前おき

この春、2003(2023ではない)年発売の『三国志9』にハマってしまい、
その勢いで読み返してしまった。

本当は北方謙三の「三国志」の方が好きだし、陳舜臣の「三国志」などまだ読んでいない三国志にも惹かれるところがあるのだが、
吉川英治の「三国志」は良くも悪くも牧歌的な雰囲気が漂うため、疲れた時にはピッタリなのだ。

「演義系」三国志と「正史系」三国志

「三国志」には主に二系統の作品が存在する。
中国には三国時代(220~263)という時代が存在した。
それを陳寿という当時の文官が歴史文書としてまとめたのが「正史」である。

一方、この三国時代を舞台にして、劉備(蜀)を正義とする物語が口承文学として流行り、これを明の時代にまとめたのが羅貫中の『三国志演義』。

これは、一応三国時代の歴史を大まかになぞりながら、
劉備(蜀)=正義、曹操(魏)=悪という前提のもと、
カッコいい蜀の武将たちが大活躍をしたり、諸葛亮が妖術まで飛ばしたり、追手の前に張飛が立ちふさがり橋の手前で大喝すると、橋が落ちるなど、
ファンタジー小説に半分足を突っ込んだ内容になっている。

この『演義系』三国志は『ファンタジー小説』として読めば、まずまず楽しんで読めるし、娯楽小説としての見せ場も多いため、派手な活躍も楽しめる。
一方で、「本当の三国時代はどうだったんだろう?」と調べていくと
(僕より詳しい人はたくさんいるので、あまり深入りしたくないが)、
『演義』には嘘というか、うさん臭さが付きまとうのもまた事実である。

ここは、『演義』と実際の歴史は全く別物だと割り切って、『演義』を楽しむときはファンタジー小説を読む気分で味わえばそれでいいとも思うし、
一方で、もうちょっと深くこの時代を知りたいと感じる人にとっては、『食い足りない』作品。
それが『三国志演義』である。

三国志演義 1

三国志演義 1著者: 井波 律子/羅 貫中

出版社:筑摩書房

発行年:2002

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吉川三国志について

さて、このままでは「三国志演義」の話になってしまう。
この記事で取り上げるのは、あくまでも「三国志演義」をベースにした吉川英治作、「三国志」なのだった。

とはいえ、元々演義がベース。大まかなところは変わらない。
そこで、まずは演義との違いを取り上げてみる。
〇は個人的に「演義」よりも優れていると思う点、✖は「演義」よりも劣っていると思う点である。

〇「演義」は講談調であるが、「吉川三国志」は小説である。

講談調も慣れてしまえば何のことはなく読めるのだが、やはり小説の方が読みやすいという人は多いだろう。

✖諸葛亮の死(234年)に物語は唐突に終わる。しかし「演義」ではその後も物語は続き、呉の滅亡(280年)まで続く

確かに、前半での関羽・張飛・諸葛亮といったスーパースターたちの華々しい活躍が失われ、徐々に寂しくなっていく三国時代。
諸葛亮の死を最後に筆を置くという選択も一つの手であり、実際多くの日本人作家がそれを真似している。

しかし、個人的には仮にも「三国志」というのだから、「三国時代」の最初の14年だけを書いてそれで終わりというのは、あまりに悲しい。
その後の事も知りたいと思うのは、当然ではなかろうか。

✖第1巻の謎展開

個人的に最大の謎は、第1巻の吉川先生オリジナル部分である、
劉備と麋夫人との恋物語である。
なぜか麋夫人は「白芙蓉」という名の高家の令嬢として登場し、劉備とちょっとだけ逢瀬を過ごすのであるが、これがなぜか「後の麋夫人である」という力技をかましているのには驚嘆させられる。
じゃあ麋竺や麋ホウも高家のボンボンだったのだろうか?
確か富豪の家出身ではあったはずだが。

また、オリジナル展開では張飛は割と普通の男である。
それが劉備配下に入った途端に、粗暴で酒癖の悪い「演義」どおりのパワハラバカになってしまうのはどうした事か。

オリジナル展開が終わり、反董卓連合が結成されると、途端にオリジナル展開は影を潜め、『演義』とほとんど変わらない内容になる。

劉備の青春を描きたいならそれならそれでいいが、それなら最後までこの路線でやってほしかった気もするし、そうじゃないならもうちょっと当時の後漢の情勢

(劉焉の入蜀や、西涼太守として登場する董卓と、馬騰や韓遂の関係。
袁紹陣営VS袁術陣営の対立など、歴史的側面に力を注いでほしかった気がする。特に董卓(後を継いだリカク)・馬騰はいずれも西涼太守として登場するため、よくわからないことになる。
より賢いとされる劉協=献帝を帝位につけたがる董卓の行動も謎である。
傀儡として扱いやすい劉弁=小帝のままで良かったのでは?
更に言えば、献帝は大人になると、別に賢くないのだった)

