今回もあらすじメモ形式の感想です。
招待客たち
ウォーグレイブ判事は、兵隊島の話を思い返していた。
無人島の中で、一つのモダンな邸宅が建てられている。
彼は、兵隊島に招待されたのだ。
ベラ・クレイソーンも兵隊島に招待されていた。
三流校の体育教師に嫌気がさして求職中だったベラに、秘書の仕事が斡旋されたのだ。
ベラは以前、ハミルトン夫人のところで秘書をしていたが、検視審問に呼ばれていた。
海に行きたくない、とベラは思った。ハミルトン夫人の息子シリルが溺れ、ベラは救出に向かったが間に合わなかったのだ。
ヒューゴーは「愛している」と彼女に言ったのだが、事件の後の彼は辛辣だった。
シリルの溺死によって、ベラは海の音が嫌いになった。
一文無しのフィリップ・ロンバードも、仕事を斡旋された。彼は何度も逆境を切り抜けてきた。
ロンバードは同席したベラを、好ましく観察した。
ミス・エミリー・ブレント、マッカーサー将軍も招待客たちだ。
招待主のU・N・オーエンとは誰なのか、招待された客たちには誰もわからなかった。
マッカーサー将軍は、周囲の人間に避けられているように感じていた。
30年近く前に、将軍は何かをして、それが最近バレたのかもしれない。
ロンドンの成功した開業医、アームストロング医師には
兵隊島のオーエン夫人の病気を見てほしい、という依頼があった。
15年前に医療事故を起こしたが、何とか立ち直ることができた。
その時、酒はきっぱりやめた。
アームストロング医師の車を、暴走車が追い抜いて行った。
アンソニー・マーストンは、とにかくスピードを出すのが好きだった。
イケメンのマーストンも兵隊島に招待されていた。
執事のロジャース夫妻、ブロア。
この10人が招待客だ。
ブロアは身元を隠したがっていた。南アフリカ出身のデイビスと名乗る事にした。
オーエン夫妻の姿は誰も見ていない。モリスという男が代わりに全てを取り仕切っているようだった。
皆でボートで兵隊島に行くことになった。
邸宅は、岸からはだいぶ離れていた。
南東の風が吹くと、ボートで戻ることができないらしい。
邸宅に着くと、執事が出迎えてくれた。
「オーエン様の到着が遅れています」とのことだ。
ロジャーズ夫人は何かに怯えているようだ。
ロジャーズ夫妻も、まだ主人のオーエンに会った事はないらしい。
個人の私室には詩が掲げられていた。
『小さな兵隊さんが10人、食事に行ったら1人が喉につまらせて、残り9人
小さな兵隊さんが9人、寝坊をしてしまって1人が出遅れて、残り8人
小さな兵隊さんが8人、デボンへ旅行したら1人が残ると言い出して、残り7人
小さな兵隊さんが7人、薪割りしたら1人が自分を割ってしまって、残り6人
小さな兵隊さんが6人、丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて、残り5人
小さな兵隊さんが5人、大法官府に行ったら1人が裁判官を目指すと言って、残り4人
小さな兵隊さんが4人、海に行ったら燻製ニシンに食べられて、残り3人
小さな兵隊さんが3人、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人
小さな兵隊さんが2人、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人
小さな兵隊さんが1人、1人になってしまって首を吊る、そして誰もいなくなった』
アームストロング医師は、一度ウォーグレイブ判事の元で証言に立ったことがあった。
ウォーグレイブを「死刑好きの判事」とも呼ばれていた。
罪の告発
夕食のテーブルには兵隊の人形が10個飾られていた。
「10人の小さな兵隊さん」になぞらえられた人形だ。
その時、だしぬけに声が轟いた。
