「キラ☆キラ2」とも呼ぶべき、瀬戸口廉也×オバイブの集大成的作品。
全編、「創作論」を通して「人生」を描いているので、創作論の部分を楽しめるかどうかで評価は分かれそう。
個人的に、自分に一番近いのが花井三日月だったので、非常に感情移入しながら読めました。ただ、本当は香坂めぐるのようになりたいなぁ、とも思っています。
全編、「創作論」を通して「人生」を描いているので、創作論の部分を楽しめるかどうかで評価は分かれそう。
個人的に、自分に一番近いのが花井三日月だったので、非常に感情移入しながら読めました。ただ、本当は香坂めぐるのようになりたいなぁ、とも思っています。
☆登場人物の立場について
本作の登場人物は音楽に対して様々な姿勢を取っています。
この感想では、個別ルートの感想に行く前に、キャラクターの立場について、まとめてみようと思います。
主人公の対馬馨は「完璧に美しい音を作り出すこと」。花井是清もそうですね。
学校のテストとは違い、「完璧・100点」というものがない芸術の世界。
そんな世界で、完璧なものを作ろうとストイックに根を詰め、それが行き過ぎてしまった結果、花井是清は音楽に対してニヒリズムに陥ってしまい、最後には自殺してしまいます。
澄ルートの馨の行きつく先も、似たようなものでしょう。
もちろんストイックにやる事は本当に大切だと思いますが、僕にはちょっと真似ができないところです。
ちなみに、馨君は「音楽によって狂ったのではなく」、元々あぁなりやすい傾向があったことは、一番『平凡で、真っ当な』人生を歩みそうな尾崎弥子ルートからも読み取る事ができます。
弥子ルートは読後感の爽やかなハッピーエンドですが、将来医者の道に進んだ馨君が、何かの拍子にとある奇病・難病などに興味関心を強く持ち、新薬開発のために日夜研究に籠りきってしまわないことを祈ります。
話を戻しまして。
香坂めぐるは「とにかく、今、音楽をしている自分を楽しむこと」。
僕の、創作に対する考え方は馨に愛される前の花井三日月に一番近いのですが、
理想としては、めぐるのようになりたいです。
(「もし年取ってホームレスになったらどうするの?」と聞かれて)
『それでもきっと楽器さえ弾いていれば楽しいよー』
と笑顔で答えられたなら、創作において苦しむ事もないし、自殺をすることもないでしょう。
金田は「有名になって、金持ちになって、女を侍らせて」以下略。
ごめんなさい、こういう人は世の中には多いのでしょうが、僕にはよくわかりません。
花井三日月は、誰かに音楽を届ける事で「リアルでは愛してもらえない自分を、愛してもらうこと」。
リアル生活でうまく自分を表現しきれないからこそ、音楽という表現を通して自分を表現していく。
その先にあるのは「音楽を通して、愛を得ること」であり、
「自分と同じように、リアルでは愛してもらえない人を勇気づけること」でもあります。
そんな三日月に、香坂めぐるは言います。
『ずっちゃんは人に認めてほしいんだねぇ。自分のことをわかって欲しいんだねえ。でも、ステージにあがって脚光を浴びたって、演奏が喝采されたって、多分ずっちゃんが求めてるものは何も手に入らないかなぁ』
馨に愛してもらうことで、三日月は強くなります。
あれほど不安定だった三日月が、顔の皮膚を焼かれ、声が出なくなるという過酷な状況下でも、しっかりと立ち続ける事ができたのは馨からの愛を深く感じていたからでしょう。
『作者の手を離れれば、作品は読者のもの』という言葉がありますが、読者が自分勝手に作品を解釈し、(作者の狙いとは全く関係なく)理解したつもりになり、評価したり貶したりする以上、三日月の求めているものは結局、手に入らない。
だからこそ、音楽以外の部分で三日月は馨に愛された上で、音楽では『誰かに与える』ことを最優先に考える。『愛を得ること』にフォーカスせず、ただ与えること。それが、創作者としての三日月を強くし、成長させたのではないかと思います。
(馨からの愛を得て、そこで満足して創作意欲を枯らしてしまってもおかしくないのですが、