△あまりにも怪しい妖術は、なるべく物理法則を超えない範囲に書き直されている

ただし、左慈に関してと、兀突骨に関してはそのままなのが気になる。

〇曹操・呂布に対する目が「演義」より優しい

もっとも、その後に出ている作品に比べるとあれなのだが、少なくとも「演義」よりは優しく、人間味のあるキャラクターになっている。

✖ チョウコウは3度死ぬ・

魏の武将、チョウコウである(漢字変換できない)。
吉川先生の執筆当時、『演義』ですらろくに翻訳されていなかったのだろうか?
そうだとしたら吉川先生の欠点ではないが、結果として魏の歴戦の名将チョウコウは3度も死ぬことになってしまう。
『演義』を読んだ人には、チョウコウは息の長い名将であり、そんな簡単にホイホイ殺して良い人物ではないはずなのだが。

?五斗米道が邪教扱い

これはガチでわからん。張魯の五斗米道が邪教だという印象は僕にはない。
しかし吉川先生は邪教だと断言しておられる。よくわからない。

?女はバカである

まずは書かれた時代を考えたいところではあるし、
実際「演義」でも女キャラは基本バカなので吉川先生のせいではない。
しかし、今の感覚で読むと気分を害する人が一定数いるだろうとは感じる。

袁紹の後継者争いを炊きつけた劉氏、劉表の後継者争いを炊きつけた蔡氏、
呂布の足を引っ張りまくる夫人&愛人(二代目貂蝉w)。

リカク・カクシの争いを勃発させる、カクシ夫人。

宦官と通じ、何進を牽制し、董太公を殺す何皇后。

更に、1巻のオリジナル展開でも麋夫人とイチャイチャしている劉備に対して、関羽は「英雄ともあろうものが、これでは困る」と言い、
それに対して劉備は「恋は遊びのようなものさ(意訳)」という返答をしている。

唯一賢い夫人とされているのは『国のため』に劉備の活躍を祈る老母や、
孫ヨクの仇を討つ徐氏であるが、孫ヨクは(張飛もだが)酒に酔って部下を鞭打つパワハラ上司のため、殺されても仕方ないとしか思えないのであった。

感想

他にも『演義系』ならではのうさん臭さ、劉備や献帝のうさん臭さは鼻につくところがある。
劉備ほどの偽善者はなかなかいないし、献帝は偉そうにしているが足利幕府最後の将軍を思わせる『祖先は偉かったが、お前は別に偉くない。恩知らず』としか思えなかったりする。

しかしその辺は吉川三国志というよりは『演義』の弱点でもあるし、致し方ないだろう。

食い足りないという印象は否めないが、『原点・古典』として読む価値がないというわけではない。
「三国志」を楽しむために、まずはここから。そういう選択もアリだろう。

最後に、好きな武将を何人か挙げたい。

(蜀)

劉備・関羽・張飛・徐庶・諸葛亮など

正直に言うと、劉備や張飛は色々考えるにあまり好きではない。
しかしあくまでも『ファンタジー小説』である『演義系』に出てくる2人は好きである。
今はだいぶ印象が違うのだが、初読時、劉備三兄弟の死に涙した身としては、思い出補正として入れておきたい。

徐庶のデビューは華々しいものがある。
何なら鳳統より華々しい活躍をしている。活躍シーンが短いのも、逆に趣深い。

(魏)

曹操・カク

曹操はこの時代、最大の英雄だと個人的には思う。
どこか織田信長に通ずるものがあるが、信長よりも邪悪さは感じない。

カクはいかにも謀将というイメージがあり、彼の繰り出す悪の軍師感は嫌いじゃない。

なお、別作品では荀彧も好きなのだがあくまでも「吉川三国志」の感想なのでここで入れない。

(呉)

孫堅・孫策・周瑜・魯粛・陸遜

ミーハーすぎて申し訳ないが、やはり孫策&周瑜の時代こそ、呉が最も輝いていた時代だろう。
イケメン且つ、時代の小覇王たちである。ついでに妻も美女であり、おまけに若死に。完璧(?)である。

魯粛は本当はこんな無能ではなかったはずだが、諸葛亮にいいようにあしらわれるお人よしとして「演義」系では癒しキャラになっている。

魯粛在世当時は、曲がりなりにも蜀と呉はうまくいっていたのである。
ただしそれは、諸葛亮に丸め込まれていただけ、という言い方もできる。

孫堅は反董卓連合の中で大活躍したのに、袁術にモラハラ(?)を受け、
袁紹に言いがかりをつけられ、劉表に殺される不幸な人である。
不幸な人には同情をしてしまう。

陸遜は登場シーンがカッコ良いのである。

(その他勢力)

田豊・沮授(袁紹)

報われない人には、どうにも弱い僕である。
散々、献策しているのに取り上げられないどころか袁紹に死を賜る不幸属性の持ち主。
使える主を間違ったとはいえ、かわいそうである。

呂布

三国志最強の武将なのに、ヘタレ。そのギャップが何とも言えない。
別作品での超イケメンな呂布の方が好きだが、このヘタレ呂布はそれはそれで味わいがある。

董卓の母w

息子がクズだったのは、彼女の教育が悪かったのかもしれない。
しかし90代の母、50代の息子のために惨殺されるのはかわいそうである。

総評

まぁ、せっかく再読したので記事にしてみたけど……怒る人も多そうだなぁ……。
大丈夫かしらん。