「あなたがたは次の罪状で告発されている。
エドワード・アームストロング。ルイーザを死に至らしめたのはあなただ。
エミリー・ブレント、ヴィアトリスを死に追いやったのはあなただ。
ウィリアム・ブロア、ジェイムズを死に追いやったのはあなただ。
ベラ・クレイソーン、シリルを殺害したのはあなただ。
フィリップ・ロンバード、東アフリカ部族民21人を死に追いやったのはあなただ。
ゴードン・マッカーサー、妻の愛人リッチモンドを故意に死地に追いやったのはあなただ。
アンソニー・マーストン、ジョンとルーシーを殺害したのはあなただ。
トマス・ロジャーズ、エセル・ロジャーズ夫妻、ジェニファーを死に至らしめたのはあなたたちだ。
ロレンス・ウォーグレイブ、シートンを殺害したのはあなただ。
あなたたちに申し開きができるか?」
小さな兵隊さんが10人、食事に行ったら1人が喉につまらせて、残り9人
エミリーとウォーグレイブは比較的泰然としていたが、他の8人は動揺を隠せなかった。
エセル・ロジャースは気絶してしまったほどだ。
ロンバードが隣室のドアを開け、レコードプレイヤーを見つけた。
どうやらここにかけられていたレコードからの声のようだった。
レコードをかけたのはトマス・ロジャーズ。
オーエンからの指示に従っただけで、中身は知らなかったのだ。
トマス・ロジャーズがオーエン氏からの手紙を取り出した。
新品のコロネーションタイプライターで打たれている。
ユーリック・ノーマン・オーエン。
ウォーグレイブ判事が、主導権を握りオーエン氏について、情報交換を呼び掛けた。
エミリー・ブレントは手紙を受け取った。差出人の名前がハッキリ読めない。
オーエンという名前の人間は知らない。
デイビスと名乗っていたブロアの正体は、あっさりバレてしまった。
ロンバードに、「南アフリカに行った事すらない」と看破されたブロアは、
「探偵」だと名乗った。
オーエンに雇われ、客たちの動きを監視しろという仕事だった。
U・N・オーエン。Kを付け加えると、UN KNOWN。名無しとなる。
ウォーグレイブ博士は、「シートン」について話し始めた。
証拠を見れば、どう見ても有罪だった。ウォーグレイブは死刑を言い渡した。
巷の噂では、「ウォーグレイブはシートンに恨みでもあったのだろう。あれは絶対に無罪だ」と騒がれていた。
ベラは「シリル」について話した。
ベラはシリルの家庭教師だった。シリルは遠くまで泳いではいけないと言われていたのに、
ベラが目を離したすきに泳いでいったのだ。
ベラは慌てて泳いで追いかけたが間に合わなかった。
マッカーサー将軍は「リッチモンド」を偵察に出したのは確かだ。
しかし、それの何が罪だと言うのだ。戦場においては当たり前のことだ。
それに、妻が不貞などしていなかった。
ロンバードは「東アフリカ部族民21人」を、置き去りにしたと語った。
アフリカの奥地で道に迷い、食材を奪って逃げたのだと。
マーストンが二人を轢き殺したのは事実だった。
単なる事故だった。
「スピード違反で暴走していたくせに」とアームストロングは憤慨して言った。
「ぼくのせいじゃないですよ、イギリスの道が狭いのが悪いんです」とマーストンはうそぶいた。
ロジャーズ夫妻は、体が悪いジェニファーの世話をずっとしていた。
悪天候で助けを求めるのが遅れたが、一生懸命世話をしていた。
私たちに罪はない、とロジャーズが言った。
ブロアは「それであんたらに遺産が入ったんだろ?」とロジャーズを追及した。
ブロアの証言で、ジェイムズが銀行強盗として起訴された。
そのおかげでブロアは昇進した。
アームストロング医師は、患者の名前すら知らないと言い張った。
しかし、アームストロング医師は酔っていたのだ。その状態で手術をし、女性を殺してしまったのだ。
