S→味わい深く、いつまでも心に残りそうな作品

植物図鑑/有川浩……
王道にして異端な恋愛小説。 女性主人公さやかとイツキは、野草探索とその調理を通じて親しくなっていく。 思わず食べたくなってしまうほど、活き活きとした野草蘊蓄が楽しい。 恋愛小説って、案外デートシーンが一般的コースでつまらないけど、本作はここが面白い。
野草探索がメインというのが異端であり、デートシーンを最高に楽しく描くという意味で王道。
良い作品でした。

夏川草介神様のカルテ/夏川草介……
夏目漱石の初期作を思わせる(特に「坊ちゃん」、「
猫」、「草枕」)語り手の主人公のキャラがとても立っており、非常に面白い。
作品は主人公の語りにより、笑えながらも優しく暖かさに満ち、学士様の門出や安曇さんが亡くなるシーンではウルっとさせられた。

わたしたちが孤児だったころ/カズオ・イシグロ……
第二次大戦直前の上海をメインに、イギリス人探偵バンクスと、その周囲の人生が綴られていく。
人が戦争で虐殺されていく中で、人一人の死を推理する探偵。子供の頃、周囲の世界がわからないからこそ輝いていたセンチメントの大切さ。
「わたしを離さないで」ほどではなかったけれど、ここでも『残酷なビルディングス・ロマン』としてのしみじみとした物語が感じられた。

アキラは大人視点で考えればイキリ日本人だし、
サラは大人視点で考えれば俗物だけど、
時が経ち、思い出の中の彼は、彼女はバンクスの中で美しく息づいている。

くちびるに歌を/中田永一(乙一)……
年間トップ3級。

五島列島の中学合唱部を舞台にした青春小説だけれど、
とにかく作者の情報の出し方が巧い。クライマックスの盛り上げ方など、見習いたいところが盛りだくさん。
ぼっち主人公と憧れの女子コトミとのやり取りも含め、胸を揺さぶられた。  カッコ悪いかもしれないけど、辛いことも、切ないこともあるし、時には誰かと衝突もするけれど、 彼らはこの「今」を全力で生きている。
中田永一の「くちびるに歌を」、素晴らしかったです。多分、年間トップ3に入るんじゃないかな(トップ5は確実だと思う)

五島列島の中学合唱部を舞台にした青春小説だけれど、
とにかく作者の情報の出し方が巧い。クライマックスの盛り上げ方など、見習いたいところが盛りだくさんでした。

ぼっち主人公と憧れの女子コトミとのやり取りも含め、胸を揺さぶられました。
 カッコ悪いかもしれないけど、辛いことも、切ないこともあるし、時には誰かと衝突もするけれど、 彼らはこの「今」を全力で生きている。

「拝啓、十五年後の自分へ。
いつもひとりで過ごしていました。
友だちが、できませんでした。
このコミュニケーション障害は、何が原因なのでしょう。
無意識のうちに、相手を避けていたのかもしれません。
自分は決定的にみんなとは違うのだ、という自覚が昔からありました。
自分の事が、人間の村に入り込んだモンスターのように思えるのです。
クラスメイトに話しかけられても、どこかで線を引いて、距離を置いてしまうのです。
だれともうまく意思疎通のできない、誰からも興味を持たれない、そういう人間に、なってしまいました」 
 
の独白には、胸が締め付けられました。僕もそういうところがあるから。
僕の場合は、「モンスターである自分を理解ってほしい」という気持ちが強くあって、ちょっと振る舞いは違うけれども、「この人は理解ってくれない人だな」と感じると、線を引いて距離を置いてしまいます。
急に自分語りになっちゃったけど、それぐらい主人公に共感し、応援しながら読めたということで、名作でした!!

ラブカは静かに弓を持つ/安壇美緒……
現代を舞台にした最高級のスパイ小説にして、
人と人との関係を考えさせられる、厳しくも暖かな作品。
誠意を持って接すれば、いつか通じる事がある……かもしれないと、思わされる作品(僕の経験上、ほとんどないのだが)。

新世界より/貴志祐介……
人間が、動物に対して行なっていることの残酷さ。
人間はネズミを殺しても平気なのに、ネズミが高い知性を持ち、人間を殺すと人間は激怒する。
人間は人間に対しても、残酷な振る舞いをする。
……遺伝子を組み換えて、人間をネズミそっくりの姿にし、バケネズミと呼ぶことさえもできる……。

