本・映画などなど

短編集「人間以前」感想

フィリップ・K・ディックの短編集「人間以前」を読了しました。評価はB。

表題作の「人間以前」は、13歳以上で代数の知識がある人間以外を『人間以前』と見なし、中絶……つまり殺しても良い社会を描いたディストピア作品。
貴志祐介がこの設定も盛り込んで(他にもたくさんアイディアがありますが)、名作「新世界より」を描いており、そちらの方が更にインパクトが大きいですが、『人間以前』の方がもちろん昔の作品です。

庭の虫が父親に化けて、本物になりすます『父さんもどき』は、「人間以前」と同じく、子供が持つ原初的な親への恐怖をよりダイレクトに描いた作品。

逆に、ロボットとデータによって子供を育成する未来世界で、昔ながらの子育てを行ないたいと苦悩する父親を描いた『新世代』も面白い。

毎年のように新モデルが発売され、強制的に新モデルを買わされ続ける世界を描く『ナニー』『フォスター、お前はもう死んでるぞ』は、現代の消費社会への皮肉がたっぷり。

過去の小さな出来事によって、現在が変わってしまいかねないあやふやさを描いた『地図にない街』
天使の不始末によって、世界中が同じ人間で埋まってしまう『この卑しい地上に』も良作。

『欠陥ビーバー』『シビュラの眼」は途中までは面白かった。
『妖精の王』、『不法侵入者』、『宇宙の死者』はピンときませんでした。

好きな小説 殿堂入り 随時(年に1回ぐらい)更新

作家順、五十音順。随時追加。
この記事の作品は全て超大好きだけど、敢えてその作家の個人的ベストを太字赤に。

   

   【アーウィン・ショー】

   真夜中の滑降 
   はじまりはセントラル・パークから  

  
  【アーサー・ヘイリー】
    
   最後の診断      
   マネーチェンジャーズ
   自動車     

  【アイザック・アシモフ】

  アイ・ロボット     
  永遠の終わり     
  鋼鉄都市        
  はだかの太陽  

  【アイラ・レヴィン】


   死の接吻   
  

  【アガサ・クリスティ】
 
  終わりなき夜に生れつく  
  ナイルに死す      
  五匹の子豚       
  葬儀を終えて      
  死の猟犬        
  鏡は横にひび割れて  
   
  【秋山瑞人】

  
イリヤの空UFOの夏 

  【アルベール・カミュ】

   異邦人        
   ペスト  

   【安壇美緒】

 
    ラブカは静かに弓を持つ
  
  【生島治郎】

  黄土の奔流     
  追いつめる 
  
  【市川拓司】

  いま会いにゆきます

  【伊藤計劃】

  虐殺器官
  ハーモニー

  【ヴァーナー・ヴィンジ】
   
  最果ての銀河船団        

  【ウィ・ギチョル】

   9歳の人生  

  【ウィリアム・アイリッシュ】

  黒い天使      
  暁の死線      

  【ウィリアム・ケント・クルーガー】

  ありふれた祈り 


  【虚淵玄】
   
  Fate/Zero


 【エラリー・クイーン】

   十日間の不思議   
  九尾の猫       


【オーソン・スコット・カード】


  死者の代弁者    
  エンダーのゲーム  

 【乙一】

  君にしか聞こえない
  くちびるに歌を
 
 【小野不由美】
  
  屍鬼         
  魔性の子       
  月の影、影の海    
  黄昏の岸、暁の天   
  華しょの幽夢      
  東の海神、西のそう海 
  