ロンバードは「私以外は、みな善良な人間を装っていますね」とせせら笑った。
マーストンがウイスキーを飲むと、ひどくむせ、そのまま死んでしまった。
アームストロング医師は「マーストンのグラスの中に、青酸カリが入っていた」と言った。
マーストンは自殺したのだろうか? しかし、そんな様子はまるでなかった。
罪悪感のかけらもないし、生きる事を楽しんでいるようだった。
『小さな兵隊さんが10人、食事に行ったら1人が喉につまらせて、残り9人』
小さな兵隊さんが9人、寝坊をしてしまって1人が出遅れて、残り8人
夜も遅いので、みな寝室に入って行った。
ウォーグレイブ判事は、被告人シートンの事を思い出していた。
弁護人のマシューズは実に見事な弁護をした。
しかし、被告人にとって、不利な証拠を一つひとつウォーグレイブ判事はメモしていた。
兵隊人形は1つ減っていた。
マッカーサー将軍はアーサーの事を思い出していた。
本当にいい奴で、妻のレズリーもアーサーを気に入っていた。
レズリーは、アーサーと非常にウマが合ったのだ。
レズリーは、アーサーへのラブレターを間違えてマッカーサーに送ってしまったのだ。
レズリーとアーサーは不倫をしていた。
マッカーサーは冷静にアーサーを死地に送り込んだ。
マッカーサーの部下、アーミテッジだけは何かに感づいているようだったが……。
レズリーは生気を失い、3~4年後に肺炎になってこの世を去った。
マッカーサーは新しい場所に引っ越しても、根も葉もないうわさを立てられているような気がしていた。彼は人を避けるようになり、殻に閉じこもるようになった。
べラは、シリルの叔父ヒューゴーと恋仲になっていた。
シリルが生まれなければヒューゴーに遺産が送られ、ヒューゴーは金持ちになっていたはずだ。
しかし、現実のヒューゴーは文無しで、べラに結婚を申し込むことはできないと言った。
にもかかわらず、ヒューゴーはシリルをかわいがっていた。
シリルは丈夫な子ではなかった。
「クレイソーン先生、どうして岩まで泳いじゃいけないの?」
「遠すぎるでしょ?」そんな事を思い出した。
翌日の朝、ロジャーズの妻が死んだ。
眠ったまま、起きなかったのだ。
エミリーは「良心が咎めたんでしょう」と言った。
前のご主人を殺したという告発は本当だったのでしょうね、と彼女は言う。
「神の御業でしょうね。罪人が神の怒りに触れて打ち倒されたのよ」。
「神は、有罪か否かを決めるのを人間に任せておられる」とウォーグレイブ判事がたしなめた。
「夫がロジャーズ夫人を殺したんじゃないか」とブロアは言った。
「白を切るだけの図太い神経を持たないロジャーズ夫人が自白したら、自分の首も危ない。
だから妻の口を永久に塞いだのでは?」
『小さな兵隊さんが9人、寝坊をしてしまって1人が出遅れて、残り8人』
小さな兵隊さんが8人、デボンへ旅行したら1人が残ると言い出して、残り7人
「モーターボートはいつ来るんだ?」とウォーグレイブ判事が尋ねた。
もう来るはずの時間なのだ。既に10時10分なのに、ボートが来ない。
「我々は誰一人として、この島から出る事はできん……それが安らぎというものだよ」とマッカーサー将軍が呟く。
大狼狽の執事ロジャースが呼びに来て、皆は邸内に戻った。
10個あった兵士の人形が、8個に減っていたというのだ。
「ロジャース夫妻は元の雇い主を殺したのは確実」だとエミリーは話した。
エミリーはメイドのベアトリスについて話した。
良い子を雇ったと思っていたのだが、結婚相手もいないのに、ベアトリスが身ごもったというのだ。
貞操観念のないベアトリスを、エミリーは解雇したところ、エミリーは自殺してしまったという。
「あなたが厳しすぎたせいで自殺したとしたら……」というベラに、
「自分の不始末がしでかした罪」だとエミリーは言った。