新しく得た『呪力』という力を得ても、人の『獣性』は変わらない。
自らを特権階級とし、自分たちの都合の良いように家畜を飼育し、手なずけ、利用し殺す。
白人が黒人にしてきたように、人は呪力を持たない人を支配するためにバケネズミへと変え、奴隷として使役する。
読んでいて伝わってくるバケネズミへの気持ち悪さ。

それこそが、人が持つ『偏見』であり、『獣性』なのかもしれないと感じた。



壬生義士伝/浅田次郎……
飢饉に見舞われ食い詰めて、南部藩を脱藩して新選組に加わった吉村貫一郎。 彼の人となりや、彼の周囲の人々を描きながら、幕末期の時代を描く。
個人的に貫一郎や、その親友大野次郎右はあまりに不器用だと思ったけど、貫一郎の長男は不器用を通り越してちょっとよく理解できなかった。  武士の時代の価値観が現代人の僕に理解できるわけもないし、武士の時代どころか現代の【自称】保守の人が言ってることすらわからないので、まぁ……

新選組を扱った作品ではあるけど、吉村貫一郎が加わるのは伊東甲子太郎加入とほぼ同時期なので 新選組をきちんと知りたい人は別作品を薦めたい  それよりは、貧乏武士や貧乏農民の悲惨な生活や、それにも負けずに生きる人々、彼らによって動く時代を描いた作品 
東北弁はちと読みづらいけど、仕方なし

地下鉄に乗って/浅田次郎……
地下鉄の構内を歩いていくうちに、家族の、大切な恋人の過去やルーツを知っていくタイムスリップもの。
みち子の決断は正直そこまでしなくても、と思ったけど…余韻の残る物語。  
敗戦直後の街並みなどが、臨場感溢れる筆致で描かれているのも素晴らしい。


蒼穹の昴/浅田次郎……
最終巻のどんでん返しは要らなかった、かな。
これによって、西太后が清を生き延びさせたかったのか、滅ぼしたかったのかがわからなくなってしまった。
まぁ、心が変わったとか、心が揺れていたとかはあるかもだけど、一貫性がなくなった気がする。

玲玲と文秀が結ばれたのかも気になる。

全体を通して好きなのは楊喜楨(架空人物)、李鴻章、譚嗣同、玲玲(架空人物)あたり。
西太后もまぁ。あと、名前もないけど受験に95年捧げた爺さんも好きw

嫌い、というか悪役なのは栄禄、袁世凱、李蓮英あたり(嫌いな順)。


蒲生邸事件/宮部みゆき……
2・26事件の日にタイムスリップした主人公が、3/4に現代に帰還するまでを描いた作品だけど、
中盤のミステリー部分は多少ダレるところもあった。
ただ、そこを過ぎれば後は一気読みでした。
今まで読んだ宮部さんの作品の中では一番好きですね。


イニシエーション・ラブ/乾くるみ……
あーーあーー、そういうことね……。これは騙されますわ。

陳腐な恋愛ストーリー、と見せかけて実際そうなのですが、仕掛けられた叙述トリックは絶妙。
これ、1章の鈴木と2章の鈴木は別人ですよね? 多分だけど。
で、繭は二股かけてますよね?
まぁ、鈴木2はクズ男だし……。
鈴木2と繭のどっちがクズかというとどっちもクズかな。
鈴木1は繭という悪女(?)に捕まってかわいそうだけど、それも『通過儀礼』ってことでいいんじゃねーか?
しかし繭は悪女だとは思うけど、堕胎したっていうのに、また生Hさせて、懲りない女だな……
揃いも揃って生Hをせがむ鈴木どももどうかと思うが

梟の城/司馬遼太郎……
これが長編デビュー作か……凄い人はやっぱり凄いな。
忍者小説ではあるけれど、織田信長~豊臣秀吉末期までの歴史も踏まえているところは、後の歴史小説家の片鱗が見えている。
まさかの石川五右衛門登場に、ほのぼのハッピーエンドと、娯楽性もバッチリ!

ホモ・デウス/ノヴァル・ユア・ハラリ……
人類及び生物は複雑なアルゴリズム(演算処理)で動く有機生命体であり、AIが進化した近未来では、ビッグデータにより、本人以上に本人を知るAIアルゴリズムに人類が判断を委ねる、AI社会が到来するという予言の書。
ほぼすべての仕事は、AIの方がよりよくこなし、人間は大量の「無用物=無産化階級」となる。
AIを操るものに権力が集中する。