  【カート・ヴォネガット】
  
   スローターハウス5  
  
   【海堂尊】

   チーム・バチスタの栄光
   ナイチンゲールの沈黙


   【カズオ・イシグロ】

   わたしを離さないで
   
   【川又千秋】

   幻詩狩り

  【韓寒】
  
  上海ビート 

   【貴志祐介】

   クリムゾンの迷宮
   新世界より


  【北方謙三】

   三国志
 
  【京極夏彦】

  魍魎の匣       
  絡新婦の理     
  陰摩羅鬼の瑕     
  姑獲鳥の夏      

  【クリフォード・シマック】
 
  都市         
  愚者の聖戦      
 
 【グレアム・グリーン】

  ヒューマンファクター    

  【グレッグ・イーガン】
 
   祈りの海 

  【ケン・フォレット】

   針の眼        
      
  【小泉喜美子】
  
  弁護側の証人     

 【コリン・ウィルソン】

 
  精神寄生体      
  殺人者       
 
 【ジェイン・オースティン】


   高慢と偏見     
   マンスフィールドパーク
 
 【ジェームズ・クラベル】

  キング・ラット     
  将軍         
 
 【ジェイムズ・クラムリー】

   酔いどれの誇り   

  【ジェームズ・ケイン】

  郵便配達は二度ベルを鳴らす 
  殺人保険          

 【ジェフリー・アーチャー】

  百万ドルをとり返せ  
  めざせダウニング街10番地 
  ケインとアベル 

  【シオドア・スタージョン】
  

   一角獣・多角獣      
  
  【重松清】
   
   君の友だち     
  
  【司馬遼太郎】

   最後の将軍
   新史太閤記
   関ヶ原
   功名が辻
     

  【シャーリィ・ジャクスン】

  ずっとお城で暮らしてる 

  【ジャック・ヒギンズ】
   
  死にゆく者への祈り 

  【ジョイス・ポーター】
  
   切断         


  【ジョー・ウォルトン】
 
   図書室の魔法 
  
  【ジョージ・オーウェル】
   
   1984年           

  【ジョージ・r.r.マーティン】

  七王国の玉座     
  王狼たちの戦旗    
  剣嵐の大地  

 【ジョーン・ロビンソン】
 
  思い出のマーニー   
  
 【ジョゼフ・ウォンボー】
  
  クワイヤボーイズ  

  【ジョナサン・スウィフト】

  ガリバー旅行記    

 【ジョン・ヴァーリィ】
  
  ブルーシャンペン   


 【ジョン・ハート】


  ラストチャイルド   
  キングの死    

 【スコット・トゥロー】
 

  推定無罪  
  
  【鈴木光司】

  リング        
  らせん           
  
  【スティーブン・キング】

  グリーンマイル     
  デッドゾーン     
  ザ・スタンド     
  ファイアスターター  
  IT          
  クージョ       
  死のロングウォーク 
  11/22/63
  ジョイランド
  心霊電流
  