彼女も全く、罪の意識を感じていないのだった。
アームストロング医師は、仲間がほしかった。彼はロンバードと話した。
「ロジャーズの妻を殺したのは夫だという説は本当だろうか。
ロジャーズ夫妻は元の主人ジェニファーを殺したのは本当だろうか」
心臓が弱いロジャーズ夫人の、心臓病の薬を隠してしまう。
それだけで済む話だとアームストロングは言う。
「犯人を断罪できない犯罪がある。法服をまとった殺人。病院で行われた殺人。
だから名無しのオーエン氏が現れ、兵隊島に集められ……」とロンバードが言う。
今回の事件は自殺じゃないか?と言うアームストロング氏に、ロンバードは「それはない」と断じる。
「名無しの狂人、オーエン氏がうろついているんです。
オーエンが仕事を終えるまで、この島は絶海の孤島ですね」とロンバードは言う。
兵隊島を捜索しようと、ロンバードは提案した。
ブロアも仲間にすることにして、3人で探検することになった。
誰かが、マーストンのグラスに青酸カリをこっそり仕組む隙はあった。
3人は島を一周した。樹木は一本もなく、人が隠れられそうな場所はなかった。
砂浜ではマッカーサー将軍がボーっと座っていた。「時間がない。邪魔しないでくれ」と3人に言った。
脱出方法やSOSについて3人は相談したが、答えは出なかった。
ベラはエミリーを避けていた。
マッカーサー将軍は、死が早く来るのを待っているようだった。
「レズリーを愛していたのだ。彼女は自慢の妻だった。……だから、やったのだ」と将軍は言った。
「今更否定して何になる。わしはリッチモンドを死に追いやった。その時は何も思わなかった。
しかし後になって……」
将軍は首を横に振って、「わからん。わしにはわからん。レズリーは感づいていたのだろうか。わしの手の届かないところに行ってしまい、わしは独りぼっちになった」
ブロアが屋敷からロープを持ってきた。ロンバードがスルスルと岩を降りて行った。
ブロアは、「ロンバードは悪党ですよ。私は信用しませんね」と言った。
ピストルを持ち歩いているロンバードを、ブロアは信用できないのだった。
島の捜索は空振りに終わった。
館の捜索も、人が隠れられそうな場所はなかった。
そのとき、そっと忍び足で歩くかすかな足音を3人は聞いた。
ロジャース夫人の寝室から聞こえてきた。
しかし、中にいたのは衣類を両手いっぱいに抱えたロジャースだった。
部屋を変えるため、荷物を持っていたのだ。
島には、自分たち8人以外に一人もいなかった。
ロジャース夫人に鎮静薬をやったのはアームストロング医師だった。トリオナールという薬だ。
「薬の量を間違えたんじゃないだろうね」とブロア。
「私がわざと量を多くしたとでも言うのか!?」とアームストロング。
「やたら人のせいにするのはやめた方がいい」とロンバードが言った。
「どうしてピストルを持っているんだ?」とブロア。
ロンバードは「トラブルに巻き込まれるとわかっていたから、ピストルを持って来たのさ」と言った。
「この島に来て目を光らせていれば100ギニー」という仕事を引き受けたのだ、とロンバード。
昼食の銅鑼が鳴った。マッカーサー将軍がまだ来ていない。
アームストロング医師が呼びに行った。
嵐が来そうな天候だった。アームストロング医師が息を切らせて戻って来た。
マッカーサー将軍が亡くなったのだ。
人形はまた1つ消えていた。
『小さな兵隊さんが8人、デボンへ旅行したら1人が残ると言い出して、残り7人』
小さな兵隊さんが7人、薪割りしたら1人が自分を割ってしまって、残り6人
後頭部をステッキのようなもので撲殺されたと、アームストロング医師が伝えた。
「これではっきりしたな」とウォーグレイブ。
「マーストンとロジャーズ夫人が死んだのは、事故でも自殺でもない。