AIは、人間(Aさん)が検索したもの、見た映画、食べたもの、誰かとのデートなどをすべて記録し、脈拍数などを記録し、どこのシーンで感動したか、相手とのデートのどのシーンで不満を覚え、どのシーンで相手を愛しく思ったかなどをすべて記録し、本人の思考以上に適切なアドバイスができるようになる。
現に2017年現在、AIはチェスや囲碁のチャンピオンを倒し、音楽の世界にも進出しつつあり、自己学習で俳句などを作るAIプログラムも生まれている。

ナラタージュ/島本理生……
地味ながらもしっとりとした恋愛小説。
不倫ではあるけれど、互いに半身のように愛しあっていた二人だと思う。

彼は、ずるくて弱くて愛おしかった。
彼女は、まっすぐに彼を愛した。
痛みと共に思い出す恋は、きっと忘れた方が楽で、だけど苦しみすら愛しい。

一つ気になったのはやけに喫煙者が多くでてくることで、2009年の小説で駅のホームで煙草を吸うのはちょっと非常識だと思う。
まだ全面禁煙前だったかな🤔?
もう全面禁煙だったと思うのだけど。


三体/リウ・シーキン……
文化大革命から始まり、VRゲーム、目に点滅するカウントダウンなどの読者を惹きつける厨2要素を絡ませながら怒涛の勢いで「三体文明」との対峙へ至る作品。
途中、少し置いていかれそうになったが、かなり楽しめました。

神様のカルテ2/夏川草介……
密かに推してた古狐先生が死んでしまった―😢😢 前巻でも取り上げられていた医師不足、医師の過労がより前に出てきた第2巻。


成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈……
連作短編6つのうち、島崎と成瀬が揃った3編はとても面白く、島崎のいない3編はあまり楽しめなかったので、実は島崎がキーだったんだなと思った。
成瀬は今でもすごいけど、大人になるに従ってスケールが小さくなってしまいそうで少し切ない。


葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午

A→読んで良かったと思える作品

All you Need is Kill/桜坂洋……
戦場に出ては主人公は死に、死ぬと再び前日に戻る。どうすれば死なずに済むのか。どうすれば明日を迎えられるのか。
それだけの話ではあるけれど、敵の宇宙人の設定なども深める余地があるし、タイムトラベルの設定も意外と珍しい。挟まれる少し猥雑なユーモアも魅力的で、ヒロインのリタもかわいかった。

斧がメイン武器の主人公像も意外と珍しい気がする。

屍人荘の殺人/今村昌弘……
クローズド・サークルの原因にゾンビの襲撃があるのは斬新。個人的にゾンビミステリでは「生ける屍の死」が神作なのであれだけど、こちらはこちらでよりサスペンス色が強い、ホラーミステリとして面白かった。


AX/伊坂幸太郎……
伊坂さんは大体70点前後の作家さんなんだけど、今回は上振れ。
妻を極度に恐れる殺し屋、【カブト】を主人公に展開されるハートウォーミングで少しシビアな物語。
「友達がいなくても、僕は幸せだ」の台詞と、スズメバチとの格闘シーンが熱かった。

凍える牙/乃南アサ……
飼い主の娘に忠誠を誓い、復讐に走る哀愁漂う狼犬【疾風(はやて)】がイケ犬すぎる作品。
男社会の殺人課でイロモノ扱いされながらバイクを飛ばす主人公と、飼い主を失い居場所をなくしたまま使命を果たそうとする疾風の、互いへのリスペクトを感じる作品。

炎環/永井路子……
源平合戦から北条政権確立までの、源氏一門の血で血を洗う一族内の権力争いを描いた作品
この辺りの歴史は今一つわからないので、少し勉強になったが、やっぱり北条なんちゃらのキャラが弱いのでよくわからない。
北条政子の妹が悪女で怖くて面白かった。

山霧―毛利元就の妻/永井路子……
後発作品、桜田晋也の「元就軍記」と比べると物足りなさが否めないが、比べなければまずまずの良作。
おかた(元就の妻)の魅力ももちろんだけど、隆元が有能に描かれているのは興味深い。


哲学者の密室/笠井潔……
『死』には『華々しく高貴な、特権的な死(ジークフリードの死)』と、『ただの数字としての、無意味な死(ファーフナーの死』があり、
『生』には、『充実した生き生きとした生』と、『何となく怠惰に過ごす生(頽落した生)』がある。
ハイデッガーは、第一次世界大戦の悲惨な戦死者の山から、その後ワイマール共和国の、平和でダラダラとした生を経て、
『充実した生き生きとした生』を生きるためには、『常に死を意識することで、生を充実させよう』と説く。
それは第一次大戦で亡くなったドイツ兵士たちの屍の上に成り立った、ワイマール共和国の『ダラダラした生』への嫌悪感でもあった。
しかし「ダラダラした生」とは、要するに死を意識せずに済む「平和な時代」には起こりがちな現象であり、
「常に死を意識することで、生を充実させよう」という発言、「華々しく高貴な、特権的な死」は、そのままナチスへの共感として学生に支持されていく。
しかし、それは戦死者を英雄化する試みであり、実際の「特権的な死」とは「常に死を意識しながら、特権的な死」を得るためには、「自殺」、もしくは「自己満足としての戦死」以外に道はなかった。
平和な時代にそれを行なうならば『革命』なり、『テロ』にしか道はない。(そうして、ISILに参加する人々が、数年前にもいた)

