夜になると きこえる
魚たちの悲鳴
薄日の傾むいていく空をはめこみ
むなしい仕事になれきった体の内側に
だれかが眠っていて

だれだっ!

かくれんぼしている そうだ そうなのだ あれは
かくれんぼだった 鬼のいないかくれんぼ 鬼しかいないかくれんぼ かくれんぼ かくれんぼ
そうして 俺は育った

問いかけよりも進んでいかない記憶
こだまはとびかい
だが
だれかがいるはずだ
だれかが
俺のなかじきりにすわりこんで
大口あけて嗤い

こんなのは俺のことばじゃない 俺のことば? 俺のことば なんて ことばは決して昇っていかないものだから きずや裂け目をみつけては 空ろな手形ふりまわし かろうじて一個の棒鱈であろうとする決意 ひらめかも知れない いつわりばかりのやさしい日? 金属音にまくれあがる カレンダー
ほんとうは閉じられた部屋なのだから いいじゃないかという意識 いまこそ空に溺れてみたいと願う醒めるには冷たすぎる日付け 手垢にまみれた ことばのカーテンにとりかこまれて

しょせんは信じられぬ青空や樹林
空の青は骨の色
樹林のみどりは
いつも
むなしい血の色をしていて
高わらいのようにひびく
魚たちの悲鳴
あれがきこえると
俺の骨にひびが入り
いつも
俺の相似形たち
背をむける
俺のように
存在感を剥ぎとられ

人間であろうとした声 父親よりもしわがれた声 母親よりも血まみれの声 ざらがみの声 さびついた声 涙ではないしわだらけの声 叫びでもない苦悩の声 そこびかりの目 にごった目 のぶといくろい声 今 ハーレムから ゲットーから飢えをこめて

たくさんの生存する権利 たくさんの拒否権 存在という美しい呼び名 憎悪や不安という もっともっと美しい名前 うまれる義務やうまれなかった権利 溺れてみたい空 見たくない空 とりわけ 暗青色の空 (時間を刻むドラムもかすれ) 回復不可能な蒼い空が 俺の体の中で 溢れ ねばつき
ねばねばとしたたり 奴らの体とだぶる 遠い海への欲望に駆り立てられ

空モ変レ!
大地モ変レッ!

憎悪カラシカ 生マレルコトノデキナカッタ俺ニ ドウシロイト言ウノダ ヤミタダレタ かれんだあ 赤グロイアカグロイ闇ノ闇ノ中ノ閃光 ツメタイ俺ノれぞんでえとる トビカウノハ ぶよヤこうもり
オウ!
足元ニハ 地面ナドナイ!
背中ニ描イタ顔ハ 塗リ消セ!
塗リツブスノダ!

《ソシテ 
《夜ガ造型スル 炎

夜ト火
夜ト火

《ぶるうすヨリモクライ火

ダガ
座標軸ヲ立テルト
海ガ煮エタギルカラ
空ガ焼ケ落チルカラ

感傷はよせ といつもささやく声におどろかされて 俺は俺の中にひろがる夜道をかけてきた
歯をくいしばって 声たちに追われて追いかけられて いつも背中にあたる風 俺の肋骨から吹きつけてくる風 潮風 まがりくねって ねじくりかえって吹く 風たちに追われ 
声たちに追われて 世界のちょうど半分だけにひろがる道の上 坐るところがないから 手足をちぢこまらせ 
 椅子を作ろうと ゆびを裂き
 あ 抽象にもせよ 半分しか色彩のない道 半分しかない椅子 おそろしい透明 白 白 しろ しろ 空があからむと 夢遊病におかされて ほんとうは溢れたい海 叫びたい海 ちぎれたい海 ほんとうは飛びたい海
 それらはすべて 正しくないと ささやく声におどろかされて 青写真を作ったことが 俺の 苦がい誕生 さむい朝 そして さむくない朝 ひとつの亀裂が地球の反対側で口を開き ほのお舞い上がり つめたい炎 右半身黒褐色黒褐色 左半身透明or白色 骨の粉 ふきあげ 炎 さかまき 骨の粉 ねじれよじれ 炎とびちり 骨の粉地につもり 骨の粉 灰のように地につもり 
 おまえは正しくない とささやく声におどろかされて

夜になると
いつも
きこえる
魚たちの悲鳴

もどっていかないのは
もどることができないのは
記憶だ 俺に刻まれた
歴史のはじまり
あの
魚たちの悲鳴


おまえは
直線であってはならない
ピストンであってはならない
まして
円や楕円など
完結にむかおうとする勢力は
切りすてなければならない

俺たちの未来には
角錐が似つかわしい
それら角錐の頂点は各々
地球とかいうぎざぎざの破片を
先端にひっかけ
新聞紙のように風にはためかせよ

だが 切りとられた道 爆発した道 白い道 前も後も道ではない道 さかだちしなければ歩けぬ道
砂ぼこりの道 苦がい道 岩屑の道 花粉のようにとびちる道
くもの巣のような亀裂の道 ほころびた道 とどまるためには走らなければならない道 走っても走っても追いつけぬ道 骨の色をした道

夜よりもくらい朝
血よりもあかい真昼
あなたの体を通過する時にきいた
魚たちの悲鳴
あの声をきくと
俺の血は白くにごり
俺の骨は白くひびわれ
そうして
俺は割れ目にガーゼをつめて育った
俺のひび割れをみつけた奴は
殺さねばならぬ
何回も何回も産湯をつかいなおいした俺は
そのたびごとに
違う地図を掌に握った
あたり一面
踏みしだかれた草たち
青く青くたかわらいしていて
空の一角からきこえる
魚たちの悲鳴