オーエンが我々を呼び出した理由もね。
我々にとって最優先事項は、自分の命を守る事だ。
法律で裁けなかった犯罪者に鉄槌を下すというのがオーエンの目的だ。
そして、オーエンは我々の中の1人だ」
ウォーグレイブが主導権を握って、推理を主導し始めた。
そして最後に「人を信じてはいけない」と皆を誘導した。
ロンバードとベラは相談をした。
お互いは、相手を信用している事を確認した。
ロンバードはウォーグレイブが犯人だと推理した。
「今まで長年、判事の席に座って人の生命を左右してきた。独善的な判断で、人を殺せる人間だ」と。
浴室のカーテンがなくなった、とロジャースが伝えに来た。
2日目の夜が来た。
皆が寝室のドアに鍵をかけ、閂もかけた。
ロジャースは、兵隊人形の部屋にも鍵をかけると、洋服ダンスの中で寝る事にした。
3日目の朝が来た。
ロジャースは朝、洗濯小屋で、薪割りの最中に、後ろから斧で襲われていた。
兵隊人形がまた1つ消えていた。
『小さな兵隊さんが7人、薪割りしたら1人が自分を割ってしまって、残り6人』
小さな兵隊さんが6人、丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて、残り5人
ベラは蜂の巣がどこにあるか、と尋ねた。
『小さな兵隊さんが6人、丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて、残り5人』という童謡を考えたのだ。
ブロアはロンバードに、自らの罪を伝えた。
ベラは食事を作りながら、未だにヒューゴーの事を考えていた。
エミリーは当然「自分だけは死なない」と思い込んでいるようだった。
エミリーは自分が外に閉めだしたヴィアトリスを思い出したが、やはり自分が悪いとは思えなかった。
彼女は蜂の姿を見た。
誰か、人の姿が部屋の中にいた。ヴィアトリスの幻影が川から上がってきた。
首の横を、後ろから刺されエミリーは亡くなった。
『小さな兵隊さんが6人、丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて、残り5人』
小さな兵隊さんが5人、大法官府に行ったら1人が裁判官を目指すと言って、残り4人
エミリーの死体には皮下注射期で刺された跡があった。
皆の疑いはアームストロング医師に集まった。
凶器は盗まれた(?)アームストロング医師の注射器だった。
皆が持っている人殺しに使えそうな武器を一か所に集めて封印しよう、という話になったが、
ロンバードの銃も、誰かに盗まれていた。
とりあえず現時点で武器を、食器棚の中に入れて封じることにした。
6つ目の兵隊が壊され、注射器が転がっていた。
皆の神経がピリピリと緊張していた。
5人は野生の獣のように、互いが互いを警戒していた。
ベラは自分の内面に閉じこもっていたが、家の中につり下がっていた海藻が顔にかかり、
ヒステリーを起こして気を失った。
皆でベラの介抱をしていると、いつの間にかウォーグレイブ判事がいなくなっていることに気づく。
ウォーグレイブ判事は、真っ赤なガウンを被り、裁判官のカツラを被せられていた。
アームストロング医師が検死をすると、彼は銃で額を撃たれ、死んでいた。
『小さな兵隊さんが5人、大法官府に行ったら1人が裁判官を目指すと言って、残り4人』
小さな兵隊さんが4人、海に行ったら燻製ニシンに食べられて、残り3人
ピストルはロンバードの机の中に戻っていた。
夜が来た。
4人は朝まで、バリケードの中に閉じこもった。
ベラはシリルの事を思い出す。
「僕、どうして岩まで泳いじゃいけないの?」
「もちろんよ、シリル。あなたは泳げるわ。明日、お母様に話しかけて、気をそらすの。その間に、岩まで泳いでみたら?」
