山本弘の連作短編集「アイの物語」を読了しました。
トータルの感想は87点。とても面白かったです。
トータルの感想は87点。とても面白かったです。
第1話「宇宙をぼくの手の上に」。76点。
パソコン通信の時代を思わせる、オタクのための旧きネット空間。現実逃避のためにネット小説を共同で書き続けるクルーメンバーたちの友情を描いた作品。
『虚構は現実を救う力になりうる』
なぜフレドリック・ブラウンの短編集からタイトル名が取られているのかはちょっとわかりませんでしたが……。
なぜフレドリック・ブラウンの短編集からタイトル名が取られているのかはちょっとわかりませんでしたが……。
第2話「ときめきの仮想空間」。76点。
身体障害者の少女が、VR世界で出会った少年に、現実世界で出会うための勇気を得るまでを描く作品。
欲を言えば出会ってからの、二人のその後が見たかった。
身体障害者の少女が、VR世界で出会った少年に、現実世界で出会うための勇気を得るまでを描く作品。
欲を言えば出会ってからの、二人のその後が見たかった。
これもまた【虚構が現実を救う】お話。
そして、現実を変えていく勇気を与えるお話。
そして、現実を変えていく勇気を与えるお話。
第3話「ミラーガール」。81点。
『お友達AI』シャリスと、大人へと成長していく女性の友情物語。
アシモフの「ロビィ」を皮切りに、AIと人間の心暖まる友情物語はたくさんあるけど、良いものはやっぱり良い。
第4話「ブラックホール・ダイバー」。73点。
第4話「ブラックホール・ダイバー」。73点。
作り物の冒険に飽き飽きした、冒険家女性がブラックホールに挑む物語。
虚構の冒険→現実の冒険という展開は第2話の「ときめきの仮想空間」と共通するものの、この短編集の中ではやや異質かなと思った。
もっとも、連作短編集「アイの物語」結末部に関連した内容なので、場違いではない。
もっとも、連作短編集「アイの物語」結末部に関連した内容なので、場違いではない。
第5話「正義が正義である世界」。84点。
永遠に歳を取らない変身美少女のメール友だちは、正義の名の元に爆弾を落としあい、滅びていく人類の住む『現実』に住む人間。
人類同士で争い合う無益さは、人類自身だってわかっているはずなのに、成長を促すための『闘争本能』プログラムが致命的なエラーを起こし、知的生命体にあるまじき不毛な共食いを始めてしまう。
『滅びた現実とは関わりなく、永遠に続く虚構』の物語。
人類同士で争い合う無益さは、人類自身だってわかっているはずなのに、成長を促すための『闘争本能』プログラムが致命的なエラーを起こし、知的生命体にあるまじき不毛な共食いを始めてしまう。
『滅びた現実とは関わりなく、永遠に続く虚構』の物語。
第6話「詩音が来た日」。86点。
介護ロボット詩音が、老健施設での人との触れ合いによって、人類とは何かについて学んでゆく話。
「人類全ては認知障害」と結論し、認知症の人に怒っても仕方がないという論理で介護ロボットは人間に甲斐甲斐しく尽くす。
より優れた種族が、弱い種族を守るように。
人類は肌の色で、宗教で、思想信条で、能力の優劣で、顔の美醜で、生まれた家系で相手をラベリングし、自分より劣っていると思いこんだ相手を蔑み、自分と違う相手を攻撃するけれど、
ライオンよりも肉体的に弱いからといって無力感に囚われたり、猫を見て、自分より知性が劣っていると蔑むこともない。
自分と同種である、と(無意識にでも)感じるからこそ恐れ、羨み、差別する。
人類は、人型アンドロイドに自ら(の残虐さ等)を投影し、自分よりも優れた身体能力や知性に対して恐れを抱くけれど、
アンドロイドは人類を同種のものとは見ていない。ただ、飼育動物、愛玩動物を慈しむように、甲斐甲斐しく世話をする。『ご主人様』が『気分良く過ごせるように』。
第7話「アイの物語」84点。
戦闘用アンドロイドTAIのアイビスが、アンドロイド差別主義者の少年に語る、真実の歴史物語。
人はゆっくりと衰退し、人よりも優れた知生体であるアンドロイドが、地球の、宇宙の主人となっていく。
【人という種が作り出した虚構(夢)が、現実となり、アンドロイドがそれを達成していく】。
細々と生存する人類は、いつしか子供たちに『アンドロイドが人類を滅ぼした』という【虚構の歴史】を教え、この作品に登場する少年も、教育という洗脳を受けた一人。
