中田永一の「くちびるに歌を」読了。91点。
年間トップ3級。

とにかく作者の情報の出し方が巧い。クライマックスの盛り上げ方など、見習いたいところが盛りだくさんでした。

五島列島にある合唱部が舞台。
ぼっち主人公のサトルは、ひょんなことから憧れの女子コトミに誘われ、合唱部に入ることになります。
元々女子部員しかいなかった合唱部は、同時期に美人臨時講師の先生目当てに大量の男子が入部。しかし、先生目当てなので、美人先生がいない日はサボりがちで、女子と男子の溝は深まる一方です。
サトルはコトミが『いい人を演じている』という秘密を知り、コトミはサトルが『自閉症の兄を看護している』という秘密を知って、少しずつ距離が近づいていきますが、コトミには以前から付き合っている年上の彼氏がいます。

女子部員ナズナは、父が母と自分を捨てて愛人の元に走り、その後もろくでなし(というか生活能力がない)なため、男性を蛇蝎の如く嫌っています。
ただ、そんなナズナも男子部員ケイスケとは小学低学年時代に仲良くしており、今は疎遠になっているもののケイスケが先生目当てに入部した事もあり、交流が復活します。
それは小学生の時のような仲良しなものではなく、度々衝突するという形でしたが、ナズナは明らかにケイスケを意識しています。

合唱部は、男子と女子の溝が深まり、精度は下がる一方。美人臨時講師も、経験不足ゆえ、生徒の前では頑張っていますが、内心自信がないように見えます。

舞台の五島列島は、九州本土からも離れており、大人になるとばらばらになってしまう。そんな『今』を生きる中学合唱部の人間模様がとても魅力的に描けています。

ぼっち主人公と憧れの女子コトミとのやり取りも含め、胸を揺さぶられました。
カッコ悪いかもしれないけど、辛いことも、切ないこともあるし、時には誰かと衝突もするけれど、 彼らはこの「今」を全力で生きている。

一番胸を揺さぶられたのは、

「拝啓、十五年後の自分へ。
いつもひとりで過ごしていました。
友だちが、できませんでした。
このコミュニケーション障害は、何が原因なのでしょう。
無意識のうちに、相手を避けていたのかもしれません。
自分は決定的にみんなとは違うのだ、という自覚が昔からありました。
自分の事が、人間の村に入り込んだモンスターのように思えるのです。
クラスメイトに話しかけられても、どこかで線を引いて、距離を置いてしまうのです。
だれともうまく意思疎通のできない、誰からも興味を持たれない、そういう人間に、なってしまいました」 
 
の独白でした。僕もそういうところがあるから。
僕の場合は、「モンスターである自分を理解ってほしい」という気持ちが強くあって、ちょっと振る舞いは違うけれども、「この人は理解ってくれない人だな」と感じると、線を引いて距離を置いてしまいます。
急に自分語りになっちゃったけど、それぐらい主人公に共感し、応援しながら読めたということで、名作でした!!

僕も、青春小説を書くならこういう作品を書きたいですが、実力が追いつきません😢 
乙一さんは専門知識の多い作品を描いているわけでもなく(医者出身の海堂さんの医療ミステリを僕に描けと言っても、無理な話)、大長編を書くわけでもなく(大長編は僕の力量的に無理)
それでいて自分の琴線に刺さる素晴らしい作品を描くので、目指している作家のうちの一人なのですが、
やはり才能の違いを感じさせられます。
読んでいて悔しいと感じるとともに、やっぱりこれだから読書はやめられないし、小説執筆も(サボってるけど)辞められないと思います。
一生に一作でいいから、このレベルのものを書いて、読者に届けたいです。