ヒューゴーに遺産が入り、彼と結婚するためにシリルを殺したのに、
ヒューゴーはベラの考えを見破り、去って行った。
ブロアの部屋の前を誰かが通り過ぎた。足音は階段に向かっている。
ブロアはそっと尾行することにした。
玄関から誰かが出ていくのが見えた。
という事は、誰もいない部屋があるということだ。
ベラもロンバードもいたが、アームストロングはいなかった。
ベラを部屋に残し、ブロアとロンバードの2人でアームストロングを探したが誰もいなかった。
テーブルの兵隊人形は3つになっていた。
『小さな兵隊さんが4人、海に行ったら燻製ニシンに食べられて、残り3人』
(燻製ニシン=偽りの手がかり)
小さな兵隊さんが3人、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人
朝になった。天気は晴れたが、まだ波は高かった。
ブロアがまたもロンバードに口論を吹っかけ、ギスギスした雰囲気になった。
屋敷内よりも外の方が安心だ、とベラは言い、2人もそれに同意した。
昼食の時間になり、ブロアは一人昼食を取るために屋敷に戻った。
ベラとロンバードは2人で外に残った。
ロンバードは、ベラがシリルを殺した事実を引き出した。
突如、屋敷の方から地響きがした。
ブロアの頭が白大理石の塊に打ち砕かれていた。
ベラの部屋の、熊の形の時計が落ちたのだ。
『小さな兵隊さんが3人、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人』
小さな兵隊さんが2人、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人
ロンバードとベラはアームストロング医師の死体を発見した。
ベラとロンバードは互いしかいない事に気づいた。
2人は、お互いを犯人だと信じた。自分が犯人じゃない以上、相手が犯人でしかありえないのだから。
2人はアームストロング医師の遺体を、砂浜に引き上げた。
その間に、ベラがロンバードからピストルを盗み取った。
ロンバードはベラにとびかかった。ベラは反射的に引き金を引き、ロンバードに命中した。
ロンバードは死んでいた。
『小さな兵隊さんが2人、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人』(詩に合っていない気がするけど)
小さな兵隊さんが1人、1人になってしまって首を吊る、そして誰もいなくなった
とうとう終わった。ベラの全身に安心感が広がっていった。
ベラは島で一人きりだった。
ベラは屋敷に向かって歩き出した。
台所の兵隊人形はまだ3つ残っていた。
ベラは2つ取って、それを放り投げた。
最後の1つの人形を握り、ベラは歩き出した。
ヒューゴーが2階で待っている気がしてならない。
階段を上りきったところで、ベラはピストルを落としたが気づかなかった。
ベラは思わず息をのんだ。
天井のフックから、輪のついたロープがぶら下がっており、椅子まで用意されていた。
それが、ヒューゴーの願いなのだろうか。
人形がベラの手から落ち、割れた。
「シリル、岩まで泳いでいいわよ」人を殺すのなんて簡単だ。けれど、いつまでも忘れられない。
ベラは椅子の上にあがった。輪を首に入れた。ヒューゴーがそこで見守っている。
ベラは椅子を蹴った。
『小さな兵隊さんが1人、1人になってしまって首を吊る、そして誰もいなくなった』
事件は迷宮入り
イギリス警察は困惑していた。
島に遺体が10体あったが、生きている人間は1人もいないのだ。
職業斡旋所のモリスも死んでいた。島の買い取りの全てを取り仕切った。
(ウォーグレイブ判事って、島を買い取るほど大金持ちなんですか!?
判事の給料ってそこまで高給なんですか??)