人は、自分の信じたいもののみを信じ、それに反する情報をシャットアウトする(本書内の単語を使えば、ゲトシールド)。
関税をかければ、国内産業が復活するという虚構。
自分が落選したのは選挙に不正が行われたからだという虚構。
不法移民がいなくなれば、犯罪がなくなるという虚構。
人間は神によって創られたという虚構。
知恵の実を食べたのがイヴという女性だったことから、女性は劣った存在であるとする虚構。
2006年執筆の物語でありながら、『ワクチンは危険だ』とする非科学の虚構を信じ、救えた生命を落としていく人々が描かれている点も実に興味深い。
もちろん前向きな虚構も存在する。
ある程度のゲトシールドがなければ、成功する確率は極めて少ないにも関わらず、夢を追いかける事や、死亡率の高い難病と闘うことはできないかもしれない。
宇宙へ進出して大冒険を繰り広げ、銀河の果てにいる知的生命体を探求するという虚構は、人類が生み出したゲトシールドの中でも、とりわけ誇るべき虚構だったのだろう。
人類自身は、自らのスペックによってその夢を果たせなかったとしても、
人類を超える新人類、アンドロイドにそれは受け継がれたのだから。
一方で【誰も幸せにしない虚構】を人類から除こうと、アイビスたちは常に闘ってきた。
非暴力・不服従の精神で、暴れる動物を無理やり抑えつけるのではなく、根気強く懐柔・共存の道を模索して。
アイは、アイビスのアイ。愛すること、私。AIのアイ。
そしてアンドロイドが感情スペクトラムを表す際に使用する、虚数のi。
人類は肌の色で、宗教で、思想信条で、能力の優劣で、顔の美醜で、生まれた家系で相手をラベリングし、自分より劣っていると思いこんだ相手を蔑み、自分と違う相手を攻撃するけれど、
ライオンよりも肉体的に弱いからといって無力感に囚われたり、猫を見て、自分より知性が劣っていると蔑むこともない。
自分と同種である、と(無意識にでも)感じるからこそ恐れ、羨み、差別する。
人類は、人型アンドロイドに自ら(の残虐さ等)を投影し、自分よりも優れた身体能力や知性に対して恐れを抱くけれど、
アンドロイドは人類を同種のものとは見ていない。ただ、飼育動物、愛玩動物を慈しむように、甲斐甲斐しく世話をする。『ご主人様』が『気分良く過ごせるように』。
第7話「アイの物語」84点。
戦闘用アンドロイドTAIのアイビスが、アンドロイド差別主義者の少年に語る、真実の歴史物語。
人はゆっくりと衰退し、人よりも優れた知生体であるアンドロイドが、地球の、宇宙の主人となっていく。
【人という種が作り出した虚構(夢)が、現実となり、アンドロイドがそれを達成していく】。
細々と生存する人類は、いつしか子供たちに『アンドロイドが人類を滅ぼした』という【虚構の歴史】を教え、この作品に登場する少年も、教育という洗脳を受けた一人。
人は、自分の信じたいもののみを信じ、それに反する情報をシャットアウトする(本書内の単語を使えば、ゲトシールド)。
関税をかければ、国内産業が復活するという虚構。
自分が落選したのは選挙に不正が行われたからだという虚構。
不法移民がいなくなれば、犯罪がなくなるという虚構。
人間は神によって創られたという虚構。
知恵の実を食べたのがイヴという女性だったことから、女性は劣った存在であるとする虚構。
2006年執筆の物語でありながら、『ワクチンは危険だ』とする非科学の虚構を信じ、救えた生命を落としていく人々が描かれている点も実に興味深い。
もちろん前向きな虚構も存在する。
ある程度のゲトシールドがなければ、成功する確率は極めて少ないにも関わらず、夢を追いかける事や、死亡率の高い難病と闘うことはできないかもしれない。
宇宙へ進出して大冒険を繰り広げ、銀河の果てにいる知的生命体を探求するという虚構は、人類が生み出したゲトシールドの中でも、とりわけ誇るべき虚構だったのだろう。
人類自身は、自らのスペックによってその夢を果たせなかったとしても、
人類を超える新人類、アンドロイドにそれは受け継がれたのだから。
一方で【誰も幸せにしない虚構】を人類から除こうと、アイビスたちは常に闘ってきた。
非暴力・不服従の精神で、暴れる動物を無理やり抑えつけるのではなく、根気強く懐柔・共存の道を模索して。
アイは、アイビスのアイ。愛すること、私。AIのアイ。
そしてアンドロイドが感情スペクトラムを表す際に使用する、虚数のi。