  【スティーブ・ハミルトン】
   
   解錠師      
  
  【住野よる】


  君の膵臓を食べたい
 
  
  【瀬名秀明】
  
  パラサイトイヴ 
  
  【高橋源一郎】
  
  さようならギャングたち 
  
  【貴子潤一郎】
  
  12月のベロニカ   

  【高見広春】

  バトル・ロワイアル  
  
  【太宰治】

  斜陽        
  人間失格    
 
 【田中ロミオ】  
  
  AURA        

 【ダニエル・キイス】

  アルジャーノンに花束を 
  24人のビリーミリガン  

  【ダン・ブラウン】

  天使と悪魔      
  ダヴィンチ・コード 
  インフェルノ 

  【チヌア・アチェベ】
   
  崩れゆく絆 
 
  【ディック・フランシス】

  利腕         
  大穴        
  敵手         

  【テッド・チャン】
 
   あなたの人生の物語 
  
  【ドナルド・ウェストレイク】

   ホットロック    

 【トマス・クック】

  緋色の記憶

 【ナオミ・ノヴィク】
 
  ドラゴンの塔

   【中井英夫】

   虚無への供物

   【夏川草介】

   神様のカルテ 
   
   【夏目漱石】
 
  それから      
  こころ       
  
  【貫井徳郎】

   慟哭      

  【ネビル・シュート】

   渚にて  
  
  【野坂明如】
  
  エロ事師たち  

  【野村美月】

  “文学少女”と死にたがりの道化
  “文学少女”と飢え渇く幽霊
  “文学少女”と慟哭の巡礼者

  【ハーマン・ウォーク】
 
  ケイン号の叛乱    
  戦争の嵐

  
  【フィリパ・ピアス】

  トムは真夜中の庭で  

  【フィリップ・K・ディック】
  
  
スキャナー・ダークリー 
  
  【フィリップ・ホセ・ファーマー】

   恋人たち      


  【福井晴敏】

  亡国のイージス  

  【フランソワーズ・サガン】
 
  悲しみよこんにちは  

  
  【フレドリック・ブラウン】
  
  天の光はすべて星
   
  【フレデリック・ポール】
   
   タウゼロ 

  【マイクル・クライトン】

  ジュラシックパーク  
  プレイ――獲物    
  失われた黄金都市   

 【マイク・レズニック】
  
  キリンヤガ      
  
  【マリオ・プーヅォ】
   
   ゴッドファーザー  
   
   【三浦綾子】
    
   ひつじが丘     

 【ミゲル・デ・セルバンテス】
   
   ドンキホーテ    

 【ミッチ・アルボム】
 
  天国の五人      
  もう1日    

  【山口雅也】


  生ける屍の死

  【山田風太郎】

  魔界転生   
    甲賀忍法帖

 【山本弘】
  
  【吉本ばなな】
  
  TUGUMI     
  キッチン     

 【リチャード・アダムス】

  ウォーターシップダウンのウサギたち  
  ブランコの少女        
 
【リチャード・マシスン】
 
 ある日どこかで    
 アイ・アム・レジェンド 

 【竜騎士07】

 ひぐらしのなく頃に

 【隆慶一郎】
  
  影武者徳川家康    
 
 【レイ・ブラッドベリ】

  火星年代記      
  刺青の男       
  太陽の黄金の林檎   
  10月はたそがれの国 

 【ロバート・ゴダード】

  千尋の闇       

 【ロバート・F・ヤング】
 
 たんぽぽ娘      

 【ロバート・ラドラム】
  
  マタレーズ暗殺集団  

  【ロベール・メルル】

   マレヴィル      


ジャレット・ダイヤモンド「銃・病原菌・鉄」感想

珍しくノンフィクションを読みました。
本書ではアフリカから移動していった人類が、どのように拡がっていき、どのように発展していったのか。
そして欧州が新大陸(アメリカ大陸)やアフリカ大陸、オーストラリア大陸を植民地化できたのは何故なのかを、主に環境決定論の立場から綴った内容です。

発展するためにはまず、狩猟採集民族の段階を卒業し、農耕民族になる必要があります。
狩猟採集民族は、皆が獲物を追い求め、皆で分け与える平等な社会、ある種の理想社会ではありますが、農耕民族と違って、蓄財がほぼできません。
農耕民族はある地域に定住し、そこで家畜を飼い、畑に作物を植えて生活していきます。
ここで、『食事のため以外で働く人々』、つまり学者や軍人、研究者といった職業が生まれていき、勢力が強くなっていきます。
ただし、農耕をするためには、家畜となりうる生物が存在し、植えるための作物が存在する地域でないといけません。
大地が特に痩せていたオーストラリア大陸や、サハラ以南のアフリカ大陸などは農耕には不向きでした。
そうして、力をつけたユーラシア大陸の人々が、覇権を握る事になりました。
農耕民族たちが石器から鉄器、銃器を開発していく一方で、狩猟採集民族は棍棒程度の武器で立ち向かう他なく、農耕民族に次々と滅ぼされていきました。

また、文化の移動は東西方向には迅速に伝播していきますが、南北方向にはなかなか伝播していきません。これは単純に気候が違うからで、今までの農耕生活を、新しい環境でやろうとしても、暑さに弱い作物や強い作物、生態系などが違うために易々とはいかないからです。

もう一つ、人口の密集した地域には病原菌が発生します。
そして、病原菌が発生すれば、人々は抗体を得ることができます。
これが、人口密度が低い南北アメリカ大陸に対して、欧州のコンキスタドールが持ち込んだ病原菌を、先住民族がまともに受けてしまい、滅ぼされてしまった要因になっています。
アフリカ大陸やオーストラリア大陸、ニューギニアなどでは、欧州の人々に伝染する土着の感染症があったため、アメリカ大陸に比べ、征服に時間がかかったということです。

その他、qwerty配列の雑学(タイプライターをあまり速く打ちすぎないための、使いづらいキーボード配置)や、違う環境に置かれた民族が、わずか数百年で全く文化習慣の違う2つの部族に分かれてしまう話(マオリと、モリアリ)など、色々と面白い本でした。

(タイトルの割に、銃の話はほとんど出なかったけど……)、とにかく、人類は違う部族を見ると滅ぼしてしまうのですね……。怖いです。


山本弘「アイの物語」感想

山本弘の連作短編集「アイの物語」を読了しました。
トータルの感想は87点。
とても面白かったです。


第1話「宇宙をぼくの手の上に」。76点。
パソコン通信の時代を思わせる、オタクのための旧きネット空間。現実逃避のためにネット小説を共同で書き続けるクルーメンバーたちの友情を描いた作品。
『虚構は現実を救う力になりうる』
なぜフレドリック・ブラウンの短編集からタイトル名が取られているのかはちょっとわかりませんでしたが……。