「絶海の孤島で、一週間生き残れるかの実験が行われる。だから救助信号があっても気にしないように」とモリスが住民に言っていたというのだ。
レコードは、アマチュア演劇の劇団員が吹き込んだものだった。
モリスは、一行が島に行く前に死んでいる。
ベラ、エミリーが日記をつけ、ブロア、ウォーグレイブもメモをしている。
ベラが死んだ後、誰か他の人間が椅子を動かした人間がいたということも捜査で判明した。
真犯人からのボトルメール
私は、ロマンチックな性向がある。
だから、この犯罪告白をボトルに閉じ込め、手紙を海中に投じた。
私は、生き物が死んだり、殺したりするのを見るのが好きだった。
一方で、相反する強い正義感も持っていた。
だから法律を職業に選んだ。
被告席に座る死刑囚が、苦しむのを見るのがとても楽しかった。
一方で、無実の人間が苦しむのを見るのは耐えられなかった。
シートンの判決も、確たる証拠があり、私には明らかな有罪だった。
ところが、この数年、自分の手で人を殺したくなってきたのだ。
私は犯罪芸術家になりたくなった。
しかし罪もない人を苦しませてはならない。
法律の手の届かないところで人が死ぬことが多い、と町医者が言った。
ロジャーズ夫妻が、雇い主に薬を与えなかったために雇い主が死んだ。
この手のことは立証できない。
私は獲物を探し始めた。アームストロング医師の話は、病院で聞きだした。
クラブで、マッカーサー大佐の話を仕入れた。
ロンバード、ブロワなどの罪も仕入れた。
最後に探しだしたのはベラだった。ヒューゴーという男と同席したのだ。
「ぼくも、人を殺した女性を知っています。それどころか、僕はその女性に夢中だった。
彼女は、僕のために人殺しをしたようなものだった。明るくて気立ての良い普通の女性が、子供を海に連れ出して、溺れさせるなんて。
僕がその子(シリル)を愛していたことを、彼女(ベラ)は気づかなかったんです」
10人目はモリスだ。彼の売った麻薬で、命を落とした者がいたのだ。
(モリスから職業斡旋を受けて兵隊島にやってきた人たち、現代だと闇バイトに引っかかるぐらいのリテラシーしかなさそう……
1人でも兵隊島に来なかったら、この犯罪は成立しないので、はっきり言って万に一つの奇跡というか、まず不可能な事件だと思うんですが)
私には余命がもう少なかった。死ぬ前に、この犯罪芸術を成し遂げなければならない。
客は全員8月8日にやってきた。モリスは既に殺してある。
ロンドンを出発する前に、カプセルを渡しておいたのだ。
殺す順番は慎重に考えた。
罪の最も軽い者が最初に死ぬべきだ、と考えた(個人的に僕の考える罪の重さとは別なんだが……)
まずマーストンを、次にロジャーズ夫人を殺した。
ロジャーズ夫人は、ロジャーズにそそのかされての犯行だったに違いない。
仲間が必要だったので、アームストロング医師を仲間に引き入れた。
アームストロングはひたすらロンバードを疑っていたので、それに同意するだけで良かった。
ロジャーズを殺した際に鍵を盗み出し、ロンバードのピストルを盗み、エミリーに青酸カリを注入した。
犯人に罠を仕掛けようということで、私を次の犠牲者に偽装しようというのだ。
海藻を事前に仕掛けておいて、ベラの悲鳴で皆が二階に駆け付けた隙を狙って、
アームストロング医師の検死を受けた。
深夜2時15分に、相談の為と称してアームストロングを誘った。
崖の下を覗いたアームストロングを後ろから押して、殺した。
ピストルはロンバードの部屋に隠しておいた。
ピストルは一時的にビスケットの缶詰の一番下に隠しておいたのだ。
ブロアを殺し、ベラがロンバードを殺すのを見ると、ベラの部屋に自殺装置を仕組んでおいた。
洋服ダンスに隠れながら、私はベラが自殺するところを見た。
椅子を元の位置に戻し、この手紙を書き、ピストル自殺した。
第一の手がかりは、完全に無罪なのは私だけだからだ。(←唯一、推理可能に思える手がかり。とはいえ、かなり弱い)
第二の手がかりは、燻製のニシンであり、アームストロングが騙されたことがわかるはずだ。アームストロングが信用しそうな人間は私しかいない。(←燻製ニシンまではわかっても、アームストロングが誰に騙されていたかまでは凡人にはわからないと思う)
