父の詩

自画像 3魚たちの悲鳴

夜になると きこえる
魚たちの悲鳴
薄日の傾むいていく空をはめこみ
むなしい仕事になれきった体の内側に
だれかが眠っていて

だれだっ!

かくれんぼしている そうだ そうなのだ あれは
かくれんぼだった 鬼のいないかくれんぼ 鬼しかいないかくれんぼ かくれんぼ かくれんぼ
そうして 俺は育った

問いかけよりも進んでいかない記憶
こだまはとびかい
だが
だれかがいるはずだ
だれかが
俺のなかじきりにすわりこんで
大口あけて嗤い

こんなのは俺のことばじゃない 俺のことば? 俺のことば なんて ことばは決して昇っていかないものだから きずや裂け目をみつけては 空ろな手形ふりまわし かろうじて一個の棒鱈であろうとする決意 ひらめかも知れない いつわりばかりのやさしい日? 金属音にまくれあがる カレンダー
ほんとうは閉じられた部屋なのだから いいじゃないかという意識 いまこそ空に溺れてみたいと願う醒めるには冷たすぎる日付け 手垢にまみれた ことばのカーテンにとりかこまれて

しょせんは信じられぬ青空や樹林
空の青は骨の色
樹林のみどりは
いつも
むなしい血の色をしていて
高わらいのようにひびく
魚たちの悲鳴
あれがきこえると
俺の骨にひびが入り
いつも
俺の相似形たち
背をむける
俺のように
存在感を剥ぎとられ

人間であろうとした声 父親よりもしわがれた声 母親よりも血まみれの声 ざらがみの声 さびついた声 涙ではないしわだらけの声 叫びでもない苦悩の声 そこびかりの目 にごった目 のぶといくろい声 今 ハーレムから ゲットーから飢えをこめて

たくさんの生存する権利 たくさんの拒否権 存在という美しい呼び名 憎悪や不安という もっともっと美しい名前 うまれる義務やうまれなかった権利 溺れてみたい空 見たくない空 とりわけ 暗青色の空 (時間を刻むドラムもかすれ) 回復不可能な蒼い空が 俺の体の中で 溢れ ねばつき
ねばねばとしたたり 奴らの体とだぶる 遠い海への欲望に駆り立てられ

空モ変レ!
大地モ変レッ!

憎悪カラシカ 生マレルコトノデキナカッタ俺ニ ドウシロイト言ウノダ ヤミタダレタ かれんだあ 赤グロイアカグロイ闇ノ闇ノ中ノ閃光 ツメタイ俺ノれぞんでえとる トビカウノハ ぶよヤこうもり
オウ!
足元ニハ 地面ナドナイ!
背中ニ描イタ顔ハ 塗リ消セ!
塗リツブスノダ!

《ソシテ 
《夜ガ造型スル 炎

夜ト火
夜ト火

《ぶるうすヨリモクライ火

ダガ
座標軸ヲ立テルト
海ガ煮エタギルカラ
空ガ焼ケ落チルカラ

感傷はよせ といつもささやく声におどろかされて 俺は俺の中にひろがる夜道をかけてきた
歯をくいしばって 声たちに追われて追いかけられて いつも背中にあたる風 俺の肋骨から吹きつけてくる風 潮風 まがりくねって ねじくりかえって吹く 風たちに追われ 
声たちに追われて 世界のちょうど半分だけにひろがる道の上 坐るところがないから 手足をちぢこまらせ 
 椅子を作ろうと ゆびを裂き
 あ 抽象にもせよ 半分しか色彩のない道 半分しかない椅子 おそろしい透明 白 白 しろ しろ 空があからむと 夢遊病におかされて ほんとうは溢れたい海 叫びたい海 ちぎれたい海 ほんとうは飛びたい海
 それらはすべて 正しくないと ささやく声におどろかされて 青写真を作ったことが 俺の 苦がい誕生 さむい朝 そして さむくない朝 ひとつの亀裂が地球の反対側で口を開き ほのお舞い上がり つめたい炎 右半身黒褐色黒褐色 左半身透明or白色 骨の粉 ふきあげ 炎 さかまき 骨の粉 ねじれよじれ 炎とびちり 骨の粉地につもり 骨の粉 灰のように地につもり 
 おまえは正しくない とささやく声におどろかされて