馨と結ばれてからも、以前のように精力的に音楽に取り組む三日月には、尊敬の念を覚えます。
恥ずかしながら、自分が幸せだった時期は、それだけで満たされてしまい、創作をサボってしまった私です)
一方で、尾崎弥子ルートでは「学生の楽しみとして、聞いてくれる人に喜んでもらう」という、
フリーマーケット的な、より気楽な草の根音楽家たちの活動を楽しむことができます。
これもまた、尊い創作活動だと思います。
☆尾崎弥子ルートの感想(評価はA。S~E評価で)
「キラ☆キラ」における石動千絵ルートに、該当するルート。
主人公がプロへの道を進まず、音楽を学園生時代の『楽しみ』として、卒業後は真っ当な生活へと回帰していくルートです。
個人的に、「キラ☆キラ」の千絵ルートは正直そんなに面白さを感じなかったんですが、
この弥子ルートは、とても楽しめ、『平凡な幸せ』も悪くないなと思いました。
弥子が、というか、定時制高校のみんなとの青春がとても良かったです。
定時制高校を描いた作品はほとんどプレイしたことがありませんし、僕自身も経験がないのですが、
これだけでゲームが1本作れるぐらい、魅力的なキャラクターがたくさんいて、楽しかったです。
水商売の豊崎さんや、弥子の親友の佐藤さん、引きこもり天才作曲家の胡桃ちゃんなどに囲まれて、
本当に良い学園生活でした。
☆香坂めぐるルートの感想(評価はB)
個人的には一番薄味に感じたルート。
現状は変わらなくても、心もち一つで『しんどくて先が見えないバンド生活』なのか、
『仲間たちと苦楽を共にする充実バンド生活』なのかが変わるということでしょうか。
基本的には道半ばというか、大したことは起こっていないし、何も解決していない気もします。
めぐるちゃんと、もっと恋愛っぽいエピソードがほしかったんですが、
まぁそういうゲームでもないし、そういうキャラでもないので仕方ないのかなぁ。
☆来島澄ルートの感想(評価はB+)
バンドを解散したあたりから、主人公が僕の共感を超えて、違う人種になってしまったので、
ある意味助かりました。
正直キラ☆キラのきらり1の方が読んでいてキツかったですね。
大きな減点ではないけれど地味にもやもやするのが、主人公が選択肢にあまり従わなかったり、
大事なところで選択肢が出ない事です。
共通ルートの話になりますが、「定時制高校を辞めて、バンド活動を始める」というのは、
当初『1年、と親からも期限を設けられ、高認試験も受ける。自習の時間を取る』という話だったはず。
だからこそ、僕は初回プレイで『(1年ぐらい)何かに賭ける人生があっても良い』という選択肢を選んだはずなのですが(これによって、弥子ルートには入れなくなります)、
馨君は1年経っても高認を受けた様子もなく、バンドをダラダラ続けていたりします。
高認試験を受けるという話だったので、これは『安全圏』からのバンド生活のはずで、
何も『人生をバンドに捧げろ』という選択肢ではなかったはずなんですが……。
澄ルートへの分岐点となるのも「三日月にソロ活動をさせないor三日月がソロ活動・バンドを両立させる」という選択肢だったはずで、これも別に三日月を追い出すという選択肢ではなかったはず……。
馨と三日月の間にすれ違いがありましたし、そもそも難題だったのでしょうが……この辺は、ゲーム上の不備なのか、馨君の発達障害的パーソナリティによるものなのかが微妙なところです。
更に言えば、その後、風雅が過労で倒れたところで馨はバンドを解散してしまいますが、その際も選択肢はありませんでした。
確かにバンド活動が停滞していたのは事実ですが、田崎さんも臨時で戻ってきてくれましたし、
金田はまぁいてもいなくてもそう変わらないはず。
集客・収入面ではむしろ楽になっていたところで、そこまで絶望する状況でもなかったように感じます。
バンドリーダーという重責に耐えかねてやめてしまったように見えましたが、
それならば風雅やめぐるにも役割・責任を割り振るとか、あるいは休むにしても、風雅が戻ってくるまでいったんバンド休止という事で、リフレッシュすれば良かったのでは? と思ってしまいます。
