前おき
本作は、マーロウが足を使って捜査をし、
集めたパズルを使って事件を解決するという意味で、最もミステリチックな作品だと思います。
事件は相変わらず混線しますが、ギリギリのラインで破綻はしていません。
推理可能かと聞かれると、無理だと思いますが、
エラリー・クイーンの『読者への挑戦状』などを見て、「挑戦してみようか」と思える方なら、チャレンジしてみようかと思える程度には、『ミステリ』しています。
一方で面白いかと聞かれると、個人的な好みからは外れます。
マーロウものというよりも、古い警察小説に近い味わいを受けます。
純正ミステリがお好きな方向け、という感じでしょうか。
まぁ、僕の評価がそこまで高くない理由は、またもや悪女が複数登場する割に、魅力に乏しいとかそんな理由だったりするのですが……。
ストーリーに関しては、抒情性で中盤の空白を糊塗した「さよなら、愛しい人」よりも出来は良いんじゃないかと思います。
あらすじ(起)
マーロウは依頼のため、大会社に出向いた。
金持ちの社長夫人、キングズリー夫人(クリスタル)は美人で、レイバリーという愛人もいて放埓な人生を送っていた。
しかし、愛人の元にいると思われていた彼女の行方を誰も知らず、失踪してしまったという。
マーロウはレイバリーを訪ね、その後、レイバリーの隣人のアルモア医師がのぞき見をしているのを見つける。
少しするとアルモア医師から通報を受けた、警官デガルモがやってきた。
アルモア医師は何か後ろ暗いものを抱え、精神も不均衡なようだった。
その後の捜索で、妻に去られた孤独なキャビン管理人のビルと出会う。
ビルは、クリスタルと不倫をして、その日、妻のミュリエルに去られてしまう。クリスタルとミュリエルは、金髪で、ルックスこそ違うものの同じタイプの女性だった。
ミュリエルは以前も一度家出をしており、彼女が残して行った「書きおき(もうあなたとはやっていけません)」は随分古いものに見えたが、ビルはずっと握りしめながら生活していたので古びてしまったと言った。
湖に行くと、その湖底に金髪女性の死体が浮かんでいた。
長く湖に浸かっていた水死体で、顔も判別できないぐらいだったが、
ビルは「ミュリエル!」と叫んだ。
(古典的な入れ替えトリックも疑える、その手のものが好きな人には美味しい筋立てだと思われる)
あらすじ(承)
ここから地道な捜査が続き、個人的にはかなり退屈である。
マーロウは老いた警察署長のところに会いに行った。
ミュリエル殺しで、ビルは逮捕された。
その後、新聞記者やら、キングズリーやらと話す。
ミルドレッドという女がミュリエルにそっくりだという話が出る。
ミルドレッドとミュリエルは同一人物だった。
その後もチマチマとマーロウは足を使って捜査して少しずつ話を聞きだしていくのだが、
いちいち書いているとあまりにも面倒なので控える。
(あまり面白くない)
(レイバリーの大家が銃を持って登場したり、etcetcなどの騒動がある)
個人的には、情けないキャビン管理人ビルに愛着があるだけに、ビルが逮捕された後は割とテンションが下がってしまったw
ビルの妻であるミュリエル殺し(というか、湖中に沈んでいた女の殺人事件)が完全にスルーされてしまう(最後にはもちろん登場してくるが)のも、興味が持ちにくい。
つまり、湖の水死体は行方不明のミュリエルなのか、行方不明のクリスタル・キングズリーなのか(はたまた更なる別人なのか)が気になるのだが、その辺のことをうっちゃって、
全然別の筋に入るのが、僕がチャンドラーが苦手な理由だと思う。
読者……というか僕が知りたい事をスルーして、関係ない話を延々始めてしまうのがつらい。
レイバリーが殺されており、その側にキングズリー夫人の銃と服が残されていたりして、それは真相に絡んでくるのだが、せっかちな僕はそんなことはどうでもいいのである。
そんなふうに適当に読んでいると、いつの間にか、レイバリーの隣人、アルモアの話になっている。
アルモアは1年前、夫人を失っている。
以前アルモアを強請っていた男は、刑務所に入っているという。
アルモア夫人は酒に酔って暴れ、アルモアは彼女に鎮静剤を打って、コンリー(誰だっけ?)と、1人の看護婦に付き添わせた。
そしてアルモア夫人はその日、死んだ。
アルモアは自分が殺したと思い、レイバリーはアルモアを強請り始めたのだ。
アルモア夫人の両親に聞き込みに行く。
アルモアは、悪徳医者だった。アルモアは、ミルドレッドという看護婦と不倫をしていた。
アルモア夫人は、それをバラすぞとアルモアを脅していた。
だからアルモアに殺されたのだ、と両親は言った。
あらすじ(転)
クリスタルから金の無心の連絡があり、キングズリーはマーロウに「金を届けてくれ」と頼む。
クリスタルの元に行くと、彼女から銃を突きつけられる。
もみ合いになった末、マーロウは後頭部を殴られ気絶した。
マーロウが目を覚ますとクリスタルは死んでいた。
マーロウは家から脱出しようとしているところを、いけ好かないデガルモ警官(謹慎中)に見つかる。
デガルモは、ミルドレッドの元夫だった。
マーロウは推理を開始する。
水底に沈んでいたのはミュリエルではなくクリスタルだった。
クリスタルを名乗り、マーロウに銃を突きつけたのはミュリエルだ。
そしてマーロウを後ろから殴ったのはデガルモ警官だった。
デガルモはミュリエルを射殺した。
元の妻ミュリエルを庇いたかったのだが、これ以上庇いきれなくなったのだ。
☆ミュリエルまとめ(あらすじ・結)
デガルモと以前結婚
→アルモア医師の看護婦になり、愛人に
→アルモア医師の妻を殺害
→ビルの元に行って妻に
→姿が似ているクリスタルを殺し、湖中に沈める
→クリスタルの愛人レイバリーを殺し、レイバリーのところにクリスタルの衣服を残していく
→クリスタルの振りをしてお金を無心してマーロウに銃を突きつけ、デガルモに殺される
ミュリエル一人で頑張りすぎでしょwww
そのバイタリティは分けてほしい……
真相を推理されたデガルモは、老いた警察署長に「銃で勝負しろ」と挑発した。
しかし、警察署長の方がデガルモより腕は上だった。
デガルモは車で逃走したが、道路封鎖をしていた兵士を轢き殺しかけ、射殺された。
感想
ミュリエルとクリスタルの、二人の悪女とその入れ替えトリックが読みどころなのだが、
ミュリエルもクリスタルも、イマイチきちんと描写されていないため魅力が伝わってこないのは残念である。
作品としては微妙な「大いなる眠り」のカーメンや、
「リトルシスター」のオーファメイの存在感には到底及ばない。
そしてそこに魅力を感じないと、そもそも事件自体に興味が持てなくなってしまうのが、キャラクター重視派の僕なのである。
相当複雑な事件ではあるものの、「大いなる眠り」や「リトルシスター」ほど混乱はしていないし、突然ギャング船に乗り込んで大暴れしたりする「さよなら、愛しい人」よりは筋が追いやすいはずなので、
興味のある方にはお薦めできる……かもしれません。
次回は最終回「高い窓」です。