そして、新たに生み出されたのは『絶滅収容所』内での『ただの数字としての、無意味な死』であり、ハイデッガーの哲学は打ち崩される。
にもかかわらず、ハイデッガーは保身に走り、『偽のナチ(長いナイフの夜以降。1934~)』と『本物のナチ(~1934)』を分離し、『本物のナチ』にしか責任はないと、逃げたのだった。

『人間の可能性の中心点が破壊され、奪われた、生きたまま死んでいるような、実存の壊死』。
まさに今の自分を表しているようで刺さりました。


武帝記/北方謙三……
歴史小説ではありますが、どちらかというと歴史上の人物たち(龍轍・蘇武・李陵・司馬遷など)が『なぜ生きるのか』というのを強調した内容になっていました。ちょっとくどいくらい書かれているので、またか……と思いましたが、それが書きたかったのかなと。
個人的には司馬遷に共感、蘇武には共感は全くできないものの尊敬しました。逆に李陵の生き方は感情移入できず、武帝は論外。

衛青や霍去病といった武将を見出した事から、「武帝の人を見る目が凄い」的なフォローがされていますが、それ以外の人事は軒並み外してるし……。
戦争で漢の領土を最大にした皇帝というのがある意味での偉業なのでしょうが、信長とか曹操とか秀吉らのように、本人が陣前に立って戦うのではなく、安全な長安から大雑把な指示を飛ばしてるだけなので、武帝が凄いとは思えませんでした。


湖底のまつり/泡坂妻夫……
ヤンデレレズビアンの粧子と、男女関わらずモテモテのヒサエ(男装癖もあるバイセクシャル)。
この2人が完全に事件をややこしくしていて、なかなかアクロバチックな展開だけど、まぁ一応破綻はしていない。
面白かったです。

村上海賊の娘/和田竜……
本願寺VS信長の第一次木津川会戦を1200ページで描いた作品。
バトルシーンが多く少々疲れるところもあったが、剽悍な泉州侍や主人公の村上景、ヘタレだった弟の景親の成長や豪胆な真鍋海賊、雑賀鉄砲衆の鈴木孫一など、魅力的なキャラクターに彩られた力作でした。

忘れられた巨人/カズオ・イシグロ……
古代イギリス。サクソン人の襲撃に抵抗し続けたブリトン人アーサー王が亡くなって数年。
イギリス全土に霧が立ち込め、人々は記憶を失っていく。
幸せだった記憶、辛かった記憶、サクソン人とブリトン人の争いの記憶も。
霧が晴れた時、イギリスは再び戦火に包まれるのか。
幸福に暮らしていた老夫婦もまた、過去の傷を思い出していく。
カズオ・イシグロ作品の中では当たりとは言い切れないが、色々考えさせられる作品。
忘却の霧が発生すれば、ユダヤ人とパレスチナ人も平和に共存できるだろうか。

おもかげ/浅田次郎……
孤児として育ち、貧しさから会社人間として定年まで勤めあげ、定年退職の送別会の帰りに倒れた主人公。
ICUで(一見して)意識が戻らない主人公は、幽体離脱的な体験を繰り返しながら、自分の人生を振り返っていく。
母親の正体は意外だったのと、隣のベッドで寝てた爺さんが亡くなった時はうるっときた。
それと同時に、主人公の周囲の人間(妻、娘、娘の夫、親友など)についても描かれていく。
ただ、僕が会社人間とは正反対なのと、世代間ギャップ(現代の70代の価値観)のため主人公にところどころ感情移入できない部分はありました。


緋色の迷宮/トマス・クック……
隣家の少女が誘拐された。 この事件をきっかけに、主人公の家族が崩壊していく。兄・妻・息子は失われていく。  疑心暗鬼が、全てを壊していく。 事件は解決した。けれど、各々が抱いていた心の闇の、どこまでが真実だったのか、推測する事しかできない。
方向性は好きだけど、もう少しだけ希望をください🤧