夜になると
いつも
きこえる
魚たちの悲鳴

もどっていかないのは
もどることができないのは
記憶だ 俺に刻まれた
歴史のはじまり
あの
魚たちの悲鳴


おまえは
直線であってはならない
ピストンであってはならない
まして
円や楕円など
完結にむかおうとする勢力は
切りすてなければならない

俺たちの未来には
角錐が似つかわしい
それら角錐の頂点は各々
地球とかいうぎざぎざの破片を
先端にひっかけ
新聞紙のように風にはためかせよ

だが 切りとられた道 爆発した道 白い道 前も後も道ではない道 さかだちしなければ歩けぬ道
砂ぼこりの道 苦がい道 岩屑の道 花粉のようにとびちる道
くもの巣のような亀裂の道 ほころびた道 とどまるためには走らなければならない道 走っても走っても追いつけぬ道 骨の色をした道

夜よりもくらい朝
血よりもあかい真昼
あなたの体を通過する時にきいた
魚たちの悲鳴
あの声をきくと
俺の血は白くにごり
俺の骨は白くひびわれ
そうして
俺は割れ目にガーゼをつめて育った
俺のひび割れをみつけた奴は
殺さねばならぬ
何回も何回も産湯をつかいなおいした俺は
そのたびごとに
違う地図を掌に握った
あたり一面
踏みしだかれた草たち
青く青くたかわらいしていて
空の一角からきこえる
魚たちの悲鳴

自画像 2夜明け

決定されちまった夜明け。
おそろしい?
足音が。足音を呼んでいて。澱んだ。
大気の底から。褐色な。牛乳屋など。
現われ。きのこのように。現れては。
とけ。現れては溶け。
それら。
静かな爆発の。
夜明けの彫刻?
ぼくも。溶かされてしまう。
ぼくだけの溶け方?
走ってみる?
叫んでみる?
それより。黙りこんで。
黙りこんで裂かれちまったほうがいい?
たしかに。
よろけ歩いて。
夜明けが。
あ。
溶けてしまう。
おそろしい。
おそろしい夜明けだ。
逃げて来たんだから。
もう。
俺の体には、
青空なんてない。
あ。
ハエが。
俺の頭にたかって。
奴らの足音さえひびき。
怒ってるかって?
俺。
カタログなんかいらねえ。
凍り付いた索引(コンコーダンス)。

一九六八年型の革命。
それとも。
カタログが愛情なの?
と声もふるえ。
もう。もどることはできない。
もし。
歴史というものがあるのなら。
そのために。
暗い夜?
ほら。
足音がきこえ。
誰かが。ぢだんだを踏み。
くちびるをくらくまくりあげて。
自分だけの死をもちたいと。
ひとたちは歩き。
もう。
もどるなんて。

どうすればいい?
生きて。生きのびて。すべて。
は。
死んでいて。
白い。
にごって魚たちの目のように。
すっかり死んじまって。
選ぶなんて。探すなんて。慄えるなんて。

できやしない。
逃げなくたって。
追われてる。
追いかけられていて。
ははは。
怒っても。怒ってみたって。

場所がない。逃げても。
せめて。
日でり雨でもあれば。
逃走を記録し。
青い水をくんで。
空腹に耐えてみても。
こんな怒りは。
むだなのだけれど。
もう。
もどってなんかやらない。
あは。
ゆびさきから溶けて。
俺の憎しみは。
蒼く凝固していくのだな。
たぶん。
*寒い夏のおわりころ
あるいは。
椎の実が。
はぜかえるころ。

だけど。
決して美しくはない。
誤謬?
だから。

あおい血の流れる。俺の両腕にかけて。
それとも。
夜明けには。
美しく溶けることを疑わぬ人々にかけて。
俺だけの溶けかたを保証する。
誰かを。
あ。
むだでもいいから。
はやく。
はやく。

おそらくは。
おふくろの体の中か。
 産道で。
むずがったときの歪み?
くらい予感に支えられ。
危うい。
均衡?
夜明けがじりじりと前進して。
あんまりゆっくり。
溶けていってしまうものだから。
もう。
もどっていくことはできない。
俺の。
蒼い血くだをさかのぼっていく。
ウジムシたちのさざめきさえ。
きこえて。
もう。
もどっていくことは。
できない。
ふ。
うすわらいをうかべ。
おどりくるう彼ら。
真珠の色に光りながら。
増殖する彼ら。
残された。
ただひとつの証。
ふふ。
誤謬と。
転落と。
ただひとつの証。

*原文ママ

自画像 1夏のはじめ

ふかあいところから来たんです。高圧線の鉄塔のかげを。
つぎつぎに踏んでも。
あは。
決定的な瞬間なんてなかったんだ。くらあいところからやって来て。八本目の鉄塔のかげが。入道雲と一直線になろうとするあのあたり。空がどろどろに溶け。記憶の中をはしるまっしろな道がショートして。足音は背中をはたきつけ。

