになった二人は、読んでて笑えてくるような、
熱烈で、はずかしくて、かわいくて、滑稽なラブレターを交換し合います。
もらったラブレターが嬉しすぎて、口に咥えたまま前転してしまう夏子のシーンは、バカップル小説として必見のシーンです!
しかし、残念ながら主人公がヨーロッパから日本へ帰る直前、
あれだけ元気だった夏子は、スペイン風邪で亡くなってしまうのでした……。
(やけに逆立ちのシーンが多いので、逆立ちに失敗して首でも折ってしまうのかと思いながら読んでいました)
最後はしんみりとしてしまう、悲恋小説ではありますが、
恋愛に浮かれる無邪気なバカップルの姿が微笑ましく、むしゃ先生らしい作品に仕上がっています
無邪気なバカップル+しんみり話の中編を探している方は是非!