星の王子さま/サン・テグジュペリ……
子どもの心を忘れかけてしまった、大人のための物語。
胸に迫るシーンは、王子さまとバラとの別れ、
王子さまとキツネとの別れ、そして王子さまとぼくとの別れ。
特に王子さまとバラは、うまくいかなくなった恋愛の別れの会話のように読める。

ジェーン・エア/シャーロット・ブロンテ……
割とご都合的なところがあったり(世間が狭い)、エドワードがなぜ元妻を離婚しないのかが謎だったりしたものの、ゆったりした基調の中になかなか激しい愛も描かれていて、
19世紀イギリスの恋愛小説を楽しめました。


陽だまりの彼女/越谷オサム……
良くも悪くもイチャイチャ甘々な二人が描かれた末(伏線はちゃんとある)、最期を迎える物語。
まぁ、宣伝文句の『女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1』というのはよくわからんが、読んで損のない良質な恋愛小説ではある。
ヒロインがかわいい。


アルスラーン戦記(1~7巻)/田中芳樹……
パルス王国のお家騒動。17代王オスロエスを殺し、即位した18代アンドラゴラス。
殺されたと思われていたオスロエスの息子ヒルメスは、異教国と結んでパルスを滅ぼし、アンドラゴラスを捕虜に。
残りの王太子アルスラーンに魔手を伸ばす。
3巻あたりから段々エンジンがかかってきて、7巻は前半戦最大の山場。

しあわせの書/泡坂妻夫……
カルト教団の、集団自殺……に見せかけた大量殺人事件を、迷探偵ヨギ・ガンジーは防げるか!?

この本のもう一つの凄みは、絶対ネタバレしちゃいけない奴。よく頑張って作ったなと思った。

シリーズものらしいが、探偵たちの紹介がないので、最初とまどった

心の砕ける音/トマス・クック
家族、とりわけ弟への愛と、ミステリアスな女性ドーラへの愛の物語。

悲劇と言えば悲劇だけど、予期した以上にマイルドで、心は砕けなかったかな。
あと、時系列がものすごく複雑で、あっちこっちに時間が飛ぶのでメモを取りながら読まないと、「今何時の話してるんだ?」ってなります。
章ごとじゃなくて、それこそ段落ですらなく次の行では時間が飛んでたりするので……

暗い鏡の中に/ヘレン・マクロイ……
ディクスン・カーの「火刑法廷」をより洗練させたホラーミステリー。
人為的に作られたドッペルゲンガーなのか、それとも本物のドッペルゲンガーなのか。
そして前者だったとすれば、この邪悪な犯人を捕まえらない、というサイコホラーに変わる。

破戒裁判/高木彬光……
タイトルからも解るように、被差別部落を扱った島崎藤村「破戒」のオマージュであり、本作も「新平民」を扱った作品
高木さんは熱を持って文章を書く作家さんで、それを「クサさ」ととるか、共感して熱くなるかは読者次第。個人的には高木さんの既読本では最高傑作

ジェイン・オースティンの読書会/カレン・ジョイ・ファウラー……
オースティン全6作をモチーフに、その参加者、男女6人の生活や恋愛模様を『オースティン風』の軽やかさで綴った作品
両作品だが、素晴らしいオマージュなので、できればオースティン作品を半分程度は読んでから臨みたい。最後のご都合主義的ハッピーエンドも、オースティン空間なのでOK。


サピエンス全史/ユヴァル・ノア・ハラリ……
人類とは、『虚構を信じる生き物』。
『信念』や『イデオロギー』『その共同体での習慣・常識』など、目に見えないものに従い、ある程度信じることを一種の『宗教』として捉えれば、人間は誰しも『宗教』を持っているな、と感じました。


クララとお日さま/カズオ・イシグロ……
『人工親友』のクララは、病弱な少女ジョジ―の一家に購入される。クララはジョジ―の親友を務め、ジョジ―が亡くなれば代わりを務める可能性すらありつつも、
ジョジ―が大人へと無事成長すると『引退』し、『廃棄』される。
クララが求めたのは、母親からの抱擁だったのではないだろうか、そんなことを考えると切なくなった。

神様のカルテ3/夏川草介……
推しキャラの東西さんの活躍が観られたのは嬉しいけど、全体的にはシリーズを畳みに行ったという印象でした。

B→暇つぶし以上の有益な何かを得た作品

モモ/ミヒャエル・エンデ……
(意味が違うけど)「時間泥棒」の元ネタになっている作品。
主人公のモモが、『浮浪児のままで』大活躍するのは珍しいと思った。モモみたいな友だちがほしい