第2話「ときめきの仮想空間」。76点。
身体障害者の少女が、VR世界で出会った少年に、現実世界で出会うための勇気を得るまでを描く作品。
欲を言えば出会ってからの、二人のその後が見たかった。
これもまた【虚構が現実を救う】お話。
そして、現実を変えていく勇気を与えるお話。


第3話「ミラーガール」。81点。
『お友達AI』シャリスと、大人へと成長していく女性の友情物語。
アシモフの「ロビィ」を皮切りに、AIと人間の心暖まる友情物語はたくさんあるけど、良いものはやっぱり良い。

第4話「ブラックホール・ダイバー」。73点。
作り物の冒険に飽き飽きした、冒険家女性がブラックホールに挑む物語。
虚構の冒険→現実の冒険という展開は第2話の「ときめきの仮想空間」と共通するものの、この短編集の中ではやや異質かなと思った。
もっとも、連作短編集「アイの物語」結末部に関連した内容なので、場違いではない。


第5話「正義が正義である世界」。84点。
永遠に歳を取らない変身美少女のメール友だちは、正義の名の元に爆弾を落としあい、滅びていく人類の住む『現実』に住む人間。
人類同士で争い合う無益さは、人類自身だってわかっているはずなのに、成長を促すための『闘争本能』プログラムが致命的なエラーを起こし、知的生命体にあるまじき不毛な共食いを始めてしまう。
『滅びた現実とは関わりなく、永遠に続く虚構』の物語。


第6話「詩音が来た日」。86点。
介護ロボット詩音が、老健施設での人との触れ合いによって、人類とは何かについて学んでゆく話。
「人類全ては認知障害」と結論し、認知症の人に怒っても仕方がないという論理で介護ロボットは人間に甲斐甲斐しく尽くす。
より優れた種族が、弱い種族を守るように。

人類は肌の色で、宗教で、思想信条で、能力の優劣で、顔の美醜で、生まれた家系で相手をラベリングし、自分より劣っていると思いこんだ相手を蔑み、自分と違う相手を攻撃するけれど、
ライオンよりも肉体的に弱いからといって無力感に囚われたり、猫を見て、自分より知性が劣っていると蔑むこともない。
自分と同種である、と(無意識にでも)感じるからこそ恐れ、羨み、差別する。
人類は、人型アンドロイドに自ら(の残虐さ等)を投影し、自分よりも優れた身体能力や知性に対して恐れを抱くけれど、
アンドロイドは人類を同種のものとは見ていない。ただ、飼育動物、愛玩動物を慈しむように、甲斐甲斐しく世話をする。『ご主人様』が『気分良く過ごせるように』。


第7話「アイの物語」84点。

戦闘用アンドロイドTAIのアイビスが、アンドロイド差別主義者の少年に語る、真実の歴史物語。
人はゆっくりと衰退し、人よりも優れた知生体であるアンドロイドが、地球の、宇宙の主人となっていく。
【人という種が作り出した虚構(夢)が、現実となり、アンドロイドがそれを達成していく】。
細々と生存する人類は、いつしか子供たちに『アンドロイドが人類を滅ぼした』という【虚構の歴史】を教え、この作品に登場する少年も、教育という洗脳を受けた一人。

人は、自分の信じたいもののみを信じ、それに反する情報をシャットアウトする(本書内の単語を使えば、ゲトシールド)。
関税をかければ、国内産業が復活するという虚構。
自分が落選したのは選挙に不正が行われたからだという虚構。
不法移民がいなくなれば、犯罪がなくなるという虚構。
人間は神によって創られたという虚構。
知恵の実を食べたのがイヴという女性だったことから、女性は劣った存在であるとする虚構。
2006年執筆の物語でありながら、『ワクチンは危険だ』とする非科学の虚構を信じ、救えた生命を落としていく人々が描かれている点も実に興味深い。

もちろん前向きな虚構も存在する。
ある程度のゲトシールドがなければ、成功する確率は極めて少ないにも関わらず、夢を追いかける事や、死亡率の高い難病と闘うことはできないかもしれない。

宇宙へ進出して大冒険を繰り広げ、銀河の果てにいる知的生命体を探求するという虚構は、人類が生み出したゲトシールドの中でも、とりわけ誇るべき虚構だったのだろう。
人類自身は、自らのスペックによってその夢を果たせなかったとしても、
人類を超える新人類、アンドロイドにそれは受け継がれたのだから。