どぶがわの底だったんです。出発の朝の門柱もくずれ。ぼくは帰らなければ。どこかに。ぼくの寝る空き地があったはずだから。黒いむらさきの帽子をかぶって。あけがたのにおいのする。水蒸気になって。
ふふ。
ぼく。こいびとなんていない。好きになるにはあんまり皺もような女が多すぎて。空さえどろどろに溶け。あのとき。ギターが鳴りひびき。腐ったトマトをいくつもいくつも踏んづけて。

着席券をなくしちゃったんです。着席券て。買えるものなんですか。どこを探したら椅子があるのでしょう。どんな道も足の裏に灼けつくから。松やにのにおいのする夢に。いくら望みをかけたところで。雲はもう。これ以上青くはなりません。生まれ変わるのはいつだって怖かったんです。

さて。
大脳をショートカットにしようか。
ハナゲをシチサンに分けようか。
結局は。
はかない抵抗?

決定的だそうです。鉄塔にそって流れる。どぶがわの底に。まっしろい道がつづき。配線をまちがえたのは。ぼくです。ぼくだったんです。

溺れてみるには。
浅すぎる空?
くらあいところから来たんです。どんな道だって。足の裏に灼けついて。ひりひりとしみるから。体ぢゅうの毛穴から。まひるのジャズのような。きのこが吹きださなくては。門柱だけでもあれば。家なんかすぐに建つのに。

へっ。
決定的だとよ。
それで。
行進の足音を背中にきいてしまったから。
苦しんでみるには。
白すぎる空?

あ。
ぼくは。
帰らなけりゃ。
急がなけりゃ。

どぶがわしかなかったんです。さむういところからやって来て。さむういところへ行くんです。ひとりだけだそうです。ぼくたち五人で。みな。ひとりなんです。あの。八本目の鉄塔のかげが。入道雲と一直線になるあそこ。あそこからぼくたちの道は。ひりひりとどぶがわの底をはしって。はしって。腐ったトマトを踏んづけて。

あしたになればきっと。もえつきた足。もえつきた指の形した雲が泳ぎます。牢屋に入るのは。ぼくだけです。盗んだのは。盗まれたのは。ぼくです。ぼくたち五人で。殺されたのもぼくです。ハーケンクロイツをしょって。キリストがついに復活しました。

あしたです。
きのうです。
ぼくは。
もう生まれなければ。
蟹のたまごはつぶして下さい。
おとといです。
行進の足音は。
ちょうどおとといです。

お願いだから。
蟹のたまごはつぶしてしまって下さい。
腐ったトマトを踏んづけるのが。
大好きだったんですから。

羅針盤

貝殻には
ねじくれた憎悪の蒼
ぼくの右手には
いつも赤い月
のみこもうと
のみこもうとして
くだける波
とび上がりたくても
はじける泡

波には
わきかえる憎悪の白
いつものとおり
いつものとおりの羅針盤

あれは泣き声? あれは波? あれは 雲が月にさわる音?
それからは 鳥も鳴かない。 ひとでをつぶしたのは誰?
ひとでを殺したのは 誰! おとむらいはきのう。 おとといは婚約。
骨もくずれ。 泡粒もはじけ。 淡い希望? 苦がくない砂なんてない!(空はまだらに。 あ。
腐ってゆく。
小さなヤドカリ。 脱皮したての幼いカニ。 ウミウシ。)


憎しみの泡から
生まれたのはヴィーナス
嘔吐の白い道さえつづき
ぼくの右手に
いつも赤い月
いつものとおり
いつものとおりの赤い月

にせもの

*

もう
おまえに
たずねるのはやめだ
金属の雨
きらめき降りしきる
空にむかって
さしちがえて死ぬことは
できなかったのだから


*


未来とか
革命とか
かくじつな美しい名前
雨にうたせ
はみ出した臓物に爪をたてて
そいつらから遠ざかろうと
結晶になろうとしない
汗を にぎりしめ
にぎりしめ
俺は
歩いてきたのだ


*


俺の歩行を無目的だなどと言わないでくれ
たしかに
蛙よりも放心して
ぶざまに
道をよこぎった
それが
君だけの道だったとしても
よこぎった俺に
あいさつをするいわれなぞ
あるわけがないじゃないか


*


瞬間
昼の月よりもくらく
ことばは はじけ
とびちったのは
いのちだったか
それとも
残りかすだったか
どうでもいいことだ
愛情の論理といい
憎悪の倫理といい
すでに炭素のかたまりにすぎぬ

さあ
俺であったヒューマノイドのために
ばんざいを唱えよう


*


むげんに
ひろがり
ふえてゆく
はがねの空に
といかけを放つのは
やめだ
さしちがえて
さしちがえて死ぬのは
できなかった

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