黒い家/貴志祐介……
黒い家というよりグロい家という感じでしたが、ヤクザをも包丁で返り討ちにする狂人おばちゃんの存在感一辺倒ではなく、サイコパスについての蘊蓄などにもページが割かれていて面白い。
そして貴志さんはデビュー作からこのレベルかよ、と慄然とした。

蜜蜂と遠雷/恩田陸……
クラシック・ピアノコンクールの熾烈な争いを描いた物語、なんだけど恩田さんらしいというか、ちょっとヌルいんだよね。もっと非情なシーンがあっても良いと思う。
で、長尺のクラシックを聴くと寝ちゃう僕の評価なので、クラシックファンならもっと楽しめたんじゃないかと。

マヤコフスキー詩集/マヤコフスキー……
ソビエト革命とレーニンに対する熱い想いを感じました。
常に誰かと戦ってる感(苦笑)

賭博者/ドストエフスキー……

主人公の経済感覚がぶっ壊れすぎていて感情移入が全くできないのだが、それでいいのかもしれない。
これに感情移入できるようなら、その人もまたギャンブル狂だろうから。

何はともあれ、主人公の周囲にロクな女性がおらん……。

崩れる脳を抱きしめて/知念実希人……
恋愛小説かと思ったら、厨2病の入ったハードボイルドだったでござる。主人公の成長物語ではあるけど、金銭的に安定したから成長したと言えなくもない

『ゆかり』トリックは、「イニシエーション・ラブ」の『鈴木』トリックがあるから、薄々察せた

硝子の塔の殺人/知念実希人
……これ、評価に困るな。ギミックの出来は悪くないんですが、最後のドンデン返しでまるきり内容に興味がなくなってしまうぐらい萎えました。

「何 が 密 室 ト リ ッ ク だ
そ ん な こ と で 人 を 殺 す な 。 く だ ら な い !!」
に尽きるので、別に動機なんてどうでも良くて、トリックが良ければそれで良い人や、このギミックが許せる人なら+10点。伏線とかはしっかりしてます。


死の家の記録/ドストエフスキー……

Nのために/湊かなえ……
途中まで安心して読めたけど、やっぱりクズ母や虐待魔が何人も出てきた💦

君主論/マキャベリ……
結果を得るためにはクズになれ、ただし憎まれるのは避けよ、という『保身』と『権勢』を両立させる技術を綴った、
「勝った方が正義なんだよ!!」な本
嫌悪感しかないけど、その背後にはイタリアがあまりにも弱くボコボコにされ続けたマキャベリの悲痛な叫びも聞こえる。

夜と霧/ヴィクトール・E・フランクル……
ユダヤ人絶滅収容所を生き残った精神医学者が、収容所での体験を綴った作品です。
ちょっと感想を書きにくいですね。

この青い空に君を包もう/瀬名秀明……
青春折り紙小説ちょこっとSFです><

ポアロ登場/アガサ・クリスティ……
作品自体はまずまずで、読んでも読まなくても良いレベル。
ただ、ポワロの大ファンとしては、中期作以降結婚してアルゼンチンに行って別れ別れになってしまう、結婚前のヘイスティングスくんと事件を楽しく解決する姿にほっこり。

レディ・ジョーカー/高村薫……
グリコ・森永事件をモデルに、日ノ出ビールへの業務威力妨害を行う犯行グループ『レディ・ジョーカー』たちの正体は、競馬を楽しむおじさんたち。
しかし被差別部落の問題や、ビール会社社員の自殺も加わり、暴力団までがレディ・ジョーカーの真似をして他企業をゆすり始めるのだった。

正直なところ、「結局、何がしたかったの?」というのが本音。兄の無念を晴らすため、という物井の動機(とはいえ、兄とは大して親しくもないのだが)と金儲けのためという高の動機はまだわかるが、半田と合田が互いに憎みあっているのとか意味が解らん……。

あまり恵まれない階級の人々が、ビール会社最大手の日ノ出ビールに嫌がらせして日々の鬱憤を晴らしたれ!という事しか伝わらなかった。
まぁ、格差社会が拡大したらそういう事件は起こるだろうけど、どちらかというと貧しい者同士が共喰いする事件のが起こりそうな気はする。


わたしを愛したスパイ/イアン・フレミング……

ボンドではなくヒロインが主人公の異色作。
酷い男に騙されてきたヒロインが、ギャングに殺されかけるところをボンドに救ってもらう話。
サスペンス部よりも前半の、ヒロインの過去が結構面白く、こういうのも書けるのかと思った。