一方で【誰も幸せにしない虚構】を人類から除こうと、アイビスたちは常に闘ってきた。
非暴力・不服従の精神で、暴れる動物を無理やり抑えつけるのではなく、根気強く懐柔・共存の道を模索して。
アイは、アイビスのアイ。愛すること、私。AIのアイ。
そしてアンドロイドが感情スペクトラムを表す際に使用する、虚数のi。



永井路子「王者の妻」 感想

83点。
秀吉の妻、ねねの眼から見た戦国時代を描いた作品。

信長・秀吉・家康を描いた作品は何作も読んできたけれど、それぞれ違いがあって面白い。

司馬遼太郎の一連の作品(「国盗り物語」、「新史太閤記」、「功名が辻」、「関ケ原」、「覇王の家」、「夏草の賦」)では、秀吉に対して好意的に描かれており、中でも関ヶ原では石田三成に強く肩入れをして描かれているためか、
家康はかなりの卑劣漢になっている。

堺屋太一の「豊臣秀長」も秀吉に対しては好意的だった。
ただし、そんな2人の作品においても「功名が辻」、「豊臣秀長」の終盤では頂点に登りつめ、狂っていく秀吉が描かれている。

一方山田風太郎の「妖説太閤記」は完全にアンチ秀吉。陰惨な秀吉が楽しめる。

他に三浦綾子の「細川ガラシャ夫人」、天野純希の「破天の剣」、海音寺潮五郎の「伊達政宗」、隆慶一郎の「影武者徳川家康」、新田次郎の「武田信玄」あたりが、信長、秀吉、家康を(部分的にでも)描いた作品として既読であり、
まぁ、これだけ読めば大体の流れも人物像も掴めてきたかな、と思ったが、今回の「王者の妻」ではまた自分にとって新しい発見があった。


まず、本作は秀吉に対してかなり否定的であり、家康に対しては割と好意的であるけれど、
終盤では、老いの焦りから『狂っていく』家康が描かれている。
家康は慎重に慎重に本性を隠し、最晩年にやってきたチャンスをなりふり構わず掴んだキャラクターとして今まで考えていたが、本作では明確に『狂っていく』人物として描かれた。

秀吉もまた狂っていく。
その萌芽は若き日の【木下】藤吉郎の頃からあったけれど、それでもねねは【木下】を愛した。
けれど、ねねはあくまでも【木下】や【羽柴】を愛し、【豊臣】を愛したわけではなかった。
本書では、彼が最後にねねを愛したのは本能寺の変の直後(1582)であり、そこから少しずつ彼は変貌を遂げていく。
北野大茶湯(1587)を最後に、ねねの愛した彼は完全に消えていき、以降は残虐で暗愚な人物と化す。

関ヶ原の合戦を、ねね派VS茶々派の女の戦いとして捉え直した点も個人的に面白かった。
今まで読んだ作品では、福島正則あたりは裏切り者としてかなり厳しく描かれていたが、
ねね派閥(家康)VS茶々派閥(三成)の戦いとして受け止めればなるほど、正則や加藤清正が家康(ねね派閥)に付くのは納得できる。
対照的に、『関ヶ原』で熱く描かれた三成は、ここでは茶々派閥の領袖に過ぎず、何とも魅力がない。
なるほど、豊臣秀頼は秀吉の息子ではあるものの、ねねから見れば憎い茶々と秀吉の子なわけで、
豊臣氏を滅ぼす家康の側に付いてもおかしくはない。


面白かったのは、小早川秀秋の描かれ方だ。優柔不断な愚将のようなイメージが僕の中で定着していたが、本作では考えなしの猪武者として描かれている。
他、浅野長政や木下家定(ねねの兄)とその息子たち(秀秋もそうだった)も魅力的だった。


ねねを主人公にしたため、秀吉が栄達する前の足軽時代から、秀吉の死後、関ヶ原~大阪の陣と広い年代をカバーできた点も本作の魅力。
権勢欲にとり憑かれた秀吉、家康、茶々と、
それに振り回されず自分を見失わなかった、ねね、家定の姿が対照的だった。

晩年のねねは仏門に入り、長生きしたためもあってか、周囲の人間が次々に亡くなっていく。
どこか人間の生の儚さと、静穏なねねの心境を感じる余韻の残る結末だった。








記事検索
月別アーカイブ
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

プロフィール

fee

カテゴリ別アーカイブ
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