第三の手がかりは、死んだ私の遺体に残るカインの刻印だ(←わかるわけねーだろ)。
以上が「兵隊島殺人事件」の真相である。
法的根拠ゼロ、100%独断のキャラ診断
マーストン……クソガキ。他人を轢き殺しても全く反省の色がない。
こんな奴は死んでほしいので、処刑を支持。
ミス・ロジャーズ……非常に怯えている夫人。遺産目当てで夫と共に前の主人を殺害。
確実に有罪だが、処刑されるほどかは不明。
マッカーサー将軍……妻の不倫相手を、死地に赴かせた軍人。
有罪ではあるが、情状酌量の余地が大いにあり、本人もずっと引きずっている。処刑は不支持。
本人もあまりもう長く生きていたくない様子ではあるが……。
ミスター・ロジャーズ……夫人と同じく。性格がほとんど出てこないため、何とも言えない。ただ、ウォーグレイブの推測によれば事件は彼が主導したものなので、それが当たっているならミセス・ロジャーズよりも罪は重い。
エミリー……狂信的なキリスト教信者だが、独善的で不愉快な女。身ごもったメイドを解雇し、自殺へと導いた。
非常に不愉快なので死んでくれてもいいが、いくらなんでもこの程度の罪で処刑は不可。
ウォーグレイブ判事……真犯人。非常に頭が切れる。
勝手に自殺してしまうが、独善的(たまたま彼の直感・観察眼は当たるようだが)。10人殺しているわけだからさすがに処刑が当然。
アームストロング医師……すぐに狼狽する気が小さい医師。医療事故は明らかに有罪だが、それ以来悔い改め、断酒に成功している事を考えると処刑は不可。ただ、ウォーグレイブに騙されて事件の片棒を担いだ愚かしさは度し難い。
ブロア……自分を棚に上げて他人に疑いをかけ続ける、いけ好かない男。探偵のくせに無能で、ウォーグレイブ(偽探偵)やロンパ―ドよりも頭が悪い。
金のために偽証をし、ジェイムズを有罪にし、結果ジェイムズは獄死した。
正直嫌いなキャラで、明らかに有罪だが処刑されるほどではない気がする。
ロンバード……危ない香りがするダーク・ヒーロー的存在。生きるために食料を持って逃げたのは卑怯な行為だが、犯罪と呼ぶべきか否か。処刑は不可。
ベラ……愛のために子供を殺し、生きるために相棒を殺す。生きるためならなんだってする人間だが、個人的に情状酌量の余地あり。処刑は不可。
感想
正直なところ、原文が悪いのか、訳が悪いのか
「ベラは言った」「ウォーグレイブは言った」のような単調な文章が続き、退屈さを感じます。
やはり10人のキャラを同時に動かすのは難しいのでしょうか。
ベラとロンバードの関係は、映像化された映画版やドラマ版と比べ、淡泊というか惹かれ合っている感じはあまりしません。
個人的にクリスティは大好きな作家なのですが、『終りなき夜に生れつく』、『五匹の子豚』、『ナイルに死す』、『死の猟犬』あたりに比べるとだいぶ落ちる感じがします。
一番売れた作品にこんなことを言うのもなんですが💦
映画版(1945)
モノクロ映画ですが、面白かったです。
ロンバードとベラが信じあい、真犯人のウォーグレイブを炙り出すハッピーエンドは原作とは別ですが、やはり結局はこの2人が信じあえるかどうかで運命が変わってくるんですね。
ドラマ版(原作も)の方がリアリティがありますが、こちらの方が後味も良いし、これはこれで良いなと思いました。
ドラマ版(2015)
サスペンス色を極限まで高めた、非常によくできたドラマ。
BBCドラマは質が高いものが多いですね。
今まであまり考えた事がなかったのですが、これは「バトルロワイアル」もののご先祖様なのかなとも感じました。
ジャンル的にはスリラーなんですが、ホラーに近い。
1人ずつ人が死んでいく、人が減れば減るほどお互いへの不信が募っていく、
そんな作品でした。
ストーリーを知ってる・知らない以前に、真犯人の俳優さんが悪役顔すぎるけどw
原作も含めて、犯人の情報収集能力や犯罪遂行能力が凄すぎて超人じみているのは、不可能に近い気がしますが、
彼こそ兵隊島に君臨する『GOD』(神)だと考えるのが、正しい観方・読み方なのかもしれないと思いました。