「ゼロからの『資本論』」/斎藤幸平……
マルクスの「資本論」の入門書? 内容は資本主義の限界を描き、ソ連や中国とは別方向の社会主義への理想を語る感じの本で、個人的にはいちいち同意なのですが、 そもそもこれは「資本論」の入門書なのか、 「資本論」を少し引きながら斎藤さんが持論を熱く語った書なのかがイマイチわかりませんでしたw

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神/マックス・ウェーバー……
要はカルヴァン派が始めた『予定説』と『禁欲主義』が資本主義を高度に発達させた。しかし今日、資本主義を禁欲主義と結びつける考えはもはやない。

というお話。理解はできたが共感はしづらいw

2章―1で、プロテスタントの宗派がほとんど説明なしにわらわらと出てきて苦戦したが、多分、本の主張には影響がないと思う。ここ以外は読みやすかった。
多分、キリスト教各派について詳しければ、ここでもワクワクしたんだろうけど、僕は神学には興味がないのだった。

ウィトゲンシュタイン『哲学探究』という戦い」/野矢茂樹…… 
理解はあやふやなままではいけないが、言語は【あやふやなまま】でないと使用できないというのは納得。
哲学科でもない僕が適当な事を言うけど、哲学というのは『普段、当たり前の事として深く考える必要もなく生きてきたもの』に対して、 『改めて深く掘り下げて考える事』によって、 『新しい視界・ものの見方ができる』というところに魅力があると思っている。

で、ウィトゲンシュタインさんだけど、 なんか、『あまりに深く考えて掘り下げすぎてしまった結果、全て【きちんとしないと】』という罠にハマってしまいかけて、 一周回って 『いや、言葉は【あいまいさが大事なんだ】』と悟りを得たような感じw
しかし、何も考えないよりは、深く考えた上で戻ってくるその道筋が大事な気はする。

屍者の帝国/円城塔&伊藤計劃……
フランケンシュタイン・ホームズ・ドラキュラを軸に、カラマーゾフの兄弟・007・風と共に去りぬといった様々な作品と、
ダーウィン・エジソン・バベッジ・川路利良・大村益次郎・グラント・リットンといった歴史上の人物をごちゃまぜにした闇鍋的作品。
そのカオス具合は、ギリギリ作品として成立してはいるものの、個人的には破綻寸前だと感じた。
『人間だけが持つ魂』の存在を21グラムの菌種と喝破したフランケンシュタイン=ダーウィンと、
それを否定するヘルシング教授。
真相はわからないが、個人的にはフランケンシュタインの説の方が面白い。
まぁ、色々振り回された挙句、「結局わからないんかい!」な読後感は「ドグラマグラ」に近い印象を受ける。
というわけで、「虐殺器官」・「ハーモニー」の2大名作(何せ去年の1位と2位)と比べると、本作は個人的な好みとしては大きく劣るも、まぁ標準程度には楽しめたかな。期待が高すぎた。

ペンギンハイウェイ/森見登美彦……
毎日が常に新鮮で、世界には多くの謎が秘められていた小学4年生の夏を描いた作品。

火星甲殻団/川又千秋……気軽に読めて、楽しいSF。
機械知性がスペック的に人間を上回った世界での、
機械知性と人間の友情や、機械知性の暴走などが描かれる。

よくある話といえばよくあるけど、さらっと読めて、楽しくて、ちょっと考えさせられる娯楽SFとして箸休めにどうぞ。


チンギス・ハーンの一族/陳舜臣……
1巻はチンギス、2巻はチンギスの子供たち、3巻の中盤からはフビライの物語で、他の4ハン国の存在感が薄いのが残念 3巻以降は「元」の物語になるので、中国歴史小説風になるけれど、中国の詳細な地図がないため、地名のほとんどがわからないチグハグさ
フビライの死まででなく、各ハン国の衰退まで書いてほしかったのと、 「元」に絞るなら(出てきもしない神聖ローマ帝国やフランス、イギリスまでの広域地図ではなく)中国の地図をもっと細かくつけてほしかったです>< 
まぁ、モンゴル帝国のお勉強にはなりました😌

カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ……感想はこちら

盗作・高校殺人事件/辻真先……
前作よりもパワーアップした面白さで、探偵カップルが事件を解いていく
ただ、事件の発端に当たるバイク窃盗事件が謎。
バイク泥棒をするのに、わざわざ縁もゆかりもない田舎まで車で4時間飛ばすか?っていう。
ストレスからやった、という理由なので猶更。