もちろん馨君のメンタルが限界だった、という一言で済む話ではありますし、大変だとは思いますが、「0」か「1」かの極端な選択ばかりを馨君が取っているように見えて、共感が妨げられました。
「キラ☆キラ」もそうでしたが、本作でも『横の繋がり』の大事さが描かれていると思います。
いろいろなバンドとの人間関係があって、お互い持ちつ持たれつで、サポートメンバーとしてメンバーを借りたり、お返しに楽曲を提供したり。
そもそもデビューのきっかけ自体も、花井さんや八木原さんとの出会いで、その後のプテラノドンとの繋がりや、花鳥風月からめぐるさんが来ていたり。
だから、一人で家でしこしこ作曲しててとうとう気が狂ってしまう澄ルートが、あぁなるのは必然の結末だと思いました。
澄ルートに関して言えば、他ルートではHの際にコンドームを使っていますが、澄ルートでは使っていません。この辺りも、馨君の自棄っぱち感の現れだとは思います。
初Hの時ならともかく、妊娠までに3年の同棲をしているので、その後もずっと自棄になっていたという事になります。
しかしこうなると、金田の言うように「一緒にいて癒されて、何が悪いの?」というふうに僕は思ってしまいます。
もちろん、それだけでは満たされない心の渇きがあるのは理解できますし、そういう時に人間は外で不倫をしたり、ギャンブルをしたり、酒を飲んだりしてしまうのでしょうが、何もあそこまで自棄にならなくてもいいのに、と思いました。
どうせならいっそ、澄にDVをはたらいたり、レイプまがいのHシーンなどもあってよかった気がします。それならば、より馨君のクズっぷりが強調されますし、事実それをしてもおかしくない精神状態だった気もします。
澄のリスカの痕が増えてるとか、いくらでも『鬱』要素をぶち込むことはできたはずですが、そこまでは描かれないのも、徹底されていないように感じてしまいました
(まぁ、そこまで描かれたら、読んでてしんどかったと思いますが)
☆花井三日月ルートの感想(評価はA)
弥子ルートは独立した一篇として、バンドルート(めぐる・澄・三日月)の中では総集編的なルート。
酸を浴びせられてからの三日月の復活や、兄の花井を超えていくところ。
そして何より、バンドメンバー同士の絆を強く感じるルートでした。
また、三日月と馨の関係性も実に良かったです。
最後、結婚しなかったのは(理由はちょっとよくわからなかったものの)これはこれで良かったという気もしました。
これからも公私ともにパートナーとして、仲間として絆を深め合ってくれることと思います。
バンドメンバーの中では、風雅や金田の存在も光りましたが、
めぐるちゃんの存在感が少し薄めなのが気になるところでした。
また、どうせなら復活ライブに田崎さんや、
(これをやるとわざとらしすぎるかもだけど)定時制時代の仲間も観客席にちらっと映してくれたりしたら最高だったかも。
定時制時代の仲間は求めすぎかもしれませんが、
メフィスト君や、水野さんは復活ライブに来てくれなかったんでしょうか?
それとは別に、特にこのルートでは演出の弱さが気になりました。
三日月が泣きながら歌って、伝説になったテレビ番組でのライブとか、
「アニメとタイアップしたバンドのPV」とか、そういったものを
もっとムービーなどを使って見せてほしかったです。
☆総評
ゲーム全体を通して、「バンド・音楽」と共にある「人生」を描いた作品だなと感じました。
弥子ルートは、定時制の仲間たちとの青春を描いた非常に清々しいものになっていましたが、
弥子以外のルートでは作品期間が数年にも及び、金田が子供を作り、
馨君と三日月も25ぐらいになるまでを描いていますよね。
澄ルートではおかしくなっちゃいますし、めぐるルートはあまりハッピーエンドには見えないけど、
三日月ルートと、弥子ルートで幸せな気持ちになれました。
三日月ルートでは、馨君の人生がこれからも輝いていく事を
弥子ルートでは、本当に素敵な同級生たちと、卒業しても疎遠にならずに交流してくれることを祈りながら、この感想を書いています。
良い作品を、ありがとうございました!