C→暇つぶし程度にはなった作品

小説版・君の名は/新海誠……
結局のところこれは、人生に疲れた社会人が、
『記憶に残っていない誰か・何か・もしくは愛』を求め続ける二人が出会う、というおとぎ話なんだと思う。

そこに新海さんらしさを感じる。
二人が出会うための切っ掛けになる、SF部分は脆弱で、その上長い。
というか常識的に考えて、3年の違いに気づかないわけがないんだよね。

母性/湊かなえ……
娘以外、クズしかいねぇ。
特に母親と、父方の祖父母はヤバい。
母親は、自分の母(娘から見て祖母)を神聖視しすぎて、娘にもそれを押し付けてるのが気持ち悪すぎ。
そして教訓は、「農家に嫁入りしてはいけない」

アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎……
恋愛小説かと思ったらボクシング小説になってしまい、結局、何が書きたいのか伝わらなかった。

グラスホッパー/伊坂幸太郎……
割とドジの多い殺し屋数名や、マフィアみたいな連中がドタバタと殺し合う話。

牧師館の殺人/アガサ・クリスティ

バレエ・メカニック/津原泰水……
『グラン・ヴァカンス好きにお薦め』って書いてあったから読んだのに、これは『説明不足+謎の二人称でわかりづらくなったパプリカ』やないかい!
章を追うごとに全容が見え始め、少しずつ面白くなるとはいえ、結局繋がらない部分もあって今一つ。

ウィトゲンシュタイン『哲学探究』入門/中村昇……
『入門』というだけあって、書いてあることは哲学の基本中の基本だと思った。よく言えば丁寧、悪く言えば「その程度の事はわかるよ!」という感じ。

本書で扱ったのは、ウィトゲンシュタインの『哲学探究』自体の6・2%にすぎないということなので、『哲学探究』に対する評価ではないです。

「心の内的感覚」と「外界・他人」を繋ぐのが『言語』であるけど、『言語』では『感覚自体』を伝えることはできない。ということで、要は『青りんごと赤りんごの実験』(イラストを貼りたいけど、見つからない)で理解している範囲内だった。

死者たちの礼拝/コリン・デクスター……
イギリスミステリー定番の、中年警部が足と妄想(推理とは呼べない)を使って、なんとか事件を解決するやつ。

モース警部50歳、41歳まで処女だった女性をゲット><
↓の「ジェリコ街の女」よりは上。

ジェリコ街の女/コリン・デクスター……

眼下の敵/D・A・レイナ―……
UボートVS駆逐艦の一騎打ち!
内容はそれだけです。こういうものを好む人が読むわけなので、興味のない僕が読んでもそりゃ微妙ですよね。
海洋モノは女性キャラが1人も出てこない事が大半なのも寂しいです。

それはともかく、ドイツ軍艦長が無能でしたが、それだけに艦内がギスギスしていて面白かったです。
イギリス軍は規律が取れていて、優秀な艦長とそれを信頼する部下って感じなので、読んでいる分には逆に面白味はなかったです。

死者の舞踏場/トニイ・ヒラーマン……
ナバホ族とズニ族の居留地で起こった殺人、ということで、まぁそれだけで新鮮味があるんだけど。
集中力を欠いていたからかもしれないけど、行方不明だった少年がいつの間にか死んだことになっていたり、ちょっとよくわからなかったですね。

仮題・中学殺人事件/辻真先……
初々しい中学生カップルが事件を解決していくのが楽しい。
事件自体は割とどうでも良いというか、そんな理由で殺すなよ感が凄い。
ラノベタッチなのに、時刻表トリックとか出てきて噛みあってない感が一周回って独特。

エンジン・サマー/J・クロウリー……
最後だけ盛り上がった感じはあるけど、予想の範囲内かな……。
「80年代のブラッドベリ」だとは思わなかったな。


新宿鮫4無限人形/大沢在昌……
晶ちゃんがかわいいです。

夏と冬の奏鳴曲/麻耶雄嵩……
頭のおかしな主人公、頭のおかしな登場人物たち、は共感は無理でも理解は可能です。
おかしなヒロイン、は主人公の頭がおかしい説を取ります。ドッペルゲンガー説でも良いんですけど。
何せ超常現象が起こる本なので。
おかしな超常現象は、集団妄想でOK……ですか? 謎を投げっぱなしジャーマンでわけがわかりません。作者も多分わかってないと思いました。

D→自分には合わなかった作品

エディ・コイルの友人たち/ジョージ・V・ヒギンズ

最長不倒距離/都筑道夫

死者の書/折口信夫

翼ある闇/麻耶雄嵩


E→プロ作品として